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ネーミングライツとは?事例や企業側と施設側のメリット・デメリットを解説

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あのトイレにも名前がついているかもしれません。

慣れ親しんだ施設の名前が急に変わってしまった経験はないでしょうか。その出来事には「ネーミングライツ」が関わっている可能性があります。

ネーミングライツとは、施設やイベントを命名できる権利のことです。獲得した企業側は、施設の命名権とそれに付属する権利を得ることができ、売却した施設側は、契約金を得て施設運営に充てることができます。このネーミングライツは、施設側にも企業側にもメリットをもたらす施策として注目を集めているのです。

今回は、ネーミングライツが企業と施設にもたらすメリット・デメリットを解説したうえで、実際の事例からネーミングライツのこれからを考えていきます。

ネーミングライツとは

ネーミングライツは「命名権」と訳され、「施設やイベントに名称をつける権利」のことを指しています。施設の建設資金や運営資金を調達するための手法として、1900年代後半のアメリカで急速に広まりました。

2003年には、「東京スタジアム」が日本国内の公共施設としてはじめてネーミングライツを導入し、「AJINOMOTO STADIUM(味の素スタジアム)」に改称しました。

ネーミングライツ契約を結んだ企業を、施設側から「ネーミングライツパートナー」と呼ぶこともあります。

ネーミングライツが企業にもたらすメリット・デメリットは?

企業は、ネーミングライツを獲得すると契約金を支払わなければいけません。デメリットを被るだけにも感じますが、それ相応のメリットも期待できるのです。企業側が得られるメリットと生じるデメリットを整理してみましょう。

メリット

ネーミングライツによって企業側が得られるメリットには、「地域貢献によるイメージアップが期待できる」「高い宣伝効果を得ることができる」という2つが挙げられます。以下でくわしく解説していきます。

地域貢献によるイメージアップが期待できる

ネーミングライツを売却している自治体は、施設の運営資金に窮している場合が少なくありません。公共施設のネーミングライツを獲得することは、施設の運営に助力することになり、地域貢献につながります。地域貢献に携わることで、施設の利用者や地域住民からのイメージアップが期待できます。

高い宣伝効果を得ることができる

施設名に企業名を組み込むことで、施設を知る人や利用する人をはじめとして、人々が企業名を耳にする機会を少なからず増やすことができます。施設の近隣住民はもちろん、遠方から利用しにきた人にも、企業名を覚えてもらえる可能性が高まるでしょう。その施設が地域に浸透すればするほど、宣伝効果は大きくなっていくはずです。

デメリット

ネーミングライツの獲得は、企業にメリットだけをもたらすものではありません。企業がネーミングライツの獲得を検討するうえで、注意しなければいけないのが費用面です。

施設側に契約金を支払う必要がある

先述のとおり、ネーミングライツを獲得することで契約金の支払いが発生します。その相場は曖昧で、ネーミングライツを導入している施設のなかでも、契約にかかる金額が公開されていない場合もあります。獲得を検討する場合は、見込まれるメリットと契約金による負担を天秤にかけた慎重な判断が必要になるでしょう。

ネーミングライツが施設にもたらすメリット・デメリットは?

ネーミングライツを購入してもらうことによって施設は、企業から契約金をはじめとした援助を得ることができます。一方でリスクも少なくありません。以下で、施設が得られるメリットと被りかねないデメリットをくわしく解説します。

メリット

ネーミングライツの成り立ちから見ても、施設側の最も大きなメリットは、企業から契約金を含めた援助を受けられることに他なりません。

企業から契約金を含めた援助を受けられる

企業にネーミングライツを売却することで、契約金や援助を受け取ることができます。これは運営資金が不足している施設にとって、大きなメリットになりうるでしょう。資金面や整備面において負担が減ることで、安定的で充実した施設運営が可能になります。設備のグレードアップもできるかもしれません。

デメリット

施設の運営が安定するというメリットと同時に、ネーミングライツを売却することで直面するリスクもあります。確実に被るというものではありませんが、これまでの事例を見ると被る可能性は決して低くないのです。

契約企業が問題を起こす可能性がある

ネーミングライツを獲得した企業、いわゆるネーミングライツパートナーになった企業がなんらかの問題を起こしてしまうと、施設のイメージダウンにつながるかもしれません。またそれによって施設名の変更が必要になった場合、元に戻すのか新しいネーミングライツパートナー企業を募集するのか、いずれにしても施設利用者の混乱を招くことは避けられないでしょう。

周辺住民の理解を得られない場合がある

周辺住民に愛されている施設名称であった場合、ネーミングライツの導入によって名称が変わることを良しとしない方々もいるかもしれません。また、日本のネーミングライツ契約は3〜5年と短いものがほとんどです。頻繁に名称が変わることを嫌う利用者もいるでしょう。

かつては、ネーミングライツの導入を検討したにもかかわらず、住民の反対によって導入に踏み切れなかった事例も存在します。住民との関係性や今後の利用率に支障が出る可能性もあるので、反対意見が多いときには慎重な判断が求められます。

他の企業が利用しづらくなる可能性がある

名称に企業の名前が入っている施設は、その他の企業が利用しづらくなってしまう可能性があります。特に同じ領域で競い合うライバル企業の名前がついた施設は、敬遠されてしまっても仕方がないでしょう。

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ネーミングライツの事例

ネーミングライツ制度の大枠を整理してきました。ここからは実際の事例とともに、成功の秘訣や現実に起きかねない問題を探っていきましょう。

AJINOMOTO STADIUM(味の素スタジアム)

