クリティカルシンキングとは?ビジネスにおけるメリットから実践方法までわかりやすく解説!
日々の業務を改善するうえでは、「現状分析から課題解決に至るプロセス」を効率化することが求められます。その際に強い味方となるのが「分析フレームワーク」ですが、一方で現状を決まった型にあてはめるだけでは、十分な効果を引き出せないこともあるでしょう。
課題解決のためには型や形式だけではなく、それを支える「思考法」が重要です。今回はビジネスに活用しやすい「クリティカルシンキング」という思考法について、その概要やメリットをふまえ、実際の方法論についてわかりやすく解説していきます。
目次
クリティカルシンキングとは
クリティカルシンキングは、日本語で「批判的思考」と訳される言葉です。ある問題について考える際、普段は「当たり前」とされている前提を疑い、本質的な課題を浮き彫りにしていく思考法を広く指しています。
この「批判」という言葉に対して、「何かを否定する」というネガティブなイメージを抱く人もいるでしょう。しかし、クリティカル(critical)の語源となったギリシア語のkrineinは、「分ける」ことを意味する言葉であり、原義としては「正しい選択のための取捨選択」といったニュアンスを帯びます。
つまりクリティカルシンキングにおける「批判」は、本質的な問題とそうではない問題、有効な対処とそうではない対処を明確に切り分けていくことで、その状況において本当に必要な事柄を見出していく作業を表しているのです。
クリティカルシンキングの一例
上述のように、クリティカルシンキングは「当たり前の前提を疑う」ことを最大の特徴としています。この特性から、実践においては「そもそも論」の様相を呈する場面も少なくありません。
たとえばマーケティングの場面では、「そもそも現在の目標設定にはどのような意義があるのか」「そもそもSNSを通じたマーケティングはターゲットに合致しているのか」など、「根本的な部分に対する疑問」がクリティカルシンキングの典型といえるでしょう。
このような「そもそも論」は、話を前提部分にまで押し戻してしまうことから、日常においては敬遠されやすい考え方かもしれません。一方で、ビジネスの多様な可能性やリスクを検証するうえでは、クリティカルシンキングを通じた「前提への疑い」が大きく貢献する場面もあるでしょう。
クリティカルシンキングは「分析の土台」
クリティカルシンキングに近い観点や考え方は、多少なれ誰しも日常的に取り入れているものです。ビジネスにおいても、知らず知らずのうちに批判的な考え方が実践されているケースは少なくありません。
たとえば現状の根本的な課題を見つけ出すための「なぜなぜ分析」は、「本質へと至るために問いを繰り返す」という点で、クリティカルシンキングの一種だといえます。
その他、さまざまな分析フレームワークにおいても、「今本当に必要なことは何か」「現状の課題がなぜ起きているか」という批判的な目線は多分に求められるはずです。このようにクリティカルシンキングは、検証・分析の基本となる考え方であり、ビジネスにおいて欠かせない視点を提供してくれるでしょう。
クリティカルシンキングの成立背景
クリティカルシンキングは体系的なメソッドを指しているのではなく、「議論で問題を掘り下げる際に有効な考え方」のエッセンスを抽出した方法論を広く指しています。
クリティカルシンキングの原型の1つとして、古代ギリシアの哲学者ソクラテスの「問答法」が挙げられるでしょう。これはある主張に対して、「○○とは何か」という問いを繰り返すことにより、当の主張に含まれている矛盾を明らかにする方法です。
たとえば「権力があれば人生は充実する」という主張に対して、「人生の充実とは何か」など、前提となる部分を掘り下げていくことにより、主張の矛盾や問題点を導き出していきます。
このような哲学的探究のエッセンスや、論理学のノウハウをもとに、「解消すべき矛盾点」や「本当に取りかかるべき課題」を浮き彫りにする際の方法論として練り上げられたのがクリティカルシンキングなのです。
ビジネスにおけるクリティカルシンキングのメリット
上述のように、クリティカルシンキングは「当たり前を疑う」ことを通じて、現状の問題をシャープに捉えるための方法論として位置づけられています。
ビジネスにおいても、とくに「課題の洗い出し」が必要となる場面でクリティカルシンキングは有効に機能するでしょう。以下では具体的に、クリティカルシンキングのメリットについて解説していきます。
非効率な慣習の見直し
現実の組織運営においては、長く現状を見直す機会がもてず、非効率的な慣習が続いてしまっているケースは少なくありません。業務フローやチェック体制など、「今までこれで問題はなかったから」と、改善のきっかけを逃している組織もあるでしょう。
クリティカルシンキングを通じて「職場の当たり前」を見直すことで、これまで気づけなかった業務のロスが浮き彫りになるかもしれません。不必要な作業などを具体的に特定できれば、生産性の向上や労働環境の改善といった効果にもつながっていくと考えられます。
新たな視点の導入
