100年先も推せる自分に【キャッチコピー年表 vol.5】
だれかに「ご自愛ください」といいながら、いざ自分のことは優先しにくい日も多いかもしれません。広告のキャッチコピーから時代を読み解く連載第5弾、今回は「セルフケア」「明るい未来」をキーワードにご紹介します。
目次
セルフケアの肯定
「セルフケア」も「ご自愛」もよく聞く言葉なのに、世の中には仕事や家事、育児などを優先するあまり、自分のことがおろそかになっている人が多いように感じます。
まさか自身を大切にすることを悪しき習慣とまで考えている人はいないと信じたいですが、自分のことよりもそのほかのことを優先させなくてはいけない、でなければ罪悪感を覚えるという人はいるようです。もしかしたら少なくないのかもしれません。
たしかに仕事も家事も育児も大事なことですし、あるいはそのほかにも優先しているものがあるという方にとっては、きっとどれもとても重要なことなのでしょう。
でも、自分を大事にできるのは最終的には自分しかいません。自身が動けなくなったら、なにもできなくなり、本末転倒になってしまうかもしれないというのは事実です。
「がんばらないことをがんばる」なんていう言葉もちらほら聞こえるようになった今日ですが、そのバランスコントロールはとても難しいもので、いざ自身を甘やかしてみようと思っても、どうすればいいのかわからない方も多いかもしれません。
まずは「自分を大事にする」ということを肯定すること。罪悪感を少しでも薄れさせることができたら、自身のこともほかの大事な人のことも、もっと見つめることができるのではないでしょうか。
自分のケアって、相手のためでもあるよね。(株式会社 明治)
株式会社 明治の商品「TANPACT(タンパクト)」シリーズのキャッチコピーは、「カラダ資産を。たんぱく摂る、からはじめよう。」ですが、ボディキャッチには「自分のケアって、相手のためでもあるよね。」という言葉が使われています。
同商品のCMには、2020年3月の発売当初から田中みな実さんと「ずん」の飯尾和樹さんが夫婦役で出演されており、2022年6月からは3パターンの動画を配信。
「わたしとあなたとTANPACT 飯尾和樹 篇」、「わたしとあなたとTANPACT 田中みな実 篇」、そしてその2つを合わせた「わたしとあなたとTANPACT MIX版」です。
夫婦それぞれの日常を描いた作品なのですが、実は先に挙げた2つを同時に再生すると、飯尾さんと田中さんの2人がやりとりしているように見えるというギミックが仕掛けられており、自分自身のことのように語られていた部分が相手を思いやる言葉に変わり、まさしく「自分のケア」が「相手のため」になることを表現していることがうかがえます。
また、2つの動画を同時に再生するという状況には、もちろんスマホを2台以上持っているという方もいるとは思いますが、多くはだれかと一緒に再生ボタンを押すという姿が考えられ、それはつまり、やはり、自分と、その大切な人なのではないかと思うのです。
セルフケアがおろそかになってしまっては、病床に伏して、会社を休むことになったり、仕事や家事ができなくなってしまったりすることもあるかもしれません。そうなれば、自分以外のだれかが代わりに仕事や家事を引き受けることになります。
それだけでなく大切な人がいる方の場合は、同様に自身も相手にとっての大切な人といえ、その人を心配させてしまうことになるでしょう。
「相手のために自分をケアする」という言葉は、自分を労わることを優先できていない方が、考え方を改めるきっかけにもなるのではないでしょうか。
ひらけ、自分。(ライオン株式会社)
「ひらけ、自分」。なんとなく、解放された自由なイメージを抱かせる言葉ですが、これだけでは全貌は見えてきません。オーラルケアブランド「口臭科学から生まれたNONIO」シリーズの広告は、このように続きます。
大切なものと向き合ったり。
ライオン株式会社「NONIO」シリーズ公式サイト
ほんとうに必要かどうか考えたり。
ありのままの自分を伝えてみたり。
選ぶものや、使う言葉で、
世界はちょっと、気持ちよくなる。
口臭ケアによって自分の息に自信が持てるようになれば、躊躇することなく気持ちを伝えられる、という考えのもと、こうしたフレーズが生まれたようです。
ケアすることが自信につながり、それによって伝え方や選ぶ言葉の選択肢が増え、素直な気持ちを表現できるようになれば、今まで以上に自分の居場所というものが作りやすくなり、それは「気持ちのいい」世界に広がっていきます。
