テレハラ・リモハラ・マナーハラスメントとは?テレワーク中の課題と対策
「テレワーク(リモートワーク)元年」ともいわれた2020年。広まりを見せたそもそものきっかけはどうあれ、それ以降の働き方や働く人の可能性が広がったのは好ましいことでしょう。
とはいえ、環境が変わったことで今まで見えてこなかった新たな問題も生まれています。たとえば「テレハラ(リモハラ)」や「マナーハラスメント」。オンラインで活動する時間が増えたことによる弊害から自らを、あるいは周りの人をどう守っていけばいいのか、より一層考えていく必要がありそうです。
目次
テレハラ(リモハラ)とは
テレハラは「テレワークハラスメント」、リモハラは「リモートワークハラスメント」、もしくは「リモートハラスメント」の略です。つまり、在宅勤務やノマドワークに伴うweb会議などオンライン上でのやりとりの際に生じる嫌がらせのこと。
具体的には、webカメラに映るプライベート空間(その人の容姿、生活感、同居人など)を監視したり、それらについて非難したり、威圧的な態度をとったり、性的な言葉を発したりするといった行為を指します。
たとえばweb会議中にインターネット接続状況の都合で通信が途切れてしまう方をばかにしたり、同居している恋人や家族について執拗に尋ねたり、普段オフィスで会うときよりもくだけて見える服装や髪型、メイクをした方をからかうなど。
ハラスメント研修専門講師である倉本祐子さんが代表を務めるダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社の調べによると、テレワーク中に上司とのコミュニケーションにストレスや不快感を持った部下は約8割にも上っています。
○参考:ダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社プレスリリース
親睦を深めようとして親しみをこめて言ったつもりの冗談が相手に不快な思いをさせてしまうというケースもあるので、「自分は大丈夫」「この人とは普段から仲がいいから大丈夫」と思わずに、だれしも重々注意する必要があります。
テレハラ・リモハラの具体例と防止策
まず、テレハラ解決策を考えるにあたって、具体的にどういった言動、行動がテレハラにあたるのかを知る必要があります。
ハラスメントはあくまでも受けた側が不快に感じたときに成立するものなので、発した側にそのつもりがなくても嫌がらせと見なされる可能性はおおいにありえます。つまり、無意識のうちに相手が嫌がるような行為をしていないかチェックすることで、加害を未然に防いだり、もし既に該当するようなことをしていても相手の気持ちを和らげたり関係を修復したりすることができるということです。
どういったケースでハラスメントが生じる可能性があるのかを考えられるのか事前に知ることで、ある程度は被害も予防することができるかもしれません。
テレハラ・リモハラの具体例
セクハラ例
在宅勤務中はオフィスで会っているときには見えなかったプライベートな部分が垣間見えたり、逆にZoomなどを繋がない限りほかの同僚からは姿が見えないことで、性的な嫌がらせが起きる可能性があります。
- 業務上必要のない二人きりのweb会議や通話を強要する
- 容姿について言及する(「すっぴんだね」「部屋ではどんな格好しているの」など)
- プライベート空間について言及する(「(画面に映りこんだ洗濯物などを見て)普段そんな服を着ているんだね」「(同居している人影を察して)どんな人と住んでいるの」など)
- 業務上は必要がないのに自宅の場所を聞き出したり、来ようとしたりする
パワハラ・モラハラ例
テレワーク中は従業員やビジネスパートナーの働きぶりが見えないため、過度に監視、干渉しようとする上司や取引相手もいるかもしれません。
- 業務時間外のチャットやメール、通話などの対応を強要する
- web会議中のリアクション、返事を強要する
- 過度な業務状況に関する報告を強要する
- 監視するような行為をする、しようとする(チャットへの反応が遅れた際に「サボっているだろう」と言いがかりをつける、webカメラで仕事中の姿を常に撮影、共有することを強要するなど)
- 業務上必要であるのに隔離する(特定の人物をweb会議に呼ばない、チャットグループに招待しない)
