ハイブリッドワークとは?導入事例や解決すべき課題も解説!
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、急速に普及していったリモートワーク。通勤面の制限が緩和されてからも、リモート勤務を引き続き実践している企業は少なくありません。
そうしたなか、リモート勤務のメリットを維持しながら、コミュニケーション面などのデメリットを軽減するための働き方として、「ハイブリッドワーク」へとシフトする企業が増えています。
この記事では、ハイブリッドワークの概要や、メリット・デメリットを解説したうえで、実際の企業による導入例を紹介していきます。
目次
ハイブリッドワークとは
ハイブリッドワークとは、「オフィス勤務とリモート勤務を組み合わせた働き方」を指す言葉です。異なるものを組み合わせることを意味する「ハイブリッド(hybrid)」を、オフィスとリモートの混合した勤務形態を表す言葉として用いています。
オフィス勤務とリモート勤務の割合については厳密な基準があるわけではなく、企業側・従業員側双方の都合を鑑みながら柔軟に決めていくことができます。たとえば「週5日勤務のうち3日はオフィス勤務で、2日は自宅勤務」「基本はリモートで、定例会議の際にはオフィス出社」「半日出社、半日在宅」など、多様な働き方が考えられるでしょう。
ハイブリッドワークが注目されはじめた背景としては、新型コロナウイルス感染症拡大を契機にリモート勤務が普及したことが挙げられるでしょう。リモート環境の具体的なメリット・デメリットが広く知られるようになったことで、リモート勤務とオフィス勤務それぞれの利点を活かせる働き方として、ハイブリッドワークが実践されているのです。
ハイブリッドワークのメリット
ハイブリッドワークをうまく取り入れることで、リモート勤務とオフィス勤務のよい点を兼ね備えた環境を構築できると考えられます。以下ではハイブリッドワークの具体的なメリットについて解説していきます。
ワークライフバランスの向上
通勤時間を削減でき、その分プライベートの時間を確保しやすい点は、リモートワークの大きなメリットです。ハイブリッドワークにおいても、定期的にリモートワークの機会を設けることで、プライベートと両立しやすい環境を構築できるでしょう。結果として、労働環境に対する従業員の満足度が向上したり、離職を予防したりといった効果が期待できます。
さらに採用の面でも、家事や育児、介護などとの両立に悩む求職者にとって、「通勤しなくてもよい日」がある環境は魅力的に映ると考えられます。多様な人材へとリーチをかけることにより、自社にマッチしたスキルや適性をもつ求職者と出会える可能性も高まるはずです。
生産性の向上
通勤のストレスを減らすなど、従業員にとって働きやすい環境を整えることは、集中力や向上心といったエンゲージメントを高めることにつながります。
さらに、リモート環境を整備することによる副次的な効果として、オフィス勤務における作業効率が向上するケースは少なくありません。たとえば押印が必要だった承認手続きを簡略化したり、ペーパーレス化によって文書をクラウドで共有したり、進捗管理をデジタルで一元化したりと、「オフィスとリモートをシームレスにつなぐシステム」が業務効率化に大きく貢献する場面も見られます。
一方で、コロナ禍のもと完全なリモート勤務体制を敷いていた企業からは、「業務における対面コミュニケーションの不足」が課題として挙げられることもありました。しかしハイブリッドワークの場合には、従業員の事情や業務の状況によって柔軟に勤務体制を変更することで、リモートのデメリットを軽減しやすくなると考えられるでしょう。
オフィスの運用コスト削減
ハイブリッドワークを導入し、オフィスに常駐する人員を減らすことにより、通勤に必要な交通費や電気代などのコストを削減できるでしょう。さらに、オフィスのスペースそのものを削減できれば、賃料を大幅にカットできるかもしれません。
あるいは、余ったスペースをミーティングルームや休憩室として活用するなど、オフィス勤務の利便性・快適性を高めることもできると考えられます。
ハイブリッドワークのデメリット
ハイブリッドワークにおいては、2つの異なる勤務体制を混在させることで、リスクやデメリットが生じる可能性も考えられます。以下では導入にあたって懸念されるポイントについて解説していきます。
