未経験だからこそ気づいた業界の「無駄」―株式会社GOOD VIBES ONLY 野田 貴司さん
株式会社GOOD VIBES ONLY(グッドバイブスオンリー)のCEO 野田貴司氏にインタビュー。アパレル業界の最大の課題ともいえる「大量廃棄」解決のために開発されたProck(プロック)、デジタルファッションの現在地、そして会社経営の哲学についてお聞きしました。
目次
アパレル業界の抱える課題とProck(プロック)
アパレル業界においては、大量廃棄をはじめとする環境への負荷が問題視されており、近年ではその解決を目指してサステナブルファッションが注目されているというのは過去の記事でも言及してまいりました。
同記事では、余剰在庫削減を目指して在庫管理データを共有できるRFIDタグなどのIoT導入が進められているということにも触れましたが、そもそも生産前に必要な在庫数を把握できれば、必要以上の量産を防ぐことができますよね。
そしてサンプルさえもデジタル化させて実物の制作をやめてしまえば、さらに廃棄量を減らすことができるはずです。
実は、その仕組みづくりに取り組む会社が存在します。
株式会社GOOD VIBES ONLYの開発したSaaS「Prock(プロック)」は、デジタル上にサンプルデータを落とし込み、素材の質感などを緻密に再現した3Dデータによって、商品画像やモデル着用画像の合成を可能にしました。
それをSNSなどに投稿してファンのリアクションを事前に確認し、生産数を決めることで、在庫を最小限に抑制することができます。
さらにポイントとなるのは、業務が属人化されないよう「だれでも利用できる」仕様であること。開発までの道程にはいったいどのような思いがあったのでしょうか。
会社名 | 株式会社GOOD VIBES ONLY |
設立 | 2018年4月3日 |
事業内容 | アパレルDXプラットフォーム「Prock(プロック)」の開発運営、Web3.0・デジタルファッション事業 |
URL | https://goodvibesonly.jp/ |
Prock開発の経緯
―早速ですが、Prock開発の経緯についてお伺いできますか?
株式会社GOOD VIBES ONLY CEO 野田貴司さん(以下、野田さん):僕は株式会社 DOT ONEによるD2Cブランド「eimy istoire(エイミーイストワール※)」の立ち上げに参画するまでアパレル業界未経験でした。
※eimy istoire:2016年にEC販売からスタートしたアパレルブランド。D2Cブランドの代表的存在に成長したのち、現在は実店舗もかまえ、さらに拡大を続けている。 |
野田さん:なので自分でブランド事業を始める際も、SNSマーケティングや訴求方法は理解していても、服づくりのサプライチェーンに関してはくわしくなく、経験者の方々をヘッドハントしながら進めたという経緯があります。
2年半くらい業績を伸ばしたあとM&Aしたんですが、売却先がアパレル会社でなかったため、業界内では常識のようになっていることが他業界の人には通用しないということに結構衝撃を受けました。
たとえば、その当時売り上げの1/7~1/5くらい在庫を抱えていて、アパレル業界にいた経験のある方ならわかるんじゃないかと思いますが、それって珍しくないことなんですよ。
でも「この在庫、本当に現金化できるんですか?」と聞かれて、それまで自分でも違和感を覚えていたビジネスモデルが普通ではないんだと確信に変わりました。
売上高が伸びているときはいいですが、景気が落ち込んだり消費量が減少したりしたときも在庫発注のスキームは変わらないため、どうしても過多になる、―それは自社だけの課題ではなく、アパレル業界全体の課題だと感じたんです。
今の生産の仕組み上、何千枚という大量ロットでないと作れないということが多く、トップラインを伸ばせないブランドも発注しつづけないといけないため、在庫消化を60~70%程度と見込んでモノを作ります。
売れ残るのが前提で生産されているわけなので、それは在庫も残りますよね。
そこで、作る側と売る側に分けて考え、作る側にフォーカスしたうえで課題を解決できるような事業をできないかと考えるようになりました。
アパレル業界未経験だからこそ生まれた発想
野田さん:サンプルを作る段階でデジタル化しようと考えたんです。
