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山口実果さん

映像ディレクター山口実果さん―映像演出で“空間をつくる”ということ

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L’Arc~en~CielやAdo、ONE OK ROCKなどのライブ映像演出を手がける映像ディレクターの山口実果さんにインタビュー。映像ディレクターとはどういうお仕事なのか、フリーランスで活躍できるのか、聞きたいことは盛りだくさんです!

映像ディレクターとは

映像演出
(後述する、山口さんが透過スクリーンを活用した映像演出手法)

映像制作において、企画の立案、構成、撮影、編集、すべての工程に携わる大事な仕事。カメラマンや映像編集者などに指示を出し、進行管理も行います。そのため、ただ制作するだけではなく、多くの人とコミュニケーションを取る必要もあります。

自身が撮影を行ったり、編集を行ったりすることも珍しくなく、特に近年では増えているため、すべてのスキルを身につける必要があると同時に、トレンドやテクノロジーの変化、進化にも敏感でなくては務まりません。

現代においては市販のカメラやスマホ、編集ソフトなどの機能の向上に伴い、だれでも気軽に映像作品を制作することが可能になりました。今の時代を生きる映像ディレクターにとっては、より求められるレベルも上昇し続けていると想定できます。

独立後L’Arc~en~Cielのライブ映像演出

映像ディレクター 山口実果さん
(映像ディレクター 山口実果さん)

―早速ですが、映像ディレクターとしてどのようにキャリアを構築してきたかお伺いできますか?

映像ディレクター 山口実果さん(以下、山口さん):東京に出てきたのが25歳のときだったんですけど、そのときに入った会社で、初めて仕事として映像制作に携わりました。
サッカーのスタジアムで選手が入場する前に流す選手紹介映像です。

その後、MTVジャパンに入社し、オンエアプロモーション(※)という、番組と番組の間に流れるCMみたいな映像やスポットCM(※2)をつくっていました。

※ オンエアプロモーション:番宣、局宣映像ともいう。番組や放送局をプロモーションする映像。

※2 スポットCM:番組のスポンサーとしてではなく、時間を指定して放送されるCM。

山口さん:今はフリーランスで、ミュージックビデオやwebCM、あとはライブのときに、アーティストの後ろに設置されている大型LEDスクリーンに映す映像の演出をやっています。

―今まで主にどういったアーティストの映像演出をされてきたのでしょうか?

山口さん:2022年5月から「針NEEDLE」というチームで、L’Arc~en~Ciel(ラルク アン シエル)やONE OK ROCK(ワンオクロック)、初音ミクさん、Adoさん、BUCK-TICK(バクチク)……いろいろとつくらせていただいています。

(山口さんが映像演出されたL’Arc~en~Cielのバンド結成30周年記念ライブ「30th L’Anniversary LIVE」が、2022年12月23日(金)より、Amazonプライム・ビデオにて世界独占配信されることになりました)

―ライブの映像演出ならではの、ほかの映像をつくる際と大きく異なる点はありますか?

山口さん:考え方が結構違いますね。
webCMやミュージックビデオは絵コンテをしっかり描いて、何秒にどういった画(え)を映して、何秒にナレーションを入れる、というのを最初にがっつり決めるんです。

一方でライブだと、セットリストがギリギリに決まることも多いので、そこから「こういうイメージでやります」っていう企画を立てて、先方にイメージが伝わるようにイメージをつくって、OKが出たらサンプルをつくって、「じゃあこれでいこう!」と決まったら1曲ずつフルで制作に取りかかるという感じなんですよね。

ライブとなると、やっぱりパソコン上で見るのと現場で実際に投影するのでは大きくイメージが変わるので、本番の前日、当日の直前ギリギリまで修正したり調整したりして納品しています。

―臨場感がありますね……。
もしかして、納品してからも作業することがあるのでしょうか?

山口さん:そうですね。2daysライブなどの場合は、1日目の反省を活かして「明日はもうちょっとこうしよう」といった再調整を行うので、本当にギリギリまでやっています……(笑)。

―ライブ映像は生き物なんですね……。

映像ディレクターを志したきっかけ

山口実果さん

―最初に映像ディレクターを志したきっかけはなんだったのでしょう?