仕事とプライベートの切り替えが難しい
ハイブリッドワークの体制を整えることは、従業員にとって「家でも仕事ができる環境」が与えられることを意味します。従業員の特性によっては、仕事を持ち帰れる環境が「メリハリを失う要因」となる可能性があり、かえって効率が落ちてしまう可能性もあるでしょう。
これを防ぐには、リモート環境においても進捗状況を適宜確認できるシステムを取り入れるなど、業務に集中できる環境構築が求められます。導入したあとにも、従業員に対してこまめにヒアリングを行い、個々の悩みや懸念点をフィードバックしていくことが大切です。
勤怠管理システムの複雑化
リモート環境を構築するうえで、勤怠管理システムの整備は大きな課題であり、ハイブリッドワークにおいてもその点は同様だといえます。リモートにおける各従業員の勤務状況を把握するために、PCログなどを通じた管理システムを取り入れている企業も少なくありません。
ハイブリッドワークにおいてはとくに、リモート勤務とオフィス勤務の勤怠を統合的に管理できるシステムを導入するなど、異なる勤務体制を効率的に管理するための工夫が求められるでしょう。
コミュニケーションと評価の難しさ
完全なオフィス勤務と比較した場合、ハイブリッドワークは「対面でのコミュニケーション」の機会が少なくなる傾向にあります。とくに出社する曜日を固定する場合などは、チーム内で「いつも顔を合わせている従業員」と「ほとんど顔を合わせたことのない従業員」が混在する状況も想定されるでしょう。
こうしたコミュニケーションの偏りが、業務や評価の面に影響を及ぼす可能性についても考慮しておく必要があります。対面・非対面をシームレスにつなげられるようなコミュニケーションツールの導入や、評価制度の見直しが求められるでしょう。
ハイブリッドワーク導入企業の例
新型コロナウイルス感染症に対する社会不安が低減していくなかでも、リモート勤務のメリットを引き続き活用すべく、ハイブリッドワークを実践している企業があります。
以下では実際に、ハイブリッドワークを導入している企業の例を紹介していきます。
株式会社リコー
事務機器や光学機器の大手メーカーである「株式会社リコー」は、2020年10月からリモートワークを標準化し、業務内容などにあわせてオフィスへの出社と組み合わせたハイブリッドワークを取り入れています。
制度を整備するうえでは、従業員への調査をもとに職種ごとに必要な出社率をあらかじめ設定し、「どの程度オフィス勤務が必要か」を具体的に導出しました。ハイブリッドワークを実践するうえで、こうした基準の明確化は重要なポイントの1つです。
また、オフィスにおいては固定席のないフリーアドレス制を採用し、働くうえでの自由度を高めています。さらに、対面でのコミュニケーションを活性化するため、PCやスマートフォン、タブレットなどを自由に接続して壁面に投影できる会議空間「RICOH PRISM(リコー プリズム)」を実装するなど、先進的な取り組みも見られます。
(参照:リコー公式サイト「リコー、対面・非対面を組み合わせたハイブリッドな働き方を促進」)
株式会社菊正塗装店
建造物の塗装工事を手がける「株式会社菊正塗装店」は、専務取締役の交代を機に働き方を大幅に見直し、社内のデジタル化を推進しました。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大を機にリモート環境を構築し、工事部や事務職が場所を問わず会社のサーバーにアクセスできる環境を整えています。
具体的には、ビデオ通話によるリモート会議や、アプリによる勤怠管理、グループウェアを通じた従業員のスケジュール確認などの仕組みを整備。現場監督担当者から事務職まで、出社の必要性が大幅に低下しました。これにより、事務職は交代制でオフィス勤務を行うほか、半日出社・半日リモートという体制も導入されています。
今後の課題として、業務の細分化と明確化、評価制度の見直しに取り組む方針が示されており、ハイブリッドな働き方をさらに推し進めていく見通しです。
(参照:厚生労働省「株式会社菊正塗装店 | 働き方改革特設サイト」)
株式会社プロアス
