PDCAサイクルとは?古いといわれる理由・代わるものまで紹介
現在ではさまざまなビジネスフレームワークが知られるようになり、多くの企業においてマーケティング施策の改善や、業務効率化のために活用されています。なかでもスタンダードな業務改善の方法論として、広く普及しているのが「PDCAサイクル」です。
ところが近年では、プロジェクトの進行管理に役立つ循環モデルが新たに登場しており、PDCAを「古い」とする意見も聞かれるようになりました。
この記事では、PDCAサイクルの概要や、現在的な意義とともに、新たな循環モデルについても紹介していきます。
目次
PDCAサイクルとは
PDCAサイクルとは、生産・品質管理をはじめとする業務工程を継続的にチェックし、現状の問題を解決するためのフレームワークです。「Plan (計画)」「Do (実行)」「Check (評価)」「Action (改善)」というサイクルを繰り返すことで、業務におけるムダやミスを削減することを目的としています。
もともとは製造現場において用いられていたフレームワークですが、その汎用性の高さから世界規模で実践されるようになり、現在ではさまざまな業務やプロジェクトを管理する際のスタンダードな手法として定着しています。
PDCAサイクルが有効な場面
PDCAサイクルは、プロジェクトの計画段階から実行、さらにその後の評価・改善に至るまでをカバーする方法論であり、業種や業態を問わず取り入れられています。
とくに有効な場面の1つとして、反復的な作業工程におけるロスの削減など、「日々の業務の効率化」が挙げられるでしょう。漫然となりやすい日常的な業務をPDCAサイクルの枠から捉えることで、不断に改善の余地を発見し、継続的な効率化につなげていくのです。
さらに、プロジェクトの進行管理においても効力を発揮します。たとえば新規事業を始める際など、「トライ&エラーからフィードバックを得て改善につなげる」というプロセスの確立に役立つでしょう。
また、既存のプロジェクトを見直したり、変更を加えたりする際にも有効です。進行中の案件などについて、現状の問題を浮かび上がらせ、1つずつ解決していくことにつながると考えられます。
総じて、「事前の準備」から「事後の検証」までをパッケージングしたPDCAサイクルは、幅広い業務に適用できる普遍的なフレームワークとして位置づけられるでしょう。
PDCAサイクルの回し方と実践例
PDCAサイクルの各段階において、どのような視点から分析や検証を進めていけばよいか、具体例とともに解説します。
Plan(計画)
まずは自社の状況やプロジェクトの狙いをふまえ、定量的な目標を設定します。現状分析を通じてなるべく具体的な数値を掲げたうえで、「その目標を達成するにはどうすればよいか」を検証し、実行計画を立てましょう。
計画を立てるにあたっては、あらかじめ「実行段階でクリアすべきポイント」を明確にしておくとよいでしょう。チェックポイントを定めることで、後に達成の度合いを評価する際、「どこがどれだけ至らなかったか」を明らかにできるはずです。
たとえば製造現場において、特定工程においてミスが頻発している場合であれば、実際の欠陥率などを測定したうえで、「欠陥率を20%低下させる」などの数値目標を設定することが考えられます。
さらに達成に向けた対策として、たとえば「研修カリキュラムの作成と実施」など具体的な施策を練り、期間やフローを決定していくといった流れがありうるでしょう。
Do(実行)
前段階で定めた計画に沿い、プロジェクトなどを実行に移していきます。実行後の進行段階においては必ずデータや指標を記録し、後の評価に活かせるようにしておきましょう。
それ以外にも、「計画段階からギャップを感じるポイント」など気づく点があれば、その都度記録しておくことが大切です。後々のフィードバックにつなげる視点をもつことで、評価の段階において多くの材料が得られるでしょう。
先の「製造現場のミス削減」という例でいえば、研修カリキュラムの実施状況を記録するほか、受講者にフィードバックシートを記入してもらうなどの取り組みが考えられます。そのうえで、規定の研修期間を終えた後、再度同じ工程における欠陥率を測定し記録するなど、効果測定に向けた措置が求められます。
Check(評価)
評価段階においては、まず「定量的な目標がどの程度達成できているか」を確認します。達成できなかった場合には、「どの程度目標に届かなかったか」を明確にしつつ、「なぜ達成できなかったか」という原因を検証していきましょう。
