P2Cとは?D2Cとの違いやそのビジネスモデルに注目
事業者がECサービスを手軽に導入できるようになった現在では、「メーカーが直接、消費者に商品を販売するビジネスモデル」が増えています。
その傾向は企業にとどまらず、ここ数年では「個人」がオリジナルの商品を自身で直販する「P2C」というモデルが見られるようになりました。ECサービスの発展と普及によって、事業規模を問わずビジネスを成功に導くチャンスが開かれているのです。
この記事では、P2Cの概要や、注目されている背景をふまえ、実際の成功事例を紹介していきます。
目次
P2Cとは
P2Cは「Person to Consumer」の略であり、「PtoC」と表記されることもあります。直訳すると「個人から消費者へ」という意味になり、個人が独自の販売チャネルを通じ、自身で企画した商品を直販する形態を指します。
P2Cの最大の特徴は、代理店や小売店を挟まず、個人が企画から販売までを手がける点でしょう。従来は個人が通販ビジネスを運営する際、多くのリソースを必要としましたが、ECプラットフォームの発展とともに導入・運営のハードルが下がり、個人が参入しやすい環境になりました。
P2Cにおけるブランディングには、しばしばYouTubeやInstagramなどのSNSが媒体として活用されています。自身で立ち上げたブランドの理念を紹介したり、商品の開発背景などを伝えたりするコンテンツを投稿し、認知を広げながら販売窓口へとつないでいくモデルが典型的です。
このようにP2Cにおいては、「Webにおける発信力」が大きなファクターとなっており、この点で従来の「インフルエンサーマーケティング」と比較されることもあります。しかしP2Cにおいては、個人が「企業の広告塔」ではなく、「企画・販売の主体」として位置づけられる点が、インフルエンサーマーケティングとの大きな違いです。
P2CとD2C/C2Cの関係
P2Cと近いマーケティング手法として、「D2C」が挙げられます。D2Cは「Direct to Consumer」の略であり、メーカーなど商品の生産者が、卸業者や代理店を挟まずに直接消費者と取引を行うモデルです。
「ダイレクトに消費者と取引する」という構図はP2Cと共通していますが、両者の違いは、P2Cの事業主体が企業ではなく「個人」だという点にあります。P2Cはいわば「D2Cが個人規模へと派生したもの」であり、「より小さな事業主体が企画から販売までを実現できるようになった」ことに言葉の焦点があるのです。
このように、「D2Cの次のモデル」としてP2Cが台頭しつつある現状は、マーケティングを取り巻く状況が新たな段階に入っていることを表しています。言い換えれば、SNSやECサービスの発展を背景に、「個人でもオリジナルの商品を売り出していける時代」が到来しているといえるでしょう。
また、P2Cと似た言葉に「C2C(Consumer to Consumer)」があります。これは「消費者から消費者へ」という意味であり、フリマアプリやシェアリングサービスなどを通じ、個々人が自身の所有する財・サービスを販売したり、貸し出したりするビジネスモデルを指す言葉です。
P2Cとの違いとしては、C2Cが「個人がオリジナルの商品やサービスを企画・開発するのではなく、所有する財をめぐって取引を行う」という点が挙げられます。
なお、D2Cについての基礎知識や、成功のポイントについては以下の記事で詳しく解説しております。あわせてご参照ください。
P2Cが注目される背景
個人が直接モノやサービスを消費者に販売する形態は、時代を問わず個人商店などの形で営まれてきました。しかし現在では、インターネット環境の変化や、ビジネスツールの発展などを背景に、個人がより広い層に向け、ビジネスを展開するための地盤が整いつつあります。
以下ではより詳細に、P2Cが注目される背景について考察していきます。
個人の発信力の拡大
P2Cに見られる「個人の発信力・影響力を活かしたビジネスモデル」は、以前から「芸能人が自身のブランドを立ち上げる」といった形で実践されてきました。
とはいえ、消費者に対する個人の影響力は、長らく「マスメディアへの露出度」に左右されてきたといえます。そのため、「個人が自分の知名度を活かし、自身のブランドを持つ」といったモデルは「一部の有名人だけができること」と受け取られてきた面があるでしょう。
しかしSNSが普及したことで、マスメディアに依存しない形で情報を広く発信できる個人が現れるようになりました。「発信力」が一部の著名人だけのものではなくなり、オリジナルブランドやショップ開設の門戸は大きく開かれたといえます。