山口さん:きっかけはすごくミーハーな話なんですよね。
山形の東北芸術工科大学の映像学科に通っていたころに、当時まだYouTubeも今ほど有名じゃなかったんですけど、友だちとよく「このミュージックビデオかっこよくない?」みたいな話をしていたんです。

海外のミュージックビデオだと、よくディレクターの名前が載っていることもあって、興味が沸いて映像ディレクターという仕事について調べたんですよね。

それで「へー、自分でこういう企画を立てて、絵コンテを描いて、映像をつくるのか~」と知って、「かっこいい!私もやりたい!」って思いました。

もともと音楽好きだったので、最初は「ミュージックビデオを撮りたい」という気持ちから始まり、そこから「ディレクターになって自分の思う画を撮りたい」とか「『やってみたい』をかたちにしたい」と思って進んできたという感じです。

フリーランスになってから感じる、チームで動くことの大きさ

―MTVジャパンから独立してフリーランスになろうと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

山口さん:もともとフリーランスでやっていきたいという気持ちがあったんですよね。
自分の実力でどこまでいけるのか勝負したいという思いが根底にあり、まずは会社に入って、いろいろと技術を学んでから独立しようと考えていたんです。

今の時代だったらSNSも盛んなので、いきなりフリーで活動をはじめる方もいるんですけど、私たちの時代はまだその基盤が整っていなかったので……。

どういうふうに案件が進んでいくのか、CMのような限られた時間でどういうふうに見せるのが一番効果的なのか、そういう技を吸収してから辞めました。

―映像ディレクターという職業は、フリーランスで活動されている方が多いのでしょうか?

山口さん:そうかもしれないです。
大学のときにいろんな映像を観ていて、「これかっこいいな!」って思う作品は、フリーのディレクターさんによってつくられたものが多かったんですよね。

そういう人たちって、やっぱり独自のブランドを持っていて、それで名前が知られるようになっていたので、自分もこういうふうに勝負していきたいと思ったのが大きいですね。

―それで実際に今は1人で活躍されているわけですね。

山口さん:活躍ってほどでもないですけどね(笑)。
それに、今はチームで動くことが多いんですよ。
やっぱり1人だけだと、どうしても限界というか天井があるんですよね。

特にライブやミュージックビデオの撮影もそうなんですが、規模が大きくなればなるほど、1人だけではキャパが足りなくなるので、今はチームで動くことの大切さをすごく身にしみて感じます。

―それが先ほどおっしゃっていた「針NEEDLE」ですね。
どういった編成で活動されているのでしょうか?

山口さん:手を動かすのは、私ふくめディレクターが2人、制作編集が1人で、3人。
それとプロデューサー兼営業といったポジションの人が1人の4人で動いています。

カメラマンはそのチームの中にはいないんですけど、長い付き合いの人がいて、一緒に行動することが多いです。
ライブ撮影のときなど遠く離れた場所からでも、アイコンタクトだけでこちらの言いたいことが伝わるので、1人だけど1人じゃない強みというのは常に感じています。

ライブ映像をつくるときの流れ

山口実果さん

―案件にもよると思うんですが、実際にライブ映像制作に取り組むときの流れについて、ざっくり教えていただけますか?

山口さん:アーティストさんにもよるんですが、大抵はそのライブや曲ごとのコンセプトをうかがって、1曲ずつイメージを紙に出力して「こういう感じでどうですか?」と説明してOKをもらいます。

LEDスクリーンの形が毎回違うので、どのくらいの大きさで、どういったものを作っていくのかを確認して、そこから制作スタートです。

―かかる時間は制作前のほうが制作中より長いですか?

山口さん:そうですね、かなりギリギリになってから制作開始できるというときもあります(笑)。

大抵の場合は「1か月くらい前に着手できたらいいよね」って思っていますが、3週間くらい前から始まって、がっと集中して取り組んで、本番を迎えるということも……。

打ち合わせのときは、アーティストの方と制作の方、舞台演出の方などと一緒に「こういう流れでやっていきます」とプレゼンしながら進めることが多いです。

直接アーティストさんから「ここはこういうイメージだからもう少しこうしてほしい」とか「この部分、とてもいいですね」など言っていただきながら作業をする感じですね。

―これも案件によるとは思うんですけど、だいたい依頼をいただいてから納品までにかかる期間はどのくらいですか?