検証の際には「そもそも目標は妥当だったか」という観点も重要です。計画を実行に移してから気がつくポイントもありうるため、後になって「計画時の目標が適切でなかった」と明らかになるケースもあります。その際は「どのような点で妥当でなかったか」を掘り下げ、状況に適した目標をあらためて設定しましょう。
目標が達成された場合にも、達成できた原因やその他の気づきなど、フィードバックにつながる材料をなるべく多く出しておくことが大切です。
先の製造現場の例でいえば、たとえば「欠陥率は15%低下したが、目標には5%届かなかった」という場合の対応として、達成できなかった原因を検証し、「研修内容の妥当性」や「技術の習得状況」などをチェックしていくことが考えられます。
加えて、作業のミスを定量的に分析したり、フィードバックシートの記載内容を確認したりすることで、「カリキュラムの特定箇所に説明が不十分な点があった」など、具体的な原因を追求していくことが必要です。
Action(改善)
評価段階で得られたフィードバックをもとに、具体的な改善策を練っていきます。評価段階で複数の課題が浮き彫りになるケースも考えられますが、その際はなるべく「根本的な問題」に焦点を絞ったうえで、解決策を検討していくとよいでしょう。
抽出された問題に対し、「改善のために何が必要か」が見通せるようになったら、次回の計画段階へと移行しましょう。計画に改善点を盛り込みつつ、再度PDCAサイクルを進めていきます。
先の例でいえば、評価を通じて明らかになった「カリキュラム上の不備」をさらに深掘りし、「言葉や図による説明では理解が難しいポイントがあるため、映像や実地作業によって直感的な理解を促す」など、具体的な改善案を講じることが求められるでしょう。
PDCAサイクルを上手に回すポイント
PDCAサイクルはさまざまな場面で有効なフレームワークである一方、形式的に実施していては十分な改善効果が得られないケースも考えられます。フレームワークの特徴を押さえつつ、以下のようなポイントに注意おくとよいでしょう。
目標設定を明確にする
PDCAサイクルによる改善効果を高めるには、まず計画段階における目標設定を適切に行うことが大切です。目標が明確になっていないと、後の評価段階において「目標に至らなかった原因」が見通しにくくなり、改善案にもつなげにくくなります。
目標はなるべく現実的に可能な範囲で、かつ具体的な数値として設定することが求められます。一度に多くの目標を立てるのではなく、根本的な課題に関する目標に絞っていくことで、その後の評価や改善のプロセスにおいても着眼点がシンプルになるでしょう。
マンネリ化を防ぐ工夫を
PDCAサイクルの大きな特徴として、「サイクルを繰り返すことによる継続的な改善効果」が挙げられます。一方で、長期にわたってサイクルを回していると、改善すべきポイントが見つからなくなっていくケースも考えられるでしょう。
停滞感が生じた際には、計画段階における目標設定の視点を変えてみることも有効な手段です。これにより、業務への関わり方や日々の視点が変化し、新たな気づきを得られる可能性があります。
異なる分析フレームワークを取り入れる
PDCAサイクルは、プロジェクトの進行管理や生産工程の品質管理において「大枠」を定めるフレームワークです。つまり裏を返せば、各段階において必要になる「具体的な検証ポイント」を細かく定めているわけではありません。
PDCAサイクルを回していくなかで、それぞれの段階における分析や検証の精度を高めていくには、場面に応じて別の分析フレームワークを取り入れていく手もあります。
たとえば計画段階において、市場戦略を固めるための「STP分析」を実施したり、改善策を講じる際に自社の商品・サービスの特性を整理する「4P分析」を実施したりといった方法が考えられます。状況に応じた分析方法を取り入れることで、PDCAサイクルの効率や精度も高まっていくでしょう。
PDCAは古いのか
PDCAサイクルは提唱されてから半世紀以上が経つ方法論であり、当時と現在を比べると、産業構造や業態の面において大きく異なる部分があります。
とくにWebを中心に展開されるマーケティングにおいては、技術環境が変化するペースが速いため、プロジェクトの計画から実行、改善までのプロセスを短縮化する傾向が見られます。
こうした背景から、現在では計画から改善までに一定の時間を要するPDCAサイクルが「時代にマッチしていない」とする声も聞かれるようになりました。とくにWeb広告施策などスピーディな戦略展開が求められる分野においては、後に紹介するような「コンパクトなスパンで実行可能な循環モデル」も導入されはじめています。
