2023年の色「Viva Magenta(ビバ・マゼンタ)」を活用した配色デザイン
世界的な色彩基準として用いられる色見本帳「PANTONE」を販売するパントン社が、2023年のトレンドカラーとして「Pantone Color of the Year 2023」を発表しました。今年の流行色に選ばれたのは、「Viva Magenta(ビバ・マゼンタ)」と呼ばれるビビッドな紅色です。
エネルギッシュなマゼンタのうちに、奥深さと複雑さを湛える色彩は、ファッションやインテリアはもちろん、Web上のクリエイティブ制作においても効果的に取り入れられるでしょう。
この記事では、ビバ・マゼンタという新色の特性やメッセージ性をふまえ、Webデザインにおいてどのように活用しうるかを考察していきます。
目次
Viva Magenta(ビバ・マゼンタ)とは
Pantone Color of the Yearは、毎年パントン社の「パントンカラー研究所」によって選定されるトレンドカラーです。例年、その年のトレンドカラーを発表している企業や組織にはさまざまなものがありますが、パントン社の選定における特徴は、「色と文化の関係」に焦点を当てている点にあります。
パントン社が選ぶカラーには、その時々における社会的な文脈や世相を捉えたうえで、「今の時代をどう生き抜くか」というメッセージ性が多分に含意されているのです。
また、パントン社の販売する色見本帳は、グラフィックデザインやファッション、その他さまざまなクリエイティブ領域において活用されています。ここから、Pantone Color of the Yearは、その年の文化的・感性的なトレンドを先導する役割を担っているといえるでしょう。
なお、2022年のPantone Color of the Yearに選出された「Very Peri(ベリーペリ)」については、以下の記事で解説しています。あわせてご参照ください。
Viva Magentaの特徴
パントン公式サイトにおいて、ビバ・マゼンタは「新たな力のきざしを表現する(expressive of a new signal of strength)」色であり、怖れることのない勇敢さや、脈動するエネルギーを象徴するカラーとされています。
(参照・引用:PANTONE “What is Viva Magenta?”)
一面において、ビバ・マゼンタの赤を基調とするカラーは、生命の生き生きとした力強さや、大胆で積極的な熱意を表しています。しかし一方で、その複雑で深みのある色合いは、多様な人々への受容性や、機知に富んだ柔軟性といったニュアンスを帯びています。 加えて、ビバ・マゼンタが「自然に由来するカラー」である点も強調されるポイントです。発想の源泉となったのは着色料にも用いられる「コチニールカイガラムシ」という昆虫であり、自然由来のエネルギーや豊かさを鮮やかに表現したカラーだといえるでしょう。
Viva Magentaに込められたテーマ
前掲のパントン公式サイト上では、ビバ・マゼンタを流行色に選んだ背景として、気候変動をはじめとする環境問題や、社会の持続可能性に対する意識の高まり、さらにデジタル化によって進展していくグローバリゼーションといった動向が挙げられています。
自然と技術、個人と社会など、私たちは時としてアンビバレントな対立のなかで、バランスを取りながら生きていくことを求められます。パントン社が今年の世相として捉えるのは、人々が世界のうちに共存するなかで浮き彫りになる矛盾や対立であり、さらにそうした動向とともに希求される、調和や受容に向けたムーブメントです。
このような時代背景をふまえ、自然由来のカラーとして位置づけられるビバ・マゼンタは、人々のうちに高まる「自然への感謝」に呼応した色として位置づけられています。コロナ禍を経てアウトドアや旅行といったレクリエーションの魅力が再発見されるとともに、それまで当たり前のものとしてあった自然への「ありがたみ」が再認されるようになったのです。
さらに、こうした自然に対する意識の高まりは、デジタル化していく社会のなかで、人間が自然物としての自己を取り戻す契機としても捉えられています。この点において、エネルギーに満ちた「祝福のカラー」とされるビバ・マゼンタは、メタバース空間に代表される脱身体的な環境と、豊穣で力強い自然とのバランスのなかで生きるための内面的な力を象徴するカラーとされています。
Viva Magentaのカラーコード
- PANTONE:18-1750
- HEX:#BB2649
- RGB:187, 38, 73
- CMYK:0, 80, 61, 27
- LAB:43, 59, 19
(パントン公式サイトより色を抽出し、複数のツールを利用して測定)
Viva Magentaを使った配色例
パントン社はビバ・マゼンタを用いたカラーパレットとして、以下の7色を提案しています。
それぞれのカラーの特徴と、カラーコードを紹介していきます。
Pale Dogwood
- 【カラーコード】
- PANTONE:13-1404
- HEX:#EDCDC2
- RGB:237, 205, 194
- CMYK:0, 14, 18, 7
