今目指すべきはユニコーン企業ではなくゼブラ企業?その違いとは
近年、革新的なビジネスモデルによって創業から急成長を遂げる「ユニコーン企業」は、多くのスタートアップ企業にとって「成功のモデル」とされています。各国の投資市場が拡大するなか、年々ユニコーン企業は増加しており、その仲間入りを果たすべく邁進している企業は少なくないでしょう。
一方で、SDGsへの社会的関心の高まりとともに、「ゼブラ企業」という経営のあり方にも注目が集まるようになりました。社会の成員にとって「持続可能性」が共通のテーマとなるなか、「利益」と「社会貢献」の両立を目指すことの重要性が高まっているのだと考えられます。
今後の企業経営を考えるにあたり、ユニコーン企業とゼブラ企業に見られる理念や方法論の違いを知り、これからの社会動向を見通すことは、将来に対する指針を与えてくれるかもしれません。この記事では、両者の定義や特性を説明したうえで、それぞれの違いについて解説していきます。
目次
ユニコーン企業とは
ユニコーン企業とは、「未上場かつ創業10年以内のスタートアップ企業のうち、評価額が10億ドルを超えるもの」を指しています。
ユニコーンという呼称は、2013年に投資家のAileen Lee(アイリーン・リー)氏によって広められたとされています。スタートアップからほどなくして大きな成功を収める企業が、神話上の存在であるユニコーンのように貴重であることが呼称の由来です。
「ユニコーン企業」という言葉が登場した頃は、ユニコーンの名に違わず、条件に合致する企業は極めて珍しかったといえるでしょう。ところが現在では、世界的な投資熱の高まりもあり、年々ユニコーン企業は加速度的に増加しています。「CB Insights」の調査によれば、2022年1月現在、世界で900社以上のユニコーン企業が存在するそうです。
(参照:CB Insights “The Complete List Of Unicorn Companies”)
なお、現在のユニコーン企業のうち半数ほどがアメリカ合衆国の企業です。その数は2021年12月の段階で500社近くにも上ります。
(参照:Tracxn“Unicorns in United States”)
ユニコーン企業が増加するにつれ、「10億ドル」という枠には収まりきらないほどの爆発的な成長を遂げる企業も見られるようになりました。この際、評価額100億ドルを超える場合には「デカコーン企業」、1000億ドル以上であれば「ヘクトコーン企業」と呼ばれます。
現在のヘクトコーン企業としては、TikTokの運営で知られる中国の「ByteDance(バイトダンス)」が挙げられるでしょう。また先の「CB Insights」によれば、2022年1月の時点でデカコーン企業は世界に40社以上も存在しています。
ユニコーン企業の特徴
ユニコーン企業に該当する条件は明確な数字として定められているため、業種・業態にかかわらず、さまざまな企業が仲間入りを果たしています。AIやフィンテック、ソフトウエア、ECのほか、デリバリー産業、小売り、あるいはこれらを組み合わせたビジネスモデルも散見され、傾向性を一括りにすることは困難だといえます。
一方で、かつてユニコーン企業であったGoogleやFacebook(現Meta)などのイメージから、「ユニコーン企業=シリコンバレーを拠点とするテクノロジー系企業」という印象も強く残っているといえるでしょう。
こうしたイメージから、ユニコーン企業は「自由を重んじ、柔軟な発想により技術的革新を遂げる」というカリフォルニアン・イデオロギーを体現した企業として描かれることも多いです。
あるいは、投資熱の高まりによってユニコーン企業の急増する近年では、民間からの資金調達や買収戦略といったマネーゲームを巧みに行い、急成長を遂げる企業として描かれる場面も見られます。
いずれのケースにおいても、共通するのは「革新性」というポイントです。技術面でのイノベーションや、ビジネスモデルの新規性により、「今後の社会基盤の構築に大きく貢献しうる企業」がユニコーン企業のうちに多く見られます。
日本におけるユニコーン企業
数百ものユニコーン企業がひしめくアメリカ合衆国や中国と比べると、投資市場の規模もあり、日本のユニコーン企業はやや少ないといえるかもしれません。2022年1月時点で、日本国内の未上場スタートアップ企業のうち、評価額が1,000億円を超えているものは11社です。