医療事務の支援サービスを手がける「株式会社プロアス」は、子育て世代の離職防止策の一環として、2017年からリモート勤務の体制を整備。営業活動におけるビデオ会議の推進や、各種書類・FAX送受信のクラウド化などを通じて、リモートで完結できる業務を増やしていきました。
2020年以降は、新型コロナウイルス感染症拡大によりリモート勤務の利用者が増加し、1日のオフィス出社人数は2名~5名程度に。これにともないオフィス面積を半分以下に縮小し、座席をフリーアドレス化しています。
労務管理においては裁量労働制を取り入れ、勤怠は自己報告を基本としています。業務の中抜けについても柔軟な扱いがなされているため、日中にプライベートの用事を済ませるなど、時間の使い方について従業員側に大きな裁量を認めています。
人事評価についても、労働時間にかかわらず粗利目標をベースとした評価がなされており、ハイブリッドワークを前提とした仕組みづくりの範型として位置づけられるでしょう。
(参照:日本テレワーク協会「厚生労働省 令和4年度「輝くテレワーク賞」事例集を掲載しました」
内PDF資料「令和4年度テレワーク推進企業等校正労働大臣表彰 ~輝くテレワーク賞~事例集」)
ハイブリッドワークを導入する際の課題
ハイブリッドワークを導入する際には、環境面や規則面などを中心に社内環境を大幅に見直さなければならないケースもあります。リモート勤務を導入した経験がある場合には、その知見を活かしながら、その際に課題になったポイントについて重点的に検証しておくことが大切です。
オフィス出社率の検討・共有
ハイブリッドワークを導入したとしても、従業員間で出社率に差が生まれると、不公平感が募りモチベーションの低下につながる可能性があります。導入前にあらかじめ各部門の責任者などに対してヒアリングや調査を行い、出社率についての基準を設定しておくことが望ましいでしょう。
部署や業務内容によって必要な割合は異なると考えられますが、従業員に周知する際には「なぜ差が生じるか」という点を明確化し、理解を得られるよう努めたいところです。
勤務体制をめぐるルールづくり
必要な出社率を鑑みながら、オフィス勤務とリモート勤務のローテーションをどのように組むか、という点も十分に考えておく必要があります。
交代制のシフトを設ける場合には、「突然の都合でリモートに変更したい」といったケースにどう対応するか、という点もチーム内で共有しておくとよいでしょう。
ただし、シフト変更などの手続き面が複雑になってしまうと、フレキシブルに勤務できるハイブリッドワークの利点が損なわれてしまう可能性があります。従業員の自主性を尊重しながら、不公平感のない仕組みを整えていくことが求められます。
コミュニケーション環境の整備
ICT環境を整備する際には、まずWeb会議ツールやチャットツールなど、業務において必要となるコミュニケーションを円滑に進められる環境づくりが大切です。さらに、進捗管理システムなどを通じて「誰が何をどの程度進めているか」が一目で把握できる環境も重要でしょう。
新たにビジネスツールを導入する際には、なるべく情報を共有する場を集約できるよう、掲示板やカレンダー、ファイル共有など、求められる機能を統合したグループウェアを導入することも有効な選択肢です。
セキュリティと労務管理システムの整備
リモート勤務にあたっては、社内システムへの接続方式や、社内備品の扱いなど、セキュリティ面を十分に検証し、従業員に対して明確にルールを周知する必要があります。
労務管理の面でも、オフィス勤務とリモート勤務を同等の基準から評価し、管理できるシステムが求められるでしょう。PCログによる勤務状況の管理など、ツール面からのアプローチも考えられますが、ハイブリッドワークの柔軟性を活かすうえでは、裁量労働制やみなし労働時間制の導入など、ルール面から環境を整えていくことも有効といえます。
これからハイブリッドワークを常態としていく場合には、従業員間で「互いがそれぞれ異なる働き方をしている」という意識を共有し、勤務形態を問わず公平に接していける環境を用意することが大切です。評価制度や社内ルールを見直し、不平等につながる要素を丁寧に解消しておくことが求められるでしょう。
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