というのも、当時僕が運営していたブランドは、SNSで商品を見せてEC販売をしていたので、お客さまは実物を見ずに購入にいたっています。
なのにブランド側は実物サンプルを作って触ってみてから、打ち合わせして、商品化にいたるので、矛盾があると思いました。
特に当時は写真を加工してからSNSに載せるインフルエンサーさんも多かったですし、そもそもレンズの角度によって色合いが変わって見えることもあります。
それなら、サンプルもデジタル制作で問題ないのではないかと思ったんです。
アパレル業界未経験だから生まれた発想かもしれません。
くわえて、SNSでの反応をもとに発注のロジックを組みました。
僕はレディースアパレルのなにがかわいくて流行るかが正直わからないので、実際に購入する可能性のある方たちの意見を参考にするのがいいと思ったんですが、僕だけでなく、実際のユーザー層と異なる事業責任者が「これは300枚、これは1,000枚」と発注数を決めるのはおかしいですよね。
その人の基準で発注数を決めていたら、その後再現の難しいビジネスモデルになってしまうので、だれもが同じロジックで発注できるようにする必要があると。
そこで、作る工程ではサンプルをデジタル化する、売る工程ではお客さまからの反応を見て発注を決める、その2軸で進めることにしました。
こうすることで過剰に服を作ることがなくなり、衣類破棄をなくすことにもつながっていくのではないかと考えたというのが、Prockを作る構想にいたった根幹の部分です。
最初はProckを開発する必要はないと思っていた
野田さん:ただ、そのときは「デジタルファッションと需要予測を徹底することで在庫抑制につなげるビジネスをしよう!」とこの会社を立ち上げただけで、Prockというものを作るという想定はしていませんでした。
まずはアパレル事業にずっと携わってきた会社の方々も納得できるような説得力が必須だと考え、そのためには自分たちでブランドを作る必要があると思い、2018年から約2年半かけて、再現性を意識した、かつ在庫消化率の高いブランドを7つリリースしました。
甘い系からオフィスカジュアル、モード系までいろんなジャンルを7つ。
そこで実際にデジタルサンプルを作り、SNSで需要予測をして発注するという方法を試してみたんです。
そしたら在庫消化率96%くらいをずっと維持でき、在庫の回転率も約40日で、すべての商品が回転できたので、やっぱりこのビジネスモデルは成立すると確信しました。
7ブランドも抱えていると本来ならサンプルだけでオフィスが全部埋まってしまうくらいになると思うんですが、当然ながらそんなこともなく、しかもコストも抑えられるので、「これはいける!」とベンチャーキャピタルなどからの資金調達を進めました。
でもデジタルサンプルを提供したり、AIによる需要予測をPoC(※2)したりするなかで見えてきたのは、これだけでは導入ハードルが高いということ。
(※2)PoC:Proof of Conceptの略、日本語では「概念実証」と訳される。サービス、製品づくりにおけるアイデアや技術が実現可能かどうかを検証する作業のこと。 |
野田さん:アパレルブランドの方からすると、今までメーカーに電話1本で依頼できていたサンプル発注が、新たな業務フローを踏まないとできなくなるからです。
ありがたいことに営業先で断られることはなかったんですが、経営陣が「GO」を出しても現場の人たちから反発されちゃったんですよね。
「デジタルサンプルを導入したらパタンナーの仕事が奪われてしまう」といった誤った認識から否定されるケースもありました。
“黒船襲来”という感じの扱いでしたね(笑)。
そこで「我々は敵ではなく、むしろ一緒にこの業界をよくしていこうと思っている味方です」というのを伝えるためにも、ワンクリックで依頼できるような簡単な仕組みをSaaSで提供する必要があると思い、Prockを開発することになりました。
インフルエンサーブランドさえも属人化させない
―少し話がそれてしまうんですが、Prockはだれでも使えるというのがひとつのポイントかなと思います。
一方で、御社ではインフルエンサーブランドを複数立ち上げており、こちらはディレクターに依存する側面があるため、一見すると考え方が真逆のように感じます。
戦略についてお聞かせいただけますか?