- LAB:85, 10, 10
Pale Dogwoodは「薄色のハナミズキ」を意味し、ほのかに色づいた花弁をイメージさせるカラーです。奥ゆかしさとともに、何かが新たに始まっていく兆候を感じさせる色だといえます。
ビバ・マゼンタと組み合わせることで、力強いエネルギーの脈動とともに、萌芽における複雑な表情の変化を表現してくれるでしょう。
Gray Sand
- 【カラーコード】
- PANTONE:13-1010
- HEX:#E5CCAF
- RGB:229, 204, 175
- CMYK:0, 11, 24, 10
- LAB:84, 6, 18
Gray Sandは「灰色の砂」を意味し、砂浜を連想させるカラーです。視界の外まで続いていく浜辺のように、無垢な可能性を感じさせつつも、足の裏で感触を確かめたくなるような安心感を抱かせてくれます。
ビバ・マゼンタの複雑な精神を内包した躍動感と、Gray Sandの大いなる地平としての素朴さは好対照をなし、原始的な地平から創造的なエネルギーが開かれていくイメージを喚起してくれるでしょう。
Gray Lilac
- 【カラーコード】
- PANTONE:13-3804
- HEX:#D4CACD
- RGB:212, 202, 205
- CMYK:0, 5, 3, 17
- LAB:82, 4, -0
Gray Lilacは、ラベンダーのようなパープルを特徴とするライラックの花色をベースに、彩度を落としたカラーです。日本の伝統色である「桜鼠色」に近い色彩を特徴としています。
耐寒性の強いライラックのように、クールな印象を与えるカラーである一方、きわめて薄く色づく紫は、内面に秘められた強さや優しさを感じさせてくれます。
Gray Lilacがまとうほのかな神秘性は、ビバ・マゼンタと組み合わせることで、内的なエネルギーの多面性や、芯の強さ、底の知れない受容性を表してくれるでしょう。
Pale Khaki
- 【カラーコード】
- PANTONE:15-1216
- HEX:#BFAF92
- RGB:191, 175, 146
- CMYK:0, 8, 24, 25
- LAB:72, 3, 17
Pale Khakiは「薄いカーキ色」を意味します。砂漠地帯などでのカモフラージュに優れる色彩として、軍服に採用されることの多いカーキ色は、過酷な自然環境や、そこで生き抜くためのしたたかな精神をイメージさせるカラーです。
Pale Khakiのシンプルかつ原始的なイメージは、ビバ・マゼンタと組み合わされることにより、環境を問わずに脈動する生命のビビッドな活力を強調してくれるでしょう。同時に、逆境においても個性を失わずに創造的な取り組みを続ける精神のエネルギーを感じさせます。
Fields of Rye
- 【カラーコード】
- PANTONE:15-1115
- HEX:#B7A990
- RGB:183, 169, 144
- CMYK:0, 8, 21, 28
- LAB:70, 2, 15
Fields of Ryeは「ライ麦畑」を意味し、麦の穂先のイメージから、豊穣な自然の恵みを連想させるカラーです。自然の温もりや懐かしさ、穏やかで安定した暮らしをイメージさせてくれます。
ビビッドなビバ・マゼンタとの対照は、普遍性とアクティブな変化、素朴さと複雑さといったコントラストを浮き彫りにしながら、2つのものの「対立と調和」を表現すると考えられるでしょう。
Agate Gray
- 【カラーコード】
- PANTONE:15-6307
- HEX:#B3B1A1
- RGB:179, 177, 161
- CMYK:0, 1, 10, 30
- LAB:72, -1, 8
Agate Grayは「瑪瑙(メノウ)のグレー」を指し、縞模様を特徴とする鉱物であるメノウの歴史的な重層性や、加工の原材料としての素材感が表現されたカラーです。
アースカラーのなかでもとくに彩度の低い色であり、一面においては簡素さや無骨さを特徴としています。しかしその反面、時間の堆積とともに重ねられた奥深い表情をもっており、永続的な含みを湛える色合いだともいえるでしょう。
ビバ・マゼンタとともに用いることで、無機的なものと有機的なものとの対照が生まれ、生命とそれを支える物質的地盤の両面を表現しうると考えられます。
Plein Air
- 【カラーコード】
- PANTONE:13-4111
- HEX:#BFCAD6
- RGB:191, 202, 214
- CMYK:11, 6, 0, 16
- LAB:81, -2, -7
Plein Airは「屋外」を意味する言葉であり、青みがかったグレーの色合いのカラーです。フランス語で「en plein air」は屋外での制作活動などを表し、人間の創造的な営みの地盤となるフラットな精神が表現されているといえるでしょう。
ビバ・マゼンタと組み合わせることで、Plein Airは創造性のキャンバスとしての側面を発揮し、ビバ・マゼンタのエネルギーの躍動やうねりを強調すると考えられます。
Webデザインに活かせるViva Magentaの配色パターン
