「マスマーケティング」とは?事例と対義語の「ニッチマーケティング」についても解説
マーケティングと一口にいっても、利用する媒体や集客の方法論などにより、その種類はさまざまに区分されます。そのなかでも、できる限り多くの人々に向けて自社の認知を広げようとする「マスマーケティング」は、長い間「マーケティングの常道」であり続けてきました。
しかし現在では、社会情勢や技術面の変化にともない、マーケティングの方法論も刻々と移り変わっています。主戦場がWebへと移行するとともに、「マスマーケティングの時代は終わった」という声も聞かれるようになりました。
一方、マスマーケティングの歴史は、マーケティングそのものの歴史と切っても切れない関係にあります。マスマーケティングの現在までの歩みを理解しておくことは、マーケティングを基礎から理解することにもつながるでしょう。
この記事では、マスマーケティングの概要や事例をふまえ、その現在地を整理し、マーケティングの「これまで」と「これから」を展望していきます。
目次
マスマーケティングとは
マスマーケティングの「マス(mass)」は「大衆」を意味し、個別化されない「不特定多数の人々」を表します。これを対象とするマスマーケティングは、「ターゲットを限定することなく、できる限り多くの人々に自社の商品・サービスを訴求する方法」を指す言葉です。
つまりマスマーケティングにおいては、顧客のセグメンテーション(区分け)にもとづいてアプローチを差別化するのではなく、「あらゆる人々に対して画一的にアピールする方法」が取られることになります。
具体的な手法としては、テレビやラジオのCMや、新聞広告といった「マスメディアを通じた宣伝」が長らく用いられてきました。その他、駅や街中のポスターなど、「誰の目にも触れうる場」において、可能な限り幅広い層に訴求することがマスマーケティングの主眼とされています。
マスマーケティングの対義語としての「ニッチマーケティング」
マスマーケティングはターゲットを限定せず、世間的な認知を広げていく手法であり、大量販売が見込める大規模な市場において機能しやすい傾向にあります。一方、この対義語として知られているのが、小規模な市場で限定的なターゲットに対して訴求する「ニッチマーケティング」という言葉です。
「ニッチ」とは「隙間」を意味し、不特定多数に向けた商品・サービスではニーズを満たすことのできない消費者からなる市場を「ニッチ市場」といいます。ニッチ市場は収益性の観点から敬遠されたり、あるいはニーズの特殊性ゆえに市場として発見されていなかったり、競合の少ない市場となりやすいのが特徴です。
総じてニッチマーケティングとは、「特化型の商品・サービスにより、競合の少ない市場を確保する手法」を指しています。市場の確保に成功すれば、価格や市場シェアをめぐる競争に巻き込まれにくい傾向にありますが、新規開拓の際には少なからずリスクを負わなくてはいけません。
このような事情から、ニッチマーケティングにおいては「いかに新たな市場を発見し、開拓するか」が施策の肝となるでしょう。「潜在する市場の調査・研究」や、「ニーズに応える商品・サービスの開発」といったポイントが、その成否を分かつことになるのです。
マスマーケティングの事例
ターゲットを限定しないマスマーケティングは、食料品や日用品など「誰もが頻繁に利用する商品・サービス」を扱う際にはとりわけ効果的に機能します。
具体的なマーケティングの手法としては、マスメディアへの広告出稿がメインとなるケースが多く、成功事例においても多額の広告費を投入している例が見られます。投じたコストを回収できないリスクも考えられますが、マスメディアを通じて認知を広げることで、「誰もが知っている商品・サービス」として望ましいイメージを定着させているケースもしばしばです。
以下ではマスマーケティングの代表的な事例として、「誰もが知るブランドイメージ」を確立している企業の取り組みを紹介します。
コカ・コーラ・カンパニー
世界最大手の飲料メーカーとして知られるコカ・コーラ・カンパニーは、戦前からアメリカ合衆国を中心にマスマーケティングを展開していました。マスメディアにおける広告やポスターといった施策に加え、国際的なスポーツ大会においてもスポンサーを務めるなど、積極的にメディア露出を行い、認知拡大を進めます。
徹底した商品のイメージ戦略も、同社のマーケティングにおける特徴です。赤と白をイメージカラーとしたラベリングを古くから採用し、さらに特徴的なボトルデザインや、自動販売機のカラーの統一など、街中や店舗で見かけた際に「一目でそれとわかる」ようなイメージを定着させることに成功しています。
時代の変化に応じ、テレビCMの黎明期から有名俳優やアーティストを積極的に採用したり、映像製作会社を買収し、映画内にコカ・コーラ製品を多く登場させたりと、ブランドイメージを新たな媒体で普及していくことにも余念がありません。
現在でも、ラベリングを工夫することで消費者の興味を引いたり、スマートフォンアプリを通じたキャンペーンを積極的に展開したりと、さまざまな形で大規模なマーケティング施策を行っています。
プロクター・アンド・ギャンブル社(P&G)
洗剤や化粧品など、利用者を選ばない日用品において、マスマーケティングの意義は非常に大きなものです。世界最大手の消費財メーカーであるP&Gは、「Consumer is Boss」をマーケティングの理念として掲げ、現在多くの企業にとってのモデルケースとなっています。
マーケティングの特徴は、理念にも見られる「消費者」の目線です。人々の生活状況をふまえ、商品に求められるポイントを丁寧に把握し、広告を通じて的確に「消費者が求めている要素」を打ち出しています。
たとえば消臭効果を視覚的に訴える「ファブリーズ」のCMや、安心感に訴求しながら高級オムツとしてのブランドを確立した「パンパース」のイメージ戦略をはじめ、それぞれの商品において「毎日使える信頼感」を確立しています。
