MaaSとは?日本や海外の事例をわかりやすく解説!
巷で話題の「MaaS(マース)」。興味はあるものの、専門用語の多さや内容の複雑さから、いまいちピンとこない方は多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、MaaSの概要をわかりやすく解説します。日本や海外の事例はもちろん、MaaSがもたらすメリットにも触れているので、ぜひ参考にしてください。
目次
MaaS(マース)とは
MaaSとは、「Mobility as a Service(サービスとしての移動性)」の頭文字をつなげた略称です。国土交通省によると以下のように定義されています。
MaaS(Mobility as a Service)は、スマホアプリにより、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスです。新たな移動手段(シェアサイクル等)や関連サービス(観光チケットの購入等)も組合せられます。
引用:「国土交通省のMaaS推進に関する取組について (2019年12月6日)」
わかりにくい方は、「U-NEXT」をイメージしてみてください。映画会社・出版社の垣根を超えて、さまざまな形式のエンタメ作品を取り扱っています。1つのサービス上で検索から鑑賞、購入まで完結させることが可能です。
一方MaaSでは、取り扱う対象が交通手段やモビリティに変化します。画像のとおり、鉄道・バス・タクシーなどを一つのアプリ上で利用可能です。日常生活だけでなく、観光や物流など、さまざまなビジネスシーンへ普及することが期待されています。
ただ、MaaSは比較的新しい概念なので、絶対的に正しいと断言できる定義は今のところ存在しません。あまり複雑に考えず、「AIや自動運転などのテクノロジーを活用し、複数の交通手段を1つのサービスに統合する」程度にとらえておきましょう。
始まりはフィンランド
世界初のMaaSアプリはフィンランドの「Whim(ウィム)」です。ヘルシンキ市に拠点を置くスタートアップの「MaaS Global社」が、同市の交通当局と実証実験を行ったあと、2016年にリリースしました。
自家用車メーカーが存在しないフィンランドでは、クルマを購入するたびに国外へとお金が流れてしまう課題を抱えており、MaaSの普及による交通網の利用促進は好都合だったのです。また、渋滞や交通事故、環境汚染など、自動車に起因する社会問題への対策という側面もあります。
市場規模
株式会社イードの調査(※1)によれば、2022年から2030年にかけて、国内のMaaS市場は5,355億から6.4兆円まで成長すると予想されています。旅行業界や印刷産業の市場規模が約5兆円なので、ビジネスシーンにおけるMaaSの注目度の高さがうかがえるでしょう。
また、世界におけるMaaSの市場規模に関しては、2050年までに途上国や先進国を含め900兆円(※2)に達する試算が発表されています。
※1 株式会社イード「国内MaaSプレーヤー調査:企業編(2022年2月28日)」
※2 三菱総合研究所「MaaS市場900兆円への挑戦(2018年11月1日)」
MaaSの5段階の統合レベル
MaaSは普及している度合いや機能に応じて5段階に分けられます。最初の状態は「統合なし」のレベル0です。続く形でレベル1〜4へとステップアップします。また、各レベルの具体的な状態は画像のとおりです。
この中で、日本のMaaSはレベル1に該当します(※3)。「ジョルダン」「NAVITIME」のように、複数の公共交通機関、車(タクシー)の乗換情報などを1つのサービス上で検索できる状態です。しかし、予約・決済機能までは統合されておらず、定期券の購入やタクシーの配車予約などはそれぞれのプラットフォーム、もしくは「モバイルSuica」「GO」などの別アプリで行う必要があります。
また、MaaS先進国のフィンランドが提供する「Whim」は、複数の交通手段をサブスクリプションで利用できるレベル3の状態です。世界に目を向けても、レベル4まで進んだMaaSの事例はほとんどありません。
※3 茨城県境町の「BOLDLY」など、レベル2以上を導入したり、実証実験を行ったりしている地域も存在します
MaaSとCASEの違い
MaaSと似た概念にCASEという言葉があります。
CASEとは、「Connected(コネクティッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services」(シェアリング)、「Electric(電気自動車)」の頭文字をつなげた略称です。
MaaSが新たな移動の概念を表す言葉なのに対して、CASEは新たな車開発の方向性をしめす言葉といえます。
MaaSの普及によるメリット
