士業で開業する方法・資金とは?成功に必要な準備と独立するメリットやリスクも解説!
行政書士や税理士などの士業において、開業・独立は1つの大きな目標であるという人も少なくないでしょう。しかし、具体的にどのような手順で開業・独立すればいいのか、どれくらいの資金が必要なのか分からない人も多いはずです。
そして開業・独立には様々なリスクが伴います。リスクを乗り越える手段を知っておかなければ、思わぬ失敗に繋がり、廃業に追い込まれる可能性もあるでしょう。せっかく開業・独立するなら、士業の事業を成功させたいです。
そこで、今回は士業の開業に必要な準備と、独立するメリットやデメリットを詳しく紹介していきます。これを読めば、失敗を回避し、安定した軌道に乗せるためのポイントも把握できるでしょう。ぜひ開業・独立を考えたときの参考にしてみてください。
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目次
士業が開業・独立するための方法6STEP
士業で開業・独立するためには、まず士業の資格取得・申請が必要になります。開業届けを出せば誰でも士業で開業・独立できるわけではありません。
具体的には、次の6つのSTEPを踏むことになります。
- 資格の取得や申請を行う
- 事業計画書を策定する
- 事務所の場所を選ぶ
- 必要な備品・ソフトを揃える
- 集客の準備をする
- 開業申請書を提出する
これらのSTEPを踏むと、士業で開業・独立することができます。ここからは、それぞれのSTEPについて1つずつ解説します。
①資格の取得や申請を行う
まずは開業・独立したい士業の資格の取得や申請を行いましょう。
たとえば行政書士の場合は、行政書士の資格が必要となります。例年合格率が10%前後という難関資格です。資格取得後は、日本行政書士会連合会に登録する必要があります。
税理士の場合は、税理士試験に合格しなければいけません。合格率は15%前後で、行政書士と同じく難関資格となっています。試験合格後は日本税理士会連合会の名簿に登録しなければいけませんが、登録には2年以上の実務経験が必要です。
社会保険労務士の場合も上記2つと同様、試験に合格して資格を取得しなければいけません。令和2年度の合格率は約6%と、非常に難しい試験です。合格後は2年以上の実務経験、もしくは事務指定講習の受講を経て全国社会保険労務士会連合会に登録します。
ほかの士業の場合も同様に、資格の取得と登録申請が必要です。士業によっては実務経験がないと登録申請ができないので注意しましょう。
②事業計画書を策定する
資格取得と登録申請が済んだら、事業計画書を策定しましょう。事業計画書とは、事業で取り扱うサービスの内容やターゲット、経営戦略などをまとめたものです。
事業計画書の策定には次のようなメリットがあります。
- 投資家や金融機関から融資を受けやすくなる
- 事業内容をいつでも見直せる
- 事業内容を社員に共有できる
事業計画書の策定は必須ではないものの、策定しておくと上記のようなメリットが得られます。特に融資を受ける際は、投資家や金融機関が成功・失敗を判断するための重要な材料となり、審査の手助けになってくれるでしょう。
また事業内容を見直し、自分の事業を客観的に判断できるので、「何が不要で、何が必要か」などの判断もできるでしょう。事業を進めるにあたって立ち止まってしまったときも、良い指針となってくれます。
さらに事業計画が社員に共有できるので、社員みんなで同じ方向性を見ることもできます。
事業計画書のフォーマットは決まっていませんが、インターネット上でテンプレートの無料ダウンロードが可能です。使いやすいものを選び、記入してみましょう。
③事務所の場所を選ぶ
続いて、事務所の場所を選びましょう。自宅で開業するのか、賃貸オフィスを借りるのかなど複数の案があります。
