リテンションマーケティングとは?既存顧客を維持するための事例
各商品、サービスを提供している企業にとって、新規顧客獲得は永遠の課題ではありますが、人口減少が進む日本においては、それだけでなく、既存顧客との関係性を維持する「リテンションマーケティング」の重要性が高まっています。
目次
リテンションマーケティングとは
英語で「維持」を意味するRetentionと「販売・提供にいたるさまざまな活動」を意味するMarketingから成る「リテンションマーケティング(Retention Marketing)」とは、既存顧客との取引継続を目的としたマーケティング施策のことです。
リテンションマーケティングがなぜ必要なのか
リテンションマーケティングを行うことで、LTV(Life Time Value)の向上が期待できます。LTVとは「顧客生涯価値」のことで、一人の顧客が特定の企業と取引をし、その一生のうちに企業が得られる利益を意味します。LTVについての詳細や最大化させる施策についてはこちらの記事をご覧ください。
1:5の法則というものによれば、新規顧客を獲得するには、既存顧客を維持する際と比べて5倍のコストが必要とされています。取引をしたことがある顧客であれば、既にその企業を認知しており、アカウント作成などの手間もないため、購入といったアクションのハードルが下がるからです。
セールスにかけられる経済的・時間的リソースは有限です。売上アップには新規顧客の獲得ばかりに比重を置くよりも、休眠顧客の掘り起こしをしたり、既存顧客のクロスセルやアップセルを狙ったりするほうが効率的だといえるかもしれません。
なお、ECサイトにおけるクロスセル・アップセルの具体的な提案方法についてはこちらの記事の「クロスセル・アップセルを狙う」をご覧ください。
リテンションマーケティングは新規顧客の獲得にも繋がる
上述のように、リテンションマーケティングとLTV向上は密接に結びついています。継続して取引してもらえなければ、LTVの向上も望めないからです。
また顧客満足度の向上を追求することで、ブランドや会社に対するロイヤルティを高めることが可能となり、継続的な取引につながります。そうすると自然とポジティブな評判やクチコミが発生するようになるため、新規顧客の獲得もしやすくなる好循環が生まれます。
リテンションマーケティングは、新規顧客獲得をあきらめた消極的な施策ではありません。既存顧客を大事にすることは、新規顧客獲得にもつながるため、企業価値を高めるための積極的な施策だといえます。
リテンションマーケティングの成功事例
リテンションマーケティングの成功事例として具体的に3社の事例を紹介します。
Amazon.com
世界でも有数の巨大ECサイト、Amazon(Amazon.com)。単に多くの商品を購入できるだけでなく、有料サブスクプラン「Amazon Prime」などのサービスも広く知られている同社は、リテンションマーケティングの成功例に挙げられます。
取引継続のため、顧客の閲覧データをもとに、後述のリテンションメールを送ったり、カスタマーサービスで手厚いフォローをしたりしています。商品が届かなかった、購入した電子書籍が開けなかったなどトラブルに見舞われても、ヘルプデスクに相談すればチャットや電話で対応してもらえます。メールでやりとりするような煩雑さはありません。しかもほとんど待たされずに対応してもらえるレスポンスの早さが特徴です。
顔が見えないECサイトですが、Amazonは迅速かつ丁寧なトラブル対処で信頼を勝ち得ています。アメリカにおいては、Amazonで買い物をする顧客の88%がGoogleなどの検索エンジンを使わず、直接Amazonにアクセスして探すとのこと。つまり最初からAmazonで買う姿勢を見せているということです。
同社は顧客と継続的な取引関係を結ぶという点において、世界でもっとも成功している企業のひとつといえるでしょう。
参考:Digital Commerce 360 “Most Amazon shoppers have eyes only for Amazon”
カラダファクトリー(株式会社ファクトリージャパングループ)
カラダファクトリーは国内外に合計350店舗以上を構えるボディメンテナンス総合サロンです。上記のAmazonとは違い、実店舗で施術を行ったり、健康関連商品の販売を行ったりしています。
カラダファクトリーでは、紙の会員カードだけでなく、メンバーズアプリを使ったリテンションマーケティングを行っています。アプリ会員に登録することで自分の施術履歴をチェックできたり、誕生月に割引クーポンがもらえたり、思いついたときにその場で簡単に店舗予約ができたり、と利用者に大きなメリットがあります。
