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ステルス値上げ(シュリンクフレーション)とは?ファンが減少する対策はNG

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現在、世界的な物価上昇にともなう原材料費の高騰や、近年例を見ない円安傾向が、企業活動に大きな影響を及ぼしています。

生産・流通プロセスにおける大幅なコスト増に対して、さまざまな業界が商品・サービスの値上げに踏み切るなか、「ステルス値上げ(シュリンクフレーション)」と呼ばれる対策を取る企業も見られるようになりました。

世間的に賛否の分かれるステルス値上げは、原材料価格の高騰への対策として、どの程度有効なのでしょうか。この記事では、ステルス値上げの概要をふまえ、インフレ対策としての妥当性や、その他の方策について検証していきます。

ステルス値上げとは

カップラーメンを食べる女性

ステルス値上げとは、レーダーに映らない「ステルス」のように、消費者が気づきにくい方法で行われる値上げを指します。たとえば「100円で10個入りのお菓子を、同じ値段のまま9個入りに変更する」というように、「商品価格を据え置きながら、内容量などを減らす」という方法が一般的です。

このような「内容量を減らすことによる実質的な値上げ」は、「シュリンクフレーション(shrinkflation)」とも呼ばれ、世界的に指摘される動向となっています。縮小することを意味する「シュリンク(shrink)」と、物価上昇を意味する「インフレーション(inflation)」をかけ合わせた言葉であり、消費者の関心の高さから、SNSなどにおいても頻出する単語となりました。

また、ステルス値上げの一種として、内容量を減らす以外に「価格を据え置いたまま、使用する素材の質を落としてコストダウンを図る」といった方法を含むケースも見られます。

総じて、「価格をそのままに」「消費者への告知なく」「商品の量・質を低下させる」ことで利幅を確保しようとする動きが、ステルス値上げと呼ばれています。

消費財における国内のインフレーションの現状

2022年に入り、国内における物価指数は近年例を見ないほどの上昇を見せています。総務省統計局の発表によれば、2022年8月の消費者物価指数(2022年9月20日公表)は前年同月比で3.0%の上昇を記録しました。

(参照:統計局ホームページ「消費者物価指数(CPI) 全国(最新の月次結果の概要)」

さらに、消費者庁が2022年3月に行った生活関連物資の価格調査によれば、食料品においては「食パン」と「ポテトチップス」が前年から9%以上上昇。加えて、「カップ麺」「豚肉(ロース)」が6%以上上昇するなど、嗜好品のほか基礎的な食材も大幅に上昇していることがわかります。

日用品においては洗濯用洗剤が5.4%、ティッシュペーパーが2.1%の上昇を記録。なお、ここに挙げた食料品・日用品の価格は、「2015年4月」と比較した場合、1.3倍以上にまで上昇しています。

また、消費者に対するアンケート調査においては、1年後に生活関連物資全般の価格が「上昇すると思う」とする回答者が実に9割以上を占めており、物価上昇に対する消費者意識の高まりが見て取れる結果となりました。

(参照:消費者庁「過去の物価モニター調査結果」内PDF資料「令和4年3月物価モニター調査結果(速報)」

インフレ対策としてステルス値上げはNG?

買い物中の人

世界的にインフレーションが進行するなか、経営状態を堅持するためには何らかの対策が必須です。商品・サービスの値上げは考えうる対策の1つではありますが、そのうち「消費者への告知なく」行われるステルス値上げは、有効な対策となりうるのでしょうか。

ステルス値上げに対する世間の反応

まず、告知のない実質値上げに対して、消費者はどのように受け止めているのでしょう。

価格戦略についてのコンサルティングを行う「プライシングスタジオ株式会社」が2022年4月に行った調査によれば、「ステルス値上げ」という言葉の意味を知っている人の割合は約43%という結果でした。さらに、「ステルス値上げが増えている」と感じている割合は約69%に及んでいます。

ステルス値上げに対する反応としては、「不快に感じる」という割合が全世代で40%を超え、とりわけ26歳~35歳の層においては60%以上が不快感を示しました。

(参照:プライシングスタジオ株式会社(PR TIMES)「プライシングスタジオ、「ステルス値上げ」に関する調査結果を発表。」)

総じて、ステルス値上げは「消費者が気づきにくい値上げ」と定義されているものの、現在では消費者側も実質的な値上げに対して敏感になっている傾向が読み取れるでしょう。

ステルス値上げの有効性

ステルス値上げを行ったとしても、結果的に消費者が内容量の変化に意識を向けなかったり、あるいは気づいても商品の利用を続けたりといったケースは考えられます。実際に、先のプライシングスタジオの調査においては、26歳~35歳の世代を除き、ステルス値上げに対して「仕方がないと思う」と回答する割合が過半数を占めました。

しかし、ステルス値上げに対して抵抗感を示す消費者を看過することは難しいでしょう。とくに近年ではSNSにおける拡散効果などもあり、ステルス値上げが発覚した際「公表せずに量を減らした」という不誠実なイメージが定着するリスクも大きくなっていると考えられます。