自宅開業のメリットは、低コストで開業できる点です。ただし人を招きづらかったり、社員を雇いにくかったりというデメリットがあります。
賃貸オフィスのメリットは、信用を得られやすく、社員を雇いやすいことです。また開業に適したエリアを選ぶことができます。デメリットは、敷金礼金・家賃・水道光熱費など、コストがかかってしまう点です。
最初は無理せず自宅で開業し、軌道に乗ってから賃貸オフィスを構えるというやり方もおすすめです。ほかにレンタルオフィスを借りるという選択肢もあります。自分の事業計画と予算にあわせて場所選びを行いましょう。
なお賃貸オフィスを借りる際は、次の点を意識したエリア選びが大切です。
- アクセスしやすい立地か
- 払い続けられる家賃か
- 市場規模の大きいエリアか
特に市場規模の大きさは、顧客獲得に直結します。複数のエリアを比較・分析して、事務所の場所を選びましょう。
④必要な備品・ソフトを揃える
事務所の準備が出来たら、必要な備品やソフトを揃えていきます。必要な備品の例は次の通りです。
- デスクや椅子、書類棚・書庫
- 複合機やPCなどのOA機器
- 応接セット
- 社員が使う設備備品
最近は中古のオフィス販売店も多く、安く購入する手段もたくさんあります。最初は必要な分だけそろえ、後から徐々に買い足していくのも良いでしょう。
また守秘義務のある書類を多く扱う士業の業務では、鍵付きの書庫の存在が欠かせません。事務所に人を招いて話をする機会が多いのなら、使いやすい応接セットも必須です。忘れずにそろえておきましょう。
社員を雇う場合は、トイレやキッチン、ロッカーなどの備品も必要になります。社員が働きやすい環境づくりを心がけることが大切です。
そして備品だけではなく、会計ソフト・書類作成ソフトなど、業務に必要なソフトをそろえるのも忘れずに行いましょう。
⑤集客の準備をする
備品やソフトがそろったら、集客の準備を行います。具体的な集客方法は次の通りです。
- HP開設やSNS運用
- Web広告やLPの作成
- ポータルサイトへの登録
- 動画配信
- メールマガジン
- セミナー開催
- 看板や屋外広告
- 営業
- 個別相談会
すべての集客方法を行うのは難しいので、まずは事業計画やエリアに合うもの、そして自分に合う集客方法を試してみましょう。
集客を行う上で大切なのは、顧客の姿を具体的にイメージし、「この人たちなら悩みを解決してくれそう」と思ってもらうことです。顧客の心に響かない集客を行っても意味がありません。顧客の悩みに答えられる業務であるとアピールするようにしましょう。
また、信頼でき、安心して相談できる事業であると伝えることも大切です。特に開業したてのことは実績がなく、信頼できるかどうかを顧客が判断しにくいです。経歴をはっきり示したり、料金設定を明確にしたりして、相談しやすい環境づくりを心がけましょう。
⑥開業申請書を提出する
開業・独立の準備が整ったら、所轄の税務署に開業申請書を提出します。正式には「個人事業の開業・廃業等届出書」です。開業してから1カ月以内に提出するようにします。
提出方法は持参もしくは郵送です。書類は以下の国税庁HPからダウンロードできます。
開業申請書と同時に、青色申告承認申請書も同時に提出しましょう。青色申告ができるようになると30万円未満の減価償却資産や、家族への給与支払いは経費として計上可能です。青色申告承認申請書も以下の国税庁HPからダウンロードができます。
青色申告承認申請書を提出すると、青色申告特別控除も受けられるようになります。さらに電子申告または電子帳簿保存を行えば、合計で65万円の特別控除が適用されるのです。
なお、開業申請書を提出してしまうと失業保険が受給できなくなります。元いた会社からの独立を考えている人は注意が必要です。
士業の開業・独立に必要な資金はどれくらい?
