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「自分本位」がキーワードの春【キャッチコピー年表 vol.2】

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2022年3月。コロナウイルスの勢いはとどまるところを知らず、筆者の身近な範囲でも3回目のワクチン接種による副反応が話題に上ることも増えてきました。

日本においては3.11の記憶をよりまざまざと思い起こさせるように、またも近しい地域で地震が起き、そして知ってのとおり世界情勢もますます不穏な状況下に陥っています。

今求められているのは、世界の、そして心の平和と安寧。各企業からは、それまで「不要」と区分されていたものに焦点を当て、個々それぞれが居心地のよい環境を作るために必要なものを抱えて生きていこうというエールが届けられています。

「不要不急」は本当に不要で不急だったのか

不要不急

コロナウイルスが蔓延し始めたころ、「不要不急」という言葉は実によく聞こえました。それまで日常であった「贅沢」なものは生活からどんどん削がれ、飲食店、旅行会社、ホテル、映画館やカラオケといった娯楽施設だけでなく、さまざまな業界が先行きの見えない不安を抱え、そしてそれは今もなお続いていると思います。

学生であれば、入学式や卒業式といった式典、体育祭や修学旅行などのイベントがなくなり、在宅でのオンライン授業が通常になったことでクラスメイトと会う機会も減ったでしょう。そうなると放課後に友だちとどこかに寄って帰るという習慣もなくなります。

会社員もやはり、在宅勤務が増えたことで社内コミュニケーションが不足したり、そもそも業務自体が滞ってしまったり、仕事後に行きつけの居酒屋に足を運ぶのが日課だったという方はそのちょっとした息抜きさえ奪われてしまったかもしれません。

それらは本当に「不要」で「不急」だったのでしょうか。もちろんさまざまな対策が講じられたからこそ、感染率を抑えることができたという部分はおおいにあるでしょう。

しかし「ウィズコロナ」といわれて久しい今、本当に必要なものはそんな不要の中にこそあったのではないかと思わせる側面もあります。

そごう・西武「なくてもいいと言われるものと、私の心は生きていく。」

百貨店といえば、コロナ禍においては「不要不急」の代表格。動画の中で淡々と語られる「去年、百貨店が通常営業できたのは、数日だった。」という事実は、3年前には考えられないことだったでしょう。

もちろん日用品も手に入れられますが、なにか必要なものがあってそれを買いに行くというよりは、その場所に行くこと自体が目的となりうるのが百貨店かもしれません。

広告のなかのぬいぐるみのように、ある人にとっては不要だけれど、またある人にとっては必要不可欠である、といったものは世界にあふれています。むしろ「好き」という気持ちは、そんなものにこそ抱くものではないでしょうか。

子どものお迎え担当じゃない日は夕飯まで近くの映画館でちょうど時間の合う作品を見つけて鑑賞する、毎年欠かさず参加している音楽フェスを糧に繁忙期を乗り越える、恋人とちょっとしたことで喧嘩した次の日は電車を乗り継いで相手の好きなドーナツを買って会いに行く、特に話すこともないけれど毎週金曜日は学生時代からの友人といつもの居酒屋で集まる、生活はそんな普段のきらめきが積み重なって築かれていたように思います。

今はまだ諸手を挙げて外出を推奨できる時期ではありませんが、生活様式がみるみる移り変わっていく今もなおどうしても譲れないものがあるのなら、それを無理に今の型にはめこむのは難しいでしょう。あるいは自身の欲求を満たすための新たな手段を考えるべきなのでしょう。

先に挙げた映画においては、不特定多数との不用意な接触を避けたうえで鑑賞できるということで、ドライブインシアターが再注目されています。

コロナウイルスの猛威にさらされ、人々の生活からはどんどん「不要不急」が削ぎ落されてしまいましたが、あまりに長らくその状況が続くことで、今はむしろその「不要不急の必要性」に視点が移ってきています。

戻ってこないあの日々の習慣を、カルチャーを、取り戻すのではなく、新たに手に入れる方法をそろそろ考え始めるころなのかもしれません。

JR東海「会うって、特別だったんだ。」

こちらもやはり変わりゆく生活様式のなかで排除されてしまった対面でのやりとりを特別視するキャッチコピーです。特設サイトによると、こちらの動画は、リモートでの会議が多くなり、1年半ぶりに大阪出張をしているというストーリーだそう。

web会議ツールやチャットアプリなど、リアルタイムに対話できる手段はたくさんありますが、それまで直接会ってコミュニケーションを取っていた方であれば、物足りなさを感じることもあるのではないでしょうか。

