分散型SNSとは?メリット・デメリット・中央集権型SNSとの違い
近年、新しい時代のインターネット環境を表現する言葉として「Web3.0(Web3)」が注目されています。
なかでも新時代の軸と見込まれるのが、「分散型」のネットワークです。特定の事業者にデータ管理を依存させることなく、ユーザーに高い自由度を認めるオープンなネットワークが、Web3.0のスタンダードになっていくと考えられています。
実際に、ソーシャルネットワークにおいても、「分散型SNS」と呼ばれるプラットフォームが続々と登場しているのです。この記事では、分散型SNSの概要や、従来の中央集権型SNSとの違いなどをふまえ、代表的なプラットフォームを紹介していきます。
目次
分散型SNSとは
分散型SNSとは、従来のSNSとは異なる「オープンなネットワーク」にもとづくプラットフォームの総称です。その大きな特徴は、サーバーの管理権限を特定のプラットフォーム事業者に集中させていない点にあります。
たとえばこれまで、FacebookやInstagramであればMeta社、X(旧Twitter)であればX社というように、主要なSNSのサーバーは特定の事業者によって管理されてきました。こうした管理権限の面で、従来のSNSは「中央集権型SNS」と呼ばれ、分散型SNSと対比されます。
分散型SNSは、ユーザーが自由に構築する複数のサーバーが連携しあいながら、ゆるやかな集合体として総体的なネットワークを形成します。特定の事業者に依存することない「民主性の高さ」や、SNSとの関わり方をユーザー側が自由に工夫できる「拡張性」といった面で、新時代のスタンダードとして期待されているのです。
中央集権型SNSとの違い
中央集権型SNSにおいては、ユーザー間のコミュニケーションや個人情報など、あらゆるデータをプラットフォーム事業者が管理しています。ここから、データ管理をめぐるプライバシーの問題や、障害やセキュリティ面のリスクなどを懸念する声も少なくありません。
これに対し、複数のサーバーが連携しながらデータを管理する分散型SNSにおいては、ユーザー側がセキュリティやプライバシーに関する決定権を握ることができます。
さらに、ブロックチェーン技術を用いるタイプの分散型SNSであれば、高いセキュリティを維持しながら投稿データの唯一性を担保することも可能です。後述するように、この技術を応用することで、投稿コンテンツを通じた収益化モデルを構築しているプラットフォームも見られ、経済的な面での発展性にも期待が寄せられています。
分散型SNSが注目されている背景
FacebookやInstagram、Xなどに見られるように、現在ではSNSを通じた情報収集や意見交換が一般化し、経済や政治にもインパクトを与えるようになりました。これにともない、しばしば議論されているのが、「人々の交流する場が一部の企業によって管理されていることの是非」という問題です。
たとえば政治的な話題について、「特定のユーザーや意見を排除する権限が企業に認められるのか」あるいは「企業によるトレンド情報の操作はどこまで許されるのか」など、民意の形成にプラットフォーム事業者の方針が少なからず影響しうる環境について、さまざまな議論が交わされています。
とりわけイーロン・マスク氏により旧Twitterが買収されてからは、「膨大なユーザー数を誇るプラットフォームの管理権限が、巨大な資本を有する個人や組織によって獲得されるリスク」についても懸念されるようになりました。たとえば特定の思想にもとづく検閲も、マネーゲームによって達成できてしまうなど、多方面にわたる危険性が指摘されています。
こうした懸念に加えて、Xの相次ぐ仕様変更にともなって、代替プラットフォームに対するニーズが高まるなか、とくにミニブログ形式の分散型SNSが着目されるようになりました。さらにMetaがXの対抗サービスとして「Threads(スレッズ)」をリリースし、将来的に分散型SNSとして発展させていく見通しを示したことで、今後の展開に期待が寄せられているのです。
なお、Threadsの概要や基本的な使い方については以下のページで解説しております。あわせてご参照ください。
分散型SNSのメリット・デメリット
これから分散型SNSが広まっていくとともに、「ユーザーがSNSをどう使うか」も徐々に変化していくと考えられます。以下では分散型SNSの特徴をふまえ、それがユーザーにとってどのようなメリット・デメリットにつながっていくのかを解説していきます。
エコシステムの形成