士業の開業・独立に必要な資金は、事務所を持つか、自宅で開業するかによって大きく異なります。自宅開業の場合は資金を抑えやすいですが、事務所を借りる場合は物件の賃貸費用をはじめさまざまな資金が必要です。
また日本政策金融公庫が行った「2021年度新規開業実態調査」によると、開業費用は平均941万円、500万円未満で開業した人も42.1%近くいるという結果になりました。中には自宅で100万円ほどの資金で士業の開業・独立を行ったという人もいるほどです。
ただし少ない費用で開業する人が増えているとはいえ、開業後の収入が不安定になるリスクを考えると、資金は多めに用意しておくほうが安全でしょう。そのため最低でも300〜500万円程度の資金は用意しておきたいところです。
ここでは、用途別に必要な資金を詳しく紹介します。
初期費用
初期費用は、合計で100〜300万円ほどです。開業する場所や、揃える備品の量・種類によって初期費用は変動します。
ここでは、税理士が開業・独立する場合の初期費用を見ていきましょう。
費用 | 料金相場 |
---|---|
登録費用 | 約15万円 |
税理士会費 | 約15万円 |
賃貸初期費用 | 約200万円 |
備品代 | 約30万円 |
広告宣伝費 | 約10万円 |
合計 | 約170万円 |
まず、士業の場合は初年度に登録費用が発生します。士業によって料金は異なり、税理士の場合は約15万円ほどです。更に年会費なども発生するので、合計約30万円の登録・継続料が必要になります。
そして最も高いのがオフィスを借りる際の初期費用です。家賃15万円のオフィスの場合の内訳を見てみましょう。
- 【仲介手数料】最大で1カ月分の家賃:15万円
- 【保証金・敷金】約6~12カ月分の家賃:90~180万円
- 【礼金】約1~2カ月分の家賃:15~30万円
- 【前家賃】1カ月分の家賃:15万円
- 合計:135~240万円
このように、200万円前後の初期費用が必要になります。ただし、自宅開業なら料金をグッと抑えることができます。
またレンタルオフィスは20〜30万円ほどの初期費用で借りられるので、自宅開業はしたくないけれど初期費用は抑えたい、という場合は検討してみましょう。
運転資金
士業で開業・独立しても、すぐに満足いく収入が得られるわけではありません。3カ月〜半年ほどの十分な運転資金を用意しておくようにしましょう。
運転資金の主な内訳は次の通りです。
- 事務所の家賃
- 人件費
- 広告宣伝費
- 会費
- システム利用料
- 通信費
人件費は従業員を雇う場合に発生します。また士業によっては毎月会費が発生するので、会費も数カ月分用意しておかなければいけません。
家賃15万円で従業員を1人雇った場合の具体的な運転資金は次の通りです。
用途 | 料金 |
---|---|
家賃 | 約90万円 |
人件費 | 約120万円 |
広告宣伝費 | 約60万円 |
会費 | 約8万円(ただし年払いだと発生せず) |
通信費 | 約5万円 |
合計 | 約283万円 |
上記のように、300万円前後の運転資金の確保が必要になります。家賃や人件費によっては、さらに多くの運転資金を確保しておく必要があるでしょう。もちろん自宅開業で従業員を雇わない場合は、運転資金を節約できます。
また収入がなくても安心して生活できるよう、3〜6か月分の生活費を確保しておくのもおすすめです。
資金を調達する方法
開業時の資金調達先は、大きく分けて以下の3つです。
- 日本政策金融公庫
- 信用保証協会の融資制度
- 家族や親族・友人からの借り入れ
1つ目の日本政策金融公庫は、国が出資している政府系金融機関です。新規事業を始める人向けにさまざまな融資を行っています。
中でも代表的な「新規開業資金」は、最大7,200万円(そのうち4,800万円は運転資金)の融資が受けられる制度です。運転資金は7年以内、設備資金は20年以内に返済を行う必要があります。
また無担保・無保証で融資が受けられる「新創業融資制度」も用意されており、最大3,000万円(うち1,500万円は運転資金)まで融資してもらえます。
融資には審査が必要で、審査によっては希望額の融資が通らない可能性もあるでしょう。事業計画書の作りこみが審査に影響を与えるので、しっかり計画を立ててから審査を受けることが大切です。
2つ目の信用保証協会の融資制度とは、信用保証協会に保証人になってもらい、金融機関に融資を受けるという内容です。実績のない新規事業者でも、融資が受けやすくなる制度です。
また日本全体の中小企業・小規模事業者のうち47.1%が利用している制度のため、安心して利用できることがわかります。