こうした信頼感には、環境問題やジェンダー問題に対する企業としてのコミットメントも寄与していると考えられるでしょう。環境問題に配慮した素材の利用や、ジェンダーフリーを標榜する人材採用など、企業の社会的責任を果たす姿勢を明確に見て取ることができます。
さらに消費者が目にする場面でも、食器用洗剤や洗濯用洗剤のCMに男性俳優などを積極的に採用しており、自然な形で社会問題に参与する姿勢を見せています。
ソフトバンクグループ株式会社
通信事業者のユーザー層は極めて幅広く、世代を問わず利用されるサービスを提供しているため、おのずとマスマーケティングの重要性も高くなります。たとえばソフトバンクグループ株式会社は、モバイル事業のCMにおいて「家族」をモチーフにしたシリーズを展開して話題を呼びました。
さらに、プロ野球チームの運営や、プロバスケットボールの「Bリーグ」においてスポンサーを務めるなど、スポーツを通じた認知拡大にも力を入れています。
同社は競合となる大手通信事業者と比べると、創業から日が浅く、世間的認知の面で不利な状況にあったといえます。しかし、マスマーケティングを通じて人々が自然な形で自社の名称やロゴに触れる機会を増やし、今では知名度の面でも時価総額の面でも日本を代表する企業の1つとなりました。
その他、Yahoo!JAPANやLINEといったユーザー数の多いプラットフォームの運用会社と密な資本関係を結ぶことにより、EC市場やオンライン決済をはじめ、ユーザーが日常的に利用するサービスにおいて大きな存在感を示しています。
また、IoTやビッグデータを活用した「スマートシティ」構築に向け、実験的な取り組みを展開しており、「革新性」のイメージも強く打ち出されています。社会的なイノベーションを担う企業の1つとして、今後の事業拡大に対する期待を集めている状況です。
マスマーケティングの歩みと現在地
一般に、「マーケティング」という言葉が経営学において用いられるようになったのは、19世紀末~20世紀初頭であるとされています。これはちょうど、新聞の普及やラジオ放送の開始など、マスメディアの隆盛と重なる時期です。
さらに戦後、テレビの普及にともない「不特定多数への宣伝」が技術的に容易になるとともに、マーケティング理論も体系化されていくことになります。このようにマーケティング理論の発展は、マスメディアの発展と切っても切れない関係にあり、マーケティングの主流は長い間「マスマーケティング」にありました。
ところが近年では、もはやマスマーケティングは主流ではなくなっている、との見方が強まっています。Webを通じたマーケティング施策が体系化されていくとともに、従来のマスマーケティングの影響力が相対的に衰えつつあるのです。
マスマーケティングが「主流」でなくなりつつある背景
消費社会が進展するとともに、商品・サービスはさまざまに差別化され、人々の消費性向は多様化していきます。これにともない、マーケティングにおいては顧客のセグメンテーションやターゲティングなど、「細分化されたアプローチ」の必要性が増していくことになります。
従来、潜在顧客の属性や嗜好の分析には膨大なリソースが必要でした。しかしインターネットが普及するにつれ、Googleなどの巨大プラットフォームを通じてビッグデータの解析も容易になっていきます。
これに加えて、営業支援システムや顧客関係管理ツールの発展により、「大量の顧客に対して異なるアプローチを自動的に行う」ような仕組みも導入しやすくなりました。
こうした技術が登場する以前は、「不特定多数に画一的なアプローチをする」というマス的な方法か、「限定的なターゲットに集中して訴求する」というニッチ的な方法か、というのがマーケティングにおける大きな命題だったといえます。
ところが現在のWebマーケティングにおいては、データ解析や顧客管理がシステム化されることにより、「幅広い層」を対象としながら、「ターゲットごとに異なるアプローチ」が取れるようになっているのです。
Webを通じて費用対効果の高いマーケティングが可能に
費用対効果の面でも、マスメディアへの広告出稿が主な手段となるマスマーケティングに比べ、Webを通じてターゲットごとにアプローチを変える手法は「期待値」が計算しやすい傾向にあります。
マスマーケティングはターゲットを限定しない分、具体的な訴求効果が把握しにくい性質があります。一方、Webを通じたマーケティングでは、リンクのクリック率やコンバージョン率といった成果を一目でチェック可能です。
広告費用も成果型であったり規模別に設定されていたりと、目標に応じて調整可能であるケースが多く、「多額の広告費をかけながら効果が出ない」といったリスクを抑えやすいといえるでしょう。
このように現在では、Webを通じて、あらゆる事業者がそれぞれのターゲットや達成目標に合わせて広告施策を展開できる環境が整っています。新聞やテレビといったマスメディアの利用率が低下傾向にあることもあり、マスマーケティングの影響力は相対的に減衰したとの見方が強まっているのです。
まとめ
マスメディアが絶大な影響力を誇った20世紀において、企業がブランドイメージを確立し、商品・サービスについて周知するうえで、マスマーケティングは極めて有効に機能していたといえます。
一方、現在ではWebマーケティングの発展により、「大量のユーザーに対してパーソナライズされたアプローチを取る」ことができるようになりました。そのため、以前に比べてマスマーケティングの影響力は低下しているとも考えられるでしょう。
とはいえ、食料品や日用品、通信サービスなど、「誰もが利用しうる」ような商品・サービスにおいては、依然としてマスマーケティングの意義は大きいといえます。マーケティングを成功させるためには、業態や達成したい目標、経営課題などを見定めたうえで、自社に適した方策を選択することが大切です。
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