山口さん:ライブだと、ドームなのかアリーナなのかZeppなのか、といった会場の規模や環境にもよるんですけど、だいたい3か月前から進行しはじめて、映像制作だけにフィーチャーすると1か月くらい前が多いですかね。

24時間作業することもある

―決まっていないとは思うんですけど、制作に入るとだいたい1日にどのくらい作業するのでしょうか?

山口さん:企画を出す段階、イメージを共有する段階、サンプルを提出する段階と、それぞれ期限が設けられていて、それに向かって走っているという状況なので、特に決まってはいないんですけど、でも私は夜型なので大抵朝9時くらいに起きて10時、10時半くらいから家でそのまま作業を始めることが多いですね。

それで、そのまま夜中の3時くらいまで……でしょうか(笑)。

―睡眠時間短そうですね……。

山口さん:平均すると4時間くらいじゃないですかね。
どうしてもライブ前になると眠れないんですよね。
絶対に本番は成功させなきゃいけないので、「ループ」といって、前日から本番まで24時間動いています。

―「ループ」という言葉、初めて聞きました。
THE業界用語ですね(笑)。
睡眠時間が短くて集中力が切れることはないんですか?

山口さん:集中力が切れることはないんですけど、眠さの限界が訪れることはあります(笑)。

そうなったらちょっと散歩してみたりするんですけど、映像ってグラフィックをいじっていると書き出しに1,2時間くらい、多いときは1曲だけで5時間かかったこともあるくらい空白の時間ができるので、そのときに休むという感じですね。

―では特に集中力を高めるための工夫などは必要なさそうですね。

山口さん:私の場合はプライベートと仕事でスイッチが切り替わるので、仕事となると寝ていなくても結構ずーっと集中できますね。

―ショートスリーパーって、5時間以下睡眠が何日続いても、日中に眠気がくるといった自覚症状がなく、健康上も特に問題がない人のことを指すらしいんですけど、まさしくそれですかね。

山口さん:そうですね、3時間寝られれば大丈夫です(笑)。

―その体質は今のお仕事を始めてからですか?それとも昔から?

山口さん:気持ちとしては10時間寝たいんですけど、でも親に聞くと赤ちゃんのころからあまり寝ない子だったらしいので、もともとの体質かもしれないです。

3,4日ほどオールでほとんど寝ていないときがあったんですけど、ライブ本番が終わって「やっと眠れる!今日はなにもしない!寝よう!」とアラームをかけずに寝たときも6時間で「ハッ!」と起きました。
意外と人間って6時間眠れれば充分なんだなって思いましたね(笑)。

―ロングスリーパーとしては「個人差があります」という注釈を入れておきますね(笑)。

どんなに疲れても辞められない映像制作の魅力

―ショートスリーパーであっても、決して楽な環境ではないと思います。
山口さんにとって、それでも続けたいと思える映像制作の魅力はなんでしょうか?

山口さん:もともと映像をつくるのが好きということもあるんですけど、さっき東京に出てきて初めての仕事はサッカー選手の紹介映像だったとお話ししましたが、スタジアムで自分のつくった映像が流れて、会場が「うわー!」って沸き立ったときに、やってよかったと実感したんですよね。

もちろん映像だけの力じゃなくて、これから試合が始まるというわくわく感もあってのことだとは思いますけど、今もライブ会場が熱く盛り上がっていく様子を見たら「これは辞められん!」って感じます。
ミュージックビデオの制作も楽しいですが、やっぱり直にオーディエンスの勢いを感じられるライブは特別かもしれません。

―それはつくっている人しか感じられない醍醐味ですね。
今までに制作されたなかで、特に思い入れが強い作品はなんですか?

山口さん:「作品」となると、反響が大きかったという点でも、先日リリースされたHYDEさんの『PANDORA』のミュージックビデオですかね。

―拝見しました!
クールの中にポップな印象もミステリアスな印象もあって、アーティストの魅力を引き出すかっこいい映像ですよね。

かなり随所にこだわりが感じられますが、ちなみに映像制作をしていて、一番苦労されるのはどういったときでしょうか?