3つ目は家族や親族、知人から資金を借りる方法です。個人の金銭の貸し借りはトラブルを招きやすいので、文書での取り決めをしっかり行うようにしましょう。
独立・開業する人が多い士業
士業には、「弁護士」「税理士」「弁理士」「行政書士」「社会保険労務士」など複数の種類があります。そのうちほかの士業よりも強い権限があるものを、「8士業」と呼ぶこともあります。
複数の種類がある士業の中で、独立・開業する人の割合が多い士業は以下の3つです。
- 行政書士
- 税理士
- 社会保険労務士
もちろん弁護士や司法書士で独立・開業している人もいますが、割合を比べると上記3つの士業で独立・開業している人が特に多いです。
ここでは上記3つの士業について、開業している人の割合や開業後の業務内容などを紹介します。
行政書士
行政書士のうち、独立・開業している人の割合は全体の94.8%を占めます。行政書士は実務経験を積まなくても、試験さえ合格すればすぐに行政書士会に登録できるため、未経験でも独立・開業しやすい士業です。
ただし未経験での独立・開業は実績や知名度がないため、集客に苦戦する可能性が高いです。ある程度実務経験を積んでからのほうが、事業を軌道に乗せやすいでしょう。
そんな行政書士の仕事内容は、大きく分けて3つあります。
- 遺言書や自動車手続き、各種契約書などの書類作成
- ビジネスにおける許認可申請の代行手続き
- 外国人の帰化申請や在留資格の取得サポートなど(申請取次行政書士)
個人の依頼からビジネスの依頼まで、幅広く対応することができるのが行政書士の特徴です。中には中小企業の経営相談に乗るコンサルティング業務を行っている行政書士もいます。
税理士
税理士のうち、独立・開業している人の割合は70%以上にものぼります。税理士試験の合格率は約15%と非常に難関ですし、税理士になるには2年以上の実務経験が必要ですが、経験を積んでから独立・開業しやすいのが特徴です。
そんな税理士の仕事内容は、主に次の通りです。
- 確定申告などの税務代理業務
- 税務書類の作成
- 税務相談
上記の3つは税理士しか行えない「独占業務」となっています。安定した仕事の供給があるため、不安定になりにくい職業だと判断できるでしょう。
ほかにも企業の財務状況を把握する会計業務を行ったり、経営コンサルティング業務を行ったりしている税理士もいます。また宅地建物取引士や社会保険労務士などほかの資格も取得し、複数の視点と知識を持つ税理士として活躍している人もいます。
社会保険労務士
社会保険労務士は、登録者の約50%以上が独立・開業しています。
社会保険労務士は、企業に勤務し「勤務社労士」として働くことで安定した収入が望めます。その一方で、独立・開業して自分らしい働き方を見つけることも可能です。どちらの選択にもメリットがあるため、自分に合う働き方を選んでみましょう。
そんな社会保険労務士の仕事は次の通りです。
- 労働社会保険諸法令等に係る書類作成
- 就業規則の作成や保険加入のサポート
- 年金や労働に関する相談業務
社会保険労務士は人事や労務関係に対する知識が豊富です。そのため労働に関する書類の作成や、社員が安心して働ける就業規則の作成などを担うことが多いでしょう。
また労務に関する法律の専門家として、企業のコンサルティングを行う場合もあります。会社で起きる様々なトラブルに対応する社会保険労務士の存在は、さまざまな企業で重宝されるでしょう。
士業が開業・独立する3つのメリット
士業は開業・独立しなくても働くことができますし、企業に務めたり、事務所に所属して勤務したりという働き方も選べます。しかし開業・独立には、雇用されているだけでは得られないさまざまなメリットがあるのです。
主に、士業の開業・独立には次のようなメリットがあります。
- 雇用よりも収入増が期待できる
- 自分のライフスタイルに合わせて働ける
- 業種によっては廃業リスクが低い
ここでは、上記3つのメリットについて深く掘り下げながら説明します。
雇用よりも収入増が期待できる
士業で開業・独立する一番のメリットが、収入増が期待できる点です。
企業に雇用されていたり事務所に所属されていたりすると、給与体系に基づいた収入のため、収入が大きく増える可能性は少ないでしょう。しかし開業・独立すれば、顧客の増加やサービスの拡大によって、どんどん収入は増えていきます。
たとえば企業に勤める勤務社労士だと、年収はおよそ400〜500万円が一般的な額と言われています。
しかし開業労務士は、年収300〜1,000万円以上と、勤務社労士より幅が広いです。もちろん年収減少のリスクもありますが、雇用より収入増が期待できるのは一目瞭然でしょう。