MaaSの普及によってもたらされるメリットは多岐にわたります。普段の移動が楽になる以外にも、地方が抱える交通問題を解決したり、気候変動への対策につながったり、その可能性は無限大です。
ここでは、「実生活」「エリア」「環境」という3つの視点から、MaaSの普及によって私たちの生活がどのように変化するかを解説します。
実生活への影響
国内でMaaSが普及した場合、多くの方がプライベートで恩恵を実感できると予想されます。具体的には以下のとおりです。
- 各交通機関をワンストップで利用可能
- 交通費の削減
各交通機関をワンストップで利用
MaaSが普及すれば、各交通機関を横断した検索・予約・決済を一つのサービス上で行なえます。電車やバスはもちろん、タクシー、飛行機などを一つのアプリで利用可能です。
たとえば、大雨で電車が遅延している場合、普通なら運転再開を待つしかありません。しかし、MaaSが普及した社会であれば、目的地までの最適ルートを提案してくれます。そのままアプリ上でタクシーを配車することも可能です。ユーザーのライフスタイルに合わせて、移動に柔軟性を持たせられる点がMaaSのメリットといえます。
交通費の削減
MasSがレベル3に到達すれば、電車やバス、タクシーなど複数の交通手段をサブスクリプションで利用可能です。モビリティの種類に縛られない移動が実現し、多くの方が交通費の削減を体感できるでしょう。
エリアへの影響
MaaSが普及することで、都市部や地方など、エリア単位への影響も考えられます。具体的には以下のとおりです。
- 都市部における渋滞の解消
- 地方の交通弱者対策
都市部における渋滞の解消
国内でMaaSが普及すれば、複数の交通機関をシームレスに利用できます。維持費などの経済的コスト、整備された交通インフラを考慮しても、都市部における自家用車での移動は減少すると考えられ、渋滞の解消につながるでしょう。
地方の交通弱者対策
都市部だけでなく、地方で暮らす方にもMaaSは恩恵をもたらします。
たとえば、自動車の運転が難しい高齢者の場合、移動手段は公共交通機関、もしくは家族が運転するクルマに限定されるでしょう。しかし、存続を危ぶまれている乗合バス・路線が存在するなど、地方の交通インフラは減少の一途をたどっています。都市部への人口流出が続く中、自助努力だけで解決できる問題ではありません。
そこで活躍するのが、NTTコミュニケーションズ株式会社の「AI運行バス」をはじめとするMasSです。アプリや電話から乗車予約することで、人工知能がベストな「乗り合わせ」を判断し、運行区域内のユーザーがいる地点まで配車してくれます。
実際に河内長野市(南花台地域)では、2019年12月からAI運行バスの「クルクル」が導入されており、新たな移動手段として住民の日常生活をサポートしています。
環境への影響
MaaSの普及は環境保全も期待できます。自家用車の移動、保有台数が減少することで、排気ガスの削減につながるからです。また、駐車場の数や面積も同時に減少すると考えられます。空いたスペースを緑地に転用すれば、都市気候の改善、省エネルギー効果など、さまざまな恩恵がもたらされるでしょう。
海外におけるMaaSの事例
フィンランドの「Whim」を筆頭に、海外でMaaSの普及が進んでいる地域は多数存在します。具体的には以下のとおりです。
- Whim(フィンランド)
- Jelbi(リトアニア)
- SBB Mobile(スイス)
- Zipster(シンガポール)
Whim(フィンランド)
前述したとおり、「Whim(ウィム)」はフィンランドのMaaS Global社が提供するMaaSアプリです。バスやタクシー、シェアサイクルやカーシェアなど、さまざまなモビリティを一つのアプリ上で利用できます。サブスクリプション制度を導入しており、上位プランのユーザーは公共交通機関が乗り放題です。
料金プラン | 料金 | 内容 |
---|---|---|
Whim Unlimited | 月額499ユーロ | ・ヘルシンキ交通局の一ヶ月定期券 ・シェアサイクルやレンタカーが使い放題 |
Whim Urban 30 | 月額62ユーロ | ・ヘルシンキ交通局の一ヶ月定期券 ・タクシーは5kmまで10ユーロ など |
Whim To Go | 無料 | 都度払い |
国土交通省「MaaSの普及に向けた課題等について」をもとに作成
また、三井不動産株式会社が提供する不動産MaaSにも「Whim」は活用されています。
Jelbi(イェルビ)
「Jelbi(イェルビ)」は、リトアニアのTrafi社が提供するMaaSアプリです。10種類以上のモビリティが統合されており、最適化されたルートプランはもちろん、地下鉄チケットの決済、配車サービスの予約までアプリ上で完了します。
2020年8月には、住友商事株式会社と業務提携を行っており、MaaSプラットフォームの展開をはじめ、スマートシティの実現など、新たな交通社会への活用が検討されています。