- プライベート空間について非難する(「新人のくせにいい部屋に住んでいる」「子どもがうるさい」「部屋が暗い」)
そのほかのハラスメント例
セクハラ・パワハラ・モラハラが3大ハラスメントといわれていますが、もちろんほかのハラスメントにも目を向ける必要があります。
- 業務時間外のリモート飲み会への参加を強要する
- 通信状況をばかにする、私費での改善を強要する
- ワークスタイルの変容に伴って生まれたルールに厳しく、実施を強要する(「web会議中にスピーカー以外はミュートにする」というルールのある会社だとして、それを忘れてしまった方を執拗に否定するなど)
もちろんこれらは例に過ぎず、ほかの言動、行動で悩まされている方もいるでしょう。「上記に当てはまらないから大丈夫」と安心することなく、これらをきっかけに相手が不快に感じる可能性のある言動、行動を行っていないか見直してみてください。
テレハラ・リモハラ防止策
被害者にならないために
まず、web会議中にプライベートな部分が映りこまないように注意しましょう。洗濯物や寝具など生活感のあるものを画面の前に置かない、もしくはそれらが映らない場所にwebカメラを設置する、バーチャル背景を設定するなど。同居している方がいる場合は、生活音が聞こえる場所も避けた方が無難です。そして、身だしなみを整え、ビジネスライクなコミュニケーションを心掛けましょう。
もちろん、決してこれらを徹底できないからといってハラスメントが生じた際に被害者側に非があると見なされるというわけではありません。モラルに欠けるものでない限り、恰好も態度も当人の自由です。ただし付け入る隙があると思われると、加害者がそれを理由に自己防衛しかねないので、テレハラ加害の兆候のある方とweb会議をする際などは事前に武装しておくと気持ちも楽になるでしょう。
また、自らこのような対策をとることにはもちろん問題がありませんが、もし上司や取引相手からこういったことを強要される場合は、細かい気配りやマナーを強要するという「マナーハラスメント」、通称「マナハラ」にあたるといえるので、無理に従う必要はありません。
なお、前項で挙げた「『web会議中にスピーカー以外はミュートにする』というルールのある会社だとして、それを忘れてしまった方を執拗に否定する」というのもマナハラに該当します。
加害者にならないために
テレワーク中は人の目がないことが多いため、気持ちがゆるんでしまい、普段仕事中に行わないようなことをしてしまうこともあります。
常にオフィスにいるときやビジネスパートナーといるときのように気を張らなければいけないわけではないですが、あくまでも仕事中であり、やりとりをしているのも仕事相手だという自覚が必要です。
ハラスメントは加害者の性格が原因していると勘違いされがちですが、コミュニケーション不足が招いていることも多いです。とはいえ「自分と○○さんは仲がいいから大丈夫」と過信したり、過度に相手との距離を縮めようと執拗にチャットをしたりしないでください。テレワークは場所が変わっただけでオフィスワークと同じです。
企業、管理者がすべきこと
テレハラを生み出さないために企業や管理者がすべきことは、事前にハラスメントそのものに関する知識を周知させることです。どういったことがテレハラに該当するのか、また、もしそういったことをしたり、されたりしてしまった場合はだれに相談すればいいのか、きちんと共有しましょう。
そうすることで、ハラスメントの発生を防ぐことにつながる可能性があり、また、もし発生してしまってもすぐに改善、解決することができるかもしれません。
デジタルデバイスへの依存も要因のひとつ
テレワーク中はどうしてもオンライン上のやりとりが増え、結果的にPCやタブレット、スマホを使う時間も増えるでしょう。実際、NTTコミュニケーションズは、コロナ禍でテレワークが増えた現在と以前を比較して平日昼間帯のトラフィック総量が最大48%増加していると発表しています。
○参考:NTTコミュニケーションズ 5月18日週のインターネットトラフィック推移
日常的にデジタルデバイスに触れることが習慣化してしまうと、業務時間外も必要以上に触ってしまうということもあるかもしれません。「スマホ依存」「スマホ中毒」という言葉もありますが、それほどまでにデジタルデバイスが私たちの生活になくてはならない存在になっていることは周知の事実かと思います。