野田さん:ブランドを立ち上げるうえで大事にしていたのは、初動と小さな商機をどう作るかということでした。
たとえば僕が作りたいものを作って販売するということもできますが、僕自身は発信力があるわけではないので、広告宣伝費がたくさんかかったり、実店舗を出店する必要が出てきたり、相当なマーケティングコスト、あるいは服を構成する独自の技術やデザインが必要になります。
でもインフルエンサーの方を招致できれば、すでに小さな商機を持っているので、そこを起点にブランドを作るのが一番の成功への近道になるという発想だったんです。
そのうえでこのときに見えたのは、同じくインフルエンサーブランドをローンチしても、今も伸びつづけているところと残念ながら収束していってしまったところがあるということ。
なにが違うのか考えてみたら、明確な数値基準が掴めました。
リリース後、2年以内にディレクター依存をやめられなかったブランドは価値が落ち込んでしまうという傾向が見えたんです。
そこで意識したのは、初動の1年半まではブランドディレクターであるインフルエンサーを露出させる、そしてそこから半年かけてその量を減らしていき、2年目以降は一切外すということ。
このルールを守ったうえで、そのブランドの一番軸となるモチーフやデザイン、テイストがなんなのかという旅を1年半かけて行い、見つけ次第、徹底的にそのバリエーションを増やしていきました。
ひとりのディレクターがクリエイティブの全権を握ってしまうと、その人が年齢を重ねていったときに趣味が変わってしまうということもあるので、そのサイクルをふまえても2,3年が勝負時というところですね。
最近だとそれだけでなく、コロナ禍が転換期となって、それまでのビジネスモデルを捨てられなかった企業やブランドは売り上げが落ちてしまったというのも見てきました。
そういった企業に対しては、DXを通じてどう利益率を改善させるかといった提案をさせていただいています。
生地の質感や伸縮性まで3Dで再現できる
―素材感や着用時の落ち感などをデジタルで再現するのは難しいのではないでしょうか?
野田さん:3Dサンプルを作るうえで必要になるのはパターンデータです
このパターンに間違いがなければ、実物サンプルを作ったときのように正確なものを仕上げられます。
そのうえで、我々の事業の核ともいえる生地スワッチのデータを活用することで、質感、伸縮性、人間が着用したときの洋服の動き方も再現できるようになりました。
実物サンプルを作るときにも生地スワッチを取り寄せると思うんですが、たとえば伸縮性なら「1kgの力を加えると3cm伸びる」といった情報を数値化して生地のデータベースを作ったんです。
生地を販売している会社に提携していただき、Prock内に生地データを保存しておくことによって、たとえばサンプル発注の際に「上の5列の生地で作ってください」といった依頼が可能になりました。
これにより、質感、伸縮性はほぼ99%再現できているという状況です。
裏地もしっかり再現させることで、実物を着用している写真と3Dサンプルを合成した写真とほとんど差異がなくなってきました。
スワッチの郵送の手間やコストも削減できます。
反応のよかったアイテムだけを生産する仕組み
―導入されている企業はどういったところが多いですか?
野田さん:セレクトショップが中心ですね。
我々の技術は「本物に寄せる」という技術に長けているからか、自社でもアイテムを作っている高感度なセレクトショップ、ブランドが多いです。
たとえば半年に1回企画を立てるブランドの場合、3月から10月までの分を制作中、6月の売り上げが予想より落ちてしまったら、新たに期中に3Dサンプルを作って予約販売を開始するといった使い方もされています。
このとき実際に受注がついたものだけを生産して、お客さまの反応が悪かったものは販売停止することで生産量を削減できるため、粗利を200%くらい改善できたというケースもありました。
―導入する会社が増えれば増えるほど、業界そのものが変わりそうですね。
野田さん:そうですね、ただ業界の文化として「本物に触る」ということが重視されているので、そこをどう変えていくかというのが我々の今後のミッションです。
ゲームから歌舞伎まで、デジタルファッションのマネタイズも開始
―導入された企業からはどういった反応がありますか?
