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Advertising Week Asia 2022

世界最大級イベントAdvertising Week Asia 2022に行ってきた!

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今、メタバースでブランドは何ができるのか?

今、メタバースでブランドは何ができるのか?
(左から、GeekOut株式会社 代表取締役 田中 創一朗さん、株式会社電通 事業共創局テクノロジー開発部 Experience Design Technologist / Producer 金林 真さん、スタイラス ジャパン株式会社 カントリーマネージャー 秋元 陸さん)

2021年、Facebookが「Meta(メタ)」に社名を変更したことをきっかけに大きな注目を集めることになった「メタバース」。

Google トレンド
(Google トレンドで2021年10月17日~10月31日に「metaverse」と検索された回数の推移を見ると、社名変更が発表された10月28日に爆発的に上昇し、その後も以前に比べると格段に伸びていることがわかる)

もともとSF小説(『スノウ・クラッシュ』)から生まれた言葉だということもあり、脳に直接接続させて仮想空間を実体験するといったファンタジックな文脈で語られることもある言葉ですが、実はすでに多くのユーザーが体験しています。

たとえば、ゲームプラットフォームにおいてメタバースは広く活用されており、多くのユーザーがその世界を享受しています。

同じ画面上にいる(けれど本当は近くにはいない)別のユーザーと一緒にゲームをプレイし、時にはなにげない会話を交わすなど、日常的にアクセスしているという方もいるでしょう。

その勢いは、今後ゲームの枠組みを越えて、より生活のなかに溶け込んでいくことが予想されます。SNSに次ぐ新興プラットフォームになるといわれているゆえんもよくわかるのではないでしょうか。

このセッションでは、そもそもメタバースとはなんなのかという基礎的な考察から、これから新しく企業やブランドが参入するための具体的な提案などがなされました。

登壇者紹介

田中 創一朗さん
GeekOut株式会社 代表取締役。
国内・海外アドテクノロジープラットフォームでのプロダクトマネジメント、事業開発、大手オンラインパブリッシャーへの広告技術コンサルタントを経て、新興技術領域でのクリエイター支援とマスアダプションの促進のため、2022年GeekOut株式会社を設立し、現職に就任。

金林 真さん
株式会社電通 事業共創局テクノロジー開発部 Experience Design Technologist / Producer。
XRソリューション提供を行うグループ横断組織「XRX STUDIO」プロジェクト主宰。
「TOKYO GAME SHOW VR 2021/2022」のプロデュース・開発など、メタバース系イベントの主催・運営・プラットフォームシステムの開発を実施。

秋元 陸さん
スタイラス ジャパン株式会社 カントリーマネージャー。
IBMやGiXoでのコンサルタント経験を経て、イスラエル系スタートアップのOutbrain Japanの立ち上げに参画し、2019年9月より現職。
海外発のテクノロジーやビジネスコンセプトのローカライズを専門とする。

「メタバース」とは

メタバースというと、以下の7つの要件が有名ですが、そもそもこれらすべてを満たすことは可能なのかという問いがあり、なかなか合意を得られにくい定義だと、田中さんは言います。

  • Persistent
    (永続的である)
  • Synchronous and live
    (体験を共有&リアルタイムのライブ性)
  • No cap to concurrent participants
    (同時参加人数無制限)
  • Fully functioning economy
    (参加者によるモノの制作・保有・投資・労働・売買などが可能)
  • Be an experience that spans both the digital and physical worlds, private and public networks / experiences, and open and closed platforms
    (デジタルと物理、プライベートとパブリック、オープンプラットフォームとクローズドプラットフォーム、それぞれの世界をまたがる体験)
  • Offer unprecedented interoperability of data, digital items / assets, contents, and so on across each of these experiences
    (データやアイテム、コンテンツの今までにない相互運用性)
  • Wide range of contributors
    (さまざまな企業・組織・個人がコンテンツや体験をつくりだせる)

AR・VR・バーチャルワールド

メタバースというと、AR(Augmented Reality:オーギュメントリアリティ、オーグメンテッドリアリティ)やVR(Virtual Reality:バーチャルリアリティ)、そしてバーチャルワールド(Virtual World)の3種類がありますが、金林さんが改めてそれぞれの違いをご説明。

  • AR:
    現実世界に3Dを投影させたもので、スマホゲームの『ポケモン GO』などが有名
  • VR:
    ヘッドマウントディスプレイを装着して楽しむ空間
  • バーチャルワールド:
    ヘッドマウントディスプレイを必要とせず、スマホやPCなどのデバイスの画面を通じて体験する仮想空間

