アパレル不況時代に一手!パーソナルスタイリング事業DROBEの企業戦略
株式会社DROBEとは、AIテクノロジーとプロのスタイリストがお客さまそれぞれに合わせてスタイリングした商品を定期的にお届けする同名のパーソナルスタイリングサービスを提供している企業。
独自開発のAIによってユーザーごとにリストアップされたアイテムの中からスタイリストがさらに一人ひとりに合わせて服を選んで配送し、ユーザーはそれらを自宅で試着したうえで気に入ったものを購入、それ以外を返送(すべて返送も可能)、あるいは迷った場合はLINEを通じてスタイリストに相談することもできるという仕組みで、ユーザーからの各アイテムのデザインやサイズ感に関するフィードバックデータが蓄積することで、より相性のいいアイテムが配送されるようになるというのが特徴です。
サービス提供3年目で既に会員数は10万人以上、昨年2021年12月には月商1億円を突破したという勢いのある企業が、このたび新規事業としてオリジナル商品の開発を発表されたので、代表の山敷守さんとその事業責任者でCMDO(※)の佐熊陽平さんにお話をうかがいました。
※CMDO:Chief Merchandising Officerの略称で、マーチャンダイジングにおける最高責任者のこと。「MD」と略されることも多い「マーチャンダイジング」とは、消費者のニーズに合った商品を、適切な価格、適切な数量、適切なタイミングで提供するための活動全般を指す。 |
アパレル商品というとプロパー消化率の低さも広く知られているところではありますが、既に2021FWに試験的に投入された商品の売れ行きデータによると、生産量の90%以上が売れる見込みだそう。
SDGsの観点でも取り沙汰されるアパレル業界が抱える数々の課題に誠意をもって取り組み、「売れるものを、売れる分だけつくる世界」を目指す企業の理念は、アパレル関連企業でなくても注目すべき視点です。
目次
なお、過去に代表の山敷守さんの経営哲学を深掘りしたインタビュー記事はこちら。
(撮影時のみマスクを外していただいて取材を実施しました)
初のオリジナル商品開発・販売
―早速ですが、新規事業として発表されたオリジナル商品の開発についてご説明をお願いできますか?
株式会社DROBE CEO 山敷守さん(以下、山敷さん):DROBEというパーソナルスタイリングサービスは、開始してから3年以上(ベータ版含む)経っているので、継続のお客さまが5割以上と多く、人によっては10回、20回とご提案をして、その都度フィードバックをいただいているのでデータも蓄積されてきており、それを活用して、継続いただいている方々向けになにか服を作れないか、と考えました。
AIによってお客さま一人ひとりと商品それぞれのマッチ度をマイナス1からプラス1のスコアで表せられるようになっていて、平均は0.4くらいなんですが、0.6、わかりやすくいうと60点の商品を送れることもあれば、どうしても20点の提案しかできないということもあります。
20点って、やっぱり購入率も低いですし、お客さま満足度も低いんですね。
それなら、その人に合った服を送れるように作っていきたいというのが発端の考え方でした。
でもAIで服作りをするって海外では事例があるんですが、やっぱりゼロからデザインを起こすとなると、どうしても難しくなっちゃうんですよね。
そこで、たとえばプリーツスカートで、色は白で、マキシ丈で……、と商品仕様を細かく分解してシミュレーターに入れ、あとは3か月後にご利用があるお客さまの予測もできるので、そのマッチ度を計算してスコアの高いものを作るということを始めてみました。
懸念点としては、オンワードさんやユナイテッドアローズさんといった多くの有名ブランドさんの商品を扱わせていただいているなか、ノーブランドの商品が本当に売れるのか、ということが挙げられたんですが、実際に去年の秋冬に導入したところ、高いスコアで送れ、ちゃんとご満足いただけるっていうのがわかったので、いま本格的に稼働しはじめています。
とはいえ我々は服作りのプロではないので、ちゃんとノウハウを持たれているパートナーさんと取り組んでいきたいと考え、まずはNOLLEY’S(ノーリーズ)さん、ヒロタさん、ダニュウさんと一緒にやらせていただくことになりました。
今後どんどん広げていきたいと思っています。