野田さん:「すごい!本物だ!」と驚いてくれる声がほとんどで、それはポジティブな評価である一方で、課題でもあると捉えています。
「こんなに本物に近いのであれば、本物のサンプルを作ってもいいじゃん」という声が一定数あるんです。
なので今後僕らがやっていかなきゃいけないのは、アパレル業界の課題解決から少し離れるように見えるかもしれませんが、デジタルファッションをマネタイズして、浸透させることだと考えています。
―コロナ禍の2020年、2021年ごろ、ゲーム『あつまれ どうぶつの森』の中でハイブランドがアバターに着せるファッションを提供したり、海外でも写真を送るだけでサイバーファッションを楽しめる「TRIBUTE BRAND」が流行したり、バーチャルモデルimmaによるファッションショーが開催されたりしているので、すでにデジタルファッションの基盤は整っているものだと思っていました。
野田さん:NIKEがデジタルスニーカービジネスに参入したり、おっしゃるとおり伸びている領域ではあるんです。
そもそもデジタルファッションというと、ゲーム領域から派生したものということでオタクのイメージもあるかもしれませんが、今はファッショナブルなものがどんどん展開されています。
我々は、ProckというDXを通じてWeb3.0を展開させ、メタバース上で使ってもらえるような服を提供するということを目指しています。
今までゲームの衣装といえば、2Dで作られた画像をもとに3D化させることが多かったところを、我々の場合は実際に縫製できるパターンを作ってから3Dデータに組み上げており、くわえて、先ほど申したように生地データもそろっているので、まるで本物のような動きを表現することができるんですね。
ありがたいことにそういった点から高い評価をいただいているので、今後も続けていくことでデジタルファッションを業界の課題解決だけでなく、マネタイズにつなげることができるようになると思っています。
―パターンを作ってから作成するということは、実際のプレイヤーとアバターでおそろいができるということですね。
野田さん:おっしゃるとおりです。人気のある服をゲーム衣装に応用するといったことも起きています。
―そうなると、ファッション業界のみならずゲーム業界にまで革命が起きそうですね。
野田さん:僕も正直最初からそこまで想定していたわけではなかったんですが、やはりゲーム業界もファッション、そしてWeb3.0という概念に注目していたようで、そこがたまたまフィットしたという感じです。
制作して販売して、人気を得るところまで実績を作ることができたので、今後を見据えるとかなりポジティブな要素ができましたね。
―なんだかわくわくするお話です。
野田さん:僕らも一番わくわくしています(笑)。
今のゲーム衣装の市場はアパレル市場くらい大きいといわれているので、この事業が当たり前に存在するようになったらすごいですよね……。
最近は、歌舞伎の衣装をデジタル化し、それを海外の方がARで試着してSNSに投稿するといった事例もあります。
歌舞伎に限らず、日本には多くの伝統芸能、文化があり、海外にはそれに興味を持つ方がいるので、僕らはそのブリッジ的な役割を担うことで、日本文化のグローバル展開をサポートしているわけです。
楽しみながら課題解決を目指す「OBAKE_Shoppers」
―2023年4月からは「OBAKE_Shoppers(オバケショッパーズ)というNFTプロジェクトも始められていますが、その経緯についてもお伺いできますか?
野田さん:こちらも「デジタルファッションをどう浸透させていくか」という考えのもと、動きだしたプロジェクトです。
我々がミッションとしている「DX」「サステナブル」「衣類破棄解決」をただ言いつづけても、堅苦しく思われて芯の部分まで理解されないことがあります。
ファッションってそもそもエンタメである必要があって、楽しいものだと思っているので、そのひとつの答えとして、衣類破棄対策のシンボルとしてオバケのキャラクターを作りました。
オバケは基本的に怖いものなので、目を背けたいものとしての象徴で、それにショッパーを組み合わせたのは、やはりアパレル業界においてとてもなじみのあるものだからです。
―衣類破棄対策のシンボルであれば、現状では自社のキャラクターとしてSNS上などで発信するというのが一般的な気がしますが、なぜNFTを活用することにしたのでしょうか?
野田さん:僕としては、NFTについて「コミュニティビジネス」だと捉えているんです。
会社も、目的を同じくした人たちが集まるチームみたいなものですよね。
なので、社長がどういう人で、上司がどういう人で、というのは正直どうだっていいと思っています。
「これをやりたい」というひとつのことに対して、同時多発的にいろんなコミュニティができて、結果としてチームというかたちになる、―それが名目上は会社になるのか、今っぽくいうとDAOになるのか……というふうに考えているんです。
たとえば「これから衣類破棄対策のプロジェクトを立ち上げます」とSNSのアカウントを開設してフォロワーが10万人、20万人に達しても、実際に活動に興味を示してくれたり、参加してくれたりするのは数百人程度の限られたメンバーだけだと思います。
でもチームとなれば、多くの人たちが一緒に考えてくれるようになります。
数百人より1,000人、1万人が一緒になって「デジタルファッションをどう浸透させようか」と考えたほうが、おそらくいいアイデアが生まれますよね。
そういった目的で、NFTプロジェクトを始動させました。