金林さん「ARは比較的ほかの2つとは離れた要素を持っていて、現実世界の魅力をより引き出すことができます。最近では、その土地に紐づいた3Dオブジェクトを表示させるという技術が注目されています。

コンテンツの深度を深めることができるのは、VR。ヘッドマウントディスプレイをすることで、没入できるからです。でも、デバイスも普及しきれていない現段階では、体験できる人も少ないですよね。

バーチャルワールドはスマホ1台でアクセスできるので、気が向いたときに利用することができます。家でゆっくりできる時間だけでなく、電車移動中など、細切れの時間のなかで体験を提供できるというのは、非常に強みだと考えています。

ユーザーにどういう体験をしてもらいたいか、また、どういうユーザーに体験してほしいか、といったところでそれぞれ使い分けることができるんじゃないでしょうか」

メタバースに期待できること

それでは、一消費者は、メタバースになにを期待できるのか、あるいはそのなにを楽しんでいるのか、消費者の意識や需要をリサーチされている秋元さんはこう切り出します。

秋元さん「『デジタルキャンプファイヤー』というイメージが強いですね。キャンプファイヤーというと、みんなで火を囲んでわいわい楽しく過ごすものですが、デジタル上でリアルタイムに、みんなで共有のコンテンツやトピックなどを囲んで楽しむということです。

イメージでいうと、テレビで『天空の城ラピュタ』が放送されると、多くの人たちが同じタイミングで『バルス』とツイートするじゃないですか、ああいう感じで、同じ時にみんなで楽しめるということです」

くわえて、「リアリティがある」ということも挙げていました。現実的だということではなく、たとえばアニメのような世界観であれば、自身の頭身のバランスなどもその環境にマッチさせた、統一された世界を体験できるということ。

秋元さん「クリエイターエコノミー時代が来るといわれて久しいです。日本の場合は『あつまれ どうぶつの森』といったゲームの中で、自分のアバターや住む場所、着るものなどをつくれますよね。

さきほど挙がった要件でいうと7つめの部分が充実していくと、より多くの生活者に『メタバースって楽しいな』と感じてもらえると思います」

カラオケ・公園・メタバースという遊び場の選択肢

田中さん「Z世代における好きな時間の過ごし方は、ゲームが一番人気(※4)だそうですが、聞くところによると、家に帰ってすぐにパソコンを開いて、ヘッドセットをつけて、友だちとボイスチャットをしながらゲームをするという人も多いようです。

そのゲームが仮想空間を取り入れたものであれば、もうメタバースはかなり日常的なものになっていると捉えられるんじゃないかと思うんですよね」

※4 当セッション内で、秋元さんが引用した、Deloitte Touche Tohmatsuによる調査結果。ゲーム:26%、音楽:14%、ネットサーフィン:12%、SNS:11%、テレビ:10%だそう。

秋元さん「オンライン・オフライン、デジタル・リアルを分けたがる人もいますが、メタバースに違和感なく触れている子どもたちの世代からすると、たぶん僕たち大人でいうところの、学生時代の友だちと会社の友だち、趣味の友だち、っていうくらいの違いでしかなくて、それが仮想空間上の関係なのか、リアルな場で会っているのかっていうのは、あまり意識していないんじゃないかと思います」

金林さん「僕は2014年くらいに最初にメタバースに触れて、引き込まれて、今ではヘッドマウントディスプレイを5つ持っているほど日常的に利用している、いわゆるネイティブに近いゾーンにいる人間だと思うんですけど、同じく、あるいは僕よりヘビーユーザーの人とVRチャットで話していると、まさしく今みたいな話題になるんですよ。

つまり、メタバースは特別な空間ではなくて、カラオケやボーリング場、ゴルフ、公園に行くのと同じような感覚で、『あそこに行こう』っていう感じで集まっているんですね」

メタバースの活用事例:TOKYO GAME SHOW VR 2021

それでは、企業やブランドはメタバースになにを期待できるのでしょうか。事例として挙がったのは、金林さんがプロデュース・開発された『TOKYO GAME SHOW VR 2021』。

TOKYO GAME SHOW(東京ゲームショウ)といえば、幕張メッセで毎年行われる、コンピュータゲームをはじめとしたコンピューターエンタテイメントの日本最大級の総合展示会です。