さらに士業特有の業務だけではなく、ほかの専門的な知識も身に着け、コンサルティング業務や独自のサービスを提供すれば、さらなる報酬増も期待できます。
自分のライフスタイルに合わせて働ける
士業で開業・独立すると、自分のライフスタイルに合わせた働き方が選択できるようになります。勤務時間や勤務場所、休日をすべて自分で決められるのです。
育児中の人であれば、子供の行事に合わせた休みをとることができますし、子供の予定に合わせた休憩も取りやすいでしょう。子供が熱を出しても、看病の時間を取りやすいというメリットがあります。
勤務時間を調整すれば、趣味と両立することも可能です。プライベートの時間が大事にできるため、心身ともに充実した毎日が送れるようになるでしょう。朝ゆっくり仕事をはじめ、夕方まで働いて、夜は友人や習い事の時間に充てる、なんて働き方も可能です。
勤務場所も問わないので、お気に入りのカフェやコワーキングスペース、旅行先など、好きな場所で働くこともできます。
ライフスタイルに合わせた働き方ができるおかげで、仕事のストレスが貯まりにくくなり、雇用されているときよりも仕事の質がアップするかもしれません。
業種によっては廃業リスクが低い
士業の業種によっては、人数が少なく、競争率が低いことから、廃業リスクも低いという特徴があります。
たとえば司法書士の場合、毎年の合格者数は1,000人未満となっており、2023年時点で23,000人ほどしかいない希少な職業です。司法書士会が開く相談会での仕事の受託や、ほかの士業から顧客を紹介されるチャンスも多く、仕事を得る機会が多いでしょう。
また土地家屋調査士の廃業率も2〜3%ほどと、司法書士に匹敵するほど廃業リスクが低いです。土地の登記は土地家屋調査士の独占業務ですし、公共事業の依頼も多いため、将来性もある士業だと言われています。
複数の士業の資格を取得し、複数の士業をまたがず、手続きを一本化できるような事業を目指せばより廃業リスクは下げられます。
士業が開業・独立するデメリットやリスク
士業の開業・独立には、経済的なメリットや、自由な働き方ができるなど様々な魅力があります。しかし、メリットばかりではなくデメリットやリスクもあることを知っておかなければいけません。
士業の開業・独立の主なデメリットは次の通りです。
- 業務の範囲や責任が広がる
- 困った時の相談先が少ない
- 開業直後は仕事が少ない
デメリットやリスクをしっかり把握しておかなければ、開業・独立後に大きな壁にぶつかってしまうかもしれません。事前に、それぞれの対処法や乗り越え方を知っておくと良いでしょう。
ここでは3つのデメリットについて詳しく解説します。
業務の範囲や責任が広がる
士業で開業・独立すると、士業の仕事以外の業務も行わなくてはいけません。事務所の経営や営業・集客、経理などの事務作業も全て一人で行う必要があるのです。雇用されているころと比べると、やらなければいけない仕事量が格段に増えてしまいます。
さまざまな知識をイチから身につけなければいけないと考えると、事前の準備はしっかりしておく必要があるでしょう。なお、外部に業務を委託したり、専門家のアドバイスをもらったりすることで、業務の範囲をコンパクトにしやすくなります。
またミスを起こした場合、法的な責任を問われ、損害賠償を請求される可能性もゼロではありません。
万が一の時に備え、士業ごとの賠償責任保険の有無はしっかり確認しておくようにしましょう。開業・独立している多くの士業が、あらかじめ保険に加入しています。
困った時の相談先が少ない
士業の開業・独立では、困ったときに相談できる場所が少ないというデメリットがあります。
雇用されているときは上司や先輩、士業仲間にいつでも相談できたでしょう。しかし開業・独立すると、一人ですべてこなさなければいけないので、気軽に相談しづらくなるのです。
困ったときの相談先は、開業・独立前に調べておくことをおすすめします。主に以下のような相談先があります。
商工会議所では、経営相談から補助金などの申請支援、人材採用のサポートなど、経営に関する相談に丸ごと対応してもらえます。
ミラサポplusは経済産業省が提供するweb相談窓口です。専門家のコンサルティングも受けられ、無料で利用できるツールも多いので、登録しておくと安心でしょう。
日本政策金融公庫は融資の相談、税務署は税に関するさまざまな相談に対応しています。ほかの士業事務所は、自分の士業では専門外のことを相談したいときに役に立ってくれます。
他にも地域のセミナーやイベントに参加して同業者のネットワークを広げたり、先輩や元上司、仲間に相談したりなどの方法が挙げられるでしょう。とはいえ、思うような返事をもらえない可能性もあります。そのため、信頼できる相談先は複数用意しておくと安心です。