分散型SNSは、特定のサーバーに管理権限を集中させるのではなく、複数のサーバーに管理権限を分散させ、それらをプロトコルによって連結させる形態をとります。対応しているプロトコルが同一であれば、別のサーバーや異なるアプリケーションの間でデータを共有することも可能です。
またブロックチェーンの技術を用いるタイプのSNSであれば、同一のチェーン上に展開される複数のアプリをシームレスに利用し、共通の通貨やアカウントを運用することもできます。
たとえば後述するように、ブロックチェーン「Steem(スティーム/スチーム)」上にはニュース投稿メディアの「Steemit(スティーミット)」や動画投稿プラットフォームの「DTube(ディーチューブ)」などが展開されており、コンテンツ投稿者に対する報酬システムとして仮想通貨Steemをベースにした支払い設計がなされています。
ここから、とくにWeb3.0の時代にあっては、「どのアプリが多くの利用者を得るか」というよりも、「どのプロトコル上にどんなアプリが紐づけられ、どのようなエコシステムを形成していくか」という点が重要になってくるでしょう。
オープンソースによる拡張性
一般に、分散型SNSはソースコードなどを自由に改変・再配布できるオープンソース型のソフトウェアを採用しており、サードパーティーによるツール開発に対しても寛容な傾向にあります。
こうしたオープンな開発環境によって、ユーザーのニーズに合わせたSNSクライアントなど、使う側の目線から自然な競争が促されていくでしょう。このように、ユーザー側の工夫によって快適な利用環境を整えていける点が、分散型SNSの大きな特徴といえます。
自由度の高さがデメリットになる可能性
上述のように、分散型SNSはユーザー自身が「所属したいエコシステムを選び、その環境を自分たちで快適にしていける」点が最大の特徴だといえます。
一方で、この自由度の高さはユーザーにとっての「わかりにくさ」につながる可能性も考えられるでしょう。とりわけ新たに分散型SNSの利用を開始しようとする場合には、「そのネットワーク上でどのようなエコシステムが展開されており、どのような構造になっているのか」が見通しにくい面もあります。
このような特性もあり、現状のところ、多数のユーザーが「コミュニケーションの共通の地盤」をつくるうえでは、中央集権型SNSの方が適している部分もあるでしょう。
現段階では分散型SNSのメリットが直感的に把握しにくく、多くのプラットフォームにおいてはユーザー数も限られているため、分散型SNSが主流となるまでには一定の時間がかかると見込まれます。
主な分散型SNS一覧
分散型SNSと一口にいっても、どのようなプロトコル上で展開されているのか、あるいはどのようなメディアの投稿に対応しているかなどによって大きく性質は異なります。
以下では主要な分散型SNSの種別を一覧表として示したうえで、いくつかのプラットフォームについて解説していきます。
SNS名称 | メディア形態 | ネットワーク |
Mastodon | ミニブログ | ActivityPub |
Misskey | ミニブログ | ActivityPub |
Bluesky | ミニブログ | AT Protocol |
Damus | ミニブログ | Nostr |
Phaver | ミニブログ | Lens Protocol(ブロックチェーン) |
Lenster | ミニブログ | Lens Protocol(ブロックチェーン) |
Odysee | 動画 | LBRY(ブロックチェーン) |
DLive | 動画 | Tron(ブロックチェーン) |
DTube | 動画 | Steem(ブロックチェーン) |
Steemit | ニュース | Steem(ブロックチェーン) |
Mastodon(マストドン)
MastodonはXに似たミニブログ形式のSNSであり、サーバー単位でコミュニティを形成できる点が特徴です。分散型SNSの代表的なモデルであり、単一のサーバーによって運営されるのではなく、ユーザー個人がサーバー(=インスタンス)を立ち上げられるので、興味関心や特定の話題について独自のインスタンスを形成し、オリジナルのコミュニティとして運営できます。
このインスタンスのイメージは、しばしば「惑星」によって表現されます。ユーザーはそれぞれ環境の異なる惑星のなかから、「自分が居住したい星」を選ぶのです。あるいはノウハウさえあれば、新たに自分自身の星を作成することもできます。
ここで、行動のベースは最初に選択した惑星=インスタンスになりますが、それぞれのインスタンスは分散型SNSプロトコルのオープン標準である「ActivityPub(アクティビティパブ)」を通じて連携しているため、他のインスタンスにおける投稿内容を共有することも可能です。