もちろんそれら各種ツールの利便性はいうまでもなく、海外含め遠方に住む方と円滑に交流することができるのは、開発者や提供している各社の努力の賜物なので、感謝こそすれ不満などを持つはずもないですが、オンライン上で集まるのは事前に約束事としてスケジュール調整している場合が多いと感じます。

たとえば動画内で描かれる主人公同様に会社員であれば、「わざわざミーティングルームを立ち上げるほどではない」と判断してしまいがちなちょっとした疑問を上司や同僚に投げかけにくかったり、入社したばかりの後輩や新規の取引先と仲を深める接点が作れなかったり、業務上やりとりのない他部署の人と交流する機会がないためコミュニティが自然と狭まっていったり、そういった小さな壁に出くわす回数が増えると、相手とコミュニケーションを取ろうとする積極性もおのずと薄れていくものではないでしょうか。

京都大学野生動物研究センターの幸島司郎教授によると、ゴリラやチンパンジーなど類人猿と違い、人間だけに白目がある(類人猿にも白目はあるが黒目がちで、かつ白目部分も黒目に近い褐色)のは、これによって視線を強調する狙いがあるからだそう。

▶参考:京大連続講座・人間とその進化の隣人たち 3資料京都大学公式サイト内)

たしかに「目は口ほどにものを言う」ということわざもあるように、時に人の心情は言葉よりも目線のほうが雄弁に相手に伝わることがあります。アイコンタクトでなにかを察したり、逆に知らせたりした経験のある方も多いでしょう。

人が人に思いを告げるのは、受け取るのは、言葉によるものだけではありません。だからその機会が失われていっている今、改めて「会う」ということの重要性が再注目されているのかもしれません。

動画に出演されているのは、同社のTVCM『クリスマス・エクスプレス』シリーズに出演された深津絵里さん。『クリスマス・エクスプレス』は約33年前に放送された作品ですが、彼女がJR東海のTVCMに起用されたのはそれ以来ということで、ネット上では公開当初から話題になっていました。

というのも、その1988年に放送されたTVCMは、未だ復活を願う声が寄せられるという名作。当時を知らない世代の筆者もぱっと映像が頭に浮かぶほど有名なので、観たことのある方は多いでしょう。

今回の新CM(60秒バージョン)では、このために書き下ろされたodolの楽曲『望み』の中でも「街並みが変わっていくように 大人になっていく私 過去があって未来がある」という歌詞が使用されていることもあり、SNS上には前作の続編なんじゃないかと推測される投稿も見られました。

『クリスマス・エクスプレス』のキャッチコピーは「会うのが、いちばん。」、そして今回は「会うって、特別だったんだ。」

実際は続編ではないようですが、両作品とも「会う」という行為の重要性を謳っています。

新幹線は、いうまでもなく遠方へ移動する際に利用するもの。人がどこかへ行こうとするとき、その場所にはまた別の人がいるものではないでしょうか。だれかと一緒に遠出する、あるいはだれかに会いに行く……、これだけテクノロジーの進歩が止まらない今、それが叶わないのは不健全ともいえるかもしれません。

間違いなくデジタル化は今後も続くと思いますが、コミュニケーションを取るために進化した私たちは、この先もずっと「会う」ということをやめることはできないのかもしれません。

今会いたい人に明日会えますか?

東日本大震災が起きたのは11年前。当然ながらその記憶を持たない世代は年々増えています。決して風化させてはいけない甚大な被害を思うと、先ほどの「不要不急は本当に不要だったのか」という問いはあまりに難解すぎるかもしれません。

Yahoo!・LINE「今日、何を話そう。」

3月11日、Yahoo!もしくはLINEで「3.11」と検索しましたか?両サービスでは、今年も検索するだけで東北支援などを目的とした団体へ募金することができるキャンペーンを実施。上は当日3月11日に朝日新聞朝刊に掲載された広告です。

ここでもコミュニケーションの重要性が感じられます。だれかに話したいことがあっても、つい「忙しいから今度でいいや」と後回しにしてしまうこともあると思いますが、その「今度」はいつ訪れるのか、あるいは本当に訪れるのか、だれにもわかりません。私たちはそういう世界に生きています。

東日本大震災は11年前に起きたものですが、もちろんそれで終わったわけではなく、被災地では今も復旧・復興活動が続けられています。また、先般2022年3月にも福島県沖を震源とする地震が発生したように、毎年のように全国各地で自然災害が発生しています。

今日会いたい人に会えること、顔を合わせて対話できること、それが叶うのであればその幸せをかみしめて、今なにを話したいのか考えるきっかけを与えてくれるキャッチコピーです。