購入したショッパーから新しく服が出てくる仕組みを検討中
野田さん:過去にはフリーマーケットイベントにこっそりオバケのイラストを忍ばせておいて、知っている人が「あ、オバケだ!」と写真を撮ってくれるということもありました。
今後はさまざまなメディアやアーティストとコラボして衣類破棄が大きな問題になっているということを浸透させていったり、各館(※3)とコラボさせていただいて、それぞれのショッパーデザインのオバケをNFTとして販売したり、自然とお客さまの目に入り、認知してもらえるような企画をいろいろと考えています。
(※3)館:ショッピングモールや百貨店などの総称。アパレル業界では統一して「館」と呼ぶ。 |
野田さん:ちなみにショッパーなので、のちのちデジタルファッションアイテムのNFTを発行させて、中から飛び出る仕掛けを考えています。
それによって購入者同士でファッションバトルをしたり、ファッションショーをしたり、そういったユーティリティな体験ができるようになる予定です。
バトルをして勝ったら服をもらえるなどゲーム性を持たせると、自然とコーディネートスキルを磨こうとするし、もっとアイテムが欲しいと思うかもしれません。
こういった仕組みをつくることで、お客さまは無意識のうちにデジタルファッションを活用し、結果としてブランドはマネタイズでき、衣類破棄抑制にもつながっていきます。
―まさしく持続可能な未来になるわけですね。
野田さん:なので生産時にはProckという仕組みが必要で、デジタルファッションを浸透させるにはOBAKE_Shoppersも必要で、ゲーム業界とのアライアンスも必要、メタバースとの連携も必要なんです。
それらをすべて循環させることで、デジタルファッションのニーズというのは確実に広がっていくと思います。
アパレル業界未経験から同業界の課題解決に臨む理由
―野田さんはもともとアパレル業界未経験ということですが、そこから同業界の最大の課題ともいえる衣類ロスに貢献されるようになったきっかけなどはあったのでしょうか?
野田さん:知らなかったからこそ気づく点がいろいろあったからですかね。
まったくの未経験で知識もないままこの業界に飛び込んだので、「これって無駄じゃない?」と思うところが多いと感じたんです。
長く業界にいる人にとっては常識でも、効率を考えたら無駄な作業だった、というのはよくあることかもしれません。
最初は、そういったところを変えることができたらかっこいいじゃん!という不純な動機だったんですよね(笑)。
もともと課題を見つけて改善する、分析するという作業が好きなんです。
子どものころから二十歳まで野球をしていたんですが、ほぼ全チームの打者の癖を覚えて相手を分析するということもしていたくらい。
それでアパレル業界に飛び込んだばかりのときも、無意識にいろんな慣習を見ながら「これをどう活かすか、あるいは逆手に取るか」といったことを考えていて、その視点がやがて業界全体の課題に向いて「どうやったら楽しく解決できるか」と考えるようになり、いつの間にかめちゃめちゃこの業界のことが好きになっちゃっていたんですよ。
そういうわくわくするようなことを考えながらロジカルに行動できるカルチャーを作りたくて、社名も「GOOD VIBES ONLY」と名づけました。
「こういう事業をしたいです!」という確固たるものも大事だと思いますが、どちらかというと「なんかおもしろそう」「いつもなにかしら新しいことに目が向いているよね」といった感覚を大事にしていきたいんですよね。
時代が変われば今の事業をすべて終了させる可能性もある
野田さん:スタートアップ企業はひとつのプロダクト、事業をどう拡大させていくかというのを考えることが多いと思うんですけど、僕たちは全員が全部のことにマルチに携わって進行していっています。
DX、Web3.0、メタバースという領域はいずれもお金のかかる分野なんですが、それをローコストでどうやりきるか、みんなで考えながら5年間走りつづけているので、ここからまた新しいプロジェクトを企画することになったらすぐに立ち上げられるんですよね。
こういう、その場に応じて動けるカルチャーを大事にしていきたいので、時代が変わればもしかしたらDXからもWeb3.0からもメタバースからも離れて、またまったくべつの事業を始めるかもしれません。
実際、最初に立ち上げた7つのアパレルブランドも譲渡するという判断をしたときも、環境が変わることをポジティブに捉えられて社内でハレーションが起きなかったんですよね。
ブランドを続けたい方はそのまま当社を離れてブランドに残り、新しい事業を一緒にやりたいって思ってくれた方は一緒についてきてくれて……、そういうところがGOOD VIBES ONLYの社風だと思います。
辞めたスタッフから聞くGOOD VIBES ONLYの成長できる土壌
―野田さんだけでなく従業員の方々も柔軟なんですね。
野田さん:そうありたいと思っています。
最初は理解してくれる方も少なかったんですが、今はこの柔軟性による成果を一緒に成功体験として身につけてくれているので……。
辞めたメンバーともよく話をするんですが、転職してから「マルチに新規のプロジェクトを立ち上げてきたことで、自分でも知らないあいだに事業責任者くらいのスキルが身についていた」と言ってくれる方も多く、うれしいです。
今後も学生ふくめ年齢関係なく活躍できる環境をつくりつづけて、優秀なメンバーを輩出していきたいと思います。
アジア全体でProckを基幹システムに
―今後の展望についてお聞かせいただけますか?
