アーンドメディアとは?その意味とオウンドメディアとの違いや運用する方法を解説
現在ではSNSやECサイトをはじめ、Web上でのマーケティングに役立つメディアがさまざまに展開されています。そうしたメディアを「どう運用するか」によって、経営状況が左右されることもあるでしょう。
一方で、口コミやレビュー動画など「一般の消費者によるWeb上の動き」を促進し、自社の販促に活かしていく観点も重要性を増しています。
そのような「第三者の発信する情報」を活かすうえで、ヒントを与えてくれるのが「アーンドメディア」という考え方です。この記事では、アーンドメディアの意味やオウンドメディアとの違いをふまえ、実際の事例や運用時のポイントについて解説していきます。
目次
アーンドメディアとは
アーンドメディア(earned media)とは、消費者や報道機関など、自社と直接には利害関係のない第三者によって「自然発生的に生まれたメディア」を指します。
広告のように「金銭の取引」が介在しないにもかかわらず、「自社の商品・サービスに関係する内容」を紹介しているため、自社のマーケティングに大きな影響をもたらすのです。
アーンドメディアの具体例としては、口コミサイトやSNSのほか、個人ブログや動画投稿サイトなど、自社に直接関係しない個人が運営するメディアが挙げられるでしょう。
その他、新聞や雑誌の特集記事、TVのインタビュー番組など、第三者機関による「広告目的ではない報道」もアーンドメディアのうちに含まれます。
総じて、アーンドメディアは「自社の営利活動の一環」として運用されるものではなく、「個人の興味関心」や「社会的な話題性」などに後押しされるかたちで、自社の商品・サービスや取り組みなどについて言及しているメディアを指しています。
アーンドメディアの詳しい意味
アーンドメディアの「アーンド(earned)」は、「信用や評判などが得られた状態」を意味する言葉です。ここから、金銭的な取引をともなう「広告案件」ではなく、口コミのように自社の評判が自然に広まり、結果として自社の信用が高まっている状況を指しています。
また「アーンド」は、「利子などが生じた状態」を意味する言葉でもあります。たとえば銀行預金の利子が預金者の活動とは関係なく生じるように、「企業の営利活動とは別のところで生じるプラスの影響」を表現した言葉でもあるでしょう。
このようにアーンドメディアは、自社がマーケティングを意図的に実施するのではなく、消費者や報道機関などが自然に生み出した結果、自社の認知度や評価に好影響を与えるメディアを指しています。
オウンドメディアとアーンドメディアの違い
アーンドメディアと対比される言葉として、「オウンドメディア(owned media)」が挙げられます。「オウンド」は「所有されている状態」を意味しており、企業が自社の認知拡大や販促を目的に、「自身の手で運用しているメディア」を表します。
オウンドメディアの例としては、企業のコーポレートサイトやECサイト、自社ブログなどが挙げられるでしょう。
アーンドメディアとオウンドメディアの違いは、「運用している者が誰か」という点にあります。アーンドメディアは自社と直接には利害関係のない第三者によって運用され、オウンドメディアは自社がみずから運用するものです。
>>>オウンドメディアの集客方法とは?アクセスを増やすコンテンツ作成のコツも解説
ペイドメディアとアーンドメディアの違い
オウンドメディアやアーンドメディアと比較される言葉として、「ペイドメディア(paid media)」があります。「ペイド」は「金銭などが支払われている状況」を表しており、広告プラットフォームのように有償で特定企業の広告を出稿するメディアを指しています。
たとえばディスプレイ広告やリスティング広告をはじめとするWeb広告のほか、TVのCMや雑誌の広告欄など、出稿料を受け取るかたちで広告を掲載するメディア全般がペイドメディアに該当するでしょう。
アーンドメディアとの違いは、「コンテンツの掲載にあたって金銭の取引が発生するか」という点にあります。ペイドメディアでは広告掲載の対価として金銭の取引が発生するのに対し、アーンドメディアにおいては通常、そうした取引は生じません。
なお、オウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディアの3つは「トリプルメディア」と呼ばれ、さまざまな角度からマーケティングを推進するための重要な観点とされています。
シェアードメディアとアーンドメディアの違い
上述のトリプルメディアのほかに、「シェアードメディア(shared media)」という分類が見られることもあります。シェアードメディアは主にSNSなど、「ユーザーが情報を共有(シェア)するための媒体」を指す言葉です。