コミュニケーションは開いていくもの。閉鎖的な空間、気持ちでいると、他者だけでなく自分自身とも向き合えなくなってしまいます。内向きになってしまいがちなご時世ですが、日々のよしなしごとのひとつひとつに向き合って、丁寧に接するだけでも自らは開いていくように感じられるかもしれません。
毎日使うものだからこそのミクロでマクロな視点ですね。
推せる自分で、会いに行こう。(株式会社ファイントゥデイ資生堂)
「推し活」という言葉はもはや一般的になったように感じますが、具体的にどういった活動が思い浮かぶでしょうか?好きなアイドルや俳優、スポーツ選手などのライブや試合、イベントに参加したり、グッズを購入したりといったことが主な内容だと考える人が多いかもしれません。
株式会社ファイントゥデイ資生堂は「推しを思って努力する時間も、きっと推し活」とし、推しと会うときに自信を持って行けるよう、「#推せる自分で会いに行こう」というプロジェクトを2022年6月1日より開始。
事実、2022年4月28日(木)~2022年5月2日(月)に行われた同社の調査によると、実在の人物の推しがいる全国の15歳~59歳の500名のうち74%が、推しに会うときに身だしなみの意識が高まると回答、さらに自身の印象や身だしなみに57.4%が満足していないと答えています。
プロジェクトサイトでは洗顔料や制汗剤などの同社製品を紹介しており、推し活に励むすべての人を応援。だれかを推す前に、自身を推せるようにセルフケアのヒントがちりばめられています。
「身だしなみを整えよう」「セルフケアを始めよう」、そういった直接的な言葉だけでは、そこに楽しさを見出せない限り、後回しにされてしまうことは必至でしょう。
「推せる自分」という表現からは、「礼儀」や「マナー」といった言葉の枠のなかに見える堅苦しさから解き放たれた、自由なムードが感じられます。
推しのためではなく、推しに見られる自分のため、といった背景が見えるからでしょうか。だれかに決められた身だしなみやマナー、お洒落を取り入れるのではなく、自分がいいと思ったものを選ぶことの自由、それはより強固な自信を生み出し、より素晴らしい笑顔を引き出してくれそうです。
疲れない愛ってよくないですか(旭化成ホームプロダクツ株式会社)
こちらはセルフ「ケア」を促すキャッチコピーではないのですが、家族や愛する人のためにがんばりすぎてしまう方々を少し楽にさせてくれるような広告です。
「あの人のためにこうしてあげたい」という気持ちは、大事な人がいる方なら一度は感じたことのあるものなのではないかと思いますが、日々はだれのもとにも忙しくめぐり、ほかにもさまざまやることがあるなかで行う料理は、たとえ愛する人のためであっても、疲れてしまったり、時間が足りなかったりして、理想とは違うかたちになってしまうこともしばしばあるでしょう。
「これを作ってあげたい」「食べさせてあげたい」と思う気持ちを無理なく叶えてくれるクックパーのようなアイテムを使えば、無理なく家事を楽しむことができるかもしれません。疲れるほど努力すること=愛情の深さではないのです。
また、それまでこういった料理を行うCMには「お母さん」を想起させる女性ばかり起用されることが多かったですが、当然のように男性の姿も描かれていることに時代の変化を感じさせます。
メインキャラクターはDAIGOさん。今年2022年4月から放送の『DAIGOも台所~きょうの献立何にする?~』(テレビ朝日系列)にてMCを務めており、すっかりエプロン姿が板についています。
同番組は放送開始当初からSNSを中心にたびたび話題になっているのですが、それは、それまで料理をしたことがなかったというDAIGOさんが、最終的には娘のお弁当を作ってあげられるようになることを目標に、不慣れな包丁さばきでさまざまな調理に挑戦したり、その際に先生がやさしくサポートしたり、といった掛け合いがほっこりするという理由から。
まさしく「疲れない」愛のある料理を普段から行っているDAIGOさんだからこそ、よりこの言葉が、実際に今がんばっている方々の心に浸透していくように感じます。
未来への予感
未来はなにもしなくてもすぐに「今」に変わってしまうものですが、だからなのか、明るいそれを夢想したり、あるいは悲しいそれを憂えたり、想像しようにも真っ暗でなにも見えなくて焦ってはもがいたり、人はいくつもの姿を未来にあてはめようとします。
でもどうせ過ぎていくものならば、今を後悔しないでいられるような、胸を張れる未来がいいに決まっていますよね。
