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「TELハラ」「テクハラ」新時代のハラスメントは働き方を投影する

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近年、コンプライアンスに対する意識が社会的に高まり、さまざまな形態のハラスメントが問題として取り上げられるようになっています。これまで当たり前とされてきた慣習のうちにも、ハラスメントにつながる要因が指摘されるようになり、企業には多様性への配慮がいっそう求められている状況です。

そのような動向のなか、2021年4月に入り、新たなハラスメントとして「TELハラ」と「テクハラ」が大手メディアで取り上げられ、SNSなどで大きな話題となりました。

電話の苦手な新入社員などに対応を強いるTELハラや、IT機器などの扱いがわからない年配社員などに呆れた態度をとるテクハラは、多くの職場で必須とされているツールに関わる問題であり、誰もが当事者となる可能性を有しているといえるでしょう。

「TELハラ」「テクハラ」という2つの言葉から読み取れるのは、「世代や経験によって使い慣れたツールは異なり、同じ環境でも働きやすさは違ってくる」という事実です。このような「適応におけるギャップ」への理解を深めておくことは、職場の働きやすさや業務の連携を高めるうえで有意義だと考えられます。

この記事では、TELハラやテクハラが問題として浮かび上がってくる背景を捉え、電話対応やIT機器の操作が苦手な社員に対し、組織としてどのように接していけばよいのかを考察していきます。

「TELハラ」とは

TELハラは、電話に対して苦手意識を抱いている社員に電話対応を行わせることを指しています。

「株式会社うるる」の電話代行サービス「fondesk(フォンデスク)」が命名した言葉であり、「本人の適性に関わりなく、立場が低い者に電話番を強いる風潮」に対する問題提起となりました。新入社員に電話番を務めさせるといった慣習が、電話対応を苦手とする社員にとっては少なからず苦痛となり、職場環境への適応を阻害する要因となりうることに着目した言葉です。

実際に、fondeskの調査によれば、66.3%の社会人が「会社への不要な電話」にストレスを感じているという結果が示されています。電話対応そのものに対する抵抗感や、対応が長引いてしまうことによる業務への支障は、新入社員であるかどうかに関わりなく、広く実感されている問題だといえるでしょう。

(参照:PR TIMES「「fondesk」が年齢や肩書によって電話対応を押しつけられる状態を「TELハラ(テルハラ)」と命名|株式会社うるるのプレスリリース」

TELハラが問題となる背景

現在TELハラが問題として浮かび上がっている背景には、とくに若い世代の「電話に対する意識の変化」があるでしょう。

電話やメール、SNSなど、世代によってこれまでに慣れ親しんできたコミュニケーションツールは異なります。他者と接する際のツールが違えば、やはり関係性を構築する際のアプローチ方法も変わってくるでしょう。肉声を主体としたやり取りと、テキストやスタンプを主体としたやり取りとでは、相手に好印象を与えるための工夫はまったく異なるものになるはずです。

「自然に使えるコミュニケーションツール」には世代や経歴によってギャップがあり、慣れ親しんできたものと異なる形を強いられると、ストレスも生じやすくなります。そのため、従来は一種の慣習のように扱われてきた「新入社員の電話番」が、ストレスの原因として意識されやすくなっていると考えられます。

TELハラ問題から浮かび上がるもの

TELハラが問題視される1つの要因は、「電話くらいできて当然」という前提を一般化してしまうことにあります。LINEなど、テキストやスタンプを利用したコミュニケーションを主な手段としてきた世代にとってはとくに、電話を「当たり前」とする考え方は通用しなくなっているのかもしれません。

同時に、本人の特性に関係なく、「誰でもできることは経験の浅い者・立場の低い者に任せておけばいい」という考え方も、TELハラの根底にある問題の1つです。たとえば新入社員が、その業務の意義がわからないまま「雑用係」のように扱われ、さらにその雑用もこなすことができないという評価を受ければ、自己肯定感は急速に低下していくでしょう。

つまりTELハラは、「誰でもできる」という前提と、「雑用は立場の低い者に」という慣習の2つが顕在化した事例です。こうしたハラスメントの形態は、新入社員だけではなく職場のさまざまな場面で生じうると考えられます。

組織全体として、立場に囚われずに能力の多様性を認める文化や風土を形成していくことが、TELハラをはじめとするハラスメント問題に対処するうえで必要な観点といえるでしょう。

上司に対する部下の「テクハラ」も問題に?

