アプリ広告プラットフォームAppLovin日本事業責任者に聞く、いま伸びるアプリ【後編】
デベロッパーのビジネスを成長させるための強力なソリューションセットを提供する、マーケティングソフトウェアのリーディングカンパニーであるAppLovin。日本事業責任者である片木智也さんへのインタビュー前編では、主に日本法人が設立された背景や自社が日本のアプリ市場にもたらした大きな影響についてお話しいただきました。
続く後編では、日本市場ならではの特徴やトレンド、今後伸びるアプリの予想などをしていただきます。
(当取材においては、撮影時のみマスクを外していただいて実施いたしました)
目次
アプリ広告業界で進む自動化の波
―では、日本のアプリ市場の現状について、特徴や伸びしろなどをお伺いできますか?
AppLovin日本事業責任者 片木智也さん(以下、片木さん):日本に限ったことではないんですが、アプリマーケティングに関しては、本当に自動化が進んだ1年だったと思っています。
マネタイズ面でいうと、先ほどメディエーションについてお話しさせていただきましたが、メディエーションは従来「ウォーターフォール」という、事前に入札する単価をネットワークごとに定めて、高い単価のネットワークから広告リクエストを行い、最初に返すことができたネットワークの広告を配信する仕組みだったので、事業者は随時細かく単価を設定し直す必要があったんですが、「ヘッダービディング」に対応するネットワーク事業者が増えたことで、事前に入札単価を決めずにリアルタイムで広告オークションができるようになりました。
この変化によって各アプリ事業者の広告担当の方は本当に時間の削減ができるようになり、その分、自社のプロダクトの本質的な部分の改善などに時間をかけられるようになったので、いい流れになってきたなぁと感じています。
広告出稿に関しても同じように自動化の流れがあり、たとえばユーザー獲得においてはROASや目標KPIに応じて、自動でユーザーレベルでCPI(1インストールあたりにかかるコスト)を最適化する仕組みができてきたんですね。
それによって、それまで各国、各媒体ごとに細かく数値を決める必要があったものが、すべて目標さえ定めれば自動で運用できるように変わりつつあり、そういった高度な最適化キャンペーンを利用するアプリ広告主さんが増えています。
―それまで国や媒体ごとに手動で数値を決めていたんですか?
片木さん:そうですね、具体的にいうと、たとえばハイパーカジュアルゲーム市場は基本的にグローバルなビジネスなんですね。
今は日本の占める割合が1割だとか、USだと4割だとか……といった現状なんですが、昔は上位15か国くらいのシェアだけで90%を占めるような状況だったんです。
というのも、グローバルに広げても、人手に限界があるんです(笑)。
「この国の収支はOK、この国の収支もOK」といった感じで、一つひとつ国ごとにCPIを調整していくんですが、人手では不可能なんですよ。
ひとつのタイトルだけならまだしも、複数になればそれだけ手がかかり、しかも広告は水物で、たとえば日本だと3月が決算月なので3月から4月にかけて広告単価が落ちたり……、そういう状況を見ながら全部の国の数値を調整していくって、できないですよね。
だから「自動化できるまでは、ある程度どの国にフォーカスするかを決めて運用しましょう」とお話ししてきた時代があって、そのときのハイパーカジュアルゲームの規模感というと、おそらくUSで売り上げの6割、7割を占めていたんですが、今は4割くらいなんです。
もちろんUSの売り上げが減ったわけではなく、ほかの国の運用が正しくできるようになったことでその売り上げが伸び、パイが大きくなったといえるような変化が起こったということです。
―そうなると業務は圧倒的に効率的に進められるようになりますね。
片木さん:はい、この自動化によって従来よりも時間、リソースを削減することができたんですが、それで終わりにしてしまうとあまりに意味がないので、やはりマネタイズの話でお伝えしたように、浮いた時間でなにをするかが大事なんですね。
プロダクトの部分はもちろん、マーケターであればクリエイティブを改善させるなど。
クリエイティブってインパクトがあって大事なんですが、名前のとおりクリエイティブに考えないとできないんですよね。
そういう、機械ではできない分野にきちんと時間を割けている会社が、実際伸びていると感じます。
今のアプリ市場のトレンド・今後伸びるアプリ
―なるほど、では今のアプリ市場のトレンドもそういった会社が生み出しているのでしょうか?