▶特設サイト「3.11 これからも、できること。
※2022年の募金は終了しています。

岩手日報「最後だとわかっていたなら」

2021年2月17日、多くの署名が集まったことで3月11日を「東日本大震災津波を語り継ぐ日」とする条例が県議会の全会一致で可決されました。

岩手日報では2017年3月11日から、東日本大震災の風化をくいとめるためにTVCMと新聞広告を開始。特設サイトには、今年だけでなく、今までに公開された広告が並列掲載されていますが、長年共通して発信し続けているメッセージは「最後だとわかっていたなら」、そして「大切な人と、今日、話そう。」というもの。

『最後だとわかっていたなら』という言葉は、アメリカの詩人ノーマ・コーネット・マレックが10歳で亡くなってしまった息子に捧げた詩のタイトルですが、9.11同時多発テロの追悼集会で朗読された際に大きな反響を呼び、世界中に広まったものです。

私たちはつい日常に慣れてしまって、明日は今日の続きではないということを忘れてしまうこともあるでしょう。明日が来ない日もあると思い知るのは、それが現実に起きたあとかもしれません。

あのときが最後だとわかっていたなら、ちゃんと目を見つめて「行ってきます」と言ったのに、仲直りをしたのに、もっとたくさん名前を呼んだのに、残された人があとから思い返すことはたくさんあると思います。

ノーマさんの言葉が世界中で共感されるのは、それだけ悲しみを知っている人が多いということです。常に今日という日が最後だと思って生活するのは難しいですが、一日一日を誠実に生きようという目標になりそうですね。

なお、岩手日報は今年、2011年3月11日のテレビ面を掲載した広告も公開しました。

東日本大震災から11年。 今日の岩手日報「震災11年特別号外」に、あの日2011年3月11日のテレビ面を掲載しました。 あの日も金曜日でした。 午後2時46分までは普段通りの日常でした。 11年前のあの日、わたしたちが知ったのは 「人…

×岩手日報さんの投稿 2022年3月10日木曜日

青く塗られているのは、震災の起きた14時46分。このあとのTV番組が予定通り放送されることはなかったでしょう。常に危険と隣り合わせにあることをまざまざと思い起こさせる広告です。

「映え」から「エモ」に移行した卒業シーズン

卒業

続くコロナ禍において3度目の卒業シーズン。今年の卒業生はオンライン授業が多かったり、イベントが中止になったり、クラスメイトや学友たちと会う機会が少なかった世代だと思います。

それでも、同じ時を同じ境遇で生活する仲間たちと共有できる体験や思い出はたくさんできたのではないでしょうか。決していいことばかりではないかもしれませんが、いずれそれも笑い話にできると信じたいです。

2020年の卒業シーズンに『「#高校生300万人の最高にエモい」 ドコモWEBムービー』と題した広告が話題になったNTTドコモは、今年もエモーショナルなプロモーションを行いました。

(2020年に同社のCMキャラクターを演じられていた浜辺美波さんと橋本環奈さんの学生生活を描いた動画広告)
※『「#高校生300万人の最高にエモい」 ドコモWEBムービー』は上のCM『カンナとミナミの卒業』の続編として制作されたweb動画。Twitter上で実施したキャンペーンに投稿された全国の高校生や学生などによる「最高にエモい学生生活の1コマ」を同作に加えて再編集したもの。

▶参照:NTTドコモプレスリリース(共同通信PRWire)

NTTドコモ「青春とは密そのものだったのです」

青春とは密そのものだったのです
青春とは密そのものだったのです
青春とは密そのものだったのです
青春とは密そのものだったのです
青春とは密そのものだったのです

この『卒業生100万人の答辞』という動画は、NTTドコモが人気アーティストEveの新曲『言の葉』とタイアップして制作された、卒業がテーマのスペシャルムービー第2弾。『「#高校生300万人の最高にエモい」 ドコモWEBムービー』同様に、実際の高校生から提供された写真や動画を映像に用いて制作されており、答辞の内容も高校生たちに取材して作り上げたものだそう。

撮影に参加した学生たちが泣いているところも収められており、公開後はSNS上で「泣ける」と話題になりました。YouTubeでも公開から20日で約1,200万回再生されています。

なお、第1弾は『あの恋をもう一度』という、高校生たちの恋愛を描いたドラマ仕立て。劇中さまざまな伏線が仕掛けられているため、複数回鑑賞するユーザーもいるようです。

同作のテーマは「青春は、みんなが主役。」だそう。実際に観賞した方であれば、その「主役」たる描き方に共感するのではないでしょうか。

2作品の描き方は、軸になるものがフィクションとノンフィクションなのでかなり異なりますが、どちらも卒業生に寄り添った表現方法が印象的です。

流行や使用するツールが変わっても、いつの時代も青春とは密そのもの、そうかもしれません。オンライン上でも非接触のまま顔を合わせたり、会話をしたりすることはできますが、やっぱりなにか物足りなくて会いたいと願う、そして実際に会えたらもっと楽しくてまた会いたくなる……、学園生活という有限の時のなかで、会って、話して、仲良くなって、口々に「また明日」と言い合う日々を繰り返すのは、そのすべてが青春のさなかの刹那のように感じます。

