カーボンネガティブとは?意味と企業の取り組み事例をわかりやすく解説
現在、「脱炭素社会」への移行が世界的な課題となるなかで、企業活動においてもCO2排出量の削減が求められるようになっています。
こうした動向とともに、「カーボンニュートラル」という標語が社会に浸透し、これを指針とする企業も増えてきました。さらに近年では、ここから一歩進んだ目標として、「カーボンネガティブ」という言葉が注目されはじめています。
この記事では、カーボンネガティブの概要や、企業による取り組み事例について解説していきます。
目次
カーボンネガティブとは
カーボンネガティブ(carbon negative)とは、企業活動などにおいて排出されるCO2やその他の温室効果ガス(GHG)の量が、同活動を通じて吸収・削減されるGHGの量を下回る状態を指しています。
カーボンネガティブは直訳すると「炭素がマイナスの状態」という意味になり、「排出量-吸収量」の値がマイナスになる状態を表します。大気中に存在するGHGを増やさないばかりか、これを除去しようとする取り組みであることから、脱炭素に向けた動きのなかでもラジカルな目標だといえるでしょう。
この言葉が大きく注目されるようになった背景としては、2020年にマイクロソフトが「2030年までのカーボンネガティブ実現」を目標に掲げたことが挙げられます。それ以来、企業活動においてGHG排出量を削減することはもちろん、「GHGを吸収すること」が環境への先進的な取り組みとして受け止められているのです。
カーボンニュートラルとカーボンネガティブの関係
カーボンニュートラルとカーボンネガティブは、いずれも「脱炭素の度合い」を表現した言葉です。具体的には、GHG排出量から吸収量・削減量を差し引いた「実質的なGHG排出量」の程度を表します。
「ニュートラル」は中立や中間といった意味をもつため、カーボンニュートラルは「GHGの排出量と吸収量・削減量が釣り合っている状態」を示す言葉です。言い換えれば、実質的なGHG排出量が「ゼロ」の状態を指します。
対してカーボンネガティブは、GHG吸収量が排出量を上回り、実質的な排出量がマイナスになった状態です。気候変動をはじめとする環境問題に対して、より踏み込んだ取り組みに位置づけられるでしょう。
カーボンネガティブとカーボンポジティブの違い
カーボンネガティブと近い言葉として、「カーボンポジティブ」が使われることもあります。「ネガティブ」の対義語である「ポジティブ」が用いられていることから、反対の意味を表しているようにも思われますが、指し示している内容はほとんど同じものです。
カーボンネガティブは「排出」の側面から、GHG排出量がゼロ以下(ネガティブ)になることを表します。一方で、カーボンポジティブは「吸収」の側に視点を置いており、「吸収量が排出量を上回り、プラスの値(ポジティブ)になっている状態」を指す言葉です。つまり、この2つは同じ事柄を別の視点から捉えたものだといえます。
カーボンネガティブにおける「カーボンオフセット」の観点
一般的な企業にとって、「CO2などの排出量が吸収量を下回る」という状態はなかなか考えにくいといえます。生産活動にはGHGの排出がつきものであり、どうしても削減できない部分は残されてしまうケースがほとんどでしょう。
こうした状況下でカーボンネガティブを実現するには、「カーボンオフセット」と呼ばれる観点が重要な鍵を握ります。以下ではこのカーボンオフセットについて、カーボンネガティブとの関連とともに解説します。
カーボンオフセットとは
カーボンオフセットとは、「GHG排出量の埋め合わせ」を意味します。企業活動において削減しえないGHG排出量を「別のかたち」で埋め合わせることで、実質的に排出量をゼロおよびマイナスにしていく方法です。
具体的には、「クレジット」と呼ばれる排出枠の取引を通じ、数値上の排出量を調整する方法が一般的です。もっともシンプルなケースは、企業活動を通じて多くのGHG吸収を実現している企業が、一定の吸収量を枠として販売し、それを購入した企業がその分の数値を自社の排出量から引くというモデルでしょう。
その他、GHGの吸収に取り組む事業への投資など、自社の企業活動とは異なるかたちでGHG削減に寄与する方法も、カーボンオフセットの1つに数えられます。
(参照:農林水産省「カーボン・オフセット」)
取引に用いられるクレジットについて
再生可能エネルギーの導入や、植林などの取り組みを通じて実現されたGHG吸収量は、「クレジット」として取引することができます。クレジットにはさまざまな種類がありますが、市場取引を前提とする場合、第三者機関の認定を受けているクレジット制度を利用するのが通例です。
市場での流通を想定した認証機関によるクレジット制度としては、「国内クレジット制度」や「J-クレジット制度」などが挙げられます。
クレジットの種類によって、吸収量や削減量の計算方法は異なりますが、一般的に採用されているのが「ベースライン&クレジット」と呼ばれる方式です。この方式においては、植林などによるGHGの「吸収量」のほか、再生可能エネルギーへの転換などによる「削減量」も計算の対象とされます。
つまり、ベースライン&クレジット方式では、大気中からGHGを「取り除く」取り組みだけではなく、「従来の排出量から削減した分」もカウントされるのです。
カーボンオフセットがもたらすカーボンネガティブの多様性
クレジット取引などを通じてGHG排出量を調整できるカーボンオフセットのシステムは、より多くの企業がGHG削減に関与することを可能とします。直接的にGHG吸収などの技術を扱っていなくとも、資本を通じて社会全体のGHG削減を後押しできるのです。
一方、このシステムにより、カーボンネガティブの実相が複雑になっている、との指摘もあります。