片木さん:僕が注目しているアプリのトレンドはふたつあって、まずひとつが、―もうこの話ばっかりなんですけど(笑)―、カジュアルゲームの分野、もうひとつはポイ活(ポイントを貯める活動)アプリの進化。
前者のほうはグローバル、後者のほうは日本でのトレンドという感じなんですけど、2021年ハイパーカジュアルビジネスの分野で一番大きかった変化は、LTVの高いハイパーカジュアルゲームというものが登場したことで、市場規模が飛躍的に膨らんだことです。
ハイパーカジュアルゲームってすごく短命だと思われることが多くて、たとえばDLランキング1位を取って「よっしゃー!」って喜んだものの、その数か月後には消えていく、といったイメージを持たれている事業者さんも多いんですが、そんなことはなく、3,4年前に流行っていたゲームが未だにトップランキングに入っていることもあるんですよ。
たとえばVoodooさんが2018年にリリースした「Hole.io」というゲームが今もUSのランキングTOP10に入っているなど、しっかりいいものを作れば、継続的に収益を上げることができるんですね。
なので、実は「それなり」のヒット作を何本も作るよりも、大ヒット作を1本作るほうが中長期的に見ると大きな収益になるんですよ。
そういった背景もあり、今は短命で終わるようなゲームではなくて、1作あたりの収益が大きく、継続的に利益が上がるようなゲームの開発にシフトしているという流れがあります。
また、ハイパーカジュアルゲームの登場によってゲームアプリ市場自体が大きく変わったと思っています。
特にゲームアプリをプレイする人口が増えたといわれているんですね。
ただやっぱり、人口に限りがある以上、ユーザー数の増加にも限界があるので、現段階では伸び率も若干緩やかになっていっているような傾向もあります。
そこで次は、ユーザーひとりあたりの価値を高めることで、さらに飛躍的な市場の成長が望めるのかな、と思っています。
―実際、ハイパーカジュアルゲームの新規ユーザーの割合はどのくらいなのでしょう?
片木さん:いいゲームでもだいたい、インストールして次の日にも残っているのは40%くらいですね。
その後、7日で10%、1か月後には3~5%くらいになるんですが、このときに残ってくれているユーザーは相当なファンなので、そのユーザーが少ないながらもたくさんプレイしてくれれば、それなりに収益は上げられるという状況です。
また、具体的にLTVがどのくらい高くなったかというと、2,3年前だとカジュアルゲームで上手くいっているアプリの1ユーザーあたりの単価が0.5ドルくらいだったんですよ。
それが直近だと1~1.5ドルを超えるゲームがたくさん増えてきており、1アプリあたりのエンゲージメント、継続率、LTVが伸びてきているといえます。
―世界的に成長率の大きい分野なんですね。
日本のトレンドについてもお伺いできますか?
片木さん:日本ではコロナウイルスの影響もあって、「巣ごもり需要」なんて言葉もありますが、時間を持て余したユーザーが増えたことで「ポイ活」が流行っています。
アプリをプレイすることでギフト券を手に入れる、懸賞に応募できるようになる、といった要素がゲームでも非ゲームでも増えているんですね。
ポイ活アプリと広告マネタイズって、非常に相性がいいんです。
「リワード広告」という、広告を見ることでなにか報酬がもらえる全画面の広告フォーマットがあるんですけど、この特性を活かして、動画広告を見るとポイントをより効率的に稼げる、といった設定が可能で、日本でいうと、それがこの1年でもっとも伸びたカテゴリーのひとつといってもいいんじゃないかなぁと思います。
たとえばカジュアルゲームにこの要素を加えるだけで、継続率が数十%上がったり、インストールしてもらうための広告クリエイティブにおいても、「今これだけプレイするとこういうものがもらえますよ」という要素を入れるだけで、1インストールあたりの単価を20~30%抑えることができるんですね。
なので、上手くそのポイ活要素をマネタイズ、広告出稿ともに取り入れて活用している会社が増えているかなと思います。
―いわゆる「Play to Earn(※)」と呼ばれるものですね。
そういった要素が流行っているのは日本の特徴なんですね。
※Play to Earn:直訳すると「稼ぐために遊ぶ」。その意味どおり、ゲームをプレイすることで報酬・収益を得ることができるモデルのこと。「P2E」とも呼ばれる。詳細はこちらの記事に掲載。 |
片木さん:そうですね、日本では強いですね。
毎日のログインボーナスなどもそうですが、取り入れるだけで広告を見てもらう機会が増やせるので、本当に相性のいい分野だと思います。
なので、いま収益化が上手くいっていないアプリ事業者さんは、ポイ活要素とそれに関連する広告導線を取り入れてみることを検討するのはひとつの手段としてありだと思います。
ゲーム、非ゲーム問わず活用できると思うので。
成長するアプリの共通点
―では、いま伸びるアプリというのは、ポイ活要素を取り入れているものということですかね?