アイデア整理の段階においても、クリティカルシンキングは新しい着想につながりやすいと考えられます。とくにメンバーや環境が長く固定されているケースをはじめ、知らず知らずのうちに「当たり前」が積み重なり、各人の発言や発想に対する「見えない制限」となっていることも多いものです。
暗黙のうちに共有される職場の常識や前提に対して、タブーを気にせず切り込んでいくことにより、これまで気づかなかった問題を見つけたり、新たな視点からアイデアが生まれたりする可能性も広がります。
リスクの抽出
クリティカルシンキングはビジネスの現状分析において、課題やリスクを洗い出す際に有効に機能します。
たとえば新商品の開発に着手する際には、「本当に他社からシェアを奪えるのか」「そもそも市場のニーズを捉え損ねているのでは」など、さまざまな角度から懸念点を検証していくことが求められるでしょう。
クリティカルシンキングを通じて「プロジェクトの目的」や「成功の根拠」を批判的にチェックしていくことにより、想定しうるリスクを客観的に可視化できると考えられます。
クリティカルシンキングの方法その1「弁証法」
クリティカルシンキングにはさまざまな方法がありますが、ここでは「弁証法」という哲学の思考法について解説していきます。
弁証法とは特定のテーマについて「対立する2つの主張」を提示し、それに折り合いをつけた「第3の主張」を導くことで、もともとの主張に含まれていた矛盾を解消するという方法です。
主張をあえて対立させ、「矛盾」を意図的に作り出すことにより、解決に向けて思考を展開させていく点を最大の特徴としています。
弁証法はもともと、古代ギリシアにおける議論の基本的な展開方法とされており、近代においてドイツの哲学者ヘーゲルによって体系化されました。それ以後も批判的思考のスタンダードなモデルとして受け継がれ、学問からビジネスまで広く活用されています。
弁証法の進め方
弁証法は第1の主張である「テーゼ」に対して、それに反対する主張「アンチテーゼ」を置くことにより展開され、両者を統合する主張としての「ジンテーゼ」へと落とし込むというプロセスを踏みます。
たとえば市場戦略の策定にあたり、まず「競合の少ないA市場を狙うべき」というテーゼを置くとしましょう。次に、それに対する主張として「A市場にはそもそも需要が少ないので狙うべきではない」というアンチテーゼを提示します。
ここから、第3の統合案として「A市場の需要を喚起しながら商品を展開させる」などのジンテーゼを導いていくのです。
ここで提示されたジンテーゼは、最終的な解決策とは限りません。これを再び「第1のテーゼ」として設定し、アンチテーゼを提示しながらジンテーゼを導く、というプロセスを繰り返すことで、アイデアを不断にブラッシュアップしていけるでしょう。
ビジネスにおける弁証法の活用例
弁証法は「あえて矛盾を作り出す」ことにより、問題を掘り下げて考えていくための思考法です。そのためビジネスにおいても、現状における問題点を洗い出したり、課題解決までの見通しをつけたりと、さまざまなシーンで有効に活用できるでしょう。
たとえばマーケティングにおいて、新規顧客の獲得に苦戦している状況を考えてみます。まずテーゼとして「顧客を獲得するために広告費を上げる」という主張を置き、アンチテーゼとして「広告費の増加は経営圧迫につながる」という主張を設定します。
ここから2つの主張を統合すると、「ターゲティングの精度を上げて広告の費用対効果を高めていく」といったジンテーゼが導かれるでしょう。
さらに思考を発展させるため、再度テーゼとして「費用対効果を高めるためにターゲットを絞る」という主張を置いてみます。アンチテーゼとして「ターゲットを絞ることで広告効果は限定的になる」という反対意見を置いたあと、ジンテーゼとして「ターゲットごとに配信時間やクリエイティブを変えていく」といった統合案を導きます。
このように弁証法はいわば「らせん状のサイクル」であり、「主張→反論→統合案」というプロセスを繰り返すことでさらなる効果を発揮するでしょう。
クリティカルシンキングの方法その2「背理法」
クリティカルシンキングを代表する方法論の1つである「背理法」は、一般に数学の証明問題のなかで用いられる手法として知られています。ある命題に対して、一旦「その命題が間違っていたら」という仮定を置き、その仮定の誤りを示すことで命題の正しさを間接的に証明する方法です。
数学の証明に限らず、背理法は日常的な意思決定の場面でも知らないうちに取り入れられています。たとえばスマートフォンを選ぶ際、「機種Aを選ぶべき」という決断を後押しするために、「Aを選ばなかったら」という仮定のもと、「Bでは○○ができない」「Cでは××ができない」というかたちで「Aではない選択肢」を潰していくのも一種の背理法といえるでしょう。
背理法の進め方
背理法は基本的に、以下のステップによって進められます。
- 検証すべき意見や主張(命題)を用意する
- 「その命題が間違っていたら」と仮定する
- その仮定が正しいかどうかを検証し、矛盾点を探していく
ここで、仮定のうちに矛盾や問題点が発覚すれば、もともとの命題の正しさが裏付けられたことになります。