2020年はコロナ禍のためオンライン上で展開されましたが、そのときすでに構想として存在していた、VR会場で開催するという施策が、翌年2021年に満を持して実施されました。

東京ゲームショウの会場そのものが仮想空間となって出現し、オフライン会場と同様に新作ゲームなどの情報をチェックできるのはもちろん、たとえばゲームキャラクターが目の前に登場し、一緒に写真を撮ったり、動画を観たり、アバターが着用できるTシャツを手に入れられたり、といった体験を実現。

コレクション要素もあり、1日のあいだにすべてのコンテンツをめぐるユーザーも少なくなかったそう。

TOKYO GAME SHOW VR 2021の中で行った施策

セッションの中で、いくつかVRならではの施策を紹介されていました。

  • 360度閲覧できる動画コンテンツの設置
    (『進撃の巨人 ウォール・マリア最終奪還作戦〈獣の巨人戦〉』)
  • Grab & Play
    (ディスプレイを引き寄せて動画を閲覧すると、アバターの身につけるアイテムが手に入る)
  • 任意で設定できる一言コメントの設置
    (世界中から参加できることもあり、ユーザー同士がコミュニケーションを取りやすくなるよう、アバターの頭上に挨拶などコメントを表示できる)
  • ブースに行かなくてもゲームの中に入れる
    (会場を歩きまわっていると、自然とその世界に入っていけるような体験を提供)
  • 一部EC化
    (会場内で見たアイテムをそのままAmazonで購入できるリンクを設置)

ECスペースで行った集客の実験とその結果

ゲームの展示などを行う「GAME FLOAT」と、物販などを中心とした「GAME FLOAT SKY」に会場を分けて開催。そこで、GAME FLOAT内で、SKYに誘致する広告の実証実験を敢行。

内容は、看板を掲示する方法、アバターのコスチュームなど実際に販売しているものを掲示する方法、NPC(※5)が実際に呼びかける方法、そして複数のNPCがそちらの方向に実際にぞろぞろと移動していくところを見せる方法を展開し、どのくらい送客できたか比較してみるというもの。

※5 NPC:Non Player Characterの略称で、コンピューターが操作するキャラクターのこと。

その中でもっとも効果を発揮したのは、3番目の複数のNPCが並んで移動していくという方法だったそうです。その次はNPCによる呼びかけ、販売商品の掲示、看板だけの掲示という順。

金林さん「現実世界だと、看板を掲示するという宣伝方法は、シェア・オブ・ボイス(※6)を獲得するという点において有効だと思うんですけど、メタバースにおいては、看板だけで興味を引くのは難しいのかなと思います。

アバターやNPCを活用して共鳴体験をつくっていったり、あるいは音声や音楽など、ユーザー体験を向上させるコミュニケーションが大切ですね。

この結果は、メタバース空間でマーケティングを行ううえで、ちょっとしたTipsになっていくのではないでしょうか。

宣伝方法はいろいろ考えられると思うので、さまざま試しながらPDCAを回していくことが重要だと思います」

※6 シェア・オブ・ボイス:=Share of Voice。競合企業や製品・サービス間における広告出稿量やメディア露出量のこと。

メタバースでの体験は一方通行ではない

金林さん「インターネットを通じたユーザーの体験といえば、これまで『試聴』になりがちだったのではないかと思います。たとえば動画を閲覧するにしても、受け取るだけの一方通行じゃないですか。

メタバースではリアリティのある体験がつくれるので、TOKYO GAME SHOW VR 2021にしても、こちらがなにもお願いしなくても『こんな体験したよー』って感じでYouTubeに動画を配信してくれたり(191件)、Twitterに写真を投稿してくれたり(ツイート数:6,512件、RT数:25,879件)するユーザーが多かったんですね。

広告価値に換算すると合計約8億円を見込んでいるんですが、オンラインのサービスを『体験』というところに落としこめるようになったというのは、大きなポイントなんじゃないかなと思っています」

田中さん「動画をつくるのって結構カロリーが高いと思いますが、みんなに伝えたくなるような体験だったというだけでなく、リアルだとほかの人が映らないように配慮しなきゃいけないということもあるので、配信しやすさもあったのかもしれませんね」

さらにTOKYO GAME SHOW VR 2021では、会場内に設置していた動画の試聴完了率が24.01%と非常に高かったそう。ゲームショウという特性も影響しているのかもしれませんが、これもメタバースならではの効果なのかもしれません。