山口さん:ライブ映像を制作するうえでは、オープニングは目立ってもいいんですけど、曲中はやはりアーティストさんあってのライブなので、出しゃばりすぎないようにするというのは心がけています。

アーティストさんも表現者で、こちらの演出がその表現とぶつかってしまってはいけないので、コンセプトをきちんと汲んで、そのうえでインパクトのある演出を考えて、でも表に出すぎないように気をつけて……という感じです。

―同時に考えなくてはいけないことがたくさんあって大変ですね。
でも山口さんとしては、その分やりがいもひとしお、といったところなのでしょうか?

山口さん:おっしゃるとおりです。
あと苦労するのは、「こういう演出をしたい」と考えたときに、いま私が持っているノウハウだけではいまいち欠ける場合、勉強しながら制作しなくてはいけないので、より大変ですね。
でも同時に楽しさも大きくて、紙一重みたいなところはあります。

SNSが与える映像業界への影響

山口実果さん

―数年前に繰り返し「動画元年」という言葉が飛び交ったほど、今やだれでも気軽にSNSやYouTubeなどで映像を制作・発信できるようになりましたよね。

それは動画コンテンツが再注目されるきっかけにもなったと思いますが、SNSなどが映像業界に及ぼす影響について、なにか個人で活動されていて感じることはありますか?

山口さん:ディレクターの立場からすると、とてもいい時代になったと思っています。

というのも、たとえばミュージックビデオの制作中に「ここにこういう感じのCGを入れたいな」と思ったら、「だれか得意な人はいないかな」と人に紹介してもらうだけでなく、TwitterなどSNSで探すことも多いんです。

あるいは「こういうテイストのイラストを入れたい」というときには、Pinterestから探してSNS上でアポイントを取ることもあります。

ネット上には自身の作品を投稿している人がいっぱいいるので、簡単に求めている作風に近いものを見つけられて、すごく便利なんですよね。

―プラスに影響しているということですね。

山口さん:そうですね、私のようなキャッチする側も、発信する側もアピールできる場でもあるな、と思うので、これから映像制作を始める人もふくめ、どんどん活用していったほうがいいと思います。

これから映像業界を目指す人へ

―これから映像ディレクターを目指す方へ、なにかアドバイスなどはありますか?

山口さん:これからやっていきたいのであれば、あまり深く考えずに、とにかくPCを買ってつくってみて、SNSに投稿するなどしてみてほしいです。

たとえばミュージックビデオを観て「これかっこいいな」って思ったら、今ならYouTubeなどを検索したらチュートリアルが公開されていることも多いので、とにかく手を動かしてみてください。

自分でつくってみると「こういう表現をするにはこのくらい時間がかかるんだな」という感覚や、グラフィックの動かし方の仕組みがわかるようになるので、そのうえで、作品をアピールしていくというのが大事だと思います。

あとはライブ映像に携わりたいなら、実際にいろんなライブに足を運んで、どういうふうに演出しているのか、どの場面で映像を切って照明だけにしているのかなど、いろいろ観ることも大切ですね。

―そうやってインプットしていくということですね。

山口さん:そうですね、いろいろ遊んだほうがいいと思います。

―SNS上に作品を公開していたことで制作現場にアサインされることがあるなら、最初からフリーランスで活動する方もどんどん増えていきそうですね。

フリーランスというと、コロナ禍のような予想できない事態において、収入が不安定になりかねないという側面もあると思いますが、山口さん自身は不安視するようなことはないですか?

山口さん:私自身はコロナ禍ではライブ案件が激減した代わりに、webCMなどほかのお仕事をいただけたので特に問題はなかったんですが、ライブ業界で働く人たちは本当に大変そうでしたね。

収入が安定しないことについては、たぶんフリーランスの人は全員不安と隣りあわせのまま、それを見せずに活動しているんじゃないかと思います。

私も常に不安があります。
でもそれ以上に、やりたいこと、表現したいものがたくさんあるので、そこを信じて進むしかないという感じですね。

今までつくってきたものを見て新たに声をかけてくださる方もいるので、そういった方と今後も一緒にやっていきたいと思っています。

―信じた先に結果がちゃんとついてきているということですね。

インプットツールとしてもSNSは有効

―山口さん自身は普段、どういったところからインスピレーションを得ているのでしょうか?

山口さん:実際にライブを観に行くのはもちろん、海外のミュージックビデオや海外のフェスはネットで探して観ています。

あとは映画を観たり、おもしろそうな展示を見つけたら行ってみたり、そういうことは結構していますね。

―最近山口さんが見つけた「おもしろい映像」はなんですか?

