サステナビリティ前提のモノづくりを可能とするMNインターファッションの強み
MNインターファッション株式会社は、商社ながらサステナビリティを体感できる素材や仕組みを開発して、自社D2Cブランドで企画販売も行っている企業。今回その企画開発部の部長を務める米﨑尊路氏と、同社の人気ニットブランド「ANNUAL(アニュアル)」を手掛ける関川恵三氏にお話を伺いました!
目次
MNインターファッションの強み
―早速ですが、MNインターファッションという企業が立ち上がった経緯についてお伺いできますか?
MNインターファッション株式会社 企画開発部 部長 兼 マーケティング課 課長 米﨑尊路さん(以下、米﨑さん):MNインターファッションの「M」は三井物産アイ・ファッション株式会社、「N」は日鉄物産株式会社(繊維事業)の頭文字からとっていて、その2社が事業統合してできた会社です。
発足したのは去年2022年の1月1日なので、次の3月に初決算を迎えるできたてホヤホヤの会社で、いま繊維商社は継続が難しいといわれているなか、両社の強みを活かして新たな領域にも挑戦していこう、ということで生まれました。
日鉄物産は工場をたくさん持っていて、三井物産アイ・ファッションはアパレル企業とのつながりが強く、製品の強みを重視していたので、今はそれぞれの良さが融合できていると思います。
―そこが御社のケイパビリティにもなる部分でしょうか?
米﨑さん:旧日鉄物産は川上(※)に強く、実際にモノを作れる「場所」を持っているというのがケイパビリティで、一方で旧三井物産アイ・ファッションは川下である企画力や営業力、つまり「人」がケイパビリティだったので、そこが合わさったことで、だいぶ延伸できましたね。
※:ファッション業界ではしばしば、繊維から生地、生地から製品を作る工程を川の流れにたとえられる。原料に近いほど川上、商品に近いほど川下。 |
―自社ですべてまかなえるということですね。
米﨑さん:僕は旧三井物産側の出身なんですが、今の社内には原料を作る畑の話をしている人がいる一方で、自社ECで販路を作る人もいて、合併してできるようになったことはかなりあると感じています。
あとは旧三井はスポーツ業界と取引が多いという側面もあったんですが、旧日鉄はユニフォームや制服に強く、そういった部分でも幅が広がっていますね。
日本と海外のファッション業界における環境問題への取り組み方の違い
―ことファッション業界において、日本と海外の環境問題への意識の違いについて感じることはありますか?
米﨑さん:PERTEX®(パーテックス)というグローバルに展開している機能素材ブランドを取り扱っているんですけど、海外で展示会をしたときなど向こうのブランドからの要求が非常に高く、「責任を持って自分たちが環境問題について取り組んでいかないといけない」とおっしゃるんですね。
かなり昔から、「この原料はどこで生産されているの?」「ヒグ・インデックス(※2)のスコアは?」といった質問が出てくるような状況だったので、日本に比べてかなり環境意識が高いなと感じていました。
※2 ヒグ・インデックス:サステナブル・アパレル連合(SAC)が開発した、製品に使用している素材の環境負荷をスコア化して公表するツール。化石燃料の使用、水質汚染などについても詳細に表示される。 |
米﨑さん:それからコロナ禍にはニューヨークから「#boycottfashion(※3)」という不買運動も巻き起こりはじめましたよね。
※3 #boycottfashion(ボイコットファッション):2019年に環境保護運動組織「Extinction Rebelion」の呼びかけでZ世代を中心に始まった「52週間(1年間)新しい服を買わない」というファッションボイコットキャンペーンのこと。 ファストファッションなどによって服が大量廃棄されることに反対する人は多く、わずか数週間で世界中から数十万人を超える賛同者が現れた。 |
米﨑さん:海外ではサステナビリティというものが浸透しているんだな、と感じました。
日本でも絶対にこの波は来るだろうと思っていたんですけど……、なかなか本格的には来ないですね(笑)。
それはまだ「サステナビリティ」という言葉がトレンドワードのように扱われているというのが要因だと思います。