一般ユーザーが情報を発信していく点で、シェアードメディアはアーンドメディアと共通する面もあります。
一方で、シェアードメディアがあくまで「一般ユーザーによる情報共有」という点を強調しているのに対し、アーンドメディアは報道機関による情報発信も含んでおり、「話題性などから自然に自社が取り上げられている状況」に力点を置いています。
なお、上述のペイドメディア、アーンドメディア、オウンドメディアとシェアードメディアを合わせて、それぞれの頭文字をとった「PESOモデル」という言葉もあります。現在のマーケティングにおいては、これらのメディアを場面に応じて使い分けていくことが求められているのです。
アーンドメディアのメリット
第三者が自発的に情報を発信するアーンドメディアには、自社が運営するメディアや広告媒体とは違った特性があり、異なるターゲット層へとアプローチできる可能性もあるでしょう。
以下では具体的に、アーンドメディアのメリットについて解説していきます。
第三者発信による信頼性
企業が自身の商品・サービスなどについて発信するオウンドメディアや、広告として配信されるペイドメディアに対し、アーンドメディアは「自社と直接利害関係のない第三者」によって運用されています。
こうした特性から、アーンドメディアの情報はそれを見たユーザーから「生の声」として受け止められやすい傾向にあるでしょう。一般の消費者にとって、「自分と同じ立場からの意見や感想」は、やはり参考になりやすいと考えられます。
とくにインフルエンサーなど、すでに多くのユーザーから信頼を得ている個人による発信は、フォロワーの購買行動を喚起しやすく、その後も次々にレビューが波及していくケースも少なくありません。
低コストで拡散効果を期待できる
アーンドメディアは第三者によって運用されるメディアであるため、広告費や制作費といったコストを抑えながら認知拡大を期待できます。
とくにSNS上の投稿は、多くのユーザーからの共感を集めることにより、爆発的な拡散効果をもたらす例も多く見られます。
こうした拡散効果を事業者側がコントロールすることは難しいですが、「ハッシュタグキャンペーン」などを通じて拡散を促すことは可能です。「自社に関連する投稿により、割引やプレゼントを提供する」といった措置を講じることで、低コストでマーケティング効果を高めていけると考えられます。
数字に表われない「親近感」につながる
アーンドメディアにはさまざまな種類がありますが、とくに近年重要性を増しているSNSにおいては、事業者が一般ユーザーと交流することも容易になっています。
既存顧客や潜在顧客とSNS上でフォロー関係を結んだり、「いいね」やリポスト、リプライなどでコミュニケーションをとったりすることで、自社に対する親近感が増していき、アーンドメディアが活性化していくと期待できるでしょう。
とくに自社の商品・サービスについて情報を発信してくれているアカウントへの積極的なリアクションは、自社に対する愛着を高めていくうえでも有効だと考えられます。
アーンドメディアの事例
第三者が運用するアーンドメディアは、投稿内容をコントロールしにくい反面、一般ユーザーの自発的な動きが大きな波及効果につながることもあります。
以下ではSNSを中心に、アーンドメディアを通じてマーケティングを促進している企業の事例を紹介していきます。
事例1.ロッテ「雪見だいふく」
株式会社ロッテは、定番アイス商品「雪見だいふく」の公式アカウントを各SNS上で運用し、さまざまなキャンペーン企画により一般ユーザーからの投稿を促しています。
一例として、InstagramやTikTok、X上で実施されたハッシュタグキャンペーン「雪見のばしチャレンジ」では、「雪見だいふくをどれだけ伸ばせるか」というチャレンジ動画を募集しました。ユーザーから応募された投稿を公式アカウントで紹介するほか、Web上のCMで受賞作品を発表しています。
https://x.com/yukimi_lotte/status/1732203203481968955
そのほかにも、雪見だいふくのアレンジレシピをオウンドメディアやSNS上で解説しながら、実際に作ってみた一般ユーザーの投稿をリポストして紹介。自身の運用するメディアとアーンドメディアを双方向的に活用し、相乗効果につなげているのです。
https://x.com/yukimi_lotte/status/1347114768201441283
また、「雪見だいふくハートのいちご」のマーケティングにおいては、低確率で「弓矢型のフォーク」をパッケージに入れる施策を展開しています。弓矢を引き当てたユーザーによる驚きの声をリポストするなど、「珍しいものを共有したい」という消費者心理に訴求し、アーンドメディアを促進しています。