「AJINOMOTO STADIUM(味の素スタジアム)」は、日本の公共施設としてはじめてネーミングライツを導入した施設です。

2003年3月にネーミングライツを導入し、施設の名称を「東京スタジアム」から「味の素スタジアム」に改称して以来、現在まで味の素株式会社との契約を更新し続けています。ネーミングライツの契約としては、国内の大型公共施設のなかで最長です。スタジアムに付属する施設にも、味の素株式会社の商品や子会社の名称が付けられています。

現在の契約期間は2019年3月1日〜2024年2月末までの5年間で、契約金額は11億5千万円(消費税等別途)と発表されています。

HPでは契約更新の理由について、「味の素社が掲げる『私たちは地球的な視野にたち、”食”と”健康”そして、明日のよりよい生活に貢献します』と、東京スタジアム社が目指す『スポーツなど豊かな生活文化を育み、地域に愛されるスタジアムづくり』という双方の企業理念が合致していること、また、今後、両社の長期にわたる取組みを継続・深化させ、利用者や地域に愛されるスタジアムづくりをさらに推進することについて両社の考えが一致したことによるもの」と説明されています。

資金面の需要と供給だけでなく、企業と施設の向く方向が一致しているということも、ネーミングライツ契約を続ける理由になりうるのかもしれません。

(公式サイト:味の素スタジアム

京セラドーム大阪

「京セラドーム大阪」は、オリックス・バファローズの本拠地になっているドームです。

旧名は「大阪ドーム」でしたが、2006年に京セラ株式会社がネーミングライツを獲得し、さらに大阪府民から「大阪の名称を残してほしい」という多数の声があったことから、「京セラドーム大阪」という名称に変わりました。ネーミングライツを獲得した目的として京セラ株式会社は当時、「スポーツ広告の取り組みの一環としてグローバルに京セラグループの認知の向上を図ること」と発表しています。

ネーミングライツの導入前、大阪ドームは赤字が続き、事実上の経営破綻状態でした。そのなかで、大阪ドーム側から京セラにネーミングライツの売却を打診し、これが受け入れられたことで契約が成立したのです。

最初の契約以降、少なくとも2017年4月までネーミングライツの契約は更新されています。その後は更新が発表されていませんが、名称は継続して使用されています。

契約金額は公表されていませんが、ネーミングライツが、いかに施設側にとって有益な手段かどうかを証明した事例といえます。

(公式サイト:京セラドーム大阪

楽天生命パーク宮城

「楽天生命パーク宮城」は、東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地になっているスタジアムです。

宮城県の条例では「宮城球場」という名称で登録されていますが、愛称をつける権利としてネーミングライツが売り出されています。またこの宮城球場は、ネーミングライツの導入から約15年間で以下のように愛称を7回も変更しています。

  • 2005年〜2007年 契約企業「フルキャスト」 愛称「フルキャストスタジアム宮城」
  • 2008年〜2008年 契約企業「日本製紙」 愛称「日本製紙クリネックススタジアム宮城」
  • 2008年〜2010年 契約企業「日本製紙」 愛称「クリネックススタジアム宮城」
  • 2011年〜2013年 契約企業「日本製紙」 愛称「日本製紙クリネックススタジアム宮城」
  • 2014年〜2016年 契約企業「楽天」 愛称「楽天Koboスタジアム宮城」
  • 2017年〜2019年 契約企業「楽天」 愛称「Koboパーク宮城」
  • 2020年〜2022年 契約企業「楽天」 愛称「楽天生命パーク宮城」

企業が問題を起こしたことによる変更も含まれており、ネーミングライツのリスクを物語っている事例だといえるでしょう。

(公式サイト:楽天生命パーク宮城

中小企業も見逃せない!ネーミングライツは次のステージへ

ネーミングライツは、企業にとっても施設にとってもメリットの少なくない制度です。一方で、当初ネーミングライツを導入していた施設は、スポーツ施設を主とした大規模な公共施設が大半でした。契約に必要な資金のことを考えれば、企業側が契約するハードルは低くなく、大企業の特権のような側面も少なからずあったかもしれません。

そのためもあってか近年では、施設がネーミングライツを売却しても応募がこないという事例も頻発しています。そういった流れを受けて、公共施設を所有する自治体は、ネーミングライツの多様化を進めています。

ネーミングライツの対象施設から、愛称、負担できる内容までを、企業側が自治体に提案できる制度を導入した自治体もあれば、歩道橋やトイレ、動物園の動物一種類と、ネーミングライツの対象を細かく幅広くすることで契約金を抑え、企業が応募しやすい状況をつくっている自治体もあります。

今後も多様化が進めば、企業の規模や目的に合わせてコンパクトに獲得できるようになっていくかもしれません。そうなれば、ネーミングライツはあらゆる企業にとって身近な存在になっていくはずです。

ネーミングライツの獲得によって自治体に貢献することは、広告効果だけでなく、企業のブランディング効果も望めるでしょう。継続して契約し続けることができれば、地域との結びつきが強固になり、新たな生存戦略を生み出してくれる可能性もあります。

ネーミングライツが、地域に根ざした中小企業の突破口になるかもしれません。

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この記事を書いた人

滿留悠平
一男一匹の父。大学で比較文学を専攻し、論文集への掲載を経験。IT企業のシステム講師を務めたのち、ライターとしてふたたび文章の世界へ。座右の銘は「謙虚に貪欲に」。薬機法管理者。コスメ薬機法管理者。

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