書店が閉店ラッシュ!その原因と打開の鍵を握る「オンライン書店」に迫る
「若者の活字離れ」や「出版不況」といったフレーズが話題に上るようになってから、すでに長い時が経っています。とりわけ紙媒体の販売不振は顕著であり、閉店を余儀なくされる書店が後を絶ちません。
販売の現場が苦境に立たされる一方で、独自の打開策により成功を収めている書店も見られます。なかでも際立っているのが、「オンライン書店」としてWeb上のサービスを充実させている店舗です。
ユーザーに対する情報発信や、読書好きのコミュニティ形成など、時代に合ったサービスを展開するうえで、Web上の施策は今後の鍵になるでしょう。この記事では、書店の閉店ラッシュの原因を考察したうえで、オンライン書店の事例を通じ、「これからの書店」の可能性について探っていきます。
目次
書店の閉店ラッシュの現状と原因
書店を取り巻く現状を知るために、まずは日本国内における「書店数」や「出版業界の市場規模」の推移を見てみましょう。
「公益社団法人 全国出版協会 出版科学研究所」の発表(アルメディア調査)によれば、日本国内の書店数は2000年の時点で「21,495店」であったのに対し、2020年には「11,024店」と、およそ半数にまで減少しています。
一方、店舗の「総売り場面積」は、調査が開始された2003年から大きく変化していません。書店の数が減っているのに対し、売り場の面積は変わらず、「1店舗あたりの売り場面積」は拡大傾向にあるのです。
このような数値からは、書店数減少の内実として、「小規模店舗の閉店」や「近隣店舗の統廃合」といった動向が顕著であることを推察できるでしょう。
(参照:出版科学研究所「日本の書店数」)
さらに、出版物の売れ行きに関する同研究所の発表を見てみると、紙媒体の市場規模は2兆6,000億円を超えた1996年をピークに、2020年には約1兆2,000億円に半減しています。なかでも減少が著しいのは「雑誌」の売上であり、ピーク時のおよそ3分の1にまで低下しています。
(参照:出版科学研究所「日本の出版販売額」)
雑誌の売上は書店にとって定期的な収益源であり、とくに売り場面積の限られた小規模書店においては、確度や継続性の面で経営の軸に置かれるケースが多くありました。紙媒体の市場規模の縮小、とりわけ雑誌の売上低下が、小規模書店を中心に看過しえない影響を及ぼしているのだと考えられます。
閉店ラッシュの複合的な原因
書店の閉店が相次いでいる背景として、Amazonをはじめとする書籍のオンライン販売や、電子書籍の普及など、「実店舗を介さない消費形態」の登場が一因として挙げられるでしょう。
あるいは、出版物の市場規模そのものがピーク時に比べ大幅に縮小している点を見れば、「そもそも紙媒体の本を読む習慣が失われている」という可能性も考えられます。
たとえば国立青少年教育振興機構による2018年の調査では、1ヶ月に読む紙媒体の本の数について、「0冊」と回答した割合が49.8%に上りました。2013年の同調査では28.1%であり、5年間で「本を読まない人の割合」が大幅に上昇したことになります。
(参照:独立行政法人 国立青少年教育振興機構「子どもの頃の読書活動の効果に関する調査研究(令和3年3月発行)」)
2010年代はスマートフォンが爆発的に普及した時期でもあり、画面上で気軽に消費できるコンテンツが急速に充実していきました。このような背景もあり、余暇時間を過ごす際の選択肢において、「紙の読書」の優先度が低下していったとも考えられるでしょう。
業績改善に向かう大手出版社と、苦境に立たされる書店
先の出版科学研究所による発表を見ると、紙媒体の売上は減少傾向にありますが、電子書籍の市場は年々増加傾向にあることがわかります。電子書籍の売上が伸びていることにより、出版業界全体としての市場規模は2018年から2020年にかけて微増しており、出版社側はこの傾向に活路を見出している状況です。
とりわけ大手出版社は電子書籍のほか、Web上やアプリ上でコミックスを閲覧できるプラットフォームを整備することで、広告収入や版権収入などを通じて収益を改善しています。
一方で、書店や取次における収益減少には明確な対策が見出されていないのが実状であり、販売網や業態の抜本的改革が求められています。
「書店で本を買うこと」に独自の付加価値を与えるには
書店が今後の活路を見出すにあたっては、競合として「Amazonなどの新しい流通形態」や「スマートフォン上のコンテンツ」を念頭に置く必要があるでしょう。「書店で本を買うという行為」を、さまざまな「コンテンツの消費形態の1つ」として捉え、そのなかで明確な付加価値やメリットを提示することが必要なのです。
とりわけ、スマートフォンに慣れ親しんだユーザーにとっては、「時間をかけずに楽しめるコンテンツ」「SNSでシェアできるコンテンツ」を当たり前に享受できる時代です。これらと比較した場合、書店で本を買って読む行為は、「時間に対して得られる満足が不確定」であり、「シェアする場が見つかりにくい」といった性質が目につくでしょう。
書店を愛好する層以外にも広く魅力を訴えかけるには、「この書店は自分に有益な本を教えてくれる」といった明確なメリットを提示する必要があります。独自のコンセプトや創意工夫を通じて、「そこにしかない購入・読書の体験」という付加価値を提供し、紙媒体の本に触れてもらう機会を作ることが求められているのです。