https://x.com/yukimi_lotte/status/1338364923512905729
事例2.『残像に口紅を』
1989年に単行本が発売された井筒康隆氏の小説『残像に口紅を』(中央公論社)は、〈世界から「あ」を引けば〉といった仮定のもと、章が進むにつれて使える文字数を減らしていくという実験的な作品です。
この作品は発売されてから30年近く経ったあと、アーンドメディアを通じて大きなヒットを記録しました。まずは2017年、TV番組内でお笑いコンビ「メイプル超合金」のカズレーザー氏によって紹介されたことをきっかけに、2ヶ月間で10万部を増刷したのです。
(参照:産経ニュース|【話題の本】カズレーザーさんが紹介し売り上げ↑ 消えゆくイメージ残る実験小説 『残像に口紅を』筒井康隆著)
さらに2021年には、小説紹介クリエイターのけんご氏が同作をTikTok上で紹介したことをきっかけに、11万部以上の増刷を記録しています。
(参照:朝日新聞デジタル|筒井康隆さん止まらぬ増刷 TikTokで紹介、けんごさん23歳)
このケースは、版元のマーケティングとは直接関係のないところで、TV番組とTikTokという2つのアーンドメディアが爆発的なヒットをもたらした事例といえるでしょう。
事例3.ホームセンターグッデイ
九州北部を中心にホームセンターを展開する株式会社グッデイは、TVのCMや店頭ポスター、デジタルサイネージなどの販促媒体に「一般ユーザーから投稿されたペット動画」を掲載する施策を展開しています。
InstagramおよびX上のキャンペーンとしてペット動画のハッシュタグ投稿を呼びかけ、当選作品をメディアに掲載するほか、キャンペーン参加者に抽選でペット関連のプレゼントを実施しています。
こうしたキャンペーンは、ペット愛好者からの親近感獲得や、ペット用品を扱うホームセンターとしての認知拡大につながる施策だといえるでしょう。さらに、ユーザーが投稿した動画を活用することにより、制作リソースの削減効果も期待できます。
(参照:ホームセンターGooDay|おうちのペット自慢 CMモデル募集)
アーンドメディアの運用方法
アーンドメディアを実際に運用するのは自社ではなく、個人のSNSアカウントや報道機関などの第三者です。
そのため発信される情報をコントロールすることは難しいですが、以下のようなポイントに留意することにより、アーンドメディアによる認知拡大を促進できると考えられます。
自社のSNSを運用する
SNS上での拡散効果を期待するうえでは、まずSNS上で「自社の公式アカウント」を運用することが望ましいでしょう。
自社アカウントを通じて定期的に情報発信を行ったり、自社に関心のあるユーザーとコミュニケーションをとったりすることで、「他のユーザーによる自社に関連した投稿」も増えていくと考えられます。
とくに自社の商品・サービスを紹介してくれている投稿に対しては、積極的に好意的なコメントを残したり、リポストによりフォロワーに共有したりすることで、ユーザーからの親近感にもつながっていくでしょう。
キャンペーンによるアーンドメディアの促進
SNS上で特定のハッシュタグをつけた投稿に対して抽選でプレゼントを提供する企画など、「自社に関連する投稿」を促進することにより、アーンドメディアが活発に機能するケースも少なくありません。
店舗においても、たとえば飲食店などで「メニューの写真をSNSに投稿することで1品サービス」「レビュー投稿で500円オフ」といったキャンペーンを実施することで、SNSやレビューサイト上の情報を充実させていけるでしょう。
顧客満足度の向上
アーンドメディアが活性化する条件として、まず「商品・サービスに対する消費者の満足度が高いこと」が挙げられます。「ほかの人にも勧めたい」と思えるような商品であるほど、SNS上での波及効果につながりやすいと考えられます。
満足度を向上させるうえでは、自社のターゲットとなる層のニーズを的確に捉える必要があるでしょう。市場分析やアンケート調査などをふまえ、顧客の悩みや課題にしっかりと答えを与えていくことが求められます。
「人に自慢したくなる商品」を目指す
SNS上での波及効果を見込むうえでは、「写真や動画にした際の魅力」も重要なポイントです。とくにアパレルや化粧品、飲食などの分野においては、「SNS映え」が大ヒットの原因となることも少なくありません。
その他、「その季節にしか食べられないメニュー」などの限定性も、一般ユーザーの「SNS上でみんなに見せたい」という心理を喚起することがあります。
「誰かに見せたい」という気持ちを捉え、そこに訴求する商品・サービスを打ち出していくことも1つの方向性だといえるでしょう。
報道機関への掲載を目指す