一方で、たとえば仕事中は常にweb会議やチャットでオンライン活動をし、仕事以外でも友人とリモート飲みやLINEなどで会話をしたり、オンライン上の動画や音楽を楽しむといった生活があまりに習慣化している今、「デジタルウェルビーイング」という新たな課題も生まれています。
デジタルウェルビーイングとは、デジタルデバイスによる不調や疲弊から心身を開放し、しかし同時にそれらによるメリットを享受し、その上で改めて心身ともに健康で幸せな状態であること。
もともとデジタルデバイスは人々の生活を便利にするために生まれたものです。しかし、それらが原因で眼精疲労を招いたり、良くない姿勢を続けることで体に負担をかけたり、また、頻繁にだれかと連絡をとらなくてはいけない状態に疲れてしまったり、あるいは連絡が来ないことを気に病んでしまったり、デメリットばかりが目立つようになってしまったら、付き合い方を見直す必要があります。
テレハラも「常に仕事相手と繋がれる状態」にあることが引き金となることもあるでしょう。相手との距離感がつかめなくなってしまって、軽口のつもりで放った言動が相手を傷つけることになったり、個人SNSの延長で頻繁に連絡をとりすぎてしまったりするということもありえるということです。
デジタルウェルビーイングを目指して
デジタルウェルビーイングを目指すことはテレハラ対策になるだけでなく、すべてのネットユーザーの健康を守ることにつながります。まずは今から取り組める改善策を参考にしてください。
デジタルデバイスを使う時間の上限を定める
業務内容や業務状況によっては難しいかもしれませんが、できる限り上限時間を設け、それに従うことでデジタルデバイスの過剰な利用を避けることができます。
特に、業務時間外に仕事相手と連絡をとるようなことは抑えましょう。フランスでは2017年に労働者の「つながらない権利」を認める法律が制定されていますが、本来、業務時間外に職場の相手とやりとりする必要はないはずです。
在宅勤務が続くと就業時間と休憩時間の境目があやふやになり、連絡が来たらすぐに対応してしまう、ということもあるかもしれませんが、そういった行動はメリハリがつかなくなるため、生産性向上の面でもあまりおすすめできません。休憩や休暇はきちんととるようにしましょう。
マルチタスク、デジタルマルチタスキングをしない
複数の業務を並行して行うマルチタスクは合理的なようで、実は集中力を妨げたり生産性を下げたりする原因であることは今や知られていることかと思います。同時に、やはり前項同様にメリハリがつきにくく、常にだれかと連絡をとり合ってしまったり、長時間デジタルデバイスに触れるきっかけになります。
また、PCとスマホを並行利用するといったデジタルマルチタスキングも避けましょう。作業はPC、連絡ツールはスマホと使い分けているケースもあるかもしれませんが、どちらも同様に常に新しい情報が見られるものなので、脳がオーバーワーク状態に陥ることもあります。
働き方が変わったら自身の働く姿勢も変える
「働き方改革」という言葉が生まれてから久しいですが、慎重に進行していたそれも、皮肉なもので新型ウィルス蔓延によって本格的に動いたような節も見えます。急な稼働についていくことはどんな方、企業でも難しいです。
まずは現時点で、自身が仕事を行う際にどういった環境や条件が必要なのか、あるいは求められているのかを見つめ直し、その上で新たな働き方を選択する場合は、働く姿勢も今までと変えなければいけません。
今後、その環境においてどういったシチュエーションが生じる可能性があるのか、どういった人とどういったときに交流をとり、そのときどういった会話が生まれる可能性があるのか、なにをどう言ったら、どういう態度をしたら相手が不快に思う可能性があるのか…、人とのコミュニケーションには常に想像力を働かせることが不可欠です。
企業などの組織に所属していない方であっても、仕事を行う上では自分以外のだれかとやりとりする機会があるものだと思います。その相手を尊重し、そして自身の尊厳も保つ、そういった健全な関係を築いていけるように行動しましょう。
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