こうした背景から、知名度がない状態からでも、コンテンツの発信方法を工夫したり、ほかにはない着眼点から商品を企画したりすることにより、認知を拡大しうる環境になったと考えられるのです。
「個人への共感」が購買行動を左右する時代
SNSの発展とともに、購買時における消費者の情報収集や意思決定のあり方にも変化が見られるようになりました。なかでも大きな変化として、「共感」というファクターが購買行動を左右する傾向が挙げられるでしょう。
SNSなどのレコメンド機能に代表されるように、Web上の情報は並列的な関係ではなく、個々の好みに応じてパーソナライズされた形で提供されます。ここから、「好きな発信者からの情報を重要視する」傾向が加速し、オンラインサロンをはじめ「好意や愛着」を背景とする消費モデルが散見されるようになりました。
現在では同様に、SNSを通じて獲得したファンの存在が、売上を大きく向上させるケースも頻繁に見られるようになっています。こうした背景から、マーケティング戦略において「人物やキャラクターへの共感を促すことで、顧客のロイヤリティを高める」という視点が重要性を増しているといえます。
事業を手がける個人のキャラクターとともにブランドコンセプトなどを発信していけるP2Cのモデルは、こうした「共感ベース」のビジネス展開に適していると考えられるでしょう。
ECサービスの技術的発展
ECサイトを運用するにあたり、従来はマーケティングの戦略立案や売上・在庫管理など、膨大なリソースが必要でした。ところが現在では、Web上のユーザー行動を分析したり、顧客関係や在庫の管理を自動化したりするツールが普及したことで、マーケティングや販売業務に要するリソースは大きく削減できるようになりました。
EC事業を運用するためのアウトソーシングサービスも、個人が物販を営むうえで力強い味方となるでしょう。BASEやShopifyなどECプラットフォームを提供するサービスや、Amazonをはじめ、商品の入荷から配送までを一括で委託できるフルフィルメントサービスなど、個人のEC事業を後押しするサービスがさまざまに用意されています。
なお、ECサイトの売上をアップさせるための基本的な観点や施策については、以下の記事をご参照ください。
P2Cの成功事例
P2Cの事例が多く見られるのは、動画や写真で着用・使用イメージが伝わりやすいアパレルや化粧品の分野です。もちろんそれ以外の分野であっても、効果的なビジネスモデルを構築することは十分に可能でしょう。
たとえばSNSに投稿するコンテンツと視聴者の属性から、扱う商品の特性を工夫するなど、購買意欲を喚起する方法はさまざまに考えられます。
ReZARD
「ReZARD(リザード)」は、有名YouTuberのヒカル氏が立ち上げたアパレルブランドです。ヒカル氏自身が商品の企画に携わり、YouTube上でブランディングを行ったり、着用モデルとなったりすることにより、同氏のファンに対して直接魅力を訴求しています。
上のように、新作を紹介する動画内では、具体的な着用イメージを提示するだけではなく、制作の背景や思い入れなどを「打ち明け話」のようなトーンで紹介しています。宣伝ではなく「友人間のぶっちゃけ話」といった雰囲気を作る工夫が、「ブランドへの親近感」につながっていると考えられるでしょう。
商品の特性として「着心地のよさ」をアピールポイントとしている一方で、ECサイト上での商品説明は最低限に留められ、動画視聴者以外に対するPRには積極的とはいえない面があります。あくまでReZARDの方針は、「ファン層への訴求」に特化したマーケティングにあるといえるでしょう。
なお、ブランドの立ち上げはアパレル系ECサイト「ロコンド」との協業により実現したものであり、純粋に個人のみが運用しているわけではありません。とはいえ、「個人の有する影響力の大きさを存分に活かしたビジネスモデル」を定着させたことから、ReZARDはP2Cのパイオニアとして位置づけられています。
売上の面も好調であり、ロコンドとのコラボシューズは大きな反響を呼び、ヒカル氏のYouTubeチャンネル上での発表から約1週間で6億円の売上を記録したとのこと。
(参照:FASHIONSNAP.COM「ロコンドがYouTuberヒカル「リザード」とのコラボ新作を発売 パンプスやブーツも」)
化粧品ブランドとして「ReZARD beauty」というチャネルも展開中であり、こちらも3か月で10億円を売り上げるなど、P2Cの可能性を顕著に示す事例となっています。