メタバースの活用事例:Neon Carnival in Paris World

秋元さんが事例として挙げたのは、コーチェラ・フェスティバルのアフターパーティー“Neon Carnival”。コーチェラ・フェスティバルとは、アメリカ最大といわれる音楽フェス「コーチェラ・ヴァレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル」のこと。

毎年4月に開催されていますが、コロナ禍ということもあり、2022年は3年ぶり。しかもオンライン・オフラインの両方で実施されました。

秋元さん「とはいえ、たとえばパソコンでライブを楽しんでも、終わったあと、画面を閉じて一人でお酒を飲むっていうのも寂しいじゃないですか。

それで、ロブロックス(オンラインゲーミングプラットフォーム)とリーバイスが手を組んで、開かれたのがアフターパーティーである“Neon Carnival”なんです」

パーティー会場が出現したのは、Paris World。パリス・ヒルトンが保有している自身のワールド内で開催されたのです。もちろん当日は本人もアバターで参加。

つまり、オンラインでフェスを楽しんだユーザーは、その余韻に浸りながらリアルの場と同じような体験ができ、さらにはパリス・ヒルトン(のアバター)とその体験を共有し、セルフィーを撮ったり触れ合ったりすることができたというわけです。

メタバースを取り入れる方法

ここで、実際に企業やブランドがメタバースを活用するにあたって、どういう方法があるのかをまとめます。

  • 独自のプラットフォームを用意してワールドを構築する
  • 既存のプラットフォーム上でワールドを構築する
  • オープンワールドにブースを出展する

田中さんは、コストや工数などを考えて2つめの「既存のプラットフォーム上でワールドを構築する」方法が一番とっかかりやすいのではないかと言及。

また、VRはまだそのデバイスの普及が追いついておらず(※7)、ユーザー母数も少ないため、スマホで気軽に体験できるバーチャルワールドがいいのではないかと説明されていました。

※7 2021年国内出荷台数比較…ヘッドマウントディスプレイ:約72万台、ゲーミングPC:約1,560万台、スマートフォン:約3,374万台。

また、ワールド、ないしはそこで利用できるアイテムなどを開発するのであれば、当然ながらユーザーがそういったものをつくれるプラットフォームでないといけません。

下表は、当セッションで解説されていた、ユーザーがアイテムを作成できる機能を持ったプラットフォームの比較表。

  VRPC モバイルMAU
(グローバル)
Roblox
(ロブロックス)
約2億人
Fortnite
(フォートナイト)
×約8,000万人
Cluster
(クラスター)
非公開
VRChat
(VRチャット)
×約400万人

一部非公開のものもありますが、ユーザー数は圧倒的にロブロックスが一番多いです。ロブロックス上には現在2,400万ほどのゲームがあるそうで、その数の多さの理由は、ユーザーがそれぞれ制作したものをアップロードしているから。

課金要素を入れてつくりこめば、収益化も見込めるため、ゲーム版YouTubeのような感覚で、どんどんタイトルが増え続けているのだそう。つまり、ゲームが増えればユーザーも増え、ユーザーが増えればまたゲームも増え……といったかたちで、好循環が生まれているプラットフォームなのです。

Web3.0は社会をどのように変えるか

Web3.0は社会をどのように変えるか
(左から、株式会社電通グループ チーフ・ディレクター 小川 浩史さん、株式会社電通グループ プロデューサー 鈴木 淳一さん)

最後に参加したセッションは、いま話題のWeb3.0について。それが今後の社会にどうインパクトを与え、変革を及ぼすのか、そして個人の学び方や生き方へどう影響を与えうるのか、さまざまな仮説を提示していきます。

登壇するのは、電通グループのR&D(※8)セクターである、電通イノベーションイニシアティブ(DII)において、2016年ごろから当領域を対象に日ごろから研究・開発活動を行っている鈴木淳一さんと小川浩史さん。

※8 R&D:Research & Developmentの略。日本語では「研究開発」と訳されることが多い。特に一般的には、そういった活動を行っている社内のセクションを指す。

議論は、アドバタイジングやマーケティングといった視点に発展していきました。

登壇者紹介

鈴木 淳一さん
株式会社電通グループ プロデューサー。
先端技術の利活用による競争優位戦略、コンテンツ流通戦略などを担当するほか(一社)BCCC理事、放送大客員准教授を兼務。トークンエコノミーの未来についてホワイトペーパー “Blockchain 3.0”(IHIET)にて概念化し、近著・監修『ブロックチェーン3.0 ~国内外特許からユースケースまで~』(NTS)にて具体化を試みる。