……めちゃくちゃしゃべっちゃった(笑)。
株式会社DROBE CMDO 佐熊陽平さん(以下、佐熊さん):本当だよ、僕しゃべることないよ(笑)。
開発の背景は山敷の話と重なるんですが、実績としては21年度のFW、10月~2月の期間に実施したところ、ほぼ消化が見えているという状況ですね。
オリジナル商品展開の流れ・AIの活用
―フリマアプリなどの台頭もあって、アパレルはプロパー消化率が低いことも問題視されていますが、そんななか90%以上はすごいですね……。
佐熊さん:ちゃんと時期どおり、計画どおり、生産できたものは順調に売れてくれて、今はDROBEのオリジナルネームで企画販売しているんですね。
でも、オリジナルで売り出すということがゴールではなくて、一緒に取り組んでいるブランドさんと一緒に成長していきたいというのを強く思っているので、このノウハウをどんどん活用してもらいたいんです。
最初からそう話すと、「本当に売れるの?」と疑われてしまうと思うので、まずは自社で試してみて、いい結果が出たらノウハウを共有していこうと始めたところで、実際に結果が出てきているので、今まさに複数のブランドさんにお声がけさせていただいて、別注品(※2)として開発を進めているという感じですね。
※2 別注:セレクトショップや他ブランドなどのために、通常商品とは別に、カラーやディティールの異なる商品を制作すること。 |
―ということは、販路としてはそれぞれのブランドさんで販売されるということですか?
佐熊さん:そうですね、その場合もありまして、ヒロタさんの場合は両社で販売予定なんですが、それに加えて、僕たちは伊勢丹がルーツということもあり、伊勢丹で別注販売できないかと……、そういった感じで、今後も自社だけではなくいろいろと巻き込みながら広げていきたいと思っています。
佐熊さん:これが商品企画を行うときに仕様を要素分けした例です。
もともと伊勢丹にいたころ、婦人服のバイヤーをやりながら年間200型くらい商品を作っていたんですけど、トレンドを取り入れるとか、過去に売れたベストセラーのディティールを変えてみるとか、そういった発想でモノ作りをしていたんですね。
でもDROBEでは、商品をデータ化してパターンを考えていくという作り方をするんです。
要は商品って、完全にすべてを表すのは難しいですが、素材とか、ネックの形とか、シルエットとか、ある程度具体的にそれを構成する要素に分解することができるんですね。
それで、たとえばポリエステル×半袖×丸首×スリット……というような商品と、配送を予定しているAさん、Bさん、Cさん一人ひとりのマッチ度を確認していくんです。
なのでサンプルを作る段階で、ある程度デザインが絞られているので、出戻りが少ないという大きなメリットがあるんですね。
とはいえ、予想していたものより素材が硬く仕上がったとか、当然ながら人の目じゃないとわからない部分はあるので、そういう定性的なところはサンプルの段階でスタイリストに意見をもらって直して、完成させています。
最初から人のセンスだけで考えると、どうしても万人に売れそうな白、黒、ネイビーといった色の発注数を多くつけがちですけど、スコアを見てみると意外にグリーンが高いということもあって、販売段階の意思決定にも使えて、これはDROBEにしかできないことだなーと思います。
―10万人のデータがあってこそですね。
佐熊さん:そうですね。
DROBEが成長すればするほど、精度も上がることになるので、たとえば会員数が1億人くらいに増えたら、かなり「正しい」データに近づくと思うので、今後が楽しみでもありますね。
―オリジナル商品を作るというのは、最初から構想としてあったのでしょうか?
山敷さん:AIでいろいろできるんじゃないかという、ふわっとしたイメージは一応ありましたね。
繰り返しになってしまうんですが、5点アイテムを送って、1点もお買い上げいただけない方っていうのは一定数いらっしゃるんですね。
それはスコアの高いアイテムを送れていないからで、とはいえブランドさんの商品仕様や在庫をこちらがコントロールできるわけではないので、今まではスタイリングの範疇で解決させようとしていたんですが、そろそろデータも貯まってきたので、服作りをしてみようかと……。
―お客さまや取引されるブランド、ステークホルダーが増えてきたというのが、きっかけとしては大きいんですかね?