この秋も、100年先も、ワクワクしていたい。(株式会社ルミネ)
2022年秋のルミネ・ニュウマンの広告には、同社では初となる80代のモデルが起用されました。キャッチコピーと相まって、過去と未来を同時に感じさせるような不思議な感覚で、そのチャーミングな魅力を受け取れます。
「衣食住」は生活の三大要素といわれますが、なかでも「衣」という分野は、必需品でありながら、なにを選ぶかは一人ひとりの好みの範疇によるものだと思います。
もちろん雨風を防いだり、寒さをしのいだり、強い日差しから肌を守ったり、機能面も重視される部分だと思いますが、それ以外の部分こそがそれを形成していると感じるためです。
同じ服を毎日着続けても、あるいはさまざまなテイストの服を毎日着せ替えてもよくて、自身がどれほどその部分に重きを置くのか、それ次第でスタイルは変わります。
ショッピングセンターが掲示する広告はやはり、ファッションは楽しいものであるというメッセージ。季節ごとに変わるそれを、この秋も、そして冬も春も夏も、また訪れる秋も、100年先の秋もワクワクして過ごそうというポジティブな気持ちにあふれています。
100年先、これを読んでいる人の中でどれだけの人が生きて、ファッションを楽しんでいるでしょうか?きっとほとんどの人が残っていないでしょう。でもそんな先のことはだれにもわからないので、それでいいんです。
「100年」なんていうあまりにも膨大な数字には、どこかあっけらかんととぼけた、ばかばかしさが宿ります。今日中に仕事を片付けなくてはいけない、明日上司に叱られるかもしれない、提出予定の課題のアイデアがまったく浮かばない、そんな焦燥を感じるような毎日も、100年分たまってしまえば、今日も明日も砂のように小さいはず。
先のことはだれにもわからないからまぁいいか、と前向きに無責任な気持ちになってきませんか?
ファッションや娯楽のような、本来ならば必需品ではないものを好きでいるには、きっと余裕がないとだめなんです。好奇心を持って、あと100年ワクワクしながら生きてみましょうか。
素晴らしい過去になろう(サントリーホールディングス株式会社)
この夏帰省したら、
— SUNTORY(サントリー) (@suntory) July 23, 2022
ビールを片手に、
あの人と話したい🍻
あなたにとって、
それはどんな人ですか?#小栗旬 さんの場合は…#素晴らしい過去になろう#サントリー pic.twitter.com/7pnmXINTsc
「#素晴らしい過去になろう」という企業広告が開始されたのは、昨年2021年の春。同社では「水と生きる」というメッセージを長年打ち出しており、そのため、同広告には「サントリー天然水」がフォーカスされてきたのですが、このたび初めて「ザ・プレミアム・モルツ」が選ばれました。
小栗旬さんによる「じいさん、お久しぶりです。ぼくも、39になりました」というモノローグから始まるCMは、縁側に座る、父となった小栗さんの背中、そしてその向こうに青空が広がり、日本の夏の情景を思わされます。モノローグはこう続きます。
子どもという未来ができて、気づいたことだけど
サントリー「素晴らしい過去になろう」
ぼく、じいさんの未来だったんですよね。
そして、あなたは、ぼくにとっての「素敵な過去」でした。
おかげさまです。
ぼくも素敵な過去になりたい、と改めて思います。
私たちサントリーは、100年先を想い、森を育て、
水をはぐくみ、その水でビールをつくる。
先のルミネの広告同様「100年先」という言葉が出てきますが、こちらはもっとその数字が重く響きます。「ぼく」は「じいさん」の未来であり、そのぼくもいずれは子どもの過去になる、そうして紡がれていく100年後は、自己を主人公としたものではなく、その子孫たち、あるいは地球を主人公にしたものだと伝わるからです。
自分が祖父母の未来であり、子どもの過去である、という表現は、なにも血のつながりを表すものではありません。私たちの行動が今の子どもたちを育む土壌となり、その子どもたちの行動が生まれゆく次の世代の礎となるということです。
「エシカル消費」という言葉がよく聞かれるように、いまや企業の姿勢が商品を選ぶ際に影響する時代。サントリーの広告は自社の地球環境への取り組みをアピールするものですが、その言葉は、見る者の自らの行動を顧みさせる力も感じさせます。
環境保護に関してだけではなく、自身の未来といえる子どもたちに向けて今どのような行動が、発言が、できるのか、それは子どもを持つ者だけでなく、今を生きるすべての人に問われているような気がします。