でもなにかしら取り組みは始めないといけない、それは海外に販売網を持っていたからこそ気づけたことだと感じています。
サステナブルは難しく、たとえば今は世界規模で「脱炭素」にシフトしてきていますが、本当に二酸化炭素の排出量をゼロにしようとすると、羊などの反芻動物が出すそれまで問題視されます。
そうなると羊毛を使うことも見直さなくてはいけないのでは、と考えられるのですが、それで代わりにリサイクルポリエステルを使うとアップサイクルする際に燃料を多く使うこともあり、果たしてどちらのほうが地球にやさしいのか、本当にいろんな観点があるんですよね。
そういうこともふくめ、常に考えつづけながら進めなくてはいけないと思っています。
日本と海外では生産方法も異なる
米﨑さん:あと日本と海外ではモノの作り方が全然違うので、そこも意識の差に起因しているかもしれません。
日本はアパレルメーカーが工場に依頼して、それを仕入れて売るという流れが主流ですが、アメリカなどでは工場がメーカーに提案して作るのがスタンダードなんです。
そうなると、どうしてもアセットの場所が違うので、考え方も変わるんですよね。
どちらかというと日本は小売り的な発想で、最近は変わってきましたが、一度セールで値下げしたら元の価格に戻せないという感覚があります。
でも海外はセール期間に売れ残ったら、また元の価格に戻して販売することもあるんです。
あとフランスでは服を廃棄することを禁止するといった大胆な法律もあります(※4)よね。
※4:衣類(家電も対象)の大量廃棄を防ぐ目的で、世界で初めて「衣服廃棄禁止令」を2022年1月に施行。違反すると罰則が適用されるようになった。 |
米﨑さん:日本でそういった法律が施行されるのは今のところ想像できないので、企業も消費者も海外とは感覚が違うと思います。
日本のファッション業界の課題
米﨑さん:それと日本の服はやっぱり比較的単価が低いですよね。
他国と比べたときに、ファッションにかける金額が同じだとしても、客数は日本のほうが多いと思います。
驚かれると思うんですけど、日本の10~20代のファッションにかける年間平均額って5万円以下という方がほとんど(※5)なんですよ。
※5:2021年10月にJMRO(日本マーケティングリサーチ機構)が日本全国の10~20代の男女を対象に行った調査によると、服にかけたお金についてもっとも多かった回答は「0~5万円」で33.28%を占めている。 ▶参考:株式会社日本マーケティングリサーチ機構プレスリリース(PR TIMES) |
米﨑さん:それで単価は5,000円以下がほとんど(※6)。
安価ということは、それだけ正直質も落ちますし、おそらく買われる方のモノに対する執着も薄いんじゃないかなと思います。
※6:前出の調査によると、単価5,000円以下の服を購入することが多いと答えたのは44.63%で最多。 |
米﨑さん:単価が高いと購入頻度は上がらないので、海外の人のほうが持っている服の数は少ないかもしれません。
実際、フランス人は少ない服でやりくりしておしゃれに着こなすといった話をよく聞きますよね。
でもそれだけ品質もよく、長持ちするといえると思うんです。
古着文化についても、日本でも少しずつ発達してきてはいますが、やはり海外のほうが醸成されていますよね。
日本は高度経済成長期にいろんなものをどんどん買って、あふれさせて、廃棄もたくさんしてきてしまった、そういう歴史が根づいているという側面もあります。
ブランド数も世界的に見てかなり多く、約2万社あるっていわれているじゃないですか。
そうなると供給量も変わってきますよね。
―やはり日本のファッション業界の一番の課題は供給過多だと思われますか?
米﨑さん:本当に今、多くのアパレル企業がプロパー消化率を改善させようとして、余剰在庫を減らす施策に乗り出しています。
そもそもこの余剰在庫が、セールや大量廃棄をしなきゃいけなくなる原因になるので……。
それを最大限減らすことで、当然アパレル会社の利益率も上がります。
まぁ商社の目線でいうと、物流量が圧倒的に減るというのは手放しで喜べない部分もあるんですが、当社も積極的に取り組んでいます(笑)。
MNインターファッションの取り組み
―改めて、環境問題に対する御社の取り組みについてお伺いできますか?