山敷さん:お客さまが増えたっていうのは、たしかに大きいですね。
1型5枚などで作るわけにはいかないので、規模が増えたことでようやくできるようになったという部分はあります。
佐熊さん:配送するたびにお送りしたアイテムについてフィードバックをいただけるんですけど、そのデータも充分に集まったというところで、いいタイミングじゃないかな、と。
オリジナル商品については、まだ始めたばかりなので、今後フィードバックをいただくなかで、たとえば狙いとして打ち出したデザインが実は求められていなかった、といった検証ができるので、どんどんブラッシュアップさせて進化させていきたいなーと思っています。
山敷さん:商品によっては結構ありますもんね、お客さまのフィードバック。
「透ける」とか。
佐熊さん:それは完全に僕のミス……。
でもお店だと売れたかどうかは当然わかるんですけど、なんで売れなかったかはわからないので、それが見えるというのは、モノ作りのうえでプラスですね。
ブランドさんからもそのデータは結構求められているので、今後もうちょっと活かしていけるんじゃないかと思っています。
他社にデータを共有して業界全体で無駄をなくす
佐熊さん:僕も話しすぎてるんですが(笑)、購入率を見ることで半年間に何枚送られて、何枚買っていただけるっていうのも読めるので、生産すべき枚数を予測することができるわけです。
そうやって、売れる分だけ需要予測して作っていくことがきちんとできるようになれば、ファッション業界は無駄が多いといわれがちなので、その対策としても業界に貢献できると思っています。
まだできてはいないんですが、各ブランドさんの企画段階の商品データをいただければ、あくまでDROBEのユーザーとの掛け合わせにはなりますけど、どのくらいお客さまにマッチしそうか点数をお出しすることはできるので、生産数の意思決定にも活用していただけるんじゃないかと。
―そうなると業界全体が関わることになるので、なおさら先が楽しみなプロジェクトですね。
佐熊さん:やっぱりおもしろいですね。
いつだれが来店するのかっていうのは、お店の場合はわからないですけど、DROBEの場合は定期配送で継続の方も多いので、お客さまの好みや利用のタイミングといった輪郭がはっきりしているっていうのが強みですね。
1枚だけの生産ができれば、お客さまに合ったものって本来は作れるはずなんですよ。
でも今は生産ロットの関係でどうしても難しい……、それなら受注生産とはまた違う形でパーソナライズさせた服のご提案ができれば……、と思い描いています。
―やっぱりアパレルというと大量廃棄という問題は無視できないと思うので、需要と供給のバランスを正常に整えることができれば、かなり大きな革命になりそうですね。
佐熊さん:そうなんですよね、だからAIを使ってモノ作りをしているんですけど、でもAIだけではなく、人の思いみたいなものも大事にしているので、それによって確度が高められるっていうのが一番いいですね。
AIが全部やってくれたら楽にはなるかもしれないですけど、やっぱり人の高揚する部分は薄れてしまうと思うので、データで出した方向性はブレさせずに、でも最後は人が味つけをするという方法を日夜試行錯誤しております(笑)。
―どんどんAIが進化していって人間の仕事は奪われていくかもしれないっていわれることもあるじゃないですか。
でもちょうど先日、マーケティングソフトウェア会社の代表の方に取材させていただいたときに、基本的にはデータドリブンだけど、最終的には人間のセンスを大事にしていると仰っていて、どれだけ発展しても結局、人の力が重要なのは変わらないのかなと思いました。
佐熊さん:すごくわかります。
DROBEの場合はスタイリング時もベースはAIにお任せして、クリエイティブな部分やお客さまに寄り添うといった部分で人の力を大事にしているので、共存することで無駄がなくなったり、効率的に働けたりするというのがいいことだと思っています。
売れないものを作るのは、お客さまにとって悪
―大量廃棄については対策されていると思いますが、現状のアパレル市場の課題点への取り組みについてお聞かせいただけますか?