ただしこの背理法によって示される「命題の正しさ」は、あくまで論理上導かれるものに過ぎません。実際のビジネスシーンにおいては、論理的な正しさでは判断できない観点も多くあるでしょう。
そのためビジネスにおいては、背理法を「正しさの証明」のために用いるのではなく、「別の選択肢の吟味」のために用いることが望ましいと考えられます。
ビジネスにおける背理法の活用例
ビジネスにおいて、背理法はしばしば「自分と対立する主張の矛盾を示し、自身の主張へと誘導する」という目的で用いられます。つまり自分が主張Aの立場を取っているとき、「主張Bでは○○という問題点がある、なのでAにしましょう」というように、知らず知らずのうちに実践されていることも多いはずです。
このような議論の場のほかにも、背理法が有効に活用できる場面は数多くあります。とりわけ自社の現状について課題を探したり、新規プロジェクトのリスクを吟味したりする際には強力な武器になるはずです。
たとえば新たにアパレルブランドを展開する際、メインターゲットとして「都心部に住む美意識の高い20代男性」を設定したとします。このターゲティングの適切さを吟味するうえでも、背理法は有効でしょう。
背理法は「命題が誤っていることを仮定する」方法ですので、ここでは「都心部に住む美意識の高い20代男性は自社商品に魅力を感じない」という仮定のもと検証を進めることになります。
トレンドやデザイン、機能性やコストなどの面から「本当に魅力を感じないのか」を検討していき、いずれの観点においても「魅力を感じる」と結論されれば、「もともとのターゲティングに大きな問題はない」と見通すことができるでしょう。
クリティカルシンキングを実践する際のポイント
クリティカルシンキングはビジネスにおいて非常に有効な思考法ですが、あらゆるケースで効果を発揮するわけではありません。場面や目的に応じて取り入れることで、その効力を十分に引き出せるでしょう。
結論を急がない
クリティカルシンキングの目的は、具体的な結論や解決策を導くことではありません。そうではなく、手段や方法の問題点を洗い出したり、現状の改善点を総体的に見直したりすることを趣旨とする思考法なのです。
そのため批判的に問題を扱うなかでは、なかなか「具体的な話」に至らないこともあるでしょう。その際は、無理に思考や議論を展開させる必要はありません。代案や具体策を提示することに囚われず、目の前の問題に対して懸念事項や検討事項を提示していくことが大切です。
「自身の正しさ」を疑う
クリティカルシンキングにおいては、あらゆる前提や常識を「当たり前」と見なさない姿勢が重要になります。
業界の風習や企業の体質、他者の意見に対して疑問を提起していくことはもちろんですが、自分自身の考えに対しても「十分に広い視野をもてているか」など不断に疑っていくことが大切です。
自分の意見や立場を絶対視してしまうと、異なる角度からの見解が生まれにくく、批判の視点も画一的になっていく可能性があります。柔軟な発想と自由な立場から疑問を提示するために、自分自身の正しさを前提とせず、さまざまな目線を取り入れる意識をもっておきたいところです。
議論の環境を整える
ミーティングなどの場面でクリティカルシンキングを実践すると、ある意見に対して批判的な意見が多く提示されるため、参加者によっては「自分の意見を否定された」とネガティブな感情に囚われてしまう可能性もあるでしょう。
議論の場にクリティカルシンキングを取り入れる際は、参加者のうちで「批判的な意見はあくまで議論を掘り下げるための方法であり、否定や非難とは異なる」という意識を共有しておく必要があります。
組織内のポジションや上下関係に囚われず、誰もが安全な立場から批判的な意見を提示できる環境を作っていくことが大切です。
まとめ
クリティカルシンキングは「批判的思考」を意味し、物事を批判的に検証することにより、問題点や課題をクリアに捉えることを目的とする思考法です。
「物事を批判的に見る」という姿勢は、特別なスキルやフレームワークなどではなく、日常的な場面から学問、ビジネスシーンに至るまで広く浸透しています。そのなかでも、弁証法や背理法など、考えを深める際に有効な方法を抽出したものがクリティカルシンキングなのです。
弁証法は「あえて対立意見を設定する」ことにより、矛盾の解消に向けて思考を展開する方法として位置づけられます。一方、背理法は「あえて自説を否定する仮説を吟味する」ことにより、自説の妥当性を検証していく方法です。
いずれの方法においても、仮定的に自説を否定してみることで、その課題やリスクを浮き彫りにしていけるでしょう。アイデアをブラッシュアップさせたり、現状の課題を把握したりする際に、これらの方法論はとりわけ有効だといえます。
クリティカルシンキングを集団で実践する際には、「意見を一旦否定してみることが、建設的な議論につながる」という前提を共有することが大切です。上手に批判を取り入れることで、効率的にアイデアを研ぎ澄ませていきましょう。
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