またアプリからクーポン配布や各種「お知らせ」も通知しています。定期的に存在をアピールしつつ顧客にメリットを提供し、継続的な関係を構築する施策だといえるでしょう。
ちなみにカラダファクトリーのリピーター顧客は全体の約80%にも上り、お客さま満足度も97.96%を保持しているそうです。
参考:フランチャイズ比較.net 健康ブームの今が狙い目! 整体サロン『カラダファクトリー』のフランチャイズ、カラダファクトリー公式サイト
リピーター顧客のメンバーズアプリ利用率は明らかにされていませんが、割引による経済的メリットが大きいため、リピーターほど活用している可能性は高い可能性があります。
マクドナルド(日本マクドナルド株式会社)
世界で有数のファストフードブランド、マクドナルドはSNSを上手に活用して顧客との関係性構築を行っています。
日本マクドナルド公式Twitterのフォロワー数は約510.9万人(2022年8月時点)。新商品の紹介やマックカードプレゼントキャンペーンの告知、クイズなど1日に4件ほどのペースでツイートしています。
\サムライマック®1億食突破記念🎊/
— マクドナルド (@McDonaldsJapan) August 22, 2022
たくさん食べていただいた皆さまに、感謝を込めて、マックカードプレゼントキャンペーンを開催します✨
この投稿に【#サムライマック1億食突破】をつけてリプライした方の中から、抽選で100名様にマックカード1,000円分をプレゼント🎁#大人を楽しめ
1万件以上リツイート参加されている様子からは、マクドナルドのツイートに敏感で積極的な顧客が多いことが伺えます。また同時に1億食突破のお祝いツイートも多数見られたので、顧客のファン化にも成功しているといっても良いのではないでしょうか。
マクドナルドはSNSから公式サイトへ誘導し、アプリのダウンロードを促すといったことも行っています。SNSがブランディングや関係性構築、広告など複数の役割も兼ねているといえるでしょう。
リテンションマーケティングの方法
リテンションマーケティングには、一般的に下記の手法が採用されています。
リテンションメール
購入履歴のある顧客に向けてメールで情報発信をします。取引完了後にお礼を伝える「サンクスメール」や、しばらく取引のない顧客に向けてお得な情報を伝える「休眠発掘メール」などが一般的です。次回の来店を促すサンクスメールの例文については、別途記事をご覧ください。
これらはルート営業のようなもので、顧客からのアクションを待つのではなく、忘れられてしまわないように会社側からアクションを取ります。
また顧客がECサイトを閲覧したデータから、下記のように取引履歴にない商品のオファーメールを送るやり方もあります。このようなきめ細かなフォローには、後述の顧客情報管理が欠かせません。
また、ユーザーの行動の段階に応じて3通から5通程度のボリュームでシナリオを組んだ「ステップメール」を順次送信していく手法も、キャンペーンを盛り上げるために使われます。たとえば新製品の発売に向けて、少しずつ情報を開示していくなど。
ネットビジネスの多くは、決済の際に顧客情報としてメールアドレスを取得します。購入者とコンタクトを取る窓口としてうまく活用しましょう。
SNSでの告知
メールだけでなく、SNSを使った手法も考えられます。ブランドのアカウントをフォローしている既存顧客に対して、新製品の紹介や同社製品に関するコラムを投稿したり、DMで割引クーポンコードなどを配信することで、継続的な関係性を維持します。
SNSの場合、まずは顧客からフォローしてもらえないと働きかけができません。取引完了メールにSNSアカウントを記載し、フォローを促すなどしましょう。
58.8万人ものフォロワーを抱える(2022年8月時点)Amazonの日本向け公式Twitterアカウントは頻繁にセール情報をツイートしたり、Amazonプライム・ビデオで独占配信しているおすすめ作品を紹介したり、新規顧客だけでなく既存顧客にも好まれそうなお得情報を伝えています。
🎬#プライムビデオ 8月後半のおススメ🍉
— Amazon JP (アマゾンジャパン) (@AmazonJP) August 12, 2022
👀https://t.co/e98i57bz5d
洋画『スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム』『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』Amazon Original『サマリタン』独占配信😍
海外ドラマ『THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから』S6最終章もお見逃しなく👋 pic.twitter.com/PsqE1Ko7vB