SBB Mobile(スイス)
「SBB Mobile」は、スイス連邦鉄道(SBB)が提供するMaaSアプリです。ルート検索をはじめ、時刻表のチェックや切符購入まで対応しています。また鉄道のみならず、シェアサイクルやカーシェア、スキー場のリフト券などの予約・決済も可能です。
特徴的な機能の一つに「Easy Ride」があげられます。切符を購入しなくても、ユーザーの移動ルートに基づいた交通手段を自動判別し、「最低価格」で事後発券するといったサービス内容です。
Zipster(シンガポール)
「Zipster(ジップスター)」は、シンガポールのモビリティX社が提供するMaaSアプリです。2018年12月からは、豊田通商株式会社が豊田通商アジアパシフィックを通す形で出資しており、サービス開発・海外展開をサポートしています。2019年10月には、小田急電鉄株式会社の「MaaS Japan」とデータ基盤を接続するなど、日本とも関係の深いMaaSです。
また、「Zipster」は公共交通機関をはじめ、ライドヘイリング(※4)に対応しています。「Grab(グラブ)」「GOJEK(ゴジェック)」などの配車サービスを利用可能です。もちろん、予約や決済はアプリ上で完結できます。
※4 オンライン上のプラットフォームを利用した配車サービス
日本におけるMaaSの事例
ボールドライト株式会社が公開したカオスマップのとおり、日本でもMaaSの普及は進んでいます。また、国土交通省が事業者に対して関連システムの導入を支援するなど、官民一体となった施策が各方面で確認できます。
ここでは、日本のMaaSのなかから、注目すべき事例を6つピックアップしました。地方におけるMaaS事情にも触れているので要チェックです。
- Loogia
- &MOVE
- MONET Technologies
- my! 東京MaaS
- EMot
- Ringo Pass
- 地方の事例
EMot
「Emot(エモット)」は、小田急電鉄株式会社が手掛ける観光MaaSアプリです。日常から非日常まで、ユーザーのさまざまな移動シーンにフォーカスし、オンデマンドバスや複合ルート検索を通して、利便性の高い新たなライフスタイルを提案してくれます。
なかでも、特徴的なのがデジタルチケット機能です。箱根や熱海、鎌倉といった人気観光地のフリーパスをはじめ、ロマンスカーの特急券、サンリオピューロランドのデイパスポートをアプリ上で購入・利用できます。また、一部のデジタルチケットはユーザー同士で譲渡することが可能です。対個人にとどまらず、対コミュニティの側面も兼ね備えたMaaSアプリといえます。
my! 東京MaaS
「my! 東京MaaS」は、東京メトロが手がける大都市型MaaSです。鉄道はもちろん、シェアサイクルやコミュニティバス、タクシーなど、さまざまな交通手段と連携し、今までになかった移動価値の創出を目指しています。
具体的には、「パーソナライズド」「リアルタイム」「更なるネットワークの連続性の追求」の3つをキーワードにかかげ、雨に濡れないルートを検索したり、スキマ時間にリモートワーク可能な場所を提案したり、移動関連のアクティビティを快適にする機能が検証されています。
&MOVE
「&MOVE」とは、三井不動産株式会社と株式会社ShareTomorrowが手掛ける不動産MaaS。MaaS Global社の「Whim」を活用し、各施設の利用者の用途にあった交通手段・料金プランを提供する仕組みです。ららぽーと豊洲のシェアード・シャトル(※5)をはじめ、三井ガーデンホテルズのシェアサイクル、パークアクシスの入居者向けモビリティなど、さまざまな実証サービスが進行しています。
また、2022年3月からは、湾岸エリアを中心に相乗りサービスを展開する「nearMe.Town(ニアミータウン)」と連携。モビリティの選択肢に中央区、千代田区、港区、江東区でのシェアード・シャトルが追加されました。
※5 希望地点での乗り降りができるオンデマンド型相乗りサービス
Loogia
「Loogia(ルージア)」は、株式会社オプティマインドが提供する自動配車クラウドです。国内トップクラスの最適化アルゴリズムに加えて、実際の走行実績をもとにしたビックデータの解析も行っており、高精度な配車システムを通して、MaaSの普及に貢献しています。
最大の特徴はラストワンマイル問題に特化している点です。ドライバー不足や人件費の高騰など、物流業界は最終拠点から届け先までの配送効率に苦しめられてきました。
「Loogia」を活用すれば、配送ルートを含めたさまざまな計画を最適化できます。リードタイム(※6)を短縮することで、ラストワンマイル問題の解決が目指せるMaaSです。
※6 商品が発注されてから納品されるまでの時間
MONET Technologies