打開策としての「オンライン書店」
書店ならではの付加価値を提供する方法はさまざまですが、1つの手段として「オンラインでのサービス展開」が挙げられます。書店としての個性や強み、専門性などを幅広いユーザー層に訴求するうえで、Web上の施策は欠かせないでしょう。
たとえば、現在の社会問題に関連する書籍の提案や、その他専門的な観点からの「おすすめ書籍」の情報を提供するうえで、Web上で情報を発信するメリットは大きいといえます。
ユーザーのなかには「何を読めばいいかわからない」「自分に合わない本に時間を取られたくない」といった理由により、読書の機会を逸してしまっているケースも珍しくありません。独自の観点から「何を読めば何が得られるか」を整理して伝えることに、差別化の活路を見出すこともできるでしょう。
さらに、オンライン上でサービスを展開する利点として、ユーザー同士が「つながる場」を提供しやすい点が挙げられます。ユーザーが感想を共有したり、読書会を開いたりできるプラットフォームを展開するなど、読書体験を充実させるための施策が考えられるでしょう。
「書籍の競合となるWebコンテンツ」や「販売上の競合となるECプラットフォーム」に埋もれないようにするには、「そこにしかない価値」を書店側が明確に打ち出す必要があります。オンラインでのサービス展開は、書店ならではの体験価値やメリットを広く訴求するうえで有効な手段の1つになるはずです。
独自方針を打ち出すオンライン書店の事例
上述のように、今後の書店経営においては、「書店で本を買って読む」という行為に対し、独自の付加価値を提供していくことが重要になります。
大きな方向性として、おすすめ書籍などその書店ならではの情報を発信したり、ユーザー同士がつながる場を提供したりといった取り組みが考えられるでしょう。以下では実際に、オンライン書店として際立った施策を打ち出している事例を紹介していきます。
Chapters bookstore
株式会社MISSION ROMANTIC (ミッション・ロマンティック)の運営する「Chapters bookstore(チャプターズ書店)」は、サブスクリプションモデルを採用するオンライン書店です。ユーザーには毎月、運営から4冊の文庫本が推薦され、そのうち気になった1冊を選んで読むことができます。
サービスとして特徴的なのは、「本のサブスク」と「マッチング」を融合している点です。ユーザーは届いた本を読了後、マッチングシステムを介して同じ本を読んだユーザーとつながり、ビデオチャットで感想などを話し合う機会が得られます。
同じ本を読んだユーザー間でのビデオチャット以外にも、「リクエストアペロ」というマッチングシステムを通じて「友人候補」あるいは「恋人・友人候補」を提案。読書の好みや年齢、居住地といったプロフィールをもとに、相性のよさそうな相手が自動的に紹介される仕組みです。
同じ本を読んだ人たちの出会いに焦点を当てたChapters bookstoreの施策は、「読んだ本の感想を共有したい」「趣味の合う人と出会いたい」といった多面的なニーズに応えるユニークな取り組みだといえるでしょう。
B&B
下北沢の「B&B」は、実店舗およびオンラインでの書籍販売はもちろん、豊富なイベント開催を特徴とする書店です。もともとは著者や編集者などによる講演会や各種セミナーを店舗で行っていましたが、コロナ禍を背景にオンライン上でのイベントにも舵を切るようになりました。
開催されるイベントは、人文思想関係の読書会や、編集者志望に向けた講座など、それぞれが「明確なコンセプト」に導かれています。コアなニーズに応えるイベントを定期的に開催することで、「参加すれば興味深い話が聞ける」「面白い人物に出会える」といった期待感を浸透させ、「書店のファン」を増やすことに成功しているのです。
今後はイベントのアーカイブ動画の販売やサブスクモデルの設定など、オンラインサロンに近い形態のサービスも検討しているとのこと。「これからの書店」を考えるにあたって、大きな示唆を与えてくれる事例です。
(参照:好書好日「「本屋の未来形」を考える4店 出版不況・コロナ禍を、しなやかにしたたかに生き抜く」)
エトセトラブックス BOOKSHOP
「エトセトラブックス BOOKSHOP」は、世田谷区に実店舗を構えるフェミニズム専門書店です。ジェンダーや女性差別の問題を中心に扱う出版社「エトセトラブックス」が2021年にオープンしました。フェミニズムの理論や、現在のジェンダー問題について学べる書籍を揃えています。
オンライン上では書籍の販売のほか、座談会などのイベントやワークショップをはじめ、ユーザー同士が「つながる場」を数多く提供。サイト上でも社会問題をフェミニズムの視点から扱う連載など独自のコンテンツを公開しており、問題意識を共有しながら学びを深めていく場として期待を寄せられています。
エトセトラブックス BOOKSHOPのように、扱う書籍に専門性を持たせたり、関心を同じくするユーザー間の出会いの場を提供したりといったコンセプトは、これから書店が独自の方針を打ち出していく際の鍵になると考えられます。
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