片木さん:そうですね、日本では特にこの1年、アプリ広告の収益という面ではポイ活の成長率が圧倒的に高かったんじゃないかな、と思います。
もちろんそれ以外にも巣ごもり需要ということで、漫画やビデオ・オンデマンド市場も伸びているんですが、弊社が確認できる、特徴的でおもしろい部分はそこだと考えています。
成長するアプリには大きくふたつの共通点があると思っているんですが、まずひとつめが、当たり前のことなんですが「需要がある」こと。
需要があることによって、いかにコストをかけずにインストールしてもらえるか、ユーザーを集められるか、というところに結びつきます。
ふたつめが「ユーザーに継続したいと思ってもらえる」こと。
これはそのまま継続率やLTVにつながるんですけど、ポイ活の要素は需要を高める際にも継続率を高める際にも活用できるんですよ。
インストールを悩んでいる人も、「インストールすればこういうものがもらえますよ」という広告を見たら興味を持ってくれるので、きっかけ作りになるんですね。
インストールしてもらってからは、「これがもらえるまではプレイしよう」と継続する理由にもなる、といったところで、アプリを成長させる方法として、ポイ活は上手く機能してくれると思います。
―最初にその仕組みを思いついた方は発明者ですね。
ポイ活を活用するデメリットはないのでしょうか?
片木さん:ユーザーに還元する費用がかかるので、それは考えなくてはいけないかな、と思います。
ただそれもデータを確認すれば、1ユーザーあたりにどのくらいのコストが必要かわかるので、ユーザー獲得費用と還元する費用を足した数値がLTVより安ければビジネスとして問題はないので、継続的に収益化は可能ですね。
ちょっとイベント告知みたいになるんですけど、実際にポイ活要素を取り入れて成功されている事業者さんを招いて、このオフィスでイベントを開催するので、ぜひ(笑)。
~ユーザー体験を損なわない広告マネタイズのベストプラクティス~
日時:2022年6月15日(水)16時~
場所:オンライン配信
【当イベントは終了しております】
今後「伸びない」アプリの特徴
―逆に伸びないアプリの特徴はありますか?