米﨑さん:toCの自社ブランドに関しては、より長持ちする素材にこだわり、回収、再資源化まで視野に入れてプロダクトを作っています。
そしてブランド力を高め、値段以上の価値をお客さまに感じてもらえるよう情報発信しながら、アパレルメーカーさんにも広めていって、OEMで生産するtoB事業も進めています。
たとえばMNインターファッションの取り扱う素材は、カポック(※7)からできているもの、海洋ごみからできているもの(※7-2)、紙からできているもの(※7-3)など、サステナブルなものが多く、それらをあらゆるお客さまに選んでもらえる手段で提供することが僕らの仕事だと思い、認知を広めながら開発を進めているところです。
※7 カポック:木の実由来のコットン素材。動物へ負担をかけることなく、また森林伐採などを行う必要がないことから注目されている。 ※7-2・3:MNインターファッションでは、海洋ごみからアップサイクルされた再生ポリエステル原料を使用して開発された素材「ONE OCEAN(ワンオーシャン)」をもとにした「MALIBU SHIRTS(マリブ シャツ)」というブランドや、紙糸に最先端の技術を融合させた素材「WA.CLOTH® HYBRID(ワクロス ハイブリッド)」を使ったブランド「WA.CLOTH®」(後述)などを取り扱っている。 |
D2Cブランドだからできること
―toCブランドを開発している商社は多くないと思いますが、D2Cブランドだからこそできることはなんだと思いますか?
米﨑さん:それはぜひ、ニュージーランドに羊の毛を刈りに行って紡績するところからすべて携わっている関川に聞いてください!
―すごい!糸のプロフェッショナルですね。
企画開発部 マーケティング課/自社ニットブランド「ANNUAL(アニュアル)」デザイナー 関川恵三さん(以下、関川さん):もともと素材の開発がしたくて入社したんですけど、商社としての強みを活かせるのは価格面だと思っています。
OEMで製造しているアパレルメーカーさんは、どうしても仲介マージンが発生してしまうので、市場に売り出す際に価格を上げざるをえないんですが、僕らは直接販売できるので、品質のよいものをより求めやすい価格で販売できるんです。
あとは、米﨑も触れていましたが、僕らの場合、現地に行って素材をこの目で確かめたうえで、実際に糸を作るところ、そして製品化して販売して、最終的には回収して再資源化するところまで行っているんですね。
自分たちが製造の背景をすべて把握できているから、安心して販売できることはもちろん、モノの価値を適切にお客さまに提案することもできると感じています。
―サプライチェーンをすべて把握しているということですね。
米﨑さん:アパレルメーカーもD2Cビジネスといえるんですけど、たとえばニュージーランドの牧場から原料を輸入するのも商社から、紡績糸を仕入れるのも商社から、といった具合に、結局いろんな場面で商社が関わってくるんですよね。
それを僕らはすべて自分たちの目で見ることができるというのが強みです。
牧場も、染工場も、撚糸するところも、洗うところも、もちろん最終的に製品を作る工場も知っている、それってよっぽどこだわりがない限りは繊維専門の商社でしか知りえないことなんです。
なので、いま日本で本当の意味でD2Cができるのは商社くらいなんじゃないかと思っています。
関川は「今回の製品はあそこの紡績工場だと合わないからこっちにする」など、すべて自分で決めてモノづくりをしていますが、すべての工程やその仕上がりをわかっていないと言えないことですよね。
開発した商品の反響を先に確認できるコミュニティサイト
―MNインターファッションではLaunchPark(ローンチパーク※8)というユーザー参加型コミュニティサイトも運営していますが、そのメリットについてお聞かせいただけますか?