「MONET Technologies(モネットテクノロジーズ)」は、ソフトバンク株式会社とトヨタ自動車株式会社の共同出資により誕生した合弁会社です。オンデマンドモビリティをはじめ、データ解析やAutono-MaaS(※7)を事業内容に組み込んでいます。
予約状況に応じて最適化されたルートを運行する「AIデマンドバス」、遠隔アバターガイドを活用したメタバース体験など、さまざまなシーンで導入されており、その範囲は行政・小売りにまで拡大中です。また、看護師を乗せた専用車両を派遣する医療MaaSも展開しています。
※7 「Autonomous Vehicle(自動運転車)」とMaaSを組み合わせた造語
Ringo Pass
「Ringo Pass」とは、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)と株式会社日立製作所が共同開発した都市型MaaSアプリです。タクシー・シェアサイクル・バスの3種類に対応しています。アプリ上で空車のタクシーを確認でき、クレジットカードを登録すれば、QRコードによる決済機能も利用可能です。
また、一部のタクシー会社限定で配車サービスも用意しています。
- 大和自動車交通:東京23区、武蔵野市、三鷹市
- チェッカーキャブ:東京23区、武蔵野市、三鷹市
地方の事例
地方に目を向けると、MaaSを積極的に導入しているエリアは多数存在します。なかでも要注目なのが「茨城県つくば市」と「群馬県前橋市」です。
- 茨城県つくば市:顔認証を活用した乗降者実験、車椅子利用者による乗降依頼
- 群馬県前橋市:ワンマイルタクシーの予約、商業施設との連携クーポン など
民間企業や大学とともに協議会を設立するなど、官民一体となってMaaSの普及に取り組んでいます。
日本におけるMaaSの課題
日本でMaasを普及させるためには、クリアすべき課題がいくつかあります。なかでも重要な項目が以下の3つです。
- 事業者間のデータ連携
- 運賃や料金プランの制度設計
- インフラの整備
国土交通省が発表したデータ(※8)を参考に、日本におけるMaaSの課題について解説します。
※8 国土交通省「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会 中間整理及び今後の検討課題 」
事業者間のデータ連携
MaaSを普及させるためには、交通事業者間はもちろん、MaaS事業者と交通事業者間のデータ連携が重要です。データ形式の標準化をはじめ、有償データやオープンデータ化など、自社データを外部へと提供できる仕組みづくりが求められています。ただ、データ連携には相応のコストがかかり、事業者間でどの程度シェアするのかを含めた協議が必要です。
さらに、小売りや医療、通信事業者など、他業種とも連携をはかり、社会全体でデータを活用・循環させる視点も欠かせません。
運賃や料金プランの制度設計
鉄道やタクシーなど、モビリティの種類に左右されない料金プランを設計すれば、ユーザーの利便性に大きく貢献します。具体的には、複数の交通手段をひとまとめにする「パッケージ運賃」が検討されています。ただ、「パッケージ運賃」は旅行業法に含まれる可能性があるので、どこまでが適用範囲か検討する必要があるでしょう。
決済基盤に関しても、MaaSをアプリで運用するためにはキャッシュレス化が必須です。既存のモビリティ特性を踏まえ、どの決済システムが適しているのか議論し、現実的な運用方法を実現させることが求められています。
インフラの整備
実際にMaaSを普及させるためには、都市計画レベルでインフラを整備する必要があります。しかし、アプリを導入すればすぐに連携を図れるソフトの世界と比較して、信号機や道路の新設など、モビリティ間のシームレス化に向けた街づくりには時間がかかります。異なる両者の時間軸をどのようにすり合わせるかが重要です。
また、地方の足となる超小型モビリティについては、走らせるエリアを個別に検討する必要があるでしょう。AI自動運転などが導入された場合、その特性に応じた走行空間の確保も求められます。
MaaSの普及は進んでいる
本記事では、MaaSの概要をはじめ、海外・日本における事例について解説しました。フィンランドの「Whim」を発端として世界的な広がりをみせるMaaSですが、日本で普及させるためにはまだまだ課題が残ります。
しかし、アプリ開発や実証実験など、事業者や自治体レベルでの試みは進んでおり、少しづつ社会に浸透してきているのは確かです。本格的に普及すれば、モビリティ間の移動がシームレスになるだけでなく、交通費の節約や環境保全、地方の交通弱者対策につながります。
実生活をはじめ、行政や医療、観光や物流など、幅広い分野に影響を与えるMaaS。今後どのような進化をとげ、どのように社会へ溶け込んでいくのか目が離せません。
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