またECサイトだけでなく、スターバックスのような実店舗での営業活動が主体の企業も、SNSを上手に活用して、新規顧客だけでなく既存顧客との親密感を醸成しています。
こちらは実際に投稿された公式アカウントによるツイート。一度来店したことのある既存顧客も、また別の店舗に訪れたくなるような「My Store Passport」というサービスを紹介しています。
My Store Passport をご存じですか?✈️
— スターバックス コーヒー (@Starbucks_J) August 17, 2022
まるでスターバックス版 御朱印帳のように訪れたお店や都道府県別・メダルなどのスタンプや、お店からのメッセージが届くデジタルパスポートです📱🏅
どんな種類のスタンプがあるか覗いてみませんか。https://t.co/nEbHaO430D pic.twitter.com/EpSZ7KIk18
アプリのプッシュ通知
スマホアプリから商品を購入する顧客に対しては、アプリのプッシュ通知が有効です。スマホのホーム画面に表示されるため、気づいてもらいやすいのが特長です。
こちらもECサイトだけでなく、マッサージサロンの予約アプリや会員証アプリでも採用されています。しばらく通っていなかった顧客に対して、割引クーポンなどを発行するなどして来店を促しましょう。
カスタマーサポート
企業側から動く施策ではありませんが、取引履歴のある顧客がカスタマーサポートに問い合わせをしてきたら、関係性構築のチャンスです。チャットサービスや電話応対で、顧客に満足感と安心感を与えることができれば、継続的な関係性を築きやすくなります。
会社都合の売り込みばかりでは、顧客の好感度は下がってしまいます。必要なときにサポートがしっかりしている会社こそ、安心して使ってもらえるものです。カスタマーサポートの人員を充分に確保し、チャットサービスなどを導入したり、制作部署などと連携したりすることで、顧客の悩みを解決できるようにしましょう。
リテンションマーケティングを成功させるポイント
リテンションマーケティングを行うには、顧客一人ひとりに合わせたフォローをする必要があります。しかしネットビジネスにおいては、個人商店のように「常連さん」を覚えておくことは困難です。
CRMツールを活用し、分析結果のセグメントに合わせたアプローチをしましょう。CRMとはCustomer Relationship Managementの略称で、顧客管理システムのことです。その目的は、顧客と良好な関係性を構築する点にあります。
そのため顧客の購入履歴や閲覧記録などを管理し、売れ筋商品の傾向を分析したり、蓄積されたデータから顧客が次になにを求めるか予測するなど、必要に応じてさまざまな機能を持ったツールが数多く存在するのが特徴です。
CRMを導入せず全ての顧客に画一的な対応をすると、男性顧客に女性用商品のセール情報を送ってしまうなど、顧客個人のニーズとずれた提案をしてしまい、関係性を損なうおそれがあります。
AmazonやZOZOTOWNなどのように詳細な管理を行えば、商品を閲覧しただけでもデータが蓄積され、あなたが必要としている商品はこれではありませんか?とメールで提案することも可能になります。必要に応じてCRMツールを選びましょう。
CRMツールに必要な情報は業態によって異なる
年齢や性別、その製品を求める顧客の消費傾向などから、顧客のセグメントを細分化するほど、顧客個人の要望や行動を分析しやすくなります。しかしCRMに入力するパラメータは事業の業態やサービスによって異なるので、一概にはいえません。
実店舗を持つ企業の会員アプリなら、顧客の名前や誕生日、メールアドレス、来店履歴、購入した商品・サービスの一覧は欠かせないでしょう。これだけのデータでも、しばらく来店していない顧客に対してダイレクトメールを送付したり、誕生日割引などを打つことが可能です。
ただし先述のようにECサイトの商品のリサーチに合わせて「この商品を買った人はこれも買っています」と、緻密なクロスセルやアップセルを提案するためには、膨大な売れ筋商品のデータを取得・分析して傾向を把握する必要があります。
分析結果に対して打った施策の結果を次回反映させられれば、さらにデータが充実するので精度も高まるでしょう。顧客関係管理においてもPDCAサイクルは有効です。
リテンションマーケティングは、顧客個人への最適化をすることで良好な関係を構築し、取引継続を目指します。顧客データの蓄積や活用には時間がかかるので、少しずつ対応していきましょう。
今後ますます競争が激しくなるビジネスシーンにおいて、既存顧客を離さないように関係性を維持することが大切です。
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