※8 LaunchPark(ローンチパーク):必要なモノを必要な分だけ生産できるよう、プロジェクト始動のきっかけや背景を発信して、賛同するユーザーとコミュニティを形成してその製品化を進めるサイト。2021年10月19日オープン。 ▶https://launch-park.com/ |
関川さん:作った製品が実際どのくらい売れるかは販売してみないとわからないところがあるんですが、ローンチパークができたことで販売前にテストマーケティングできるようになったのはよかったですね。
そのあとは自社で販売してもいいですし、アパレル企業に提案してもいいですし。
提案する場合、今までだと同じ生地を使った過去製品の実績をお伝えするしかなくて、それだとわかりにくい部分もあったんですけど、自社サイトができたことで、実際にその商品がどのくらい売れて、どういった層に人気があって、どのくらい流入があって……といった細かい部分まで見ることができるようになったので、ローンチパークの開設はかなり大きなポイントになったと思います。
まだ始動して間もないので、そこまでアクティブにはできていないのですが、これからいろいろ使える場面は増えてくると思っています。
米﨑さん:開発を進めていると、それにのめりこんでしまって、正直お客さまのことが見えにくくなることがあるんですよね。
でも本来モノづくりは、やみくもに開発してそれを僕らが評価するんじゃなくて、一般の消費者の方がどう受け止めてくれるのかっていうのを一貫して考えながら進めていかないといけないので、そういった意味でもローンチパークの存在意義は大きいですね。
―第一弾は「SHIBUYA109lab.EYEZ(※9)」のプロジェクトということでZ世代と共同開発されましたが、集客も同じくらいの世代の方々向けに行われたのでしょうか?
※9 SHIBUYA109lab.EYEZ(シブヤイチマルキュウラボ アイズ):SDGsに関心の高いZ世代と「SHIBUYA109 lab.(シブヤイチマルキューラボ)」という株式会社SHIBUYA109エンタテイメントが運営するaround20(15~24歳)のZ世代に特化したマーケティングチーム、そしてMNインターファッション株式会社が共同して立ち上げた部活動。 |
米﨑さん:ローンチパークは、製品や素材を知って体感してもらったり、それらを応援してくださったりする方とコミュニティを作ることを目的としたサイトなので、販売目的の集客は特に熱心には行っていないんです。
もともと「発射台」を意味する「launch pad」という言葉が由来で、公園のようにコミュニティを築く場になればいいよね、ということで「LaunchPark」と名付けました。
まだ今はジャングルジム1台くらいしかないですけど(笑)。
これからもっと遊具を作って、ユーザーさんたちの選択肢を増やすというのが目下の課題です。
Z世代と共同開発するメリット
―SHIBUYA109lab.EYEZとしてZ世代と共同開発することも多いですが、Z世代は日常生活や学校教育でSDGsに関して触れることで、それに対する意識が高いといわれる一方でサステナブル疲れしているともいわれています。
実際に一緒に活動されてみて、どのように感じますか?
米﨑さん:やっぱりサステナブル疲れしているのは感じますね。
でも「なにか環境にいいことをしなきゃいけない」という思いは根底にあるようで、「かわいいと思って見ていたらそれがサステナブルだった、といったものを作りたい」というのは彼、彼女たちがずっと言っていることです。
なので、僕たちもそういったモノづくりを当たり前にしていかなきゃいけないなーと思っています。
サステナブルだから買うのではなく、そもそもサステナブルであることは当然として、そのうえでデザインがいいものを作らなくてはいけない、それは彼らと3年間一緒に活動してきて気づいた点ですね。
それと、自身が能動的に活動して、いわゆる“意識高い系”に見られるのはちょっと抵抗があるみたいですね。
「SDGs達成に向けて取り組みたいけど、“やっています感”は出したくない」というのはよく聞きます。
関川さん:僕もサステナブルな取り組みについて話していて「あ、そっち系ね?」と煙たがられることもあります(笑)。
米﨑さん:でも共同開発してくれている子たちはみんな、サステナビリティを広めようとしてくれていて、こないだもそのために必要なイラストを関川に依頼するなど、積極的に意見をくれていますね。
関川さん:がんばって1日で4種類のテイストのイラストを描きました(笑)。
実際に使われるのは1種類だけですが、「DO U BANANA?」というポップアップストア(※10)で商品帯などに使われる予定です。
※10 DO U BANANA?:MNインターファッション株式会社が展開する、廃棄されるはずのバナナの茎から採取した繊維をアップサイクルして作る「BANANA CLOTH(バナナクロス)」と先述のSHIBUYA109lab.EYEZがコラボして2023年3月に期間限定オープンさせたポップアップストアのこと。 |
(▲こちらの動画に登場する商品帯に注目!)