事業の方向性によっては、「報道機関に取り上げてもらう」という戦略も有効です。とくに社会貢献度の高い事業や、話題性の強い商品などは、第三者メディアによってピックアップされることで認知度を高めやすいと考えられます。
ローカルビジネスの場合はとくに、地方の情報誌や業界の専門誌など、自社と関連性の強いメディアと地道にコンタクトをとっていくことも大切です。
持ち込み企画のようなかたちで、自社の商品・サービスや取り組み内容について紹介することで、関心を抱いてくれるメディアが出てくる可能性もあるでしょう。
アーンドメディアの注意点
不特定多数のユーザーが運用しているアーンドメディアは、自社のマーケティングにとって有利に働くこともある一方、ネガティブな作用をもたらす可能性も否定できません。
以下ではアーンドメディアを活用するうえで、押さえておきたい注意点について解説していきます。
否定的な意見への対応
アーンドメディアは一般ユーザーや報道機関などが自発的に発信するものであるため、その内容が肯定的なものになるとはかぎりません。レビューサイトやSNS上に投稿されたネガティブなコメントに対して、適切に対応していくことが求められるでしょう。
ネガティブな投稿が事実にもとづいている場合には、その問題が発生した原因や再発防止策などについて真摯に説明し、誠意を示していくことが大切です。
一方で、悪質なデマが投稿されている場合には、口コミサイトを運営する事業者に対して経緯を説明し、投稿の削除を求めるなどの措置が必要になります。
ステルスマーケティングに注意
アーンドメディアを通じて販促効果を高めるうえで、有効な観点として「影響力のある個人に自社商品を紹介してもらう」といった方法が考えられます。多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーから言及されれば、それだけ波及効果も大きくなるでしょう。
ただし、インフルエンサーに対して金銭やその他の報酬を提供するかたちで自社商品などを紹介してもらう場合には、それが「広告」であることをコンテンツ上に明示する必要があります。
金銭的な取引が発生することで、そのコンテンツは「自発的に作成されたもの」とは見なされなくなります。その際、当のコンテンツが広告であることを示さなければ、いわゆる「ステマ規制」に抵触する可能性があるのです。
ステマ規制は2023年10月から施行された改正景品表示法に定められており、「事業者による宣伝であるにもかかわらず、それが宣伝であることがわかりにくい表示」を規制するものです。
規制対象になる事例としては、「インフルエンサーに金品を提供し自社に有利なレビューをしてもらう」といったケースはもちろん、「インフルエンサーに無償で自社商品を提供し、暗に投稿内容を指定する」といったケースも含まれます。こうした場合には必ず、「PR」など「そのコンテンツが広告であることを示す表示」をしなければいけません。
このステマ規制は新しい制度であるため、「どこまでが違法か」が明確になっていない部分もあります。ただし大きな基準として、「インフルエンサーなどの第三者が自主的に投稿内容を決められているか」という点は明示されているため、この「自主性」を守る観点が重要になります。
つまり金品などの取引により、第三者がもつ「投稿の自主性」が損なわれてしまえば、それは「事業者による宣伝」と解される可能性があるのです。別言すれば、「コンテンツの内容に対する決定権」が企業側にある場合、それは宣伝と見なされるため、「PR」「CM」などの表示が必要になります。
(参照:消費者庁|令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。)
まとめ
アーンドメディアは「第三者が自発的に情報を発信するメディア」であり、そのなかでもとくに「自社のマーケティングに好影響を与えるもの」を指しています。
SNS上の一般ユーザーによる自社商品の紹介や、マスコミによる取り組み内容の取材など、アーンドメディアの種類はさまざまです。
アーンドメディアは自社と直接利害関係にない個人や組織によって発信されていることから、一般消費者の信用を得やすく、また広告コストなども抑えられるメリットがあります。その反面、アーンドメディア上で投稿される内容はコントロールが難しく、ネガティブな影響をもたらす可能性も考えられます。
アーンドメディアを上手に活用するためには、キャンペーンなどで一般ユーザーを巻き込む施策を展開しながら、商品・サービスに対する顧客満足度を向上させていくことが大切です。「いいものをほかの人にも教えてあげたい」という気持ちに訴求し、自社への関心を高めていきましょう。
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