小川 浩史さん
株式会社電通グループ チーフ・ディレクター。
放送局、音楽アーティストをはじめとするコンテンツホルダーの担当として、メディアビジネス、コンテンツビジネスに従事。電通ベンチャーズ、DIIにて国内外ベンチャー投資、電通グループとのオープンイノベーション、電通グループの事業基盤開発に取り組む。

パーソナルデータ保護の観点から見るWeb2.0→Web3.0の移行

まず前提として、パーソナルデータの価値が今まで以上に上昇していると、小川さんは言います。データ量の増加に伴い、分析技術も飛躍的に向上したため、現在ビッグデータの活用が進展しており、広告事業においてはプラットフォーマーに莫大な収益をもたらすパーソナルデータは新たな資源“ニューオイル”と捉えられています。

また、AIの進歩が進む現代において、AIを育てる材料としてもデータの必要性は上昇。そのため、パーソナルデータの価値がどんどん大きくなっているわけです。

一方でEUを中心に、個人情報をより厳格に管理していこうとする動きも活発になってまいりました。プラットフォーマーや企業ではなく、パーソナルデータは個人に戻し、その所有権を強化すべきだという考え方です。

そして、自らの意思に基づくデータの利活用を可能にするため、データポータビリティ権(※9)が規定されました。

※9 GDPR20条 The Right to Data Portability

データ主体から管理者に提供された個人データについて、一定の場合に構成された、一般的に利用される、機械可読性のある形式で、受け取ること、ほかの管理者に移行することができる権利

日本においてもそういった風潮は高まっており、個人による行動やデータはその個人に帰属させていくという方向に進みつつあります。

そうなると、Web2.0では、データはそれぞれプラットフォーマーや企業が多く保有し、仲介して利活用されることで新たな価値を生んでいたのが、Web3.0では仲介サービスなしでビジネスの創出、価値の取り引きが可能になることが想定できます。

小川さん「つまり、技術の進化だけではなく、社会の要請もふくめた両面からWeb3.0への進化が考えられるようになってきたのかなと思っています」

今後の情報流通の仮説

そうなると、今まで中央集権型で中央にあるハブ(企業)が情報流通をさせていたシステムから、分散型に移行していくと予想されます。つまり、管理者を必要としないシステムに移行していくということです。

事業環境の変化

小川さん「情報を事業の根幹とする技術は一般的に活用されていると考えられるので、すべてのビジネスにおいていえることだと思うんですが、マーケットの中で個人がより強く独立した立場で活動を行っていくことになると想定されます。

消費者、生活者、個人が独自の手段で自らのデータを収集し、管理し、マネジメントしながらマーケットのリレーションを確立していくことになるでしょう」

Web2.0とWeb3.0の情報価値の違い

鈴木 淳一さん

鈴木さん「私、今日この会場に電車で来たんですけど、一番近い駅の出口は3番だと調べてあったので、そっちに向かったら、なんとエスカレーターが止まっていたんです。

世の中にはこれだけ広告があふれていて、でもそういう欲しい情報は表示されなくて、実際にその場に着くまで知ることができないんだなーなんて思いました。

『3番出口のエスカレーター使えませんよ』っていう情報は、お金を払うほど欲しかったですね。一方通行で降らせるシャワーのような情報よりも、コンテキストに合わせて表示させる情報のほうが、場合によっては価値があるんじゃないかっていうことです」

Web2.0の情報価値

鈴木さん「Web2.0においては、情報の出所を明確にすることが難しく、だからプラットフォーマーが与信をとって、媒体としての価値を持っていたんですね。

Web1.0から2.0にシフトしていくときに、なんらかの情報について、たとえばユーザーが星の数で評価するといったかたちで、その信頼性を可視化できるようになりました。

でも、実際にその星をつけているのがだれなのかはよくわからず、自分の価値観と合っているのかどうかもわからないまま、なんとなく5つ星だったら信用できる、みたいな感じで信じてしまうというケースもあったと思います」

Web3.0の情報価値

鈴木さん「ところが、Web3.0事業を始めようとしたときには、『このプレイヤーは与信の問題大丈夫かな?』といった問題をクリアする必要がなく、すでに直接やりとりできる通貨のようなものを持っている状態なわけです。