Webデザインにビバ・マゼンタを取り入れる際には、パントン社が推奨している上述のカラーパレットを参考に、表現したいテーマや好みのカラーに合わせて配色を決めていくとよいでしょう。
以下では、Webデザインに上記のカラーパレットを活用したイメージを紹介していきます。なお、イメージ作成にはさまざまなクリエイティブにおける配色パターンを確認できる「Palette Maker」を利用しています。
Viva Magenta×Pale Dogwood×Fields of Rye
こちらはビバ・マゼンタに、Pale Dogwoodの「ハナミズキ」とFields of Ryeの「ライ麦」という植物をイメージした2色を組み合わせた配色例です。
やわらかで安心感のあるトーンを基調としながら、ビバ・マゼンタの深い紅色が鮮烈なアクセントとして意識を引きつけます。
Viva Magenta×Pale Khaki×Gray Lilac
カーキの乾いた質感に、ほのかに血色を感じさせるライラックの繊細な表情が調和した配色例です。
ビバ・マゼンタの熱を帯びた躍動感が目を引きつけるため、CTAやリンクボタンとしても有効と考えられます。
Viva Magenta×Plein Air×Agate Gray
無機物を連想させる2つのグレーと、ビバ・マゼンタの組み合わせです。
クールな印象が強いので、サイトのUIとして用いるよりは、ロゴなどで洗練された印象を与えたいときに有効な配色といえるでしょう。
Viva Magentaの活用事例
Web制作のほかにも、ファッションやインテリアをはじめ、さまざまな分野でビバ・マゼンタを取り入れたデザインが活用されています。以下では、ビバ・マゼンタを取り入れた製品や、これをテーマとした企画の一部を紹介していきます。
Viva Magentaを取り入れた商品やデザイン
レノボグループの子会社として中国に本拠を置く「Motorola Mobility」は、同社のスマートフォン「motorola edge 30 fusion」の特別バージョンとして、パントン社とコラボしたモデルを発売。ボディ全面のビバ・マゼンタが個性を放ち、ITガジェットのうちに有機的な躍動感を表現したアイテムとなっています(日本未発売)。
(参考: Motorola Mobility “Best Design Android Phone | motorola edge 30 fusion”)
また、テキスタイルデザインを制作・販売する「garafactory」は、Instagram上でビバ・マゼンタを取り入れた幾何学パターンの柄を公開しています。
こちらの配色パターンを含め、柄データはAi形式で販売されており、ライセンスフリーで利用可能。さまざまなシーンで活用できるでしょう。
さらに、自社商品を使ったビバ・マゼンタのコーディネートをSNS上で紹介する施策も数多く見られます。たとえば新宿高島屋などに店舗を展開する「NATURALI JEWELRY」は、InstagramやTwitter上でマゼンタ系のジュエリーの画像を投稿しました。
ビバ・マゼンタのカラーが表現するニュアンスとともに、宝石に込められた石言葉についての説明を加え、商品の魅力について訴求しています。
Viva Magentaを用いた企画
銀座の蔦屋書店は、2023年3月1日から3月31日にかけ、ビバ・マゼンタをテーマカラーとした作品展を開催しています。展示されるのは、アーティストのMVや書籍カバーなどを手がけ、アパレルブランドとコラボ展開もしているイラストレーター「ともわか」氏のイラストです。
(参考:蔦屋書店「【ARTIST NEWS】2023年の流行色“ビバマゼンタ”をテーマにしたイラストレーター・ともわかによる2年ぶりの作品展「Viva」を開催」)
また、レゴジャパンの公式Twitterは、2023年1月6日に「色の日」にちなんだ投稿を行いました。ビバ・マゼンタに彩られたレゴフラワーの画像を公開し、あらためてレゴの汎用性や楽しさを訴求しています。
今日1/6は色の日 🌈
— レゴ ジャパン公式 (@LEGO_Group_JP) January 6, 2023
パントン社が発表した2023年の色「ビバマゼンタ」のレゴ フラワー🌹#レゴ #色の日 pic.twitter.com/Q8SDsvigNN
このように、Pantone Color of the Yearはさまざまな分野のデザインに取り入れられるほか、これをテーマとした企画や施策も展開されており、クリエイティブ領域を中心に波及しています。
トレンドカラーと世相・文化は、しばしば相互に影響を与えあうものです。流行色が無意識のうちに世間に浸透していくことで、そのカラーによるインスピレーションが社会のうちで醸成され、時代精神を少しずつ動かしていく面もあるでしょう。
自社の施策や商品展開にトレンドカラーを取り入れていくことは、単に「流行りに乗る」ことを意味するのではなく、「その時代をどのように解釈し、それにどう応答していくか」を表現することにもなるのです。
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