山敷さん:この資料でいうと、我々は真ん中の、いわゆるミドルテイスト、トレンド市場に入るんですが、上のラグジュアリー・デザイナーズブランドや下のファストファッションと比べて特に元気がなくなっているといわれているんです。
要因のひとつとして、ファストファッションの製造品質が向上していて、デザイン性についてもコレクションブランドを参考に作られるなどハイセンスになってきていることが挙げられると思います。
加えて、以前にはあった「これを着とけばいいよね」といった「定番品」のようなものが消えかかって、トレンドが分散しているのを感じます。
SNSなど情報源が多様化しているというのも大きいと思うんですけど。
それと大量廃棄がエコの観点以外でも問題なのは、企業側の利益を悪化させてしまうところだと思っています。
需要が見えないまま作って、売れなかったら捨てる、というのが前提になってしまうと、原価を下げる必要があったり、あるいは捨てなくても最初からセール価格で販売することを想定した値付けになってしまったり、結果としてお客さまにとってありがたみのない商品になってしまうんですね。
あるいは不信感のようなものが蔓延してしまったり、どうしてもお客さまに対して不都合を押しつけてしまう構造になってしまうというのを感じるので、売れないものを作るのってすごく悪だなって思っているんです。
こういうのが繰り返されると、やっぱりファッションから心が離れてしまう方も出てくると考えられるので、地球環境だけでなく、お客さまにも悪影響を与えていると思っています。
競合他社の新規参入も大歓迎
―なるほど、過去に「在庫は罪悪」っていう社訓を持ったアパレル企業にいたことがあるんですが、在籍していたときよりも今が一番、罪悪感を実感した気がします。
ちなみに「売れるものを売れる分だけ」作るには、AIデータが欠かせないと思うんですが、もし同じように会員データを集めてオリジナル商品を作る他社が参入したらどうされますか?
山敷さん:私は基本的にウェルカムだと思っています。
そういう作り方が当たり前になっていったほうが、我々としてもメリットがあるんですね。
特にファッション業界は、1社で総取りするような世界ではないので、我々のDROBEというパーソナルスタイリングサービスも今はまだニッチすぎて認知度も低いと思うんですけど、競合さんが入って盛り上がってくれれば、「実店舗で買う・ECサイトで買う」に加えて「スタイリングサービスで買う」という選択肢も広まっていくと思っています。
だからこそブランドさん、メーカーさんにデータを提供するということについてもポジティブですし、そうすることで結果的にファッション市場が元気になってくれたら、まわりまわって我々の成長も助けてもらえますし、基本的にはこのアプローチが正しいだろうと思っているので、ほかの企業さんも入ってくれたほうがいいですね。
佐熊さん:そのなかからお客さまにどう選んでいただくかは、企業努力にかかってくると思います。
でも既に人同士がつながっているのは大きな財産だと思っていて、スタイリストを信頼して続けてくださるお客さまがいらっしゃる限り、他社のサービスが始まってもすぐに取って代わられるとは思っていないですね。
―自社の利益よりも業界全体を盛り上げることを優先しているんですね。
佐熊さん:そうですね、だってやっぱりこれだけ売り上げが下がっていますからね。
逆にいうと、業界としては1兆円くらいは伸びる余地があるんですよ。
山敷さん:90年代には14兆円を超える規模でしたね。
―90年代というとフリースブームや海外ファストファッションの台頭で需要よりも供給数が増え始めたころですね。
佐熊さん:そうですね、価格帯も全体的に下がったんですよね。
山敷さん:佐熊さんが百貨店で働き始めたころですよね?
佐熊さん:そうです、僕のせいで下がっちゃった(笑)。
でも個人的には、モノが悪いわけではなくて、むしろこだわって作られていると思う部分もあるんですけど、唯一、買い方だけが変わらないのが課題なんじゃないかなと感じています。
昔と比べて、やりたいことがいっぱいあるじゃないですか。
家でできることも増えているなかで、「買い物に行きましょう」っていうときに、まぁECサイトはありますけど、主軸は「お店に来てください」というサービスになってしまっていると思うんですよ。
そのスタンスだと、そもそも関心のある人しか行かなくなってしまうのは、実際に伊勢丹新宿店で働きながら感じていたことなので、買い方さえ変われば市場はまだまだ盛り上げられると思っているんです。
もっとお客さまに合った買い方を提供できれば、今はファッションに関心をあまり持っていない人にもちゃんと届けることができるんじゃないか、と。
―たしかに次々に新しいファッションブランドが生まれ、一方で同時に多くが淘汰されているこの時代に、御社の場合は「本来はファッションに関心があったけれど、今はなんらかの理由で離れてしまっている」というお客さまが多いとお聞きしているので、そういった方々の興味を取り戻せられれば、ファッション業界の今後は明るいですね。
佐熊さん:そうなんですよね、もう家にいてくれていいです(笑)。
僕らが家に服を届けるので、Netflix観ながらでも試着して買えますよ、と伝えていきたいです。
もちろんファッションが好きな人はそのまま好きでいいんですけど、でもくわしい人だけが集まって話している業界やショップって入りにくいじゃないですか。
もっと気軽にファッションに触れてほしいなっていうのが、一番の思いかもしれないですね。
データ×人のセンスのバランス
佐熊さん:実際の商品はシンプルなんですけど、そういうものこそ難しいですね。
でも今期も販売開始して1か月くらいで、アイテムによっては60~70%くらい順調に購入されています。
―すごいですね!