米﨑さん:彼女たちがやっているのは本当に、サステナブルなものを扱いながら、それを前面に出すのではなく、かわいいと思える部分を先に見せるという展開の仕方なんですよね。
テック好きユーザーが購入する紙糸ブランド「WA.CLOTH®」
米﨑さん:MNインターファッションには多くのD2Cブランドがあるんですけど、中でもこれからの季節に活躍してくれるのは「WA.CLOTH®(ワクロス)」でしょうか。
紙糸から作っているので、環境だけでなく体にもやさしいのが特徴です。
吸放湿性にすぐれていてムレにくく、夏は涼しく、冬は暖かく着ることができます。
購買層を見ていると、去年くらいからファッション属性の方が増えましたが、それまではテック好きな方が多かったですね。
―「紙が衣料になる技術がおもしろい」という感覚なのでしょうか。
米﨑さん:そうかもしれません。
東京コレクションにも参加されている「CINOH(チノ)」のデザイナーである茅野誉之さんとコラボした商品も出しているんですが、そちらはやはりファッション好きな方に多く購入していただいています。
紙素材は見た目が麻に似ているので、どうしてもカジュアルに見えてしまいがちなんですけど、茅野さんがデザインしたものはきれいめなので、着用シーンが広がりました。
―あの、よく聞かれることだと思うんですが、洗濯って……。
米﨑さん:よく聞かれますけど、洗濯しても溶けないですよ(笑)。
むしろ溶ける紙が特殊で、本来紙はとても丈夫なんです。
ワクロスで使用しているのは和紙に近いものなんですが、たとえば半紙を思い浮かべてください。
縦には裂けるけど横には裂けないですよね。
実は紙って普通の綿よりも丈夫で、靴下などにすると本当に穴が開きにくいんです。
特に足袋シューズを履いたときに違いがわかると思います。
―先ほどムレにくいとおっしゃっていたので、靴下に向いていそうですね。
米﨑さん:あと自然の抗菌防臭性があって、匂いも吸収してくれるんですよ。
ちょっと乾きにくいという欠点もあるんですが、紫外線吸収力もありますし、機能性にはかなりすぐれています。
スポーツアパレルメーカーのゴールドウインさんがその靴下の耐摩耗試験をしたところ、1万回こすっても穴が開きませんでした。
あと、とにかく軽いですね。
スカートを履き慣れている方なら平気なのかもしれないですが、僕の場合はワクロスのパンツを履くと、着心地が軽すぎてスースーするので「今日履き忘れたかも」って不安になるくらいです(笑)。
シルエット構築に生地をたくさん使うトレンチコートも、ほかの素材だとどうしても重くなっちゃうんですが、ワクロスだと綿の1/3くらいの軽さに抑えられます。
ちなみに通常、トレンチコートって通気性をよくするために脇に穴が開いていると思うんですが、ワクロスの場合はその必要がないので、飾りで襟もとに穴を開けて「全体的に通気性があるよ」とアピールしています。
素材の価値を知ってもらうためにブランド化
米﨑さん:ワクロスは、どうしても安価に作れないというのが課題です。
―価格帯はどのくらいなのでしょう?
米﨑さん:Tシャツが1万円くらい、コートが3万~4万円台くらいです。
「スリット」という細くする技術が難しいんですが、それがもっと簡単にできるようになれば、もう少し価格も下げられるようになるんじゃないかと思っています。
リーズナブルになれば、より多くの方々に手に取ってもらえるようになりますよね。
なので今は、こういう素材があると知ってもらうことが大事だと思っています。
そういったこともふまえ、今度TSUHARU by Samansa Mos2(ツハル バイ サマンサモスモス)とコラボ展開することが決まっています。
―積極的にコラボ展開されていますね。
もともとワクロスは、ゼロから開発した素材の価値をわかってもらうために立ち上げたブランドで、素材だけではお客さまに伝わりきらないところがあったので製品づくりを進めるようになったという経緯があるんです。
なので製品ブランドとして拡大していくというイメージはあまりなくて、認知度向上やブランディングのためにコラボ展開は必要だと思っているんですが、自社商品を増やすよりも、この素材を体感していただく機関となることを目指しています。
MNインターファッションという会社としての主軸はOEMなんですが、OBM(※11)といわれるようなブランドを製造することも必要だと思い、その礎になっていきたいと考えています。