Web2.0ではGAFAを中心としたプラットフォーマーがアプリケーションを提供していて、その下に薄いプロトコル(※10)レイヤーというのがありました。

なので今まではアプリケーションにフォーカスしたビジネススキルが求められていたんですけど、これからはプロトコルにフォーカスしたものが必要になってくるだろうと思います」

※10 プロトコル:コンピュータネットワーク間でデータのやりとりを行う際の定められた手順、規約、規格の体系。

トラストレスに価値が構築されるNFTの会員証

電通グループはシビラ株式会社、ソニー株式会社と共同で、NFTで個人の学びや活動実績をデジタル化し、管理する実証実験を開始。その一環として、研究者でありメディアアーティストでもある落合陽一氏とタッグを組んで、小学生向けのサマースクールを開催しました。

特徴的なのは、卒業証明書がNFTで発行されること。今後受験の制度が変わっていくかもしれないといわれるなか、内申書には書かれなくても、プロトコルレイヤーのブロックチェーン(※11)に当活動の記録が残り、証明することが可能になるのです。

※11 ブロックチェーン:ブロック単位でデータを管理し、それをチェーンのように連結させてデータを保管する技術。今までに行った取引履歴を暗号技術によってつなげられるため、正確な取引履歴を維持できる。

鈴木さん「それがパブリックチェーンで、だれもが見られるような場所に開示されれば、そういった経験をしたことのある人を求めている大学が『受験してみませんか?』とオファーできるような環境も整ってくるかもしれない」

ソニーによって、そのNFTをNFC(※12)の技術を用いて、スマホなどを15秒ほどかざして読み取れるシステムもつくられたそうです。

※12 NFC:Near field communicationの略称。かざすだけで周辺機器との無線通信を可能にする技術・規格のこと。SuicaやPASMOなどが有名。

鈴木さん「その後、『自分も同じことを追体験したいなー』と思った人がいれば、NFTの価値は上がるし、さらにはサマースクール自体の価値も上がって、参加者は増え続け、そのうちOBたちによる同窓会DAO(※13)が結成されるという事態に発展するんじゃないかと思っています」

※13 DAO:Decentralized Autonomous Organizationの略で、日本語では「分散型自律組織」と訳される。ブロックチェーン上で国境や人種などの垣根を越えて人々が協力し合って、運営、管理される組織のこと。

もともと、このプロジェクトは、先に触れたように受験制度が不安定なときも自身の活動記録がきちんと残り、証明できるといった点で、子どもたちの将来を支援することを目的にスタートされたそう。

鈴木さん「生徒さん全員が自己PRに長けていて、コミュニケーションをとるのが得意なわけではないので、積極的に自分からアピールしなくてもオファーが届くといった世界がやってきたらいいと思うんですよね。

そのためには、だれでも気軽に扱えるように、Suicaのようにかざすだけでタンジブルでフィジカルなチャネルを作る必要があるんです。

これが発展していけば、たとえば環境に気を使ってマイ箸を持ち歩いている人が、お店でテイクアウトしたときにレジで『お箸はいりますか?』『いりません』とやりとりしなくても、ピッとかざすだけで箸をつけずに商品を渡されるということになるんじゃないかと思います」

心臓ではなく血管も司令塔になれる

Web3.0には「www」のような国際標準規格も生まれつつあるそうで、それを鈴木さんは「ブロックチェーン上で、ノード単位でいろいろできるというのがおもしろい」と、表していました。ノードとは、結び目や中心点などと訳されますが、鈴木さんいわく「中央のない末端」のこと。

鈴木さん「たとえば体であれば、心臓や脳、腎臓といった器官があって、血管を通る血流というネットワークでつながっていますが、このときWeb2.0的な考え方をすると『心臓から血が流れて動いている』という感覚なんですけど、Web3.0では血管自体が生きていると考えられるので、『この血流量だと少ないからもっと血液を作ってよ』という判断と指令をネットワークである血管が心臓に伝えるということが可能になるわけです」

そうなることで、自動化できるプロセスは中央の指示なく、そのまま処理されるようになります。

Web3.0が社会をどう変えるか

小川 浩史さん

ここから先は、「個人の妄想レベルではありますが」といいながらも、Web3.0が個人の生き方にどういったインパクトを与えるか、そしてそれがどういった思想につながっていくのか、といったお話を実に具体的にされていました。