開業直後は仕事が少ない
開業・独立した直後は、どうしても仕事が少なく、収入が不安定になりやすいです。開業したばかりで顧客もついていないですし、実績が少ないため信頼も得にくいからです。
また自分で集客する必要があるのですが、広告を出してすぐに十分な数の顧客が舞い込んでくるわけではありません。コツコツ顧客を増やし、安定した経営基盤を築くまでは、不安定な日々を送ることになるでしょう。
閑散期に開業してしまった場合には、まったく仕事が舞い込んでこないといったリスクも十分に考えられます。
仕事が少ない状況をできる限り避けるためには、開業・独立前から顧客を集める仕組みを作っておくことが大切です。あらかじめ一定の顧客数を確保しておくと、仕事が少なく収入がないといった状況が避けやすくなります。
士業の開業・独立でよくある3つの失敗ケース
せっかく士業で開業・独立しても、廃業してしまうケースは少なくありません。そして士業によって割合は異なりますが、全体の廃業率は60%にものぼるといわれています。
難関な資格を取り、お金をかけて開業・独立するのですから、失敗する可能性はできる限り抑えたいです。よくある失敗のケースを知っておけば、リスクを避ける参考になるでしょう。
士業の開業・独立でよくある失敗ケースは次の3つです。
- 業務量が多すぎて営業ができない
- 依頼料の回収に時間がかかりすぎて資金がなくなる
- 事務所の強みが泣く差別化ができていない
ここからは、3つの失敗ケースについて詳しく解説します。
業務量が多すぎて営業ができない
開業・独立後は、仕事を受注すれば受注するほど収入が上がるため、次々に案件を受注するという人も少なくないでしょう。しかし業務量が多すぎると肝心の営業ができなくなり、新規の顧客はなかなか増えてくれなくなります。
案件を受注しても続かなければ意味がないので、固定顧客が増えて安定した基盤を築けるまでは、営業を欠かさず行うことが大切です。新規顧客が増えなければ、ある日案件がすべて片付いた後、手元に何も仕事がないなんて状況になるかもしれません。
また案件の受注しすぎに限らず、経営や事務に関する業務が多すぎて、肝心の士業の営業に集中できないというパターンもあるでしょう。一人で業務をこなしていると、こういった事態に陥り、案件が増やせず廃業に追い込まれるパターンもゼロではありません。
効率的に回せる案件量を見極め、受注しすぎないよう調整したり、場合によっては外部に業務委託したりして、営業の時間を確保することが大切です。
依頼料の回収に時間がかかりすぎて資金がなくなる
士業の仕事の多くが、成功報酬として、依頼された仕事が終わった後に依頼料を回収する仕組みとなっています。しかし、場合によっては依頼料の回収が数カ月も後になってしまい、経営資金がなくなる可能性もあるでしょう。
たとえ最初に十分な運転資金が用意されていたとしても、複数の依頼料の回収に時間がかかってしまえば、売り上げが少ない時期は長く続くことになります。その結果、運転資金が底を尽きてしまい、事業に失敗するケースもゼロではありません。
たとえば業務を受注する際に、最高報酬だけではなく、着手金や前金などの制度も設けるのがおすすめです。料金が先に入ってくる仕組みを作っておくだけで、資金が底を尽きるリスクを減らすことができます。
事務所の強みがなく差別化ができていない
士業の資格を取り、開業・独立を目指す人は少なくないため、常にライバルがたくさんいることになります。弁護士などの士業は供給過多とも言われており、次々にライバルが出現している状態です。
そんな中、事務所の強みがないまま開業・独立しても、ほかの事務所と差をつけるような強みがなければ顧客の目には止まらないでしょう。差別化できるかできないかで、集客に大きな差がついてしまいます。
万が一強みが何もないまま士業の激戦区で開業してしまうと、あっという間に同業他社の中に埋もれてしまうかもしれません。いくら実務経験を積んで実績がある状態でも、厳しい戦いになることは予想できるでしょう。
失敗のリスクを避けるためにも、自分の事務所でしかできない強みを1つか2つ以上は用意しておくことをおすすめします。
士業が開業・独立を軌道に乗せるポイント
様々なデメリットや失敗のリスクがある士業の開業・独立ですが、軌道に乗せるポイントを熟知していれば、業務を安定させることは十分に可能です。
自身の業務を軌道に乗せ、たくさんの顧客に信頼される優良な事業を目指していきましょう。信頼が積み重なれば依頼も増え、業務拡大も目指すことができます。
開業・独立の際に、業務を軌道に乗せるポイントは次の3つあります。
- 市場調査を行い自分の強みを明確にする
- メインとなる顧客ターゲットを明確にする