※11 OBM:Original Brand Manufacturerの略。OEM(Original Equipment Manufacturer)が他社ブランドの製品を製造すること、ODM(Original Design Manufacturing)がそれにくわえてデザインも請け負うことであるのに対し、そういった事業から発展したかたちで自社ブランドの製品を自社で生産すること。 |
着なくなったら回収して再資源化できるニットブランド「ANNUAL」
関川さん:一方で僕がデザインをしているANNUAL(アニュアル)というブランドは製品ブランドとして拡大を進めていて、先ほどちょっとお伝えしたようにニュージーランドのメリノウールを使って、現地の牧場から糸づくり、編立(※12)、そして製品化にいたるまでのトレーサビリティ(※13)をしっかり行っています。
※12 編立:糸でループを作り、そこに糸をくぐらせてまたループ状にし……というのを繰り返すことで平面に仕上げる工程のこと。 ※13 トレーサビリティ:生産段階から最終消費段階、または廃棄段階まで、製品の流通経路が追跡可能な状態のこと。 |
関川さん:もうひとつ特徴を挙げると、動物愛護の観点ですぐれているといえます。
なぜニュージーランドの羊毛を選んだかというと、2018年から法律で全面的にミュールジングを禁止しているからです。
ミュールジングというのは、お尻に糞尿がつくことで虫が寄生して羊が病気になってしまうのを防ぐために臀部を皮ごと切除することなんですが、当然ながら痛みを伴います。
なので反対意見も多いんですが、まだ国によっては行っている企業もあるんですよ。
なおかつメリノウールの中から1.3%くらいしかとれない非常に貴重で、超一流のメゾンさんしか使われていないような高品質な原料を選んでいます。
なかなか出回らないんですけど、毛刈りの時期に「このくらい欲しいんだけど」と協業先と取引をして、毎回オリジナルで糸を作っているというのが原料から糸になるまでの流れです。
糸は大きく2種類しか使っておらず、ひとつは「紡毛糸」と呼ばれる太番手のふわふわした糸、もうひとつは「梳毛糸」と呼ばれ、スーツ地などに使われるようなつるっとした糸。
これらを編み方などによってバリエーションを出して展開しています。
―このバイカラーシリーズ、とてもかわいいですよね。
関川さん:これは今年すごく人気があって、販売から2週間くらいで完売してしまったので追加生産を行いました。
使用している糸がほかのウールに比べると黄みが弱く、とてもきれいな白なので、今まではそのままの色味を活かすことが多かったんですが、それって発色性がいいということでもあるので、今回はいくつか明るい色を差してみました。
シンプルな色、デザインで展開していたのは、長く愛用してほしいという思いからでもあったんですが、今期からはほかと差別化するために、「日常的に落とし込めるんだけどちょっと遊び心がある」みたいなものも作っています。
―クロップドの丈感も今年らしいですね。
関川さん:最初はユニセックスで使えるものを考えてオーバーサイズを中心に作っていたんですけど、今年は丈感が短めのものもいいなと、全体的にコンパクトに仕上げました。
それが評判よかったのかなという気がします。
カラーものに挑戦してみたいけど難しいという方も、シルエットが小さかったり、片面だけだったりしたら取り入れやすいんじゃないかと思っています。
アニュアルでは、こういった製品を最終的に回収して再資源化して別の製品を作るというプロジェクトを行っていて、たとえばこういったラグに生まれ変わります。
―デザインがおしゃれなので、アップサイクルしたのではなく、もとからこちらを企画して作られたように見えます。
関川さん:製品がボロボロになったら僕らが持っている倉庫に送ってもらって、それをリサイクルウールに作り変えるという考えはもともとあったんですが、やっぱり肌触りがゴワゴワしてしまうので着用する製品をもう一度作るというイメージが沸かず、なにかいいものはないかなと考えていたんですよね。
そしたらコロナ禍もあって、家をより華やかにしたいという声があがったので、雑貨などに振り切ったほうがいいかなと思い、ラグを作ってみました。
―回収はどのように行うのでしょうか?