日本企業の世界的な競争力向上を目指し、政府は「未来投資戦略2018」において、評価額1,000億円以上のスタートアップ企業を2023年までに20社創出する目標を掲げました。これにともない、経済産業省が中心となって「J-Startup」を立ち上げ、官民共同で独創的なスタートアップ企業を支援する体制を構築しています。
現在、国内で評価額1,000億円を超えるスタートアップ企業としては、ニュースアプリで知られる「スマートニュース株式会社」や、クラウド型人事労務ソフトを提供する「株式会社SmartHR」、タクシーアプリ国内シェア1位※の「GO」を展開する「株式会社Mobility Technologies」などが挙げられます。
※App Annie調べ、タクシー配車関連アプリにおける日本国内ダウンロード数(iOS/Google Play合算値)、調査期間:2020年10月1日〜2021年9月30日
その他、名を連ねているのは機械工学や素材・エネルギー関連、半導体や仮想通貨関連などの企業です。傾向として、次世代社会におけるプラットフォーム構築を担う企業や、持続可能性にコミットする企業が評価額上位に位置しています。
(参照:STARTUP DB MEDIA「国内スタートアップ評価額ランキング最新版(2022年1月)」)
ゼブラ企業とは
ゼブラ企業とは、経営において利益ばかりを追い求めるのではなく、SDGsの理念に見られるような「持続可能な成長」の観点を重視する企業を指します。環境問題や人権問題をはじめ、さまざまな社会的課題の解決に向け積極的に取り組む姿勢が特徴だといえます。
ゼブラ企業という言葉が広まる発端となったのは、2017年に4人の女性起業家が起こした「ゼブラ・ユナイト」という運動です。過度な利益追求による市場破壊や環境破壊など、長期的な視点において社会に損失をもたらしうる企業活動へのアンチテーゼとして、持続可能性に焦点をあてた経営の重要性が訴えられました。
ゼブラ企業は、自社にとっての「利益」と、世界的な問題をめぐる「社会貢献」の両立を理念としています。両者はこれまで「相反する要素」として受け止められてきた面がありますが、ゼブラ企業は白と黒の縞模様からなるシマウマのように、対立するように見える要素を「矛盾なく共存させる」ことを目指すのです。
さらに、現実において群れをなして活動するシマウマのように、経済主体間での協力・扶助関係を結んでいくことも、ゼブラ企業の重要な方針とされています。
ゼブラ企業が注目される背景
「企業の社会貢献」という観点から見れば、古くから「CSR(企業の社会的責任)」という言葉があり、日本でも1950年代から使用例が見られます。ここから、「企業は利潤のみを追求する経済主体であるべきではない」という視点は、ことさら新しいものではないといえるかもしれません。
しかし近年、メディアの発展を通じて環境やジェンダー、格差といった社会問題が身近な形で意識されるようになりました。加えて、SDGsにおいて「世界的に取り組むべき課題」が示されたことからも、「企業経営を通じた社会貢献」がより具体的な形で求められるようになったといえるでしょう。
つまり現在では、「消費者に倫理的価値を提案し、社会問題の解決に寄与する」ようなビジネスモデルを構築するゼブラ企業が、時代に即応する経営のあり方として注目されるようになったのだと考えられます。
ゼブラ企業の例
従来、企業の社会貢献は「収益をあげるビジネスとは別に行われる慈善事業」として捉えられる面がありました。一方、ゼブラ企業においては、「ビジネスモデルそのものが社会貢献につながる」という構造が見られる傾向にあります。
たとえばアメリカ合衆国のゲーム製作スタジオ「Toya Play」は、女性が主人公のゲームを通じ、既存の固定観念に縛られないジェンダー意識の定着に向けコミットしています。社会のうちで気づかぬうちに形成されるジェンダーロールの偏りを、普段から接するコンテンツのなかで是正していこう、というコンセプトです。
また、東京都のアパレル企業「フェアトレードカンパニー株式会社」も、ゼブラ企業の先駆けだといえるでしょう。「ピープルツリー」のブランドで知られる同社は、フェアトレードを通じた「エシカルファッション」を提案しながら、生産・流通過程における労働者の立場向上や、環境負荷の低減を目指しています。
さらに、ユニコーン企業のなかにも「ゼブラ」の側面をもつ企業が見られます。フランスの「Back Market(バックマーケット)」は、iPhoneやAndroidなどIT機器の整備・リビルド品を扱うマーケットプレイスです。「循環経済を促し、テック消費がもたらす環境への悪影響を削減する」というミッションに見られるように、買い換えサイクルの早い機器を再利用することで、廃棄物の削減に努めています。
固定観念の変革を目指した商業的コンテンツを配信したり、商品・サービスの利用を通じて消費者に社会問題へのコミットを促したりといったビジネスモデルは、今後もゼブラ企業において多く見られるようになっていくと考えられるでしょう。
ゼブラ企業とユニコーン企業の違い
ゼブラ企業は、企業の「理念」や「方針」に焦点をあてた括りです。一方、ユニコーン企業は評価額の「数字」をもとに決定されるため、両者を単純に比較することは難しいといえます。
ここでは、経営上の目的や方法論の面で比較するにあたり、ユニコーン企業を便宜上「シリコンバレーのテクノロジー系企業」として捉え、そこに見られるカリフォルニアン・イデオロギー的な傾向をもとに、ゼブラ企業との違いを考察していきます。
目的面での違い
ユニコーン企業においては、自由競争におけるイノベーションと、それにともなう市場シェアの拡大が目的とされる傾向にあります。革新的な技術やビジネスモデルを世に提案することにより、新たなニーズを開拓し、市場において比類のない存在感を示すことがゴールです。
対してゼブラ企業においては、市場における長期的な共存関係が目指されます。シェア獲得競争に走るのではなく、社会情勢を鑑みながら、ビジネスを通じて利益と社会貢献を両立させることがミッションとして掲げられます。
方法論の違い
ユニコーン企業に限らず、企業が経営戦略を練る際には、市場原理として「自由競争におけるゼロサムゲーム」を前提とするでしょう。「マーケットでどれだけシェアを獲得できるか」という点が、経営の軸となる観点です。
市場を席巻するための方法論として、ユニコーン企業が重視するのは「革新的・創造的なサービス」だといえます。これを実現するあたり、大きな役割を担うのが「独創的なエンジニア」の存在です。とりわけカリフォルニアン・イデオロギーに見られる「エンジニアの自由な発想がイノベーションをもたらす」という価値観は、ユニコーン企業を象徴する気風だといえるでしょう。
ゼブラ企業においては、「社会問題にどのようにアプローチするか」がつねに問われることになります。ステークホルダーはもちろん、同業他社を含めた社会の構成員との関係を通じて、「相互利益を生み出すモデル」を構築していくことが方法論における課題です。
ここから、ゼブラ企業では「共同体の相互関係」を視野に入れたマネジメントや、ユーザーサポートをはじめ、「関係を築く力」に焦点をあてたチーム編成が求められることになるでしょう。
優先される価値の違い
ユニコーン企業が提供する価値は「革新性」であり、新しい形態の商品・サービスによってユーザーの便益を向上させることにより、関心やニーズを惹起することが目指されます。これまで登場したユニコーン企業のなかには、GoogleやAppleをはじめ、イノベーションによって社会基盤を根本的に変革し、従来の市場構造を一変させてしまうほどのインパクトをもたらした例も見られます。
一方、ゼブラ企業においては、「共同体の成熟に寄与する価値」を提供することが目的です。ユーザーが商品・サービスを利用することを通じて、環境問題や人権問題に参与するようなビジネスモデルが象徴的でしょう。「消費者の責任」といった問題に対して関心を抱くユーザーをはじめ、ビジネスを通じて「社会へのコミットメント」を価値として提供することが、ゼブラ企業に見られるモデルです。
まとめ
持続可能性を理念に据えるゼブラ企業に対して、ユニコーン企業はしばしば「競争的な性質」をもつ企業として描かれます。けれども定義上、ユニコーン企業は「評価額」という定量的な指標をもとに決定されるものであり、その条件に該当するからといって持続可能性を蔑ろにしているわけではありません。
ゼブラ企業という言葉は、「行きすぎた競争社会」に警鐘を鳴らす文脈で注目されている面が大きいといえます。わかりやすい対立関係を示すためにユニコーン企業が引き合いに出されますが、先に挙げた「Back Market」をはじめ、「ゼブラ」と「ユニコーン」の両側面をもった企業も十分に存立しうるのです。
企業経営において利益の追求はもちろん不可欠ですが、さまざまな社会問題が「身近な問題」として感じられやすくなっている現在、利益を追求するうえでも「社会的視点」が欠かせないものとなってきました。どのような業種であれ、企業経営の視点として、「ゼブラ」的な価値観を取り入れていくことは必須になっていくと考えられるでしょう。
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