今まで以上に個人を表すデータがハンドリングできる

小川さんは、すでに個人の主権下において、情報のハンドリングの習慣が始まりつつあると言います。

そのうえで、ウォレットに蓄積されるトークンデータによって、個々人がどういった価値観を持っているのか読み解くことができるようになると続けます。

たしかに、いつからどういったトークンを保有しているかが見えれば、おのずとその人の大切にしているものも見えてきそうです。

また、個人間の関係性も見えてくると話します。つまり、個人の価値観のような、それまで個人情報としてインデックスできなかった情報がウォレットに入り、同時に、その人がどういったコミュニティの中でどういった役割を持って生きているのか、ということもわかるようになるかもしれないということです。

小川さん「それはもはや、本人の生き方であり、価値観であり、主義そのものになります」

鈴木さん「今はお財布の厚みだけが重視される一軸評価尺度の世界の中で、ウォレットもいくら入っているのかが重視されがちだけど、そうじゃなくて、ポートフォリオを総体として評価されるようになっていくのは、より多様な価値観が生まれるようになっていくだろうなと思います。

たとえば、『とにかく楽をして生きていきたい・働きたくない・寝ていたい』っていう人は、生産活動を行っていないから経済合理性の尺度では価値がないと見なされるかもしれないけど、『そういう生き方に憧れます』って崇め奉る人が出てきたら、その生き方自体がコンテンツとして相当な価値があると評価されていく。

トークンを見る人の見方によってその評価は変わっていくと思うので、さまざまなコミュニティが立ち上がっていくのかなと思います」

Web3.0で満たされるマズローの欲求

マズローの欲求

さらに小川さんは、そのウォレットにコネクトするサービスについて考えたときに、それによって叶えようとする欲求は、「マズローの欲求5段階説」でいうと、ピラミッドの上のほうにあたる、尊厳欲求(承認欲求)や自己実現欲求に近い領域になるだろう、と言及。

小川さん「単純にそのサービスを受ける・受けないではなくて、自分の総体であるウォレットをコネクトして使うわけなので、やっぱり自己実現のために他社やそのサービスと自分がどう接するかが非常に重要になってくるんだろうなと思います。

マズローの提唱した5段階の欲求のうち、生理的欲求・安全欲求・社会的欲求は外的に満たされたいというもので、承認欲求・自己実現欲求は内的に満たされたいというものなので、Web3.0では内的欲求を満たすサービスが重要視されるようになるんじゃないですかね」

一方でWeb2.0は外的欲求を満たすものが重要視されていたといいます。たとえば、株式会社を代表とするような中央中堅的システムが主軸となり、資本主義を典型とするような、投資し、生産し、そして資本をつくるという拡大再生産のプロセスが行われてきました。

ですが、ここで重要なのは、Web3.0とWeb2.0は「or」ではなく「and」の関係で、それぞれ解決しようとしている欲求や社会課題が異なるということ。

小川さん「それぞれが併存して、人間観が叶えるべき欲求に応じて、そのサービスの形態を変えていくというのが社会変革の道筋になっていくのではないか、なんてことを考えております」

個人のエンパワメントの加速

Web2.0時代においても、プラットフォーマーに依存することなく、ユーザーとクリエイターが直接接点を持ち、やりとりを行うサービスは存在します。それが、さらに中央不在でスマートコントラクト(※14)が実行されるWeb3.0上においては、クリエイターエコノミーの権利、インセンティブの配分も自動化され、個人がよりクリエイターとして生きやすくなるのではないか、あるいはPtoPの関係性がよりなめらかになるのではないか、と小川さんは推論。

※14 スマートコントラクト:ブロックチェーン上の概念であり、契約・取引について、あらかじめ決められたルールに従って、ある条件を満たした際に決まった処理が行われること。

小川さん「先ほどお話ししたサマースクールで、近所の方が子どもたちを小川に連れていってホタルを見せてくれたんですよ。

すごく感動してくれた子もいたんですけど、もしその子が将来それをきっかけに自然保護官になったら、キャリア形成に影響を与えたその近所の方は教員免許状を持っていなくても、教師としてあるべき資質を持っているといえると思うんです。

ホタルを見せたときにトークンを発行して、自分の教え子であるということを証明できるようにしていたら、その子が自然保護官になって、ホタルの保護の仕方の講演などを行って、また次の世代に影響を与えるような人になっていたら、どんどんバックキャストで、その近所の方の価値も上がる、といったことが起こりうるのではないかと思います」

鈴木さん「Web2.0的観点でクリエイターエコノミーについて議論すると、『著名なYouTuberです』『フォロワーは○万人です』といった尺度のなかで価値が決まってしまいがちですが、ヒエラルキーのない世界で個人をエンパワーメントできるというのがWeb3.0の特徴ですよね」