(参照:モデルプレス「ヒカル、3か月で10億売り上げ表彰される “美”に対する想い「100%これからの日本は美容に力をかける」」)
louren
「louren(ローレン)」は、Webデザイナーとして活動するなか、Instagramに投稿するコーディネートが好評を博し、インフルエンサーとなった佐藤涼実氏が立ち上げたアパレルブランドです。佐藤氏自らがブランドのクリエイティブディレクター兼デザイナーを務めています。
「大人のフレンチベーシック」というコンセプトがWebサイトやInstagramアカウントに通底しており、洗練された写真やテクストによってブランドの魅力を的確に訴求している点がブランディングの特徴です。
lourenのInstagramアカウントには、「キャンペーン情報」などは見られず、新作を予告する投稿がメインになっています。「早く着てみたい」というファンの期待をくすぐりつつ、ブランド価値を保つための工夫がなされているのだと考えられます。
具体的な商品説明はWebサイト上で行っており、SNSは宣伝よりも「スナップを用いたブランドイメージの提示」という側面が強いといえるでしょう。
佐藤氏個人のInstagramには、自身のコーディネートが投稿されていますが、lourenに限らず多様なブランドのアイテムを取り入れていることが特徴です。全面的に宣伝するのではなく、あくまで「コーデの参考になるアカウント」としての立ち位置を守ることで、ユーザーのニーズに応えています。
オンラインショップのほか、2021年には渋谷区広尾に実店舗をオープンしており、P2Cを代表する成功例に数えられるでしょう。
DIYカミヤの木材販売所
「DIYカミヤの木材販売所」は、YouTube上で木工DIYについての情報を発信するカミヤ氏が手がけるDIYキットのオンラインショップです。運営者のカミヤ氏は、普段から「工具の使い方」や「家具の作り方」などの動画コンテンツを数多く投稿しており、DIYを趣味とする視聴者に役立つ情報を発信しています。
動画の投稿に加え、DIY技術の上昇を目指す視聴者からのニーズに応える形で、「動画の内容に紐づいたDIYキット」を販売しており、この「投稿コンテンツと販売商品の親和性」がP2Cのモデルとして際立ったポイントです。
あくまで「販売メイン」の形を取るのではなく、投稿するDIYコンテンツのクオリティによってファンを集めたうえで、「視聴者のスキルアップの補助」としてキットを販売しており、この構図にはP2Cを成功に導く大きなヒントが隠されています。
アパレルや化粧品以外のジャンルでも、「ユーザーが求めるコンテンツを投稿し、ユーザーのセグメントに適したモノやサービスを販売する」ことで高い効果を上げている典型的な事例といえるでしょう。
P2Cビジネスの可能性
個人の発信力が高まり、また同時に「人への共感」が購買行動を引き起こす傾向が見られるなかで、今後もP2Cの市場は拡大していくと期待されます。
自身の発信チャネルを通じてフォロワーを獲得しつつ、商品やサービスの販売につなげていくモデルがP2Cの典型例です。このモデルでは、広告費をかけることなく「自身に関心を抱く消費者」に訴求できるため、きわめて効率的にマーケティングを進められると考えられます。
販売業務を手がけるうえで、ニーズやロットの管理がしやすい点もP2Cのメリットです。ターゲットが自身の「フォロワー」や「チャンネル登録者」となるため、ユーザーの属性や行動をセグメント化したり、潜在的な顧客数を見通したりといった作業も簡便になるでしょう。
発信力を活かしたビジネスは、かつては一部の著名人に限られたモデルでしたが、現在では一般の個人でも成功のチャンスが期待できる時代になりました。ヒカル氏のように大量のフォロワーを抱えていなくとも、佐藤氏のデザインスキルや、カミヤ氏の趣味の知識といったように、自分の特技や独自の発想を活かしてビジネスを展開できる可能性は開かれています。
自身でのマネジメントが難しい場合でも、ショップの立ち上げやマーケティング戦略の立案を補助するサービスも見られるようになっています。
さらに、個人による参入の増加は、代理店業務の需要増にもつながると考えられるでしょう。P2Cの市場拡大は、ビジネスの中核となる個人のほかにも、そのような事業主のマーケティングをサポートする企業にとっても、大きな商機をもたらすと考えられます。
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