たとえばTikTok上では、“shrinkflation(シュリンクフレーション)”に関連した投稿が多く寄せられており、具体的な商品について容量の変化を検証する動画が再生回数を伸ばしています。

(参照:“shrinkflation(シュリンクフレーション)”に関連した投稿(TikTok)

このように、「企業全体のイメージダウン」というリスクを考えれば、「告知なく商品内容を変更する」という対応策が最善とはいいがたいでしょう。

現在では、物価上昇や円安といった社会情勢が多くの消費者に共有されており、企業による値上げに対して一定の理解を示す傾向が見られます。そのため長期的な企業イメージの観点からいえば、値上げの事実を隠さず、その理由や背景について真摯に説明することが、顧客離れを防ぐ最適な方法になりうると考えられます。

原材料の価格高騰への対策

チェス

原材料価格が高騰している状況への対策としては、大きく「コスト削減」と「値上げ」という方向が考えられます。

前者のコスト削減は、利幅を確保するうえでの常道ではありますが、急激なコスト増への対策としては十分な効果を発揮できない可能性もあります。売上総利益は「売上高-売上原価」ですから、原価が著しく膨らんでしまっている状況では、「いくら売っても儲けが出ない」という事態に陥るケースも考えられるでしょう。

仕入れ値が売値に近づいたり、あるいは超過したりする状況においては、人件費などの固定費を削減したとしても、利益の確保が困難になります。こうした状況下では、「値上げによって売上高を上昇させる」ことが求められる場面もあるでしょう。

以下ではステルス値上げに踏み切る以外に、原材料価格が高騰している状況への対応策を検討していきます。

値上げの際には「伝え方」を工夫する

当然、消費者にとって値上げは望ましいものではありませんから、企業としてはなるべく値上げの事実を伏せたいと考えてしまうかもしれません。しかし、値上げを公表する際の「伝え方」によって、消費者の受け止め方は大きく左右されます。

たとえば赤城乳業株式会社は、2016年に安価で知られる看板商品「ガリガリ君」を25年ぶりに値上げする際、同社の会長、社長を含む社員たちが頭を下げるCMを放送し、大きな話題を集めました。

このように、CMを打って値上げを発表し、「謝罪の意」を示そうとする赤城乳業の姿勢に対し、SNSなどでは多くの好意的なコメントが寄せられました。長年愛される定番商品への思いを表現することで、値上げに対する世間の理解が得られた事例だといえます。

一方、しばしば見られる手法として、商品のパッケージングを変更する際に「食べきりサイズ」といった文言で容量減少をオブラートに包むケースもあります。こうした手法は、何の告知もなく内容量を減らす場合に比べると、イメージダウンのリスクは小さいといえるかもしれません。しかし、実質的な値上げに対して消費者の意識が高まっている現状、そうした文言が「ごまかし」のように捉えられる可能性も考慮しておきたいところです。

人件費の削減はNG?

人件費の削減は、従業員の意欲低下・企業の求心力低下に直結し、長期的な経営地盤に大きな穴を空けてしまうことにつながります。とりわけ物価上昇に対する生活不安が高まる現状、給与やボーナスを削減することは、従業員側の「生活に対する困窮感」を惹起し、キャリアを重ねるうえで前提となる「企業への信頼感」を損なうことにもなるでしょう。

コストカットを進めるにも、業務プロセスや流通プロセスなどを見直しながら、「非効率的な部分を改善する」方向に動くことが望ましいでしょう。こうしたプロセスにおける「ムダの削減」は、その後の経営地盤を固めることにもつながると考えられます。

なお、生活者としての危機意識が高まる現状にあって、従業員を経済的に支援することで大きな信頼を得ている企業も見られます。たとえばサイボウズ株式会社は、物価上昇に対する従業員の生活不安を軽減することを目的に、2022年の7月から8月にかけて「インフレ特別手当」を支給しました。

独自の福利厚生により従業員の経済状況を支援することは、短期的に「業務への集中」という効果が見込めるほか、長期的な視点でも人材の流出を防ぎ、継続的なコミットメントを促せるメリットがあると考えられるでしょう。

(参照:サイボウズ株式会社「サイボウズ、インフレ特別手当を支給世界的なインフレ傾向に際し、日本・グローバル拠点にて支給」

補助金の利用

急激な物価上昇は政府としても喫緊の課題であり、コスト増に困窮する企業に対して各種の支援策が用意されています。

中小企業庁が用意する「事業再構築補助金」は、もともと新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業者を対象とする補助金ですが、2022年に入り「原油価格・物価高騰等の経済環境の変化の影響を受けている事業者に対する支援拡充」を決定しました。原油価格や物価高騰の影響を受け、2022年1月以降のいずれかの月における売上高が、2019年~2021年の同月比で10%以上減少している事業者に対して補助金を支給します。

同補助金はこれ以外にも、最低賃金引き上げの影響を受けた事業者や、グリーン分野での事業再建を目指す事業者など、状況に応じてさまざまな支援枠を用意しているため、該当するものがないか確認しておくとよいでしょう。

(参照:事業再構築補助金Webサイト

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この記事を書いた人

鹿嶋 祥馬
大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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