野田さん:衣類廃棄を最短最速で解決させるというミッションはそのまま掲げつづけていくつもりです。
それからアパレル業界のグローバル展開ですね。
サプライチェーンの課題について、日本とほかのアジア諸国では抱えている課題に明確な違いがあります。
日本は主に高度経済成長期のときに商社がサプライチェーンをつくり、さまざまな開発ベンダーによる基幹システムが使われるようになりました。
本当にいろんなベンダーがいたので、このときに選択を誤ってしまった会社もあります。
それで今も「新しい基幹システムを入れたらまた失敗するかもしれない」「以前大きな損失を出したからもうあとがない」という危機感を抱く企業が多いです。
なので、Prockをどう共通言語化するかというのが今の課題です。
一方バングラデシュやベトナム、フィリピンといったほかのアジア諸国ではアパレル市場が大きく伸びはじめたところで、まだサプライチェーンが整っていません。
なので今後Prockが担っていけるようにするというのが、僕の、ないしは会社の3~5年かけて見据えたミッションです。
―たしかに最近ベトナムだけでなくバングラデシュもアパレル輸出大国と呼ばれ注目されているので、かなりニーズはありそうですね。
野田さん:日本では優秀な学生はその後、起業したり、スタートアップやあるいは大手企業に入るなど、さまざまな道を歩むと思いますが、バングラデシュでは繊維業界に入る方が多いそうです。
特に人口も伸びているので、バングラデシュのアパレル基幹システムをつくることができたら、世の中にインパクトも与えられると思います。
―ずっと広い視野でアパレル業界全体を見据えていますね。
野田さん:そのうち「宇宙」とか言い出すかもしれないですね(笑)。
やっぱり一緒に働いてくれているメンバーにおもしろい会社だと思ってほしいんですよね。
だれかがずっと先を走っていないと、「これでよくない?」と士気が下がると思います。
だから「またなにか始めたな」って思われるくらいがちょうどいいのかなと。
それが僕のミッションでもあるし、GOOD VIBES ONLYという会社のありかたなのかなと思っているので、その軸はブレさせずに進んでいきたいですね。
やりたいことがなくても焦らず目の前のことをやりきるということ
まったくの未経験からアパレル業界に飛び込み、その課題解決にさまざまな角度から取り組む野田貴司さん率いる株式会社GOOD VIBES ONLY。最後に野田さんに、これから起業を目指す方に向けてメッセージをいただきました。
僕はeimy istoireの立ち上げに参画した際、まずは雑用のプロになろうと思ってアパレルというものを深堀りするようにしました。たとえばレディースファッションがわからないので、ルミネの全店舗をまわり「彼女のプレゼントを買いに来ました!」と言って接客を受けて勉強したり……。
そうするとなにをすべきなのかが見えてきて、結果として「起業」という選択肢が生まれると思います。だから、やりたいことがなくても焦る必要はありません。でも、目の前のことに向き合って、絶対に逃げずにやりきってみてください。
「石の上にも三年」という言葉がありますが、僕は石の上は“一か月”で充分だと思っています。1か月間とにかく本気でやってみてダメだったらやめればいいんです。逆に「おもしろいな」と思えたらその後も続けましょう。
同じ仕事を3年続けないとだめだと言う人もいますが、若いころの3年間ってとても貴重です。同じ時間で、自分が興味をひかれるものを30個やってみたほうが、人生にとってポジティブではないでしょうか?
実際に僕もいろんな仕事をしてきたんですが、20年ほど前、パチンコ屋で働いていたころに、どうやったら勝てるのかデータ分析を繰り返していたら、店長にITにくわしいと思われ「もしかしてホームページ作れる?」と声をかけられました。
実際はくわしくなかったんですが、当時の少ない情報のなかいろいろ調べながらなんとか作ってみせたら、それがとても喜ばれ、その後ホームページを作る仕事を始めることになり、最終的にeimy istoireにたどりついたという経緯があります。
なので目の前の仕事を全力でやりきってみると、チャンスができるものだと思っています。
(株式会社GOOD VIBES ONLY CEO 野田貴司さん)
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