片木さん:まぁ今の時代、アプリってすごくたくさん乱立しているじゃないですか。
そのなかからユーザーに見つけてもらわないといけないので、プロモーションをあまりせずにオーガニックだけで流入されるアプリもなくはないんですけど、やっぱり自然流入だけを想定したマーケティングしか行っていない場合は正直、今後難しいと思います。
たくさんインストールされたとしても、成功事例はやはりどんどん他社に真似されるものなので、競合が増えてきたときになにも対策を打たないと飽きられてしまうんじゃないかな。
常にデータドリブンで分析して、次になにをすべきか考え、新しい施策にチャレンジしていく、それができる会社は実際に伸びていますし、逆にそれができない会社は今後難しいでしょうね。
―それはアプリ以外の業界でも同じことがいえるかもしれないですね。
片木さん:そうですね、やっぱり数字で見られる時代になっているので、見られるものは見ておかないと(笑)。
たとえばゲームアプリの場合、やっぱり作っている人自体もゲーマーのケースが多いんですよ。
でもゲーマーの感覚で作ってしまうと、一般ユーザーには全然ハマらないんです。
凝りすぎてしまって、自分たちでは伸びると思っているけど、実際は前より人気が低下してしまったり……、だからこそA/Bテストをしてあらゆる施策を試してみる必要があるな、と感じます。
広告に関しても同じで、弊社の場合はたくさん入稿されているのを自動でクリエイティブテストできる仕組みが整っていて、傾向を見ながら一番効果的なクリエイティブを選ぶことができるんですが、感覚的に「これがよさそうだな」と思っても、実際は全然違うものがいい結果を生み出すことが多く、やってみないとわからないことは多いですね。
―業界的に流行の波も早いと思うので、経験だけで読むのは難しいのかもしれませんね。
片木さん:そうですね、もちろん経験も必要だと思うんですけど、定性的なアプローチと定量的なアプローチ、両方実践するのがいいのかな、と思いますね。
コロナ禍によるゲームアプリ市場の影響
―先ほど巣ごもり需要についてのお話がありましたが、時間があることでハイパーカジュアルゲームよりもミッドコアゲームの需要が高まるということはなかったのでしょうか?
片木さん:今の段階ではそのふたつは両立しているかな、と思いますね。
先ほど少しお話ししましたが、ハイパーカジュアルゲームの登場で、ゲームアプリそのものの人口が増えたので、市場全体も伸びているんですね。
なので、今後も両方とも伸び続けることを期待しております。
―ということは広告収益はもちろんですし、アプリ内の課金でも収益化が期待できるということですかね?
片木さん:そうですね。
ちょうど2021年にLTVが高いゲームが増えてきたんですが、そのなかに「ハイブリッドカジュアル」というジャンルがありまして、ハイパーカジュアルのシンプルさにミッドコアのやりこみ要素を兼ね備えたものなんですが、つまりインストールのハードルを下げてユーザーを増やし、やりこみ要素によって継続率も伸ばすというものが成長しています。
―なるほど、そんな「いいとこどり」なものがあるんですね。
ゲーム業界に明るくないので質問が多くてすみません。
片木さん:こちらこそ、ゲームの話ばっかりですみません(笑)。
もう本当に、芸者東京さんやカヤックさんといった日本のハイパーカジュアル事業者さまと二人三脚で密にやってきて、僕のAppLovin人生4年半のなかでも費やした時間が長いんですよ。
幸いなことにその市場が飛躍的に成長しているので、弊社のようなプラットフォームにとっては主軸、主なカテゴリーのひとつであることは間違いないですね。
でもMoPubがもともと、わりと非ゲームに強いメディエーションで、今回MAXと統合できたことで、より多くの国内トップクラスの非ゲームアプリにも導入していただくことができたので、今後は弊社としても非ゲームの領域における事例が増えていくと思います。
―なるほど、大きく状況が変わったらまたお話を伺いたいです。
本日はありがとうございました!
常にそのときの状況に応じた対応ができる企業へ
今回は日本のアプリ市場について、AppLovin Japanの片木さんにお話を伺いました。お話のなかでアプリ開発に取り組む企業はもちろん、そうではない企業にも通ずると感じたのは「データドリブン」であることの重要性。
テクノロジーが日々進化し続ける現代において、数字は常に現実を示します。トレンドも情勢もブランド力もすべてが数値化できるため、いま人に求められるのはデータの適切な見方かもしれません。
ちょっとした変化にいち早く気づき、その要因を探る、そして改善させるためのアイデアを出す、タイミングを見極めて実践する、数字を見るにはそういったセンスが必要です。
アプリ業界においてはPlay to Earnという分野が注目されており、一ユーザーもアプリの内容だけでなく、貯められるポイントの有効性など数値をもとに評価し、比較検討してインストールするかどうか、あるいは継続するかどうかを選択できるようになりました。
こうしたユーザーの動きをまたデータで確認し、自己のセンスでドリブンしていく、その意義深さはあらゆる業界において共通するといえそうです。
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