もちろん依然として、PDCAサイクルは反復的な作業や環境変化の少ない産業におけるプロジェクト管理においては有効だといえます。個人や組織がビジネスを向上させるうえで、「計画」「実行」「評価」「改善」というサイクルは普遍的です。
PDCAサイクルは時代を問わずアイデアや業務をブラッシュアップしていく際に役立ちます。完全に「古い」と切り捨てるのではなく、方法論の1つとして有効に活用していきたいところです。
PDCAに代わるもの
先述のように、現在ではPDCAのほかにもプロジェクトの進行を管理するための循環モデルが登場しています。以下ではそのなかでも代表的なサイクルについて、概要と特徴を紹介します。
OODAループ
OODA(ウーダ)ループは、「意思決定のプロセス」を効率化するためのモデルです。軍事戦略の立案において頻用されていたフレームワークを一般化したものであり、以下の4つの要素から成り立っています。
Observe(観察)
状況を見渡し、自身を取り巻く環境を把握する段階です。マーケティングにおける情報収集や競合分析などにあたります。
Orient(状況判断)
Orientは「方向づけること」を意味し、状況をふまえて自身の取るべき方針を固めていく段階です。マーケティングにおける例としては、データ解析にもとづくターゲティングなどが挙げられるでしょう。
Decide(意思決定)
導き出された方針に沿って、具体的にどのような行動に出るのかを決める段階です。施策案を具体化し、予算や人員など戦略を固めていくフェーズにあたります。
Act(行動)
計画に沿って戦略を実行に移す段階です。メンバー間の統率を取りつつ、プロジェクトを適切に管理・遂行していきます。
このように、OODAは基本的に「状況分析から実行まで」に焦点を当てており、「意思決定を的確かつスムーズに行うこと」を目的としています。評価や改善を趣旨とするPDCAに対して、「その場その場での迅速な対応」が求められる場面に適したモデルだといえるでしょう。
STPDサイクル
上記のOODAと同様、「状況分析から実行まで」にフィーチャーしたモデルとして、STPDサイクルが挙げられます。ソニー株式会社の常務取締役などを歴任した小林茂氏によって提唱されたモデルとされ、以下の4つの要素から成り立っています。
See(観察)
状況を的確に捉えるための情報収集の段階です。市場調査や競合調査、自社の分析などを通じて、現状の課題を明確にしていきます。
Think(考察)
観察を通じて得られた材料をもとに、さらに検証を深めていく段階です。市場における自社の位置づけや、ターゲットとして狙うべき市場を浮かび上がらせながら、事業やプロジェクトを通じて達成すべき目的を明確化し、そのために解決すべき課題を整理していきます。
Plan(計画)
考察した内容をふまえ、計画を具体化していく段階です。目標を具体的な数値として設定しながら、さまざまなハードルをクリアするための方策を組み立てていきます。
Do(実行)
計画を実行に移す段階です。目標に対する進捗状況を適宜確認しながら、方針にズレがないか、修正の必要がないかを検討していきます。一定の期間が経過した後、また最初の「観察」の段階からサイクルを再開し、これを繰り返します。
STPDはPDCAに比べて実行後の「評価」や「改善」というプロセスがなく、現状分析から実行までをよりコンパクトなサイクルで回すことに適したモデルです。事業のスタートから間もない段階など、「短い間隔で状況を見通しつつ戦略を変化させていく」といった場合に有効でしょう。
DCAPサイクル
DCAPサイクルは、PDCAサイクルから派生したモデルであり、要素もまったく同じ4つから成り立っています。
異なるのは実践の順番であり、DCAPにおいては「実行」「評価」「改善」「計画」というように、「実行段階」が先頭に置かれている点が最大の特徴です。
この特性から、事前に状況を見通すことが難しく、「まずはやってみてから具体的な課題を把握したい」という場面で用いられる傾向にあります。とくに「初動の早さ」を重視したいときに有効な方法だといえるでしょう。
このように、PDCAサイクルのほかにもプロジェクト進行管理や業務改善に役立つ循環モデルは複数あります。それぞれのフレームワークには異なる目的が与えられており、自社の業態や事業方針、プロジェクトの概要など、状況にあわせて適切なものを選ぶことが大切です。
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