カーボンネガティブは第一義的に「GHG排出量を吸収量が上回る状態」を意味する言葉であり、その力点は「企業活動を通じて大気中のGHGを除去する」というポイントにあるといえます。具体的にこれを実現する方法としては、植林によるCO2吸収量の増加や、新技術によるCO2の吸収・再利用などが挙げられるでしょう。
一方で、カーボンオフセットにおいて「吸収量」だけではなく「従来の排出量から削減した分」も計算の対象となる場合には、実際には大気中からGHGが減っていないケースでもカーボンネガティブと称されることがあります。
総じて、カーボンネガティブと名指される事例のうちには、大きく「植林やCO2吸収の新技術によってGHGを事実的に除去しているケース」と、「カーボンオフセットを通じて実質的に排出量をマイナスにしているケース」があるといえます。後者において、クレジット取引のシステムによっては、実際にはGHGが大気中から減っていないという状況もありうるでしょう。
クレジット制度における計算方法の適性化は、各国において課題とされており、今後国内外で制度が変化していく可能性も十分に考えられます。
カーボンネガティブに取り組む企業の事例
カーボンネガティブを目標とする企業の取り組みは実にさまざまであり、カーボンオフセットを前提とした目標設定のほか、自社が開発する製品そのものをカーボンネガティブなものにしようとするプロジェクトまで多岐にわたります。
以下では具体的に、カーボンネガティブに取り組む企業の事例を紹介していきます。
マイクロソフト
2020年、マイクロソフトは2030年までにカーボンネガティブを実現する目標を設定しました。この目標が画期的だったのは、自社による直接的な排出量をマイナス状態にするだけではなく、サプライチェーンおよびバリューチェーン全体におけるカーボンネガティブを目指しているところです。
生産活動における排出量の削減はもちろん、エンドユーザーが自社製品を使用する際に生じる排出量や、サプライチェーンにおける排出量など広範な影響を視野に入れ、社会レベルでのGHG削減に取り組む見通しを示しています。
さらに同社は、GHGの削減のみならず、これを大気中から吸収・除去することの重要性を強調しています。GHGの吸収に関わる技術に積極的に投資すべく、同社は10億ドル規模の「気候イノベーションファンド」を設立し、技術革新を後押しする構えです。
(参照:Microsoft「2030 年までにカーボンネガティブを実現 – News Center Japan」)
MAX Burgers
スウェーデンを中心にチェーンを展開するファストフード企業MAX Burgersは、2018年、植林の取り組みを通じてカーボンネガティブを達成したことを報告しています。
特筆すべきは、ハンバーガーの製造工程だけではなく、取引先の農家から顧客の手に届くまでのサプライチェーン全体での排出量が計算されているところです。そのうえで、カーボンニュートラルに関する国際基準であるISO14021にのっとり、排出量に対して110%の吸収量を実現したといいます。
植林によって自社の活動にともなうGHG排出量を十二分に埋め合わせた同社の事例は、多くの企業にとって参考になるカーボンネガティブのモデルケースだといえるでしょう。
(参照:Maxburgers.com “Climate-positive” )
Air Protein
アメリカ合衆国のスタートアップ企業であるAir Proteinは、CO2をその他の気体やミネラルと混ぜ、微生物に与えることで、タンパク質を多く含む粉末を生成することに成功しました。これに調味を加えることで、代替肉「Air Meat」を開発し、商品化に向け動いています。
Air Meatは大豆や肉類などのタンパク源に比べ、農場や飼料・肥料などを必要としないため、スペースや資源を抑えての生産が可能です。生産にかかる日数もわずか4日と短く、食品の生産プロセスに革新をもたらすことが期待されています。
現在は食品関連の規制要件に関する審査の最終段階にあり、2023年中に商品化の見通しが発表される見込みです。カーボンネガティブのさまざまな事例のなかでも、同社のプロジェクトは、新しい技術を通じて実際に大気中のCO2を減らす取り組みとして大きな関心を寄せられています。
(参照:CNN “The company making steaks out of thin air” )
鹿島建設と日本コンクリート工業
自社の商品やサービスを通じてGHG削減に寄与する企業は現状でも多く見られますが、上のAir Proteinのように、GHGを「吸収」しうる技術を展開する企業は珍しいでしょう。そうした技術のなかでも、社会的なレベルでカーボンネガティブを実現する手段として注目されているのが、CO2を吸収する「コンクリート」の開発です。
鹿島建設株式会社と日本コンクリート工業株式会社による取り組みも、そのうちの1つです。CO2を吸収し、コンクリート内に固定する鹿島建設の技術「CO2-SUICOM」と、CO2を原材料として軽質炭酸カルシウムを生成する日本コンクリート工業の「エコタンカル」を土台として、共同研究を行い、さらなる技術革新を目指す構えです。
(参照:鹿島建設株式会社「カーボンネガティブコンクリートの更なる進化に向けた共同研究を開始 | プレスリリース」)
大気中のGHGを吸収する技術は、今後の環境問題にとって中核的な役割を担っていくと期待されます。一方で、直接そのような技術を扱っていない企業でも、カーボンオフセットのシステムを通じてGHG削減に取り組むことができます。
もちろん実際に取り組む際には、「カーボンニュートラル」や「カーボンネガティブ」といった言葉が表面的なものにならないよう留意することが大切です。自社やサプライチェーンをめぐる排出状況をしっかりと把握しつつ、クレジット制度を介して取引する際にも、「それがどのようにして達成された吸収量・削減量なのか」といった点まで配慮することが望ましいでしょう。
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