NTTドコモ『iモード卒業公演』

NTTドコモは、もうひとつ卒業に関する動画を公開しました。ただし卒業するのは人ではなく携帯電話。2026年3月にFOMAとiモードがサービス終了することを認知させるための施策の一環として作られた作品です。

BGMがガラケー端末の着信音・動作音を集めて制作されていたり、特設サイトがガラケー時代の絵文字を用いてiモード調にデザインされていたり、当時を知る者であればだれもが共感してしまいそうな遊び心が満載。

スマホが普及する以前はガラケーがそのポジションに鎮座しており、肌身離さずどこに行くにも持ち歩いていたという方もいたでしょう。うれしいときも悲しいときも、その手にはガラケーがあったのではないでしょうか。

メールでデートに誘って、何度もセンター問い合わせをして返信を待ったり、気のおけない友だちと「Re:」がいくつも続くメールのやりとりをしたり、残しておきたいメールを「保護」したり、電池パックの裏にプリクラを貼ったり、自分だけのオリジナル着メロを作ったり、動画内では当時のユーザーたちの記憶に残るガラケーの思い出がふんだんに描かれており、実にエモーショナルに仕上げられています。

そもそも「ガラケー」という言葉は「ガラパゴス諸島」に由来する「ガラパゴス・ケータイ」の略。世界標準と異なる独自の進化を遂げた日本のそれだけが称される名称です。ユーザーによってさまざまな使い方が生まれたり、それによって新たな流行や文化が生まれたり、もしかしたらアプリなどで整備されるスマホよりも自分色が濃く出るため、思い入れが強いという方もいるかもしれません。

今回紹介したNTTドコモによる3本の動画は、いずれもユーザーに思い出を疑似体験させたり、あるいは思い起こさせたりするものです。こうして一メーカーとしてユーザーと感情的なつながりを持てるというのは、携帯キャリアとして最初に始動したNTTドコモならではかもしれません。

「自分本位」をキーワードに

ねこ

VUCAといわれて久しい不安定な情勢が続く今、自分本位であることを推奨する広告が増えたように感じます。コロナ禍であり、世界情勢も緊張感が続くなか、いよいよ明日が不透明で自分自身が自分を大事にしないといけない、そういう時代なのかもしれません。

『「つい自分を後回しにしてしまう」が変わる本』の著者で心理カウンセラーの積田美也子さんは、3,500人以上のカウンセリングを行ってきたところ、他人のことを優先しすぎて自分のことができずに疲れきってしまうという人が多いと言及しています。

▶参考:東洋経済オンライン,自分を優先できない「ナイナイ症候群」の正体

他人のことを優先するというのはつまり、迷惑をかけたくない、嫌われたくない、という気持ちが大きいということでしょうか。社会生活を送るうえで、いきすぎた自己中心的行動は目に余るかもしれませんが、まずは自分のことを振り返って、その努力に向き合い、欲求に素直になれれば、むしろ個性が尊重され、互いに認め合える関係性を築けるということも考えらます。

他人に不要だと言われたものがあっても、自身が大事だと思う気持ちを大切にする、それは巡り巡って最終的に周りの人にも返るやさしさになるかもしれません。

少し前に赤文字雑誌の代表格のひとつである『CanCam』から「モテ」という言葉が消えたと話題になりました。そもそも赤文字雑誌というのは、好感度やモテを意識したコンサバファッションを得意とする雑誌を指す傾向にあります(そういった雑誌のロゴに赤系の色が使われることが多いことに由来)が、その誌面上で「モテ」が使われなくなるというのは大きな時代の変化を感じませんか。

当然ながらファッションはだれかのためではなく、自分自身のために選ぶもの。好きな人に褒められたいからと、その人の好みの服を着るという場合も、ひとつの自分の意思による選択でしょう。ファッション以外においても、その考え方でいいのではないでしょうか。

今、自分が着たい服を着て、好きなお店で欲しいものを買い、会いたい人に会いに行って、話したかった思い出話に花を咲かせる、本来の安寧を取り戻すにはそういった自分優先の行動が必要なのかもしれません。

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この記事を書いた人

浦田みなみ
元某ライフスタイルメディア編集長。2011年小説『空のつくりかた』刊行。モットーは「人に甘く、自分にも甘く」。自分を甘やかし続けた結果、コンプレックスだった声を克服し、調子に乗ってPodcastを始めました。BIG LOVE……

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