「テクハラ」は「テクノロジー・ハラスメント」の略であり、IT機器やソフトウェアの操作に疎い社員に対して失望や呆れの態度をとることを指しています。

メディアに取り上げられている事例としては、若い社員がIT機器の操作に手間取る上司に対して「こんなこともできないんですか」と嫌味をいう、といったケースがあります。テレワークの普及が進むなか、Web会議ツールなど新しい技術への適応を要求されることが増え、問題として顕在化しているといえるでしょう。

今後も数多くの技術が発展し、さまざまなツールが登場してくることを考えれば、「技術に乗り遅れる可能性」は世代を問わず潜んでいます。それゆえに、テクハラは誰にとっても無縁ではない問題であり続けるといえそうです。

「TELハラ」と「テクハラ」に共通する原因

「TELハラ」と「テクハラ」のいずれにおいても、自分たちが慣れ親しんだ技術を「使えて当たり前」と思ってしまうことが原因の1つです。

さらに、電話にせよIT機器にせよ、そのツールに慣れていない側が「なぜこれを使わなければいけないのか」という点について納得していないと、ハラスメントとして受け取られる可能性も高くなるでしょう。未知のツールを提示され、どのようなメリットがあるのかもわからないまま「使えるようにしておいて」と指示されれば、疑念や抵抗感も生じやすくなると考えられます。

「TELハラ」や「テクハラ」に対策する際の観点

ビジネスに用いる技術やツールが多様化し、日々アップデートされていくなか、「これなら誰でも使えるはずだ」という認識は状況にマッチしなくなっています。そのためまずは、「誰が何をどの程度使えるのか」を客観的に把握し、それぞれが求められるレベルに達するまでサポートしていく環境を、職場全体で作っていくことが重要です。

さらに、「そのツールを使うことで業務にどのようなメリットがあるのか」ということを示すことで、電話やIT機器に苦手意識を持っている社員の精神的なハードルを下げられるでしょう。

総じて、「コミュニケーションツールに得手不得手があって当たり前」という共通認識を浸透させたうえで、それぞれのツールの利点を示し、操作や対応方法の定着をフォローしていける環境構築が、ハラスメントを未然に防ぐうえでの課題となります。

新人など電話対応を苦手とする社員への対処法

電話対応を苦手とする社員に接する際には、対応方法を明確に指定しながら不安を解消していくことが重要です。

電話対応への苦手意識は、多くの場合「肉声が聞こえることで、生身の相手がいることに対する恐怖心や不安が喚起される」ことに由来しています。そのため「対応の型」を明示することで、抵抗感を薄めながら、自然に対応に慣れていける環境を作りましょう。

電話対応の必要性や意義を共有

若い世代にとってはとくに、電話は必ずしも「なくてはならないもの」ではありません。ビジネスにおけるコミュニケーションツールとして、電話がどれほど重要であるかについて実感が持てていない社員も多いでしょう。

それゆえに、電話対応を任せる際にはまず「なぜ電話が重要か」というところから示す必要があります。「テキストでは伝わらないニュアンスや温度感が示しやすい」といったメリットを口頭で説明するほか、ロールプレイや実際の社内連絡を通して、「文面と電話との印象の違い」を実感してもらうことも有効です。

対応をマニュアルに落とし込む

電話に対する苦手意識の原因として、「あらたまった場面でどういう言葉を選べばいいかわからない」といったものが考えられます。いわば「外向きの声」を持っていないことが不安につながっているため、形をあらかじめ示しておくことで嫌悪感は解消されやすくなるでしょう。

また、そもそも電話を機器として使い慣れていないケースも多くなっています。操作に迷うと応対の際に余計な焦りが生じてしまうため、保留や内線の使い方などを周知するだけでなく、実際に使い方を示しながら教えておきたいところです。

マニュアルを作成する際には、対応の流れをテンプレート化して示すと同時に、言葉使いについても「間違いやすい言い回し」を盛り込むなど、網羅的にまとめるとよいでしょう。あるいは、電話対応のマナーブックなど市販のものを用意し、対象となる社員に貸し出すといった方法も有効かもしれません。

業務における電話対応のウェイトが大きい場合には、「日本電信電話ユーザ協会」が実施している「電話応対技能検定(もしもし検定)」など、資格取得をサポートするという方法も考えられます。資格があることは対応時の自信にもつながるため、スキル定着以上の効果も期待できるでしょう。

対応すべき範囲を明確に絞る

電話が苦手な社員にとって、対応がわからなくなった際の「気まずさ」は、電話に対する恐怖心を増幅させる要因です。そのため、対応すべき内容をあらかじめ区分し、「自分の対応範囲はここまで」ということを明確にしておくことが求められます。

加えて、担当範囲を超えた内容について、取次先を明示しておくことも重要です。新人など業務に慣れていない社員が「自分だけでどうにかしなければ」と思ってしまう状況は避けましょう。なるべく最初は範囲を限定し、徐々に対応できる内容を広げていく形が望まれます。

まとめ

IT機器やソフトウェアは年々アップデートされ、ビジネスにおいて「誰もが当たり前に使えるコミュニケーションツール」というものが今後は想定しにくくなっていくでしょう。一方で、特定のツールを長年使ってきた世代においては、それが「コミュニケーションの前提」として常識化される傾向にあります。

TELハラやテクハラは、そのような常識のギャップによって生じるハラスメントであり、誰もが当事者となりうる問題です。これに加えて、「新人なのだから雑用すべき」「上司なのだからツールを使えて当然」など、肩書きに対する固定観念が入り込むことにより、ハラスメントにつながるリスクは高まると考えられます。

これらのハラスメントを予防するうえでは、社員の資質を柔軟に認めるとともに、必要なツールについては「なぜそれが業務上重要なのか」を示し、抵抗なくその操作や対応に馴染んでいけるようフォローしていくことが大切です。

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この記事を書いた人

鹿嶋 祥馬
大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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