山口さん:TikTokで、かっこいい展示を見つけたんですよね。
志茂浩和さんっていう、神戸芸術工科大学の教授でアーティストでもある方がつくっている、すりガラスの向こう側に人が実際にいるように見せている3DCGアート作品で、弁天様を表現しているらしいんですけど……。

@hiroyasus 9月の八王子個展で展示した弁天様。2023年5月2日から14日までに岐阜メディアコスモスにて展示します。#videoinnstallation #installation #志茂浩和 #みんなの森メディアコスモス #cosplay #mediaart #videoart ♬ オリジナル楽曲 – Art G

山口さん:結構この映像からヒントを得た部分もありますね。
TikTokやインスタから「ライブの演出に使えるな」といったアイデアを発見することは多いです。

―コロナ前の2018年に六本木アートナイトで「挟まる人」を展示されていた方ですね!
当時見に行きましたが、弁天様同様、リアルと非リアルのちょうど間を表現されているように感じて印象的でした。

山口さん:メディア芸術祭審査員推薦作品に選出された作品ですね。おもしろいですよね!

山口さん:ほかには、『チェンソーマン』のエンディング映像も好きです。
毎話変えているというのもふくめ、見せ方に熱量が感じられてすごくかっこいいんですよね。
カット割りや画のつくり方は、MVやライブのグラフィック映像の展開などの参考にもなり、学ぶところもあります。

(こちらはVaundy「CHAINSAW BLOOD」をテーマソングにつくられた第1話スペシャルエンディング)

―情報解禁直後からSNS上でも話題になっていましたよね。
特に好きな回はありますか?

山口さん:うーん、全部好きだな~。
作品に勝負をかけている感じがして、とても刺激を感じます。

プロの映像ディレクターによるライブ映像制作の実例

映像演出
(冒頭で紹介した、山口さんが映像演出した手法。実際にBUCK-TICKのライブで利用された説明用の映像を拝見いたしました)

―ライブで実際に行った映像演出の技術について、なにか事例を教えていただけますか?

薄い透過スクリーンを用いた手法は、ライブならではかもしれません。
先日(2022年9月)横浜アリーナで開催されたBUCK-TICKのライブでも実際に使わせていただきましたが、すごく薄くて向こう側が透けるんです。

それをメンバーの前に設置して、後ろにもスクリーンを置いて、それぞれのLEDを駆使することで、空間を泳いでいるような、なんというか、視覚を騙すことができるんです。

―映像も立体的に見えてきそうですね。

山口さん:そうですね、3D空間にいるように見せることができるので、それは見ている人にとってはびっくりする、はっとする演出なんじゃないかなと思います。

映像だからできること

―話を聞いていると、生まれ変わっても映像ディレクターという道を選んでいるんじゃないかなという気がします。

山口さん:そうですね、映像ではなくても、なにかしら表現をする仕事はしているんだろうなと思います。

生まれ変わったらまったく違う仕事をしたい、ということは考えたことがないです。
映像オタクです(笑)。

―そんな山口さんの思う、「映像だからできること」はなんでしょうか?

山口さん:視覚はみんなのイメージに残りやすいと思うんですよね。
クリエイターとしては、自分の思い描いたとおりに、パズルや積み木のように、絵コンテを描いて、いろんな人に協力してもらって、ひとつの作品として世に出せるというのは、やっぱり一番うれしいことです。

あとライブ映像については、以前演出家に言われた言葉がとても心に残っています。
「音は照明で録るから、映像は空間をつくってくれ」っていう。

空間をつくるという感覚はとても大事なことで、もちろんアーティストさんの力で会場は盛り上がるんですけど、映像によって、さらに高めることができると思っています。
まさに照明で音を録り、映像で空間をつくることができたら、とても気持ちがいいんですよね。

そうやってライブをより盛り上げるお手伝いができているというのは、映像クリエイター冥利に尽きると感じています。

将来的には海外アーティストの映像制作を見据えて

山口実果さん

―それでは最後に、今後の目標についてお伺いできますか?

山口さん:やっぱりライブの演出をもっとやっていきたいですね。
日本だけでなく、ゆくゆくは海外のアーティストのライブや海外のフェスの映像に携わっていきたいです。

―プランは立てていますか?