青いカロリーメイト(大塚製薬株式会社)
こちらは大塚製薬株式会社のバランス栄養食「カロリーメイト」の新フレーバーであるバニラ味を広めるCM。オンラインでの商談だけで終わらせようとしていた後輩を、先輩が取引先のもとまで連れていき、その背中を見せるというストーリーです。
公式YouTubeにはこんな言葉もつづられていました(2022年9月時点)。
リモートワークは、顔は見えるけど、背中は見えません。
YouTube(大塚製薬 公式チャンネル)
これは仕事を覚えていく新社会人にとって、
少しもったいないことだと思うのです。
ここでいう「背中」とは、一緒の空間で時間を過ごさない限り
見ることができない「裏側の努力」のことです。
先輩の背中。取引先の背中。
いろんな人達の背中を実際に見ることで、学べることは
今の時代にも、きっとたくさんあるはずです。
進もう、すべてを栄養にして。
バランス栄養食 カロリーメイト
「青いカロリーメイト」という言葉はそのまま、バニラ味のパッケージのロゴが青いことを指しているわけですが、「青い」という言葉には「未熟」といった意味もあり、先輩と後輩のやりとりを見ると、そのどちらも受け取ることができます。
移動しなくても遠方と通じ合い、対話をしたり、コミュニケーションを取れたりする時代。便利な世の中になりましたが、その一方で、それまでなんの気なしに接していたものに、いつの間にか触れなくなっていた可能性にも気づかなくてはいけません。
コロナウィルス蔓延の影響もあり、今まで以上に一層デジタル化が進んだ今だからこそ感じるのは、人はきっと相手と対面するというシンプルなふれあいを決してなくせない生き物なのではないかということ。
いつでもどこからでも気軽にだれとでもつながるから、その希少性や重要性がより感じられるようになったと思います。けれど、なかなかそのことに気づけない人もいるかもしれません。
「やらなくてはいけないこと」ばかりに集中して日々あくせくしていると、便利であることはもちろん善で、そしてそれによって失われた部分は目に入らないこともあるものです。
たまには少し余裕を持って、それまで自身が行ってきたことを振り返ってみたり、だれかともう少し深い話をしてみたり、触れ合ってみたりすることで、人の成長度合いはぐっと伸びるものなのかもしれません。
自分の選択肢が未来になる
この連載のvol.0でも触れましたが、近ごろはCMなどの広告においても過去作品のリバイバルのようなものが増えています。
2022年9月には株式会社永谷園が1997年に放映して話題を呼んだCM「ただいまお茶づけ中」の再放映が開始。企画制作を行ったのは東急エージェンシーで、出演しているのも同社に勤める松村雅史さんだそう。
当時、永谷園の永谷栄一郎社長が、タレントの代役としてお茶漬けを食べる松村さんの姿に惹かれ、そのままCMへの正式起用が決まったそうですが、お茶の間では出演しているのはだれなのか、さまざまな憶測が広がるほど話題になったそうです。
当時を知っている人には懐かしく、知らない人には新しく映り、長らく続いている商品や企業の歴史を感じさせてくれます。
特に今は若者の間で「平成レトロ」や「昭和レトロ」な世界観が流行っていることもあり、リバイバルブームは加速していくように思いますが、ここで感じるのは、やはり過去と未来はつながっているということ。
永谷園のCMは当時から話題作だったそうですが、かつてはちっとも流行らなかったのに現代に落としこんでみたら成功したという作品もあるかもしれません。
時間は一本線でどこまでも続いているだけなのに、その先々で営む人々のその時々のムードやカルチャー、時代背景などが作用して、同じ作品を「いい」と感じたり、「興味がない」と感じたりするのはおもしろいものです。
いま自身が選択したものにもしかしたら誤りがあって、だれにも伝わらなかったり、広まらなかったり、否定されたりすることもあるかもしれません。
けれど、その選択は少なくとも自身の未来になにかしらの影響を与えます。そして、そのときの自らの行動次第で、再認識してもらえるチャンスもあるかもしれません。
過去は未来につながっていて、今はその途中でしかないということ、ひとつの選択が大きななにかに変化するかもしれないということ、なんとなく今を生き、行動を起こす一つひとつに責任を感じて、身が引き締まる思いです。
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