小川さんの推測が現実になるのであれば、Web2.0はWeb3.0に移行するわけではなく併存し続けます。そのうえで、資格やフォロワー数ではなく、もっと本質を捉えてくれる人と巡りあうことができるというのは、これからクリエイターを目指そうとしている人にとっては朗報ではないでしょうか。

一億総“顧問”化

鈴木さん「たとえば、例が悪いんですけど、人を殺すのに長けた人がいるとします」
小川さん「本当に例が悪いですね(笑)」
鈴木さん「じゃああくまでメタバース上での話ということにします。あまりにも長けているので、メタバース上の警察も追ってこれません。そういった人に依頼したい人がいたとき、中央である事業者がその人を紹介してくれないと、探せないですよね。

でも、Web3.0では能力がある人であれば、ノードtoノードで見つけられ、そしてお仕事を生むことができます。

さらに、その人が殺人は得意でも税務処理は苦手です、というタイプであれば、そういうのに長けた人のいるDAOの中で生きていけば、自分の得意分野だけが活かされる経済圏が回っていくことになります」

つまり、現代を生きるすべての人が“顧問”となりえる未来があるわけです。今は苦手なことも克服すべき、といった向きが強く、たとえばプログラミングスキルはとても高いのに、あがり症のため面接で失敗してしまい、なかなか就職できないという人もいると思いますが、むしろ就職する必要はなく、自身の得意分野だけを武器に生きていくことができるようになるかもしれません。

鈴木さん「付き合っていた人と別れて、とても悲しくて、でもミッドタウンで夕日を見ながらこの曲を聴いたら救われた、という体験パッケージをトークンとして発行した場合、それが無名の人であっても、別のだれかが恋人と別れて悲しくなったときに『ここで夕日を見て、この曲を聴いたら救われたっていう人がいたな』と追体験したときに、楽曲使用料がアーティストなどに入るように、その失恋というコンテキストをつくった人にも一部入るんです。

それでさらに、そのパッケージをn回目に利用した人もトークンを発行できるので、どんどん広がっていって、失恋したらミッドタウンでこの曲を聴こう、というコースができてくる、そうすることで、n人の数だけ多様化していきます。

つまり、個人の多様な価値観を受け入れるようなスキームを事業モデルとして組まないといけないだろうな、と思います」

多様化は進む

AWA2022の会場内には、ちょうど筆者の訪れた2022年6月1日より広告事業を開始させたPinterestやYouTubeといった企業のブースも展示されていました。

セッションは身近でミクロな話から、グローバルでマクロな話まで多岐にわたって、現在、未来を描き、たった1日参加しただけでもそのインプット量の多さに、記事化するまで長い期間を必要としてしまいました。

参加したすべてのセッションを通して、ひとつ共通していえるのは、現代においてデジタルは欠かせないものであるということ。

スマホなどのデバイスが一般化し、さまざまな場面において情報処理の時間が短縮されるようになったことで、私たちはかつてよりも圧倒的にたやすく欲しい情報をキャッチできるようになり、同時に、常時あまりにも多くの情報に身を浸していることで、休む間がなくなってしまったり、取捨選択を繰り返した結果、情報格差が生まれたりするようにもなりました。

マルチタスクを抱える脳を休めるのは、そして人々の情報の格差を埋めるのは、コミュニケーション。今や対面でなくともオンライン上で対話をすることができ、会ったことのない友人を持つということも珍しくなくなりました。

出会い方や交流の仕方が多様化することで際立ってくるのは、それぞれの個性も多様に広がっているということ。性別も趣味も志向もスキルも得意不得意も一人ひとり異なります。けれどそれは決して、いま突然増えたわけではありません。もともと存在していた一人ひとりの特性が、ようやく可視化されるようになっただけです。

他人を受け入れることは自身を広げること。居場所が増えたことで、ようやく互いに認め合える醸成した社会に一歩近づくことができたのかなという気がします。

ダミー
(おまけ。観光気分でイベントスタッフの方に写真を撮ってもらった筆者とカメラマン)
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この記事を書いた人

浦田みなみ
元某ライフスタイルメディア編集長。2011年小説『空のつくりかた』刊行。モットーは「人に甘く、自分にも甘く」。自分を甘やかし続けた結果、コンプレックスだった声を克服し、調子に乗ってPodcastを始めました。BIG LOVE……

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