山口さん:特に決めてはいないんですけど、K-POPの映像演出からスタートして、じわじわといろんな国に行きたいですね。
先ほども少し話しましたが、今も海外で制作された映像を見ながら学ぶことがあるので、いずれはそっち側に行きたいと思っています。

目標は、だれもが知っているような世界で活躍する海外アーティストからご指名をいただくことです。
夢はでっかく!

―すでにフリーランスの映像ディレクターとして活躍するという夢を叶えている山口さんなので、今後の夢も楽しみに見守らせていただきます!

「フリーランス=ひとり」というわけではない

山口実果さんインタビュー
(インタビュー中にご自身のスマホで、いま山口さんが注目している映像を見せてくださいました)

筆者は大学時代に社会言語学を専攻しており、そのなかで“jargon”という言葉に出合いました。身内間や内輪だけで通用する言葉のことを指しますが、日本語では「業界用語」や「専門用語」と訳されることが多いです。

たとえば、飲食店で常連の人しか使わない略称で注文してお店の人に通じたり、SNS上でファン以外には伝わらないよう好きなアイドルのことを独自のあだ名で呼んだりするのもjargonのひとつ。

同級生の中には、女子高生を意味する「JK」という言葉を当事者たちに気づかれずに利用するため、ロンドン訛りっぽく発音するという人もいました。友人間で「うちらマインドJKだよね」などと話すときに、周りに実際に女子高生がいたらはずかしい、ということらしいです。

jargonは友人間や同僚間、家族間など、コミュニティごとに存在するものだと思います。ビジネスシーンにおいても、その業界にいる者同士でしか伝わらない言葉というだけでなく、あるいはもっと狭い範囲で、その職場、その日一緒にその仕事をした者同士でしか通じ合えない言葉も多く、個人同士の結びつきを強める役目も担うそれを「業界用語」と訳してしまうのは、やや乱暴だといえるでしょう。

以前アパレル企業のEC事業部にコピーライターとして勤めていたことがあったのですが、そのときの上司は「ファッションの力を信じている」という言葉を口癖のようによく言っていました。当時、私は口にこそ出したことがなかったものの「言葉の力を信じる」というモットーを掲げており、どこか共鳴し合えた気がしたのでよく覚えています。

ファッションの力を信じてバイイングしたりデザインしたりしたアパレル商品を、言葉の力を信じてリリースすることで、より大きな価値が生み出されるはずだと確信していました。

山口さんの心に残る「音は照明で録るから、映像は空間をつくってくれ」という言葉も、違う場所にいる人にとっては、通じるようで、その字面以上の意味は伝わらない言葉だと思います。

照明で音を録るという感覚と映像で空間をつくるという感覚、そのどちらも実際に体験した人、あるいは体験しうる人でないと、真の力を発揮することのない言葉でしょう。

だれかの声に素直に耳を傾けていると、時にその人にしか響かない言葉というものに出くわします。それは新しいステージに連れていってくれたり、背中を押してくれたり、進むべき道を決断させてくれたりします。

この特集ではフリーランスや自営業の方にインタビューしていますが、だれしもひとりではなく、私たちはみんなだれかとコミュニケーションを取りながら前に進んでいるんだというのを改めて考えさせられる取材でした。


さて、今回も『SUNGROVE』がマーケティングを主軸にしたメディアであることにちなんで、音声広告を意識して20秒間で自己PRしていただくという当特集恒例企画を公開いたします!



山口実果さん

長野県出身。
東北芸術工科大学卒業後、上京し、映像ディレクターとして活動を始める。
MTVジャパンに入社し、5年で独立、現在にいたる。
キャリアとしては2022年現在、11年目。
ミュージックビデオやアーティストのライブ会場での映像演出など、音楽にまつわる制作が多い。
2022年より、映像制作チーム「針NEEDLE」のメンバーとしても活動中。

Instagram
所属されている映像制作チーム「針NEEDLE」
針NEEDLEのInstagram
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この記事を書いた人

浦田みなみ
元某ライフスタイルメディア編集長。2011年小説『空のつくりかた』刊行。モットーは「人に甘く、自分にも甘く」。自分を甘やかし続けた結果、コンプレックスだった声を克服し、調子に乗ってPodcastを始めました。BIG LOVE……

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