関川さん:ウール80%以上の製品には「CLOTHLOOP(クロスループ)」というタグを付けていて、この裏に記載されているURLにアクセスしていただくと、その製品の返送先や返送方法について書かれています。
着払いで送っていただけるという仕組みになっています。
一応下げ札にも記載しているんですが、着るときに取ってしまうと思うので、品質表示と一緒にもうひとつ入れているという感じですね。
こういった循環するモノづくりは多くのアパレル企業さんも始めたいことなんじゃないかと思うんですが、物量も多く、年間のMD計画を組んでいるとなかなか難しいところだと思います。
僕らは小さいブランドなので、そういったところにこだわって一から企画できるのも強みだと感じています。
2024SSにはカットソー展開を企画中
―今後の展開についてお伺いできますか?
関川さん:ウールのニットブランドということで、現状の販売期間は9月から12月、長くて1月といったところですが、それを通年販売できるように展開しようと企画しはじめました。
あまり知られていないんですが、実はウール自体は本来、呼吸するような素材で、登山家がインナーとして着用するなど、夏に着ていただいても快適なんです。
そういった素材のよさをきちんと伝えられるようなプロダクトを作ろうと考えていて、2024年のSSにカットソーやシャツの展開を企画しています。
米﨑さん:ウールって匂いにくいという特徴もあるので、意外と2週間くらい洗わなくても平気だったりするんですよ。
しかも見た目もほとんど変わらない。
関川さん:しかもしわにもなりにくい。
―すごい!天然素材ってやっぱり違うんですね。
2024年のSSということは、秋ごろの発表でしょうか?
関川さん:今年2023年の8月か9月ごろにできたら、と考えています。
間に合えば……(笑)。
あとは面の露出をもっと増やしていくというのが今後の目標ですね。
ECサイトの売り上げは結構伸びてきているので、次は卸先や別注企画に取り組んでいただけるアパレル企業さんを探すといったところでしょうか。
やっぱりお店に行ったときに見かけることで認知するということはあると思うので。
オリジナルブランドでサステナビリティを広めていく
米﨑さん:MNインターファッションにはD2Cブランドがいっぱいあるんですけど、共通してオリジナルの製品に関しては、明確な戦略がない限りは基本的にサステナビリティに起因したものしか開発しないと決めています。
そのうえで、ブランドごとに特色を打ち出して、それぞれのポートフォリオ、役割を全うできるようさまざまな方向に向かうことに重きを置いています。
役目は大きく分けると、素材を知ってもらうこと、サステナビリティを広げていくことの2つを軸にしています。
―先ほどおっしゃっていた「サステナビリティを前提に、そのうえでいいデザインを作る」といった考え方に通じていますね。
米﨑さん:そうですね、でもできれば僕らは基本を作るので、その先はみんなにアレンジして作っていってほしいんですよ。
そういった考えでコラボ展開を積極的に進めています。
「もったいない」と思える価値をつくる
日本で生活していると日常的に登場する「もったいない」という言葉。環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが2005年初来日の際にこの言葉に出合い、感銘を受けたことで「MOTTAINAIキャンペーン」が始まりました。
Reduce(ゴミ削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)という環境活動の「3R」にくわえて、かけがえのない地球資源に対するRespect(尊敬)が表されているということで、世界共通語として広めるよう提唱したのです。
SDGsが注目されるようになり、昨今またこの言葉を聞く機会が増えたように感じます。
私事ではありますが、筆者の母は20年以上も前から環境問題に取り組んでおり、そのため最近の流行語としての文脈で語られる「サステナブル」や「エシカル」といった言葉に不安を募らせていました。
でも今回インタビューして気づいたのは、これからを担う若者、特にサステナブル疲れしているといわれるZ世代は、サステナビリティを諦めるのではなく、むしろそれが当然である環境をつくることでトレンドとしての話題性を終わらせたいと考えているということ。
そしてその考えを拾いあげ、そのうえで責任感をもってサステナビリティについて考えながら真摯に取り組む企業があるということ。
「サステナビリティ」という言葉はもとより「持続可能性」を意味しますが、本当に持続させるためには、仕組みづくりだけではなく、流行だけで終わらせない社会づくりも必要なのだと感じました。
「もったいない」という言葉は、役目を終えたすべてのものに当てはまる言葉ではないでしょう。なにかしら付加価値を感じさせるものにしか芽生えない感情だと思います。
サステナブルを当たり前に、そしてそのうえでリスペクトできるモノづくりを。それが広がっていけば、持続可能性はもっともっと高まるでしょう。
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