でもどれもたしかに形はスタンダードですが、色が絶妙なので、持っていると重宝するのかなという感じがします。
佐熊さん:そうなんですよ、購入率を見ると白みたいなベーシックな色って、たぶん既に持っている方が多いからか意外と低いので、突飛ではないけど微妙に新しい色が求められているんですよね。
今だとグリーンが人気で、だいたいどの商品もグリーンのスコアが上位なので、緑だらけになっちゃうんですけど。
それでブランド名も「greenery」にしました(笑)。
でもデータだけではなくて、たとえばこのブラウスは袖の片側だけにゴムを入れているんですけど、これはスタイリストから意見をもらって変更した部分なんです。
DROBEのお客さまって働かれている方や家事される方が多いので、動きやすいように袖を捲し上げられるほうがいいんじゃないか、と。
でも全面的にゴムにするとカジュアルすぎる、とも言われたので、じゃあ後ろ側だけゴムにしましょうか、と決めました。
―スタイリストさんもまさしく働かれていて、御社の場合は育児をされている方も多いとお聞きするので、実体験あってこその意見ですね。
佐熊さん:そうですね、こういうのは僕だと思いつかないですね(笑)。
あと、このスカートは素材を変えました。
トレンドも取り入れようということで、光沢のあるプリーツスカートを作ることにしたんですけど、上がってきたサンプルを見たらちょっと派手かな、と思ったので、もう1回シミュレーターを回してみたんですよ。
改めてデータを出しなおしたら光沢のないほうがスコアが高かったので、リバーシブルということで裏の素材を使うことにしました。
こういうのは人に聞くと「どっちもあり」という意見が多くなると思うので、新しいアイデアは人に、迷ったときの背中を押してもらう役目はAIに、という感じでモノ作りをしています。
今は素材の細かい部分まではAIで読めないんですけど、今後はその部分もベースはAIに任せたいですね。
柄の特定まではできるようになってきたので、もう少し進化したら、同じポリエステル素材でもシャリ感のある生地がいいのか、なめらかなほうがいいのか、要素として分解できるようになるんじゃないかと期待しています。
人を巻き込んでいくスタンス
佐熊さん:うちの場合はもちろんAIも大事なんですけど、スタイリストがいるというのも強みで、意見をもらえるのがめちゃくちゃありがたいです。
将来的にはお客さまからも意見をもらいたいな、と思うんですけどね。
LINEでつながっているので、写真を送って、どっちがいいかアンケートを取るといったことは、お客さまが嫌じゃなければできそうだなーと。
―いいですね、LINEで参加者を募集して座談会もできそうです。
佐熊さん:やりたいですねー。
でも実は座談会は1回似たものをさせていただいたんですよね。
ヒロタさんと一緒にプラスサイズの服を作ることになり、実際にプラスサイズを着られている方の悩みとかをお聞きしたかったので、ベースをAIで作ってから、インフルエンス力のある方々に来ていただいて……、「あ、こういうディティールのほうがいいんだな」っていう学びが実際にありましたね。
それを今後、お客さまともできたら楽しいだろうな。
オンラインだったら集まりやすいかな……10万人集めます(笑)?
ギネスに載れるかもしれないですね。
まぁでも10万人といわず、そういう関わり合いの場は作っていきたいな、と夢は広がるばかりです。
改変の背景
―TVCMの放送が始まりましたが、「スタイリストがつくネットショッピング」というキャッチコピーに、まさしく山敷さんの仰っていた、服を買う手段といえば実店舗とECサイトの2択だったところにパーソナルスタイリングサービスを選択肢として広めたい、という言葉がスムーズに含まれているのを感じました。
サイトもリニューアルされて、どんどん新しいことを始められていますが、その背景をお聞きしてもよろしいですか?