- 必要に応じて外注を活用する
これから紹介する上記のポイントをしっかり意識し、士業の開業・独立に役立てていきましょう。
市場調査を行い自分の強みを明確にする
市場調査を行うことで、どのような自分の強みが市場に受け入れられるのかを明確にすることができます。市場に需要のない強みを前面に打ち出しても意味がないので、開業・独立前に必ず市場調査を行うようにしましょう。
市場調査で大事なポイントは次の3つです。
- 同業他社の現状を把握・比較し今後を予想する
- 業務している分野の現状を調べ成長予測を立てる
- 経済動向や法改正を確認しいち早く察知できるようにする
同業他社の動向を探るのは、市場調査で大事なポイントになります。他社に足りていない部分を強みとして打ち出せば多くの人の目にとまりますが、他社が十分提供できているところを改めてアピールしても、今後差をつけるのは難しいと判断できます。
そして自分の士業の業務全体が、この先どのように成長していくのかを分析することも大切です。その結果「コンサルティングにもっと力を入れたほうが成長が見込める」など、判断できるでしょう。
そして経済の動向や法改正を確認するのも忘れてはいけません。法改正により、顧客のニーズは都度変わるからです。変わったニーズにすぐさま対応できるよう、常に動向をチェックしておくことで、いつでも新鮮かつ需要の高い強みを打ち出すことができます。
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市場分析とは?必要な理由とやり方、フレームワークについて解説
メインとなる顧客ターゲットを明確にする
開業・独立時は「多くの人に利用してもらえる事業にしたい」と、幅広いターゲットに向けた事業を打ち出してしまいがちです。しかしメインの顧客ターゲットは明確にしていたほうが、顧客は集まりやすくなります。
というのも、幅広い人に選んでもらえるような事業を考えると、コンセプトが曖昧になってしまい、ほかの事業との差別化が難しくなってしまうからです。万人受けはしやすくなるかもしれませんが、これといった特徴がないので、選ばれにくくなるでしょう。
しかし、「個人事業主向け」「子育て中の主婦の方も相談しやすい」「飲食店のオーナー様向け」など顧客ターゲットを明確にすると、選ばれる可能性がグッと上がります。
コンセプトがはっきりしている広告のほうが、顧客ターゲットの目にも止まりやすいです。ほかの事業との差別化ポイントにもなり、自身の強みにもなるでしょう。
必要に応じて外注を活用する
開業・独立して一人で事業を進めると、人件費がかからず、不必要な経費も発生しません。しかし、そのせいで事業が回らなくなってしまうと、結果的に収入が減り、廃業の危機に追い込まれる危険性があります。
そのため、業務量が多いと感じる場合は必要に応じて外注を活用するのがおすすめです。コストはかかってしまいますが、その分必要な業務に時間を割けるようになれば、結果的に売り上げの上昇につながり、大きな利益を生むかもしれません。
たとえば地域の交流イベントに参加して外注依頼できる人脈を作ったり、クラウドソーシングで気軽に外注依頼したりすれば、あっという間に外注先が見つけられます。
なお、主に次のような業務が外注で依頼できます。
- 給与計算や労務管理などの人事業務
- 応募情報管理や面接代行など採用業務
- 資料作成や出張の手配などの秘書業務
- 記帳や年末調整、税務申告などの経理業務
- 書類の作成やデータ入力などの事務業務
- Webサイト運用や広告制作などの宣伝業務
なお、外注には情報漏洩のリスクがあります。大事な情報を扱う際は、情報の共有に十分注意するようにしましょう。
まとめ
士業の開業・独立には十分な準備期間と開業資金、そして市場調査や集客の準備などが必要になります。士業によっては資格取得に加えて実務経験も必要になるため、開業までに2年以上の時間がかかる場合もあるでしょう。
そして開業後も、仕事がなかなか得られなかったり、思うように業務が回せなかったりとさまざまな壁にぶつかってしまうかもしれません。士業の業務以外の仕事もこなさなければいけなくなり、不慣れな業務が増える可能性もあります。
しかし、開業・独立には収入の増加や、自由な働き方を手に入れられるなどのメリットがたくさんあります。融資を活用したり、外注に頼ったり、信頼できる相談先を見つけたりすることで、開業・独立の不安は消していくことができるでしょう。
ぜひ、今回紹介した情報を参考にしながら、士業の開業・独立に向けての準備を始めてみてください。
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