つまりMastodonの全体的なイメージとしては、惑星がゆるやかに関係を保ちながら、ひとつの銀河を形成しているような構造といえるでしょう。
Misskey(ミスキー)
Misskeyは日本発の分散型SNSであり、絵文字や文字装飾まわりの機能が充実したミニブログ形式のプラットフォームです。他者の投稿に「いいね」ではなくスタンプでリアクションしたり、コードによって投稿する文章の文字を加飾したりと、テキストベースでありながら視覚的な変化を楽しめることを特徴としています。
Mastodonと同様、Misskeyには特定の管理人が運営するインスタンスが存在し、趣味や関心などに応じて自分に合ったインスタンスに参加できます。また、ActivityPubによって他のインスタンスやMastodonなどとも連携しているので、自身の属するインスタンスの外からも情報を共有可能です。
このようなアプリの枠を越えたネットワークは、「フェディバース(fediverse)」という言葉で表現されることがあります。フェディバースとは「連合(federation)」と「宇宙(universe)」をかけあわせた言葉であり、独立したサーバー内の小世界が、共通のプロトコルを通じてゆるやかに結びつき、ひとつの宇宙を形成している様を表しています。
Bluesky(ブルースカイ)
Blueskyは旧Twitterの共同創業者が手がけた分散型SNSプロジェクトであり、ミニブログ形式のSNSとしてXと近い機能やインターフェイスを備えています。一方で、主に「タイムラインに何を表示させるか」についてユーザー側に大きな自由度をもたせている点で、Xとは差別化されています。
さらに、サードパーティー製のツール開発についても高い自由度を認めており、APIを使った拡張性の面でも期待が寄せられるプラットフォームです。これまでは「招待制」でユーザー数が制限されていましたが、2024年2月6日に従来の招待制を廃止して、「誰でも」利用できるようになりました。
投稿できる文字数は、最大300文字で画像は4枚まで投稿が可能。アカウントを作成するためには、電話番号を登録してSMS認証をする必要があります。
Twitterに非常に似ているUIで設計されているため、X(旧:Twitter)からの乗り換え候補として注目されています。
Steemit(スティーミット)
Steemitはブロックチェーン「Steem」上で展開するニュースサービスです。投稿テキストがブロックチェーン上に保存されることが特徴であり、他ユーザーから高い評価を得ている投稿に対しては仮想通貨によって報酬が支払われるシステムが用意されています。
このSteemitに代表されるように、ブロックチェーンの技術はデジタルデータに対しても唯一性を付与できるため、今後は「分散型SNSを通じた著作物や創作物に対する報酬分配システム」の発展にも期待がもてるでしょう。
Odysee(オディシー)
Odyseeはブロックチェーン「LBRY(ライブラリー)」上に構築された動画共有プラットフォームです。アップされたデータは特定の管理者によって削除されず、YouTubeなどに比べ投稿できるコンテンツの自由度が高い傾向にあります。
動画投稿者に対しては、独自のアルゴリズムによって仮想通貨LBRYが報酬として支払われる仕組みです。またお気に入りの投稿者を支援する「投げ銭」のシステムも用意されており、個人での収益化を目指すクリエイターなどにとって魅力的な環境といえるでしょう。
ここまで紹介したように、現状のところ、分散型SNSにはさまざまな面で発展の余地が残されており、「ユーザーがどのように使うか」「どのような環境が構築されていくか」などの面で大きな可能性を秘めています。これからユーザーを増やしていくなかで、巨大な経済圏を形成していくプラットフォームも登場してくるかもしれません。
「ユーザーがSNSを通じてどのように情報を共有・交換するか」は、世の中のトレンドや世相、人々の価値観にも影響を及ぼします。分散型SNSが発展するとともに、人々の考えや行動様式も少なからず変化し、それがビジネスチャンスにつながる場面もあるでしょう。どのプラットフォームがどのような発展を遂げるのか、今後も分散型SNSの動向から目が離せません。
RANKING ランキング
- WEEKLY
- MONTHLY
UPDATE 更新情報
- ALL
- ARTICLE
- MOVIE
- FEATURE
- DOCUMENT