山敷さん:やっぱりお客さまが増えたというのが大きいですね。
それによっていくつかポイントがあるんですが、まずはデータが増えたことで、AIでの服作りが可能になりました。
お客さまも10万人を超え、月商も1億円を突破したという規模感になったことで、他社さんと取り組みをしていくうえで、その企業側にとってもメリットがあると感じていただけるようになりました。
ただ、その分いろんなお客さまがいらっしゃるようになったので、ひとつのやり方では融通が利かなくなった部分もあり、そこで、今まで5点配送していたのを8点まで有料オプションで増やせるようにするといった変化を加えました。
あとは、現時点のお客さまにはアーリーアダプター(※3)といわれるような方が多いので、最初から「パーソナルスタイリングサービス」と聞いてわかる方もいらっしゃると思うんですけど、この先はまったく知らないという方にもアプローチしていこうと思っているので、まさに「スタイリストがつくネットショッピング」という言葉もそうなんですが、よりわかりやすさを目指してアップデートしていっています。
※3 アーリーアダプター:流行に敏感で、積極的に情報収集して判断する人のこと。新しい商品やサービスなども早期段階で受け入れ、ほかの消費者にも大きな影響を与えるため、「オピニオンリーダー」ともいわれる。 |
今後の展望
―先日、辺見えみりさんとのコラボも発表されましたが、著名なスタイリストさんやタレントさんがスタイリングしたアイテムが届くという企画も行っていて、日々状況を見ながら進化されているなーというのを感じます。
山敷さん:いえいえ、この規模のスタートアップとしては硬直化しています(笑)。
佐熊さん:もっともっと加速させたいですね。
コラボについては、それによって新しいお客さまが「こういう買い方もあるんだ」と新規登録してくれるという面もあるので、やっぱり広げていきたいですね。
メンズもやってほしいという声をいただくので、始めたらさらに広がるだろうなーと思いながら、あまり一気にいろいろ広げすぎちゃうと……とも思うので、機を狙っています。
―メンズの展開については前回の取材でも仰っていましたもんね。
ほかにもなにか練られている企画ってありますか?
山敷さん:たくさんありますね。
ラグジュアリーブランドの取り扱いも始めたいと思っていますし、ファッション以外も始めたいです。
自動車とかまったく違う分野ではなくて、まぁ自動車も将来展開するかもしれないですけど(笑)、コスメとかファッションに近いところは、やれたらいいよねって話しています。
佐熊さん:もうちょっと近しい話だと、今はデイリーウェアをメインに取り扱っているんですけど、キャンプとかアウトドアとかスポーツとか、ライフシーンに特化した商品を増やしていってもおもしろそうだと考えています。
山敷さん:キャンプに行くときに「とりあえずこれでいっか」と適当になったり、オケージョンの服を面倒に感じてしまったり、デイリーウェアについても仕事をするうえで悪目立ちしない服を選んだり、そういう考え方を「私はこれが好きだから着ていく」というポジティブな意思決定に変換できるようにしていきたいんですよね。
佐熊さん:それはファッションに限らず、いろんな分野で広げていきたいとは思っていて、やりたいこともいろいろあるんですけど、まぁたぶんやるんですけど、まずは地に足をつけてファッションを究めないと、そうも言っていられないという感じですね。
今のファッション業界に対する怒り
山敷さん:いま僕は、ファッション業界に怒りがあるんです。
店舗で店員さんとコミュニケーションをとるのが苦手な人って結構多くて、とはいえECで買おうにもサイズ感や素材感がわからないし、なんでその2択しかないのかな、と。
佐熊さん:こないだ照明の暗いお店で服を買ったんですけど、家に帰って見てみたら思っていた色と全然違ったっていうこともありました。
「めっちゃ黄色い!」っていう(笑)。
それで改めて家で試着できるのはいいな、と思いました。
一緒に住んでいる人に見てもらうこともできるので、自分だけでなく第三者の意見も聞けるし、より後悔のない買い物ができるのかな、と。
―そうですね、ECで買って後悔した服たくさんあります……。
服はまだフリマアプリに出品するという手が残されていますが、水着で失敗しちゃうとどうしようもないですね。
そういえば水着は展開されないんですか?
佐熊さん:一応ちょっとだけあったんですけど、お客さまから要望があれば探してみるという感じですかね。
たしかに水着の試着って家でできたほうがいいですよね。
ちょっと参考にさせてもらおうかな(笑)。
こちらから水着があるっていうのを特に提示はしていないので、どう伝えていくかを考えないといけないんですけど、それこそさっきお話しした、ライフシーンに合わせたアイテム展開を強化していく際に見直したい要素ですね。
海とかキャンプとかスポーツとか、そういう日常以外のイベントって欠かせないものだと思っているんですけど、たとえば普段キャンプに行かない人が初めて行くとなると、なにを買えばいいかわからないからとりあえず高いものを買おうかな、逆に安いものでそろえようかなと、だいたい価格帯基準で選ぶんじゃないかと思うんです。
そういうのをプロに選んでもらえたら……。
山敷さん:それ以外にも、変化って日々結構あるじゃないですか。
お子さまが生まれて、それまで以上に服に機能性が必要になって、変えなきゃいけないのはわかっているけど、どう変えたらいいのかわからない、という話は実際にお客さまから聞きますし、日常にもいろんな変化があると思うんですよね。
佐熊さん:そうですよね、取材を受けるにしても悩みますもんね(笑)。
―たしかに毎日同じ1日が続いていくわけじゃないですもんね。
取材もそうですけど(笑)、育児や仕事といった大きい部分だけでなく、「なにがあったわけでもないけどテンションを上げたいから好きな服を着る」という場合も含めて、いろんな人、いろんなシーンに寄り添ったファッションが都度選べるようになれればいいなぁと思います。
求められる、現状に疑問を抱く力
現状、服やバッグ、靴などを購入する際には、主に来店する、あるいはECショップで探すという選択肢しかありません。そのことに違和感を抱く方はどのくらいいるでしょうか。もしかしたら、「そういうものだ」と受け入れている方のほうが多いかもしれません。正直、筆者もそのひとりでした。
自身の話をすると、ひと月に1着も服を買わないということは経験がなく、多い月では20万円近くを出費。その優先順位の高さから、ファッション業界の内部にいた経験もあるのに、はずかしながらこの市場に貢献しているほうだと思っていました。
実際、毎月女性がファッションにかける金額は1,000円~3,000円が多いというデータもあるので、利益という面では充分に貢献しているといえるでしょう。
▶参考:保険マンモス株式会社のプレスリリース(PR TIMES)
購入回数が多い分、当然ながら失敗した体験も多く、もちろん過去のそれが学びとなって「こういうサイズ表記をするブランドは数値に振り幅がある」「このデザインは太って見える」など、ある程度ふるいにかけることはできるようになったものの、日々新しいアイテムも新しいブランドも生まれ、あるいはリニューアルすることもあるので、完全に失敗をなくすことは不可能です。
それでも「まぁそういうものだから」と諦めていた、むしろ自身が諦めていることに気づいてさえいなかったファッションアイテムの購入体系に、きちんと向き合っている企業があるということに驚きがありました。
「前提」というものを取っ払って課題に取り組む姿勢は、ファッション業界だけでなく、どの業界にも共通して求められるものでしょう。
前提というのは、消費者の購入方法だったり、マーケティング手法だったり、制作フローだったり、さまざまなところに存在します。もしかしたら「自社の利益を優先させる」というのも、含まれるかもしれません。
アパレル業界は今、長い低迷期にあります。以前のように、あるいは以前以上に盛り返すには、当然ながら1社のはたらきかけのみでは難しいでしょう。
競合他社と協力し合うことで市場そのものを動かそうとする眼差しこそが、現代社会においては間違いなく適切であり、株式会社DROBEの考える、お客さまに不都合を押しつけない体制とは、自社はもちろん他社も不都合を引き受けない、つまりそもそも存在させない、まさしく持続可能な未来を築くものです。
インターネットやテクノロジーの普及によって情報も選択肢も拡大し、できることが増えたことで、やりたいこと、そしてやるべきことも増える一方かもしれませんが、もう実は飽和社会に嘆く時期は終焉を迎えており、「やるべきこと」を分解するときが来ているのかもしれません。
それはどうしてやるべきなのか目的を洗い出すことで、囚われていたルールや習慣から解放され、新たな方法が見えてくるということも考えられます。それが平坦な一本道や想定していたよりも近道となるのであれば、どちらを選